Fate/Re-start-フェイト リスタート-【完結】   作:おるか人

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誰何の第六話

【聖杯戦争 〇日目(夜)】

 

 

 ――それは、雨生龍之介がキャスターを召喚する前日。未だ聖杯戦争が準備段階だったころのお話。

 間桐家の実質的な支配者、間桐(まとう)臓硯(ぞうけん)の指示によって、雁夜がサーヴァントの召喚を行った夜……人知れず、その事件は起きた。

 

 

* * * * *

 

 

「――か、雁夜! 雁夜ァァアアアァァアアア!!」

 

 間桐邸、地下室。日の光から隔絶された世界――仄暗く淀んだ瘴気に満ちる蟲蔵にて、血を吐くような叫びが上がった。

 

「あァあ、雁……ィイイイイイイイアアアアガガガガ、アぁああ!!」

 

 間桐雁夜は、身体のあちこちに残る痛みや倦怠感など無視して――()()()()を茫然と見つめている。

 間桐一族における恐怖の具現、絶望の代名詞、間桐という魔術師一族そのものである妖怪・間桐臓硯が()()()()()()姿()を、ただ、茫然と。

 

(なんだこれは……)

 

 あの、いつだって人を上から見下す男が。

 笑って自分をいたぶる爺が。

 いつか必ず殺すと憎悪を抱きつつも、その願いが絶対に叶わないであろう事を、これまでの一生で己に思い知らせてきた吸血鬼が……()()()()()()

 

(何の、冗談だ……?)

 

 これも余興の一環だろうか? 今にでも「なんちゃって」などと言ってケロリと平静を取り戻し、自分の()()()を嘲笑うのでは……?

 しかし、雁夜の思いとは裏腹に事態は進行する。

 

「ギィ――――ア、雁夜アアアア! 何をしてお、ォ……早く」

 

 ぐちゃ、ぶちゃっ。

 一歩、一歩。()()()は歩を進める。

 この一年――雁夜を、そして(さくら)を嬲ってきた忌々しい淫虫を、当然のように踏み潰しながら。

 ぐじゅっ、ぶじゅっ。

 一歩、一歩――蟲蔵を進んでいく。

 

「早く、と……止め」

 

 前へ、前へ――蟲蔵の主の元へ。間桐臓硯の元へと。

 

「雁夜、早く」

 

 既に()()()()()によって半身を失い、姿かたちすらも人間らしさを保てなくなった老人の元へ。

 

()()! ()()()()()()()()()()――…!!」

 

 

 

「―――――AMEN(エイメン)

 

 

 

 斟酌なく振り下ろされた二撃目の銃剣をもって、五〇〇年を生きた魔術師――間桐臓硯ことマキリ・ゾォルケンは消滅した。

 

 アインツベルン・遠坂と並んで聖杯戦争の主催者である『御三家』の一角……マキリは、第四次聖杯戦争が始まる前に、事実上の滅亡を迎えていたのである――。

 

 

* * * * *

 

 

 バーサーカー陣営

 

 マスター   間桐(まとう)雁夜(かりや)

 

 サーヴァント バーサーカー

 

 真名     アレクサンド・アンデルセン

 

 出典     HELLSING(ヘルシング)

 

 協力者    なし

 

 備考     特になし

 

 

* * * * *

 

 

 間桐雁夜は、自らが召喚した――召喚直後に突然、何の前触れもなく臓硯を撃滅した、とんでもないサーヴァント――バーサーカーの姿をつぶさに観察する。

 二メートルにも届こうかという大柄な体躯、逆立てられた短髪、全身を覆う神父服、両手に握られた銃剣。そして、マスターとして与えられた眼力……サーヴァントのステータスを読み取る能力が、かの者の本質を雁夜に伝えた。

 

(こいつ……対怪物(バケモノ)戦闘に特化してる……!!)

