Fate/Re-start-フェイト リスタート-【完結】   作:おるか人

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天秤の第七話

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!!!」

「ハァァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

 不可視の聖剣と聖なる銃剣が激突する。

 セイバー渾身の袈裟斬り。鋼鉄さえもバターのように両断するであろう一閃は、しかし――

 

「■■■ッ」

 

 左の銃剣に阻まれた。それも受け止める――どころか、弾き飛ばさん勢いで。驚愕に畳みかけるよう、右手の銃剣がセイバーの頭蓋を唐竹に狙う。

 セイバーは敵の懐に飛び込むことで、それを防いだ。死を前にして、更なる一歩。腕力では劣ると判断しての最善策と分かっていても、土壇場でそれを選択できるセイバーは、まさに歴戦の戦士である。

 

「だあああああっ!」

 

 刺突。バーサーカーの左胸を狙った、必殺の一撃!

 

「■■■■■――!」

 

 バーサーカーが咄嗟に身を反らすが……もう、遅い。

 ――ズグンッ、と。

 刀身を介した手応えで、セイバーが己の勝利を確信する。

 最後の動きで心臓こそ外したが、セイバーの剣は間違いなくバーサーカーの肉体を貫通している。いかにサーヴァントと言えど重傷は間違いない。

 ……だというのに。

 

 

 

 何故、バーサーカーは―――何事も無かったかのようにセイバーへ銃剣を振りかぶっているのだ?

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――ッッ!!」

「っ―――――!」

 

 懐のセイバーを抱きしめるかのように、バーサーカーが×字の交差剣を放つ。

 狂化の呪いを受けたサーヴァントの渾身の一撃。その威力は、セイバーの肉体を七度挽き潰してもなお余りある――!

 

「こ、――のぉ!」

 

 完全な回避は不可能。――刹那の判断の下、セイバーは一歩、僅かに重心をズラす。

 狙うは、右の銃剣。片方だけに剣を添えるよう受け止め、――いなす。

 

「ぐ……!!」

 

 直接受け止めたわけではないにも関わらず、この衝撃。腕が痺れる。剣を手放してしまいたい。

 ――けれど、

 

「ああ、あ! あああああああああああッ」

 

 受け流せ。受け流せ。刃を――滑らせろ。

 

「はあああああああああああッ―――――!!」

 

 ――ガキン! と。甲高い金属音と共に、バーサーカーの刃が逸れる。

 一瞬の静寂。

 セイバーを仕留め損ねた一撃が大地を割り、瓦礫と土砂を天高く巻き上げた。

 それだけの力を込めたなら、咄嗟には動けまい――と、セイバーは今度こそ必殺を期した一撃を放つ!

 

「っ――なに!?」

 

 防がれた。事後硬直の一つもなく、バーサーカーは即座に先ほどと同格の攻撃をセイバーの剣へとぶつけてきたのだ。

 

「こ、のぉぉおおおおおオオオオオオオ――――――ッッ!!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――ッッ!!」

 

 そこからは壮絶な打ち合いである。

 一瞬のうちに交わされる数十の剣戟。一撃一撃がぶつかり合うたびに小規模な真空が生まれ、踏み込みの一つ一つが地を砕く。僅か数度の打ち合いで、遠坂邸は爆弾テロでも受けたかのように粉砕し、荒廃していく。

 

「ぐ、う!」

 

 苦しげに呻いたのは、セイバーだ。

 魔力を用いて身体能力をブーストするスキル『魔力放出』を用いても圧し負ける――バーサーカーの攻撃は、サーヴァントの常識から見てもなお、桁外れの速度と破壊力がある。とてもじゃないが、まともに競り合って勝てる相手ではない。

 戦いとは何も、『真正面から打ち合わなければならない』と決まっているわけではない。勝てる状況を作り出すのもまた、戦術の内。普段のセイバーなら、小柄な体躯を活かした立ち回りでバーサーカーの剣を躱し続け、反撃のチャンスを窺うなりしていただろう。

 しかし……今の彼女には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()があった。

 

「■■■■ッ!」

「あっ――!?」

 

 下段からの斬り上げ。――セイバーの剣が僅かに打ち上げられてしまう。

 すると、

 

「■■■■■■――!」

 

