Fate/Re-start-フェイト リスタート-【完結】 作:おるか人
【聖杯戦争 三日目(夜)】
第四次聖杯戦争開始より三日。
ここまでの戦いで、最も精力的に動いた陣営はどこだろうか?
開戦早々の奇襲で戦果を挙げ、監督役をかく乱したアサシン陣営か?
それとも、強気な挑発と果敢な行動力で多くの情報を得たセイバー陣営か?
――否。どちらでもない。
正解は……
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!!!」
「ハァァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
――ぶつかり合うセイバーとバーサーカー。
「……………………、」
常軌を逸した剣戟を、遥か彼方より、冷めた目つきで見つめる影が一つ。――キャスターのサーヴァント、暁美ほむらである。
「ぐゥ、ア……ガァ、ァアアア……ゥァア」
彼女の足元には、顔を喉を胸を掻き毟りながら苦しむ、見るからに痛ましい男が一人。――こちらはバーサーカーのマスター、間桐雁夜だ。
何故、衛宮切嗣ともあろう者が戦闘中に敵マスターを見失うという愚を犯したのか?……その真相がこれだ。
雁夜は何も、身を隠すだけの判断能力があったわけではない。その余裕があったわけでもない。
ただ、キャスターによってかどわかされていたのである。
バーサーカーが攻撃を仕掛けた時。セイバーと切嗣がバーサーカーと遠坂邸の崩壊に気を取られ、その場の誰もが間桐雁夜を見失ったその瞬間――キャスターによるマスター誘拐は行われた。
マスター殺害を防ぐことでバーサーカーを延命させ、セイバーとそのマスターを
間桐雁夜が遠坂時臣の惨状を知れば、行き所のない憎悪と敵愾心が犯人へと向かう――キャスターはそれを事前の
結果は大成功――見事、雁夜は切嗣を時臣殺害の犯人だと思い込み、バーサーカーをけしかけた。これでセイバーは遠からず破れ、切嗣も銃剣の錆となるだろう。
上々の戦果に、キャスター……暁美ほむらは、さぞほくそ笑んでいるかと思いきや……何故か、その顔色は不満の色が如実に表れていた。何故か?
――実のところ、ほむらにとってこの計画は『予想外』の産物なのである。
当初の予定では、ここに来るのは衛宮切嗣ただ一人。計画の内容は、ほむらの宝具を用いた直接の殺害であるはずだった。
今回の計画では、セイバーがバーサーカーを倒してしまう可能性も有り得る。『確実な勝利』を心情とするほむらにとっては、不安要素が入り込むだけでもナンセンス。
それでもこの計画を決行に移したのは……それが、現状における最善手だったからだ。
有り体に言えば、他に打つ手がなかったというだけの話――。
「……まさかとは思ったけど、本当にセイバーが生き残っているなんて……」
苦々しく吐き出される苛立ち。
バーサーカーのマスターは、今のようにすぐ殺せる。アサシンとそのマスターは聖杯に興味がない。障害となるセイバー・ランサーとそのマスター・ライダーとそのマスターは、二日目の倉庫街で抹殺できる。
そう、本来の計画ならば――この場で衛宮切嗣を殺害する事で、ほむらの聖杯戦争は完全に終結するはずだった。
開戦から三日で全てを終わらせる。ほむらが過去の
なのに……実際には、二日目の爆撃ではランサーとそのマスターに重傷を負わせただけで、セイバーとライダー組には全くダメージを与える事ができなかった。
やむなく、念のためにキープしておいたバーサーカーを使う事になったのだが……。
「“
「やっぱり」
黄金の光がバーサーカーごと深山町の一角を薙ぎ払っていくのを見て、ほむらは、ガン!――と憂さ晴らしに地面を強く踏み鳴らす。
予め分かっていた事だ。衛宮切嗣は自分と同類だと。目的のために手段を選ばない人種だと。どんな悪辣な手段であろうと、それが目的のためならば許容できる。そんな人間が、無関係な人間への被害を躊躇うものか。