 

 人外との戦闘時には全ステータスが無条件でアップするスキル、あらゆる攻撃に祝福儀礼による神聖(魔性の属性を持つ相手に追加ダメージ)が付与されるスキル、いかなる精神状態にあっても神への信仰を失わないスキル、悪魔祓いの技術を収めた証のスキル……とにかく、バーサーカーが持つ全てのスキルが『神』に関連するものであり、同時に『退魔』に特化したものであったのだ。

 まさに、化け物と戦うためだけに生まれてきたようなサーヴァント。こんなやつを敵に回しては、いかに永い時を生きた強大な魔術師とはいえ、同時に真正の怪物へと成り果てていた臓硯では太刀打ちできまい。

 見れば、蟲蔵に蠢く虫たちも、普段と様子が違う。どこか慌てているような、統制が乱れた動きをしている。……主を失った何よりの証左であろう。

 ここまで考えて、ようやく雁夜は目の前の光景――間桐臓硯の死を現実として受け入れる事ができた。

 

「や、やった! やったぞ! ははっ、ははははははっ―――――!!」

 

 ――間桐臓硯が死んだ! それは、雁夜にとってこの世の全てに勝る福音である。

 

「これで間桐はおしまいだ! 桜ちゃんだって解放される! また家族一緒に暮らせるんだ、(あおい)さん!!」

 

 ――ありがとう、雁夜くん――

 

 ああ、目を閉じれば愛しい幼馴染の感謝の声が聞こえてくる。花咲くような笑顔が見える!

 雁夜くんがいてくれて本当に良かった、そんな俺は葵さんのためなら、あの人を信じた私が馬鹿だったわこんなにも想ってくれている人が傍にいたのに私って馬鹿ね雁夜くんどうかお礼をさせて、えっ、目を閉じて…、そう言うと葵さんは頬を染めてその柔らかそうな唇を俺にヒャッホオオオオオオオオオオオオ!

 

「臓硯は死んだ! 俺のバーサーカーに殺されたんだ! 俺は、俺は間桐に勝ったんだ……!!」

 

 聖杯を得ずして、間桐雁夜は全ての望みを叶えた。一年の苦難が、いや……この家に生を受けてからの全ての艱難辛苦が報われたような気持ち。熱に浮かされたまま、雁夜はバーサーカーの背に歓喜の声を投げかけた。

 

「よくやったぞ、バー……」

 

 

 

 ――ドスッ、と。冷えた感触が差し込まれた。

 

 

 

「サー、……カー……?」

 

 いつの間にか、バーサーカーの銃剣が、雁夜の左腕に刺さっている。

 ……一拍の間をおいて、雁夜の左手はボトリと重力に引かれて落ちた。その音で、うわついた気持ちは氷点下まで落ち込んだ。

 

「■■■■■■■……」

 

 バーサーカーが呻くような声を上げつつ、雁夜に振り返る。――その目。縁の丸い眼鏡の向こう側は、紛れもない殺意に満ちている!

 

「■■■――」

 

 雁夜は理性より本能に従うまま、マスターとしての絶対強権を発動させる。

 

「れ、――令呪を持って命じる! バーサーカー」

 

 雁夜に向けて、目にも止まらぬ速度で銃剣を振り下ろすバーサーカー。バーサーカーに向けて叫ぶ雁夜。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――――ッッ!!!」

 

「『()()()()()』ッ――!!」

 

 

 

 ガキン! ――と。

 まるで歯車が異物を挟み込んだような不協和音が響いた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……は……!!」

 

 ――バーサーカーの刃は、雁夜の喉元寸前で動きを止めていた。雁夜は勝負に勝ったのだ。令呪という、サーヴァントに対する絶対の力。しかし、それを受けてなお、バーサーカーの刃は雁夜の喉元から離れようとはしない。

 刺したいのに、()()()刺せない。腕をもう少し先に伸ばしたいのに、()()()できない。そんな葛藤がありありと伝わってくる……。

 

(あ、……危なかった……!!)

 

 もしもあと少しでも令呪の発動が遅ければ、もしもあと少しでも令呪の力が弱ければ、もしも斬られたのが既に壊死した左腕でなければ、もしも令呪のある右腕を斬られていならば……雁夜の首は、今ごろ胴の上にはなかったはずだ。数々の幸運が、間一髪で雁夜の命を救った。

 ツゥー、と。まだわずかに生きていたらしい血管を通して、左腕の断面から鮮血が滴り落ちた。

 

「ゥ……くっ」

 

 その傷を蟲で埋めることで止血しつつ、雁夜は考察する。

 何故、バーサーカーは突如として己のマスターに襲い掛かったのか? 狂戦士だからか? この男の行動に理屈を求める方が間違っているのか?