 その僅かな隙を突き、バーサーカーが三本の銃剣を投擲した。狙いはセイバー……

 

「ッ、――切嗣!」

 

 ではなく、後ろにいる切嗣(マスター)であった。

 

「オオオオオオオッ!!」

 

 ……切嗣は走っていた。サーヴァントのレベルには達せずとも、その速度は人間のそれを超えている。

 これぞ“固有時制御・二倍速(タイムアルター・ダブルアクセル)”――世界から切り取られた『自分の時間』だけを早める事で、人間には不可能な速度域で行動する魔術。

 

 一本目の銃剣が背中を通り過ぎる。――回避成功。

 二本目の銃剣が腕を掠める。――出血微量。戦闘行動に支障無し。

 三本目の銃剣が顔面に迫る。――回避、……

 

(でき、ない……!!)

 

「“風王鉄槌(ストライク・エア)ッ――――!!”」

 

 間一髪で割り込んだ一撃。聖剣の守護に用いられていた“風王結界(インビジブル・エア)”を開放し、銃剣に向かって叩きつけたのだ。『風』と呼ぶには暴威の過ぎるそれが銃剣を弾き飛ばし、切嗣の命を救った。

 

「切嗣、無事ですか!?」

「大丈夫だ! それよりバーサーカーを!」

「分かっています!――ッハア!」

 

 再び打ち合いを始めるセイバー。……切嗣は一旦“固有時制御(タイムアルター)”を解除し、息を整える。

 

「ハァ、……ハァ! ハァ、――ア!」

 

 ――苦しい。どうしようもなく乱れる呼吸を意識して、切嗣が顔を歪めた。

 これが“固有時制御(タイムアルター)”の弱点。人間を超える速度で行動できる代わりに、魔術が解除された時、世界からの『修正』を受ける。早まっていた『自分の時間』と、それについてこれない『世界の時間』の差が体内ですり合わさり、切嗣の肉体に大きなダメージを負わせるのである。魔術を使用していた時間が長ければ長いほど、『修正』によるダメージは大きくなる。……過度の連続使用が死にも繋がる、非情に危険な魔術なのだ。

 

「ッハ……ハ……――スゥッ」

 

 だが、――衛宮切嗣は戦闘機械である。

 使用限界に耐えうる限りは……その行為が、目的の為に必要な事であれば……痛みも苦しみも、切嗣にとっては躊躇う理由になりえない。

 

「――ッ“固有時制御・二倍速(タイムアルター・ダブルアクセル)!!”」

 

 再び紡がれる禁断の呪言。

 切嗣の動きが見る間に加速し、荒れ果てた遠坂邸の敷地を、疾風のごとく駆け抜けていく。

 

「ぐぅ、ううううううう……!」

 

 走る――走る――走る――、決して立ち止まらない。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■―――――ッ!!」

 

 一度でも立ち止まれば、背後から迫るあの怪物が、切嗣の全身を瞬く間に挽き肉へと変えるだろう。

 

(間桐……雁夜!!)

 

 既に脱落したものと思っていた間桐のマスター。狂戦士の主。彼が何故、まだ生き残っているのかは――この際どうでもいい。重大なのは、彼がバーサーカーに下した命令だ。

 

 

 

 ――()()()()()をブチ殺せ――

 

 

 

 あの一言が、今現在の切嗣とセイバーの苦戦の状況を作り出していた。

 バーサーカーはマスターの命令に従い、セイバーを無視し、切嗣()()を執拗に狙ってきているのだ。

 切嗣(マスター)を殺されるわけにはいかないので、セイバーは切嗣とバーサーカーの間に入るしかない。本来ならこの構図になった時点で、切嗣が敵マスターを殺せば終わりだ。

 だが、今回の戦闘に限っては――位置関係が悪かった。

 バーサーカーの最初の一撃で遠坂邸の一部が崩壊し、建物の中にいた切嗣は半ば閉じ込められるような形となってしまったのだ。おかげで雁夜は切嗣の射線上から隠れてしまい、攻撃の機会を逃した。

 

 その後、セイバーがバーサーカーを食い止めている最中になんとか屋敷から脱出し、切嗣が中庭に戻ってみれば……間桐雁夜の姿はどこにもなかった。

 

(くそっ、……どこだ!?)