やはり間桐雁夜を攫うより、無理を推してでも衛宮切嗣を殺すべきだったか……という後悔がほむらの頭に過ぎる。
――が、それはそれで問題がある。現状、ほむらは単独でセイバーを倒すことができない。もしも魔力切れで消滅する前に別のマスターと再契約されてしまうと、窮地に立たされるのはほむらの方だ。……リスクが大きすぎるのである。
ほむらのとった手段自体は間違いではなかった。問題があったとすれば、それ以前。
監督役を敵に回すという大胆な策略をとれたのも、捕まる前に勝負を決する見積もりがあったからだ。
だが、要となる二日目の攻撃でセイバーとランサーを殺し損ねてしまい……その結果、暁美ほむらの勝ちの目は消えてしまった。
「……どうやら、
消し飛ばされたバーサーカー、立ち去っていく切嗣とセイバー……戦いの全てを見届けたほむらは、遠坂邸から視線を切ると、未だに苦しみ続けている間桐雁夜を抱きしめた。
いや、抱きしめるようにして――耳元で囁いた。
「間桐雁夜。――いま、どんな気持ち?」
「アア、ァああ…アア」
「苦しい? 痛い?」
「ギィ、ア…ゃぁ、ウ…」
「貴方はどうしてそんな目に遭っているのかしら?」
「ガァ、ハ……ァあ」
「貴方が苦しんでいるのは、誰の所為?」
「ォ――」
「誰の所為で、苦しんでいるの?」
「ォミ…トキォ、ミ……ゾウ、ケ……、……!」
「そう、遠坂時臣……間桐臓硯。憎くない? 殺してやりたくない?」
「アァ、アああアアァあ! がァアあ!」
「でも、できないわ。二人とも――もうとっくに死んでしまった。死んだ人間に復讐はできない」
「アアあああああぁァあアアああぅア!」
「残念ね。本当に残念。――ああ、けれど」
暁美ほむらは、笑った。
朗らかに、蠱惑的に、蔑むように、悪魔的に――笑った。
「まだ、復讐する相手はいるわよね?――貴方の人生をメチャクチャにした諸悪の根源……『魔術』への復讐が残っている。そうでしょう?」
「ガ、ぁ……」
「さあ、バーサーカーに命じなさい。『戦え』と。『暴れろ』と。草の根を分けてでも、この地を平らにしてでも、憎き魔術師どもを探し出して『皆殺しにしろ』と。……そう命じなさい、間桐雁夜!」
「アアアァ、あガァああア――
アア、アアアアアアアア!ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ」
ぶつん、と。
まるでブレーカーが落ちたかのように――突然、間桐雁夜は動かなくなった。
死んだのか。
いや、――まだかろうじて生きている。意識を失っただけだ。
「…………フ」
夜の闇の中、ほむらはなおも妖しく笑う。
間桐雁夜の右手にある令呪――その三画目が消失する瞬間を、確かに見届けたからだ。
ほむらはいま、雁夜に令呪を
「これで、監督役の目は誤魔化せる……」
改めて遠坂邸に視線をやるほむら。
そこには、
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■……」
――先ほど、セイバーの“
「さぁ、行きなさいバーサーカー。貴方は今、この瞬間から地上の星。その輝きで街中の目という目を釘付けにするのよ」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――――ッッ!!」
ほむらの声に応じるかのように――蘇った狂戦士は、天衝く咆哮を冬木の夜気に響かせた。
* * * * *
深山町中越二丁目の一軒家――マッケンジー宅。
ライダーのマスターである魔術師、ウェイバー・ベルベットが暗示を用いて潜伏している拠点である。
どこかの平行世界では、『あえて要塞としての構えを排し、敵に居場所を悟られないよう、潜伏を優先した優秀な判断』――として、かの魔術師殺しに称賛された(実際は金欠故の苦肉の策だが)拠点の中で、ウェイバーは一体何をしているのだろうか。
使い魔を使った情報収集?
ライダーと共に敵陣営を倒すための作戦会議?