 ……いや、思考力の剥奪も理由の一つではあろうが……恐らく、それだけではあるまい。バーサーカーの瞳に宿った純然たる殺意。あれには確かな『道理』があった。バーサーカーにはバーサーカーなりの()()があって、雁夜を攻撃したのだ。

 そして雁夜には、薄々ながらもその()()に予想がついていた。恐らく、()()()()()()()()()()()()である。

 

(なんて奴だ……)

「■■■■■■■……!!」

 

 令呪に縛られながらも、未だに殺意の籠った眼光でこちらを睨みつけてくるバーサーカー。……その姿に、雁夜は掛け値なしの恐怖を感じた。

 臓硯が死んだ今、もはや雁夜には聖杯戦争に参加する理由が薄い。一つだけ、()()()があるにはあるが……雁夜の予想が正しければ、このサーヴァントを生かしておくリスクの方が高い。

 

(残りの令呪を全部使って、こいつを自決させてやる……!)

 

 今すぐにでも、と雁夜が右手の刻印に意識を集中した時――

 

 

 

「……失礼します、おじいさま……」

 

 

 

 ――恐れていた()()()が、自らの足でやってきた。

 

「桜ちゃんッ――――――駄目だ、来ちゃいけないッッ!!!!」

「え?」

「■■■……」

 

 バーサーカーの視線が雁夜から外れ、少女――間桐(まとう)(さくら)の方へと向いた。

 その視線にもまた、雁夜に向けたものと寸分違わぬ殺意の焔がゆらめいている。

 ……雁夜は以前、臓硯に聞かされた事があった。

 

 聖堂教会の代行者。

 神の教義に背く者を、異端者の烙印と共に殲滅する狂信者たち。

 服装といい、ステータスから読み取ったスキルの内容といい、……目の前のサーヴァントはまさに()()()()のような存在であった。

 

 臓硯が殺されたのは何故だ?

 

 ――奴が怪物(バケモノ)だったからだ。

 

 雁夜が殺されそうになったのは何故だ?

 

 ――俺が魔術師(イタンシャ)だからだ。

 

 では、桜は?

 時臣と葵の間に産まれた娘であり、臓硯曰く魔術師として途方もない才覚を持つ彼女は?

 臓硯の手によって、()()()()()()に作り変えられている彼女は……?

 

「■■、…」

 

 バーサーカーの身体が僅かに動いた瞬間、雁夜もまた決意を固めた。

 雁夜が命を代償にしてでも救おうとした少女。恋い焦がれる幼馴染の宝物。――雁夜には、迷う理由など一つもありはしなかった。

 

「令呪を以って命じる!」

 

 

 

 そうして雁夜は、聖杯戦争開始前に、切り札である令呪を二画も使用する羽目となった。

 残り一画――しかし、それで十分だ。この一画を用いてバーサーカーを自決させれば、それで雁夜の聖杯戦争は終わる。

 

 終わる……はず、だった。

 

 

 

 何とかバーサーカーを霊体化させると、雁夜は桜を連れて蟲蔵を出た。

 

(桜ちゃんの前でバーサーカーを自決させるわけにはいかないよな……)

 

 ただでさえ精神にダメージを受けている子供に、余計なショックは与えたくない。そんな雁夜の()()()()の判断が、結果的に功を奏する事となった。

 

「桜ちゃん……どうして蟲蔵に入ってきたんだい? 今日は来なくてもいいって、臓硯のやつが言ってただろう?」

「からだがおかしいの」

「え?」

「おまえはマトウのたいせつなタイバンだから、()()()があったらすぐしらせなさいって……おじいさまが。だから」

「おじい……あ、そうだ! 桜ちゃん、もう大丈夫だよ! 臓硯は、――…?」

 

 雁夜はそこでようやく、桜の様子がおかしいことに気が付いた。

 額に脂汗が浮いており、呼吸も不規則。顔色に至っては土気色だ。

 元々、臓硯の非道な教育の影響で、とても健康とは言い難い女の子ではあったが……これは明らかにおかしい。

 

「しらせ、なきゃ…だめなの。でないと、しかられちゃ …おじさん…おじい、さ … どこ?」

「桜、ちゃん?」

「ぁ、―――…」

 

 小さな身体がふらつき、――倒れた。

 

「桜ちゃん!! あ、……誰か! 誰かいないか!? 誰かッ――――!!?」

 

 

 