 

 間桐雁夜は、つい一年前まで魔術に関わってこなかった急造マスターのはず。それがサーヴァント……ましてバーサーカーの激しい魔力供給に耐えられるわけがない。逃げる余裕などないはずなのに。

 だが現実問題――間桐雁夜は姿を消している。

 己のサーヴァントの敏捷性を活かし、あえて敵サーヴァントを無視させる事で、こちらの行動を主従まとめて阻害。その間に自らは姿を隠す――『理性的な行動が出来ない』バーサーカーに対する指示としては、非常にシンプルかつ効果的だったと言える。

 いかに魔術師殺しと言えど、姿の見えない相手を殺すことはできない。――間桐雁夜は、魔術師としては半人前でも、策士としては高い素質を持っているようだ。切嗣は、敵の実力を大きく見誤っていたらしい事を、苦戦の認識と共に認めるしかなかった。

 

 もっとも、実際の間桐雁夜には戦略的な思考など欠片も存在せず、あの命令はただの私怨(しかも勘違い)に端を発したものなのだが――幸か不幸か、衛宮切嗣がその事実を知る事は生涯なかったという。

 

 閑話休題。――そうこうしている間に、事態はさらに深刻さを増していく。

 契約のラインを通して伝わってくる、セイバーの焦燥……。

 

(苦戦しているのか、セイバー……!)

 

 切嗣にとって致命的だったのは――バーサーカーの強大さである。最優と称され、あらゆるステータスが高水準でまとまっているセイバーすら超える、驚愕の能力値。

 その能力差から、セイバーは時おりバーサーカーを留めきれず――先ほどのように切嗣への攻撃を許してしまう。こうなると、たまらないのは切嗣だ。敵マスターは見つからず、成す術もないままサーヴァントの攻撃に晒されるのだから。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――ッ!!」

「く、うっ――!!」

 

 だから切嗣はこうして、一向に状況を改善できないまま、多くのリスクを覚悟してまで“固有時制御(タイムアルター)”に頼り、逃げに徹する他ない。

 マスターに命じられた以上、バーサーカーは次の命令を受けるか、消滅するまで切嗣を狙い続けるだろう。マスターが命令を撤回する可能性は低い。ならば、あとはバーサーカーが魔力切れで消滅するまで攻撃を躱し続けるしかないが……

 

(――無理だな)

 

 どう考えても、切嗣の肉体が限界を迎える方が早い。

 やはり一刻も早くバーサーカーを倒さなければ、切嗣に生きる道はないというわけだ。

 

(……どうやって、バーサーカーを倒す?)

 

 さっきから、バーサーカーの攻撃を躱しつつ間桐雁夜を探しているが、見つからない。隠れたか、逃げたか。どちらかは判然としないが……もう、マスター殺害は諦めるしかないだろう。

 となれば、あとはセイバー自身が直接、バーサーカーを打倒する他ないわけだ。

 

(……使うか。セイバーの剣を)

 

 セイバーを剣士(セイバー)たらしめる必殺宝具――“約束された勝利の剣(エクスカリバー)

 

 この世のあらゆる『聖剣』の頂点に立つ神造宝具。一振りで万軍の敵を薙ぎ払う最強の切り札。

 あれを使えば、いかにバーサーカーとてひとたまりもないだろう。事ここに至っては、真名の秘匿などと悠長な事を言っている場合ではない。聖剣の使用は現状における最善手……。

 

(だが……本当にいいのか?)

 

 だが、しかし。切嗣はそれを承認して良いものか迷っていた。

 

(ここで対城宝具なんて発動させれば……街が……!)