はたまた、戦いに備えて特別な礼装でも拵えているのか――
「……………………………、」
「コラコラ坊主、何をやっている。それではつまらんではないか」
<ポコッ! ミョミョミョ…… プイーン、プイーン
「……………………………、」
「ほぉ? そんな『隠しテクニック』があったのか?」
<ピロリロリン♪ ピロリロリピロリロピロリロリン♪
「……………………………、」
「なんと! ハッハッハ、やるではないか! 見直したぞ坊主!」
<ピキッ、コロッ、デッテイウ
「……………………………、」
「おお、坊主! そら、そこにピンク色の木の実だ! これで五つ目だぞ。どれ、コントローラーを貸すがいい。この征服王が確実に1UPを決めてみせ――」
「だぁあああああああああああああああああああああ――――――――――ッッ!!」
投げた。ウェイバー・ベルベットが我慢の限界を超え、スーパーファミ●ンのコントローラーをベッドに向かってぶん投げた。
「オイオイ、夜中に叫ぶな。家主が起きてしまうだろう? ん?」
「お前が常識を語るなよぉ! 何だってゲームなんかやってんだ僕は!? 今は聖・杯・戦・争・中だってばぁ!!」
「何でも何も。
「うっ――」
まさに痛いところを突かれた、という挙動のウェイバー。
ライダーの指す『アレ』とは、昨夜――つまり、聖杯戦争二日目に起きた湾港区画爆撃事件の事である。
ライダーとウェイバーは、ナンとかカンとかギリギリの紙一重で、あの惨劇を無傷で逃れた。
逃れたは良いのだが――初戦であんなにも馬鹿げた殺意に見舞われてしまったせいで、ウェイバーはすっかり魂を抜かれてしまったのである。
拠点に帰り着いてすぐの頃は『日本怖い冬木怖い聖杯戦争怖いヤダヤダヤダもうイギリス帰りたい』と部屋の隅で震えながらブツブツ呟くばかりで、会話も成り立たなかった。
豪放磊落の化身たるライダーでさえ『ありゃ馬鹿げてる』と呆れるほどの攻撃だったのだ。魔術師といえど歴史も浅く、感性としてはほぼ一般人レベルのウェイバーがそうなるのも無理はない。
こればかりはライダーも己がマスターの情けなさを責める気にはなれず、街へ現代の文化を冷やかしに行ったついでにゲーム屋を征服し、発売したばかりだというゲームハードとソフトを、マスターへの慰めに持ち帰ってきたのである。
放心状態だったウェイバーは『僕はこんな下賤な遊びなんて~』などと反対する余裕もなく、ライダーに勧められるがままにゲームをプレイし続け……そして今やっと、自身のおかれた状況に理解が追いつき、ぎゃあと叫んだのだった――。
「だ、――誰が怯えてるもんか! 僕はな! てっ、敵の戦力を落ち着いて分析してたんだよ! じっくり一日かけてなぁっ」
「ほう、そうであったか。……で、どうだ?」
「え?」
「え? ではない。戦えるのか、貴様?」
「うっ――」
また、言葉に詰まるウェイバー。
そう。結局……最終的にウェイバーが判断するべき重要なポイントは『敵の倒し方』ではない。あんなにもイカレた攻撃を仕掛けてくる相手と、戦う勇気があるかどうか?――である。
いくら虚勢を張っても、一日中家に引きこもって震えていなければ、まともに話をする事もできない精神状態だったのは誤魔化しようがない。それはウェイバーとて分かっている。
正直に言えば、もう戦いたくなんてない。
もとから、ウェイバーにとって聖杯戦争とは『己の沽券を示すため』の戦いでしかない。聖杯に求める願いもなく、戦い自体に求めるところがあるわけでもない。――ハッキリ言えば、絶対に参加しなければならない理由など、ウェイバー・ベルベットにはこれっぽっちもありはしないのだ。
しかし――ライダーは、聖杯が欲しいからウェイバーの召喚に応じたのである。
なのに、肝心のマスターが臆病風に吹かれて戦いを放棄するなんてことになれば……『もう戦えません』なんて言えばどうなるか……。
(こ、殺される……!?)