 ……桜が倒れてから、雁夜は間桐家の者たちに助けを求めた。

 だが、間桐の使用人は桜の状態など一顧だにせず、臓硯の死に慌てるだけ。間桐家の表向きの当主であり、雁夜の実の兄でもある間桐(まとう)鶴野(びゃくや)は、臓硯の死を信じようとせず、雁夜の話を妄言と決めつけて相手にもしない。

 その間にも、桜の容体は悪化するばかりだった。

 苦しそうに喘ぐ桜を見ていると、胸を締め付けられるような思いがする。

 一度は病院に連れていこうかと思ったが、それは無駄だとすぐに分かった。まがい物とはいえ、魔術師の雁夜には分かる。桜の症状はただの病気ではなく、魔術に関係するものだ。

 臓硯が死んですぐに体調が悪くなったという事は……臓硯が桜の身体に何らかの魔術をかけており、その魔術が臓硯のコントロールを離れた事で、桜を苦しめているのではないか……というのが、雁夜の見解だ。少なくとも、ただの病院では手の施しようがあるまい。

 

「死んでもまだ桜ちゃんを苦しめるのか……臓硯ッ!!」

 

 間桐家で唯一、魔術の素質を持つ雁夜にどうにもできない事態。……臓硯が死んだ今、間桐家に桜を助けられる人間はいない……。

 バーサーカーが持つ退魔のスキルでどうにかできないかと考えたが、……そう、雁夜のサーヴァントは()()()()()()なのである。強大な力と引き換えに言語能力・思考能力を失ったサーヴァントに、『桜をなんとかしろ』などと命じて、それが実行できるとは思えない。

 ならば令呪で言う事を聞かせようと思っても、肝心の令呪は残り一つきり。これを失えば、バーサーカーは完全に制御を失う。そうなればバーサーカーは名の通り本能のままに暴れ回り、雁夜が枯れ果てるまで魔力を吸い上げていくだろう。

 命など今更惜しくはない。しかし、いま桜の味方ができるのは雁夜一人だけ。よって少なくとも、桜の安全が完全に確保できるまでは、雁夜は死ぬわけにはいかない。

 

 教会に保護を求める……という案も、雁夜は却下した。

 聖堂教会は魔術師を嫌っている = そんな奴らが桜ちゃんを真剣に助けるわけがない! という固定観念があったためである(しかも、バーサーカーの行動で更にその思い込みが強くなっている)。

 

「どうすればいいんだ……!?」

 

 魔術師を嫌う雁夜には、信頼できる伝手などない。

 

「あ……!」

 

 だが、魔術師の原則は等価交換だという。そして臓硯が死んだ今、間桐の技術は雁夜の手にあるも同然。五〇〇年の歴史を持つ魔術師の技術。雁夜からすれば何の価値もないものだが……他の魔術師から見ればどうだ? 桜の治療の対価には十分ではないか?

 そして、『魔術師としてのルール』に沿った上でなら――桜を助けてくれるかもしれない人物に、雁夜は一人だけ心当たりがある。

 

「時臣……」

 

 桜の実の父。桜を間桐という生き地獄に捨てた男。雁夜が愛する女を傷つけた男。殺してやりたいほど憎い男。

 あいつにだけは頼りたくない。そもそもあの男は一度桜を捨てたのだ。今更無関係の子供を助けてくれるかどうかは分からない。だが、

 

『――私は遠坂たる者、魔術師としての誇りを――』

 

 昔、まだ葵を通じて互いに付き合いがあったころ――事あるごとにあの男が口にしていた『魔術師の誇り』という言葉。あれがウソでないのなら、正当な『対価』を提示しての『依頼』を――断りはすまい。

 

「はぁ、――ぁ――は、――あ……」

 

 苦しむ桜の額を、雁夜はそっと撫でた。

 

「待っててくれ、桜ちゃん……絶対に助けるから。あいつをブチのめして、地面を削るくらい頭を下げて謝らせて……その苦しいのを治させてみせるから。だから、もう少しだけ……頑張ってくれ……!」

 

 

 

 だが、雁夜が時臣に会う事はできなかった。

 桜が倒れてからのイザコザの間にキャスターが召喚され、聖杯戦争が始まってしまったからだ。早々にアサシンが遠坂邸に襲撃をかけ、その顛末は謎のまま。

 