 

 そう、忘れてはならない。今セイバーが戦っている場所は遠坂邸。深山町の住宅街……そのど真ん中なのである。

 どこを向いても住宅街。どの方面も神秘とは無関係な街の住人に溢れている。――聖剣の発動は即ち、それらを焦土に変える事と同義だ。

 誤解がないように言っておくと、切嗣は無辜の人々を巻き添えにすることを恐れているわけではない。聖杯戦争に勝利し、人類から争いを永劫に根絶するためならば――切嗣はその犠牲を容認できる。

 ならば何故、切嗣は躊躇うのか。

 それは、本日正午に布告された聖堂教会の『警告』が原因である。

 

 

 

 ――『二度と神秘の秘匿を疎かにしない』と誓うならばよし。だが、これを無視するならば……こちらで『聖杯を得る資格なし』と判断させてもらう――

 

 

 

 倉庫街にて戦術兵器を使用した陣営に対する警告。……だがそもそも、聖杯戦争という戦いは()()()()()()である。『神秘を秘匿さえすれば何をしても構わない』という魔術師の大原則は、裏返せば『神秘の秘匿だけは必ず徹底しなければならない』という意味でもあるのだ。

 深夜の住宅街を聖剣で焼き払うなどすれば――切嗣は、『魔術師の資格なし』として聖杯戦争への参加資格を剥奪されてしまうかも知れない。それでは本末転倒だ。

 しかし、このままでは遠からずセイバーは負ける……。

 

(セイバーを失い、バーサーカーに殺されるか……宝具を使って監督役を敵に回すか……)

 

 最悪の二択――。

 

(何か、ないのか? 他の選択肢は――他の手段は、ないのか!?)

 

 思いつく手段は――令呪。全てのマスターに等しく与えられた切り札。

 令呪で『限界を超えて戦え』と命じれば、ステータスのアップを望めるだろうか?

 

(いや……強化できたとしても、それでようやく互角だろう。必ず勝てるとは限らない)

 

 では、『己を連れて全力で離脱しろ』と命じれば?

 

(逃げ切れるのか? あのバーサーカーから……?)

 

 他の道が浮かんでは消え、浮かんでは消え……結局、残るのは元の二択のみ。

 

「あ――がァあアッ!!」

 

 ついに、躱し切れなかった銃剣の一本が切嗣の脚を抉った。焼きごてめいた灼熱の激痛が全身を突き抜ける。

 

「切嗣ッ!!?」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――――ッ!!」

 

 倒れ込む身体。悲痛な声。狂獣の雄叫び……もはや、一刻の猶予もない。

 

(これじゃあ、もう逃げられない……すぐにバーサーカーの追撃が来る……殺される……)

 

 切嗣が負ければ、世界は平和にならない。

 

(聖杯で世界を救済しなければ……人類はこれからも、何百何千何万何億の下らない血を流し続ける……!)

 

 それだけは……()()()()()()()()()()()()()()()――。

 

 

 

 ――カチリ。

 

 

 

 その瞬間……切嗣の頭の中で、最後のピースがはまった。

 

≪……セイバー、聖剣を使え≫

 

 切嗣からの念話に、セイバーは驚愕した。

 

≪ッ!? 切嗣――しかし、それでは!≫

 

 動揺の声。こちらは切嗣とは違い、住民への被害を鑑みての反応だろう。

 それしかない――という諦観すらない。セイバーにとって、その選択肢は論外だったのだ。

 彼女にとっての聖杯は『正しく戦った上で手に入れるべきもの』であり、それ以外は認められない。最低限のルールを守って戦わなければ、それはただの鬼畜の所業。この世に地獄を生み出すだけの行為であると断じている。

 

 

 

 ――ここに、セイバーと切嗣の信念の相違がある。

 

   決して交わる事のない、『騎士王』と『天秤の計り手』の違いが――。

 

 

 

 切嗣にとっては『戦い』そのものが地獄であり、この世で最も愚かしい行為である。故に、戦いが起きてしまったなら、一刻も早く、結果的な犠牲者を一人でも減らすように終わらせる。それこそが衛宮切嗣の『正義』……。

 衛宮切嗣が聖杯を得れば、世界からあらゆる『戦い』が根絶される。

 そうなれば、これから人類が歩む未来に『戦い』による犠牲者は一人たりとも現れはしない。

 

 そう。例え……

 

 

 

 ――例え、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――――。

 

 

 

≪令呪を以って命じる――≫

「な、――まさかッ!? 正気か、切嗣ッ!?」

≪セイバー、『聖剣を以って――≫

「よせ、切嗣! やめろぉぉおおおおオオオオオオオッッ!!」

≪――バーサーカーを打倒しろ』!!≫

 

 

 

 

 

 ――その日、黄金の輝きが冬木の街並みを一閃した。

 

 

 

 

 

TO BE CONTINUED・・・ 

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