「くそ、時臣はどうなったんだ……!?」

 

 雁夜はすぐさま遠坂邸に向かったが、結界に阻まれて侵入は不可能だった。いくら呼び鈴を押しても屋敷の中から反応はなし。いっそバーサーカーに力づくで結界を破壊させようかと思ったが……

 

「■■■■■■■■■■■■■■■……ッッ!!」

「ぐっ、敵か……!?」

 

 どこからか襲い来る銃撃。――殺されないように逃げ回るのと、暴れ出そうとするバーサーカーを抑えるので精一杯だった。

 その後は精神的な疲れと、敵の攻撃で負った傷からの出血で気が遠くなって――…気が付くと雁夜は、路地裏でボロ雑巾のようになって倒れていた。どうやら丸一日は眠っていたらしい。

 痛みに耐え、吐きそうな気持ち悪さを抱えながら死に体の身体を引きずり、再び遠坂邸へと戻ってみると……

 

「結界が、なくなってる……?」

 

 つい昨日まで遠坂邸にあったはずの侵入者用の結界が、忽然と姿を消していた。……理由はさっぱり分からないが、無いなら好都合と雁夜は敷地内に踏み込んだ。

 中庭から使い魔の虫を操り、屋敷の内部を探って……そして、雁夜は()()を見つけた。

 

 

 

 ――首が千切れた、仇敵(ときおみ)の死体を。

 

 

 

 足元が崩れ、奈落へと真っ逆さまに堕ちていくような感覚が……した。

 

「ぁ――――――」

 

 なんで、こうなる?

 

 もう、桜ちゃんを助ける方法がない。

 もう、俺は時臣に復讐できない。

 

 なんで、こうなる?

 

 一年間も耐えたんだ。

 二度と関わらないと誓っていた忌まわしい家に戻って、

 痛い思いをして、

 苦しい思いをして、

 辛い思いをして、屈辱を受けて、恐怖に震えて、怒りに燃えて、憎悪に身を焦がして、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて……! やっとの思いで()()までたどり着いたんだ!

 

 ――なのに、なんでこうなる!?

 

「とき、お……み」

 

 死んだ? 時臣が死んだ!?

 何故だ!!

 俺から葵さんを奪ったくせに! 葵さんから桜ちゃんを奪ったくせに! どうしてお前はそこで死んでいる!? まだ、俺は何もしていないのに!!

 そうだ、お前は俺に殺されるべきだった! 俺の前に這い蹲り、優雅さなんて欠片もない無様な姿で許しを乞い、恐怖と恥にまみれて死んでいくべきだったのに! なのにッ!!

 

(誰だ、誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ! 誰が時臣を殺した!? 俺から復讐を奪ったのは――誰だッ!?)

 

「応戦しろ、セイバー!」

「分かりました!」

 

 ……声ガ、スル。

 ココニ――俺以外ノ、誰カガ……居ル。

 

「お前、か……?」

 

 窓をぶち破り、雁夜たちが立つ中庭へと躍り出る金髪の少女。

 その後ろ、まだ屋敷の中に残っている黒いコートの男。

 

「お前らが、やったのか」

 

 特に、屋敷の中でこちらを驚きの表情で見つめる男。――間違いない。あれは()()()だ。

 

(またお前か)

 

 怒りでグニャリと歪む視界。……雁夜の内にあった狂気が――瞳の奥で火花を散らせた。

 

(また魔術師(おまえ)が、俺から全てを奪っていくのか……ッッ!!)

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――――ッッ!!」

 

 バーサーカーが闖入者に向かって飛び出していく。

 体内から魔力が際限なく吸い上げられていくのを感じたが……雁夜とっては、もはやどうでも良い事だった。

 

(ああ、そうだ。もういい。俺はもう、お前を押さえつけたりしない……)

 

 そう。今はもう――()()()()()()()()()()()()

 

「――やれ」

 

 ただ一つ……この、煮え滾るような殺意一つが残れば、それで――…

 

 

 

「やるんだ、バーサーカー! その魔術師をブチ殺せッッ――――!!」

 

 

 

 

 

 どこかで、小さな女の子が泣いている気がした。

 

 おじさん、って……俺のことを呼んでるんだ。

 

 あれは一体……誰だったっけ――――…?

 

 

 

 

 

TO BE CONTINUED・・・

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