その発想に至った途端、ウェイバーの身体は再び震え出した。
令呪があるから大丈夫――などと、楽観的な気持ちにはなれない。
そも、令呪を使おうとしたその瞬間に、己の首が胴から離れてしまえばどうしようもない。
サーヴァントが人間の常識に当て嵌まらない存在であることなど、ライダーを召喚したその日のうちに心胆から思い知っている。
ならば、
だが、だからといって戦いに戻れば――その先でウェイバーを待ちうけるのは、昨夜の再現。死の舞踏会である。うまくステップを踏める自信など欠片もない。
つまるところ、ウェイバーは聖杯戦争という儀式を見誤っていたのだろう。
正真正銘の『殺し合い』であるという事が、言葉面でしか理解できていなかった。その結実が今の状況だ。
「ぼ、僕は。――僕は」
ライダーの眼差しの中。震える声で、カラカラの喉で――ウェイバーは己の決意を表明する。
いや、しようとしたが……それは叶わなかった。
何故なら、
その瞬間――セイバーの放った“
「ひっ――うわあああああああああああああああああああああああッッ!?」
「ぬ、これはッっ!?」
地震か、爆発か、落雷か――とにかく恐ろしいまでの衝撃と轟音が辺りを突き抜け、二人の心を揺さぶった。
途方もない魔力の奔流は、対軍宝具を超える――対城宝具の域。とてもじゃないが、街中で使っていいレベルの破壊力ではない。
幸い、直撃は免れたようだが……近い。あまりにも。
「狙われた……ってわけではなさそうだなぁ。流れ弾か? 近くで戦っとる奴がいるのか」
「ら、ららららららライダーぁあああ」
「……坊主。貴様がどうしたいかは知らん。だが、少なくとも今は敵の動きを確認した方が良さそうだ。出るぞ」
「う、――うぅ」
確かに『マスター権を放棄したは良いけど、やっぱり戦いに巻き込まれて死にました』ではお話にならない。どちらにせよ、判断は安全な場所でしなければ。
「ホレッ、どうした? それともココに残るか?」
「行きます! 行きますから連れてけ馬鹿ぁ!!」
涙声と共に――ウェイバーはライダーの手をとり、窓から“
その後のウェイバーに、覚悟の有無を問われる機会はなかった。
故に、その時の答えが
* * * * *
「……これは」
「ああ……ぁ」
地上二十メートルほどの高さに上がった時点で、二人は街の被害を見計る事ができた。
――惨劇。
まさにその一言でしか表せない。
一体、あの一撃でどれほどの人間が死んだのか――。
「ライダー、あの光は……あっちの方から来てたよな?」
「うむ」
「あっちって確か、御三家の……トオサカの屋敷がある方だ」
「トオサカ……おお、坊主が『最初の戦いがあった』と言っておったトコか?」
「ああ。でも、一体何で……」
「待て坊主」
遠坂邸を見ようとしたのか、戦車から身を乗り出しかけたウェイバーを、ライダーが止めた。大きな手がウェイバーの頭をグイと戦車へ押し戻す。
「っ――な、何だよ?」
「何か来る」
「え?」
言うが早いか――青と銀の戦装束を纏った少女が、誰かを抱えて、ライダーの視界の端を通り過ぎていった。
「今、何か通った……よな? 見えたか、ライダー?」
「うむ。ありゃあセイバーだな。あっちから逃げてきたように見えたな……奴が下手人か? 前の戦いを見る限り、そんなことをする輩には見えんかったが……」
瞬く間に小さくなっていくセイバーの背中を見送りながら、ボリボリと頭を掻くライダー。しばらくはそうして黙ったままだったが、今度はウェイバーが叫んだ。
「ら、ライダー、あれ!」
「ん?」
ウェイバーが指し示したのは、またも遠坂邸のある方角だ。
一見、何も起こっていないように見えるが……。
「……あん?」
ライダーもすぐ、ウェイバーが言いたいことに気付いた。
グシャ、グシャッと。
まるで砂場の城が崩れ去るが如く――先の破壊を免れた深山町の邸宅たちが、一軒、また一軒、と倒壊していく。
遠坂邸のある方角から、一軒、また一軒、さらに一軒……破壊はまっすぐにこちらへと向かってくる。凄まじい勢いで、止めどなく、どうしようもなく。
何かが民家を破壊しつつ近づいてくる――何か、恐ろしい『何か』が。
そしてついに、マッケンジー宅の向かいに建つ家が倒壊した。
柱が折れ、屋根が割れ、重力に負けて沈下していく木材石材。
粉塵舞い散る惨劇の中――全ての元凶が、迫り来る『何か』が、その正体を晒した。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――――――ッッ!!」
狂獣、咆哮。
その者の名はバーサーカー。理性を奪われた獣。暴力の化身。
今や戒めの鎖から解き放たれた、ブレーキの壊れた暴走機関車。
ただ、戦うために。
ただ、暴れるために。
ただ、魔術師たちを殺すために。
――それが、彼を構成する全て。
そして今、狂戦士は罪なき老夫婦の家へ、マッケンジー宅へとその牙を突き立て――
「止めるぞ、ライダー!」
「よく言った坊主ッ!!」
確かな決意の下に“
目標はバーサーカー。鬨の声は示し合わせた合図もなく、主従合わせて重なった。
『――――AAAAAALaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaieッッ!!』
聖杯戦争三日目、第二番。
騎兵と狂戦士の戦いは、魔女の演出によって開演を果たした。
TO BE CONTINUED・・・
【補足】
第四次聖杯戦争における、ほむらの活動記録。
一日目・・・召喚される
龍之介にCOOLなアドバイスをして『姉御』と慕われる
龍之介のために素材とアトリエを調達する
雁夜おじさんを攻撃して遠坂邸から追い払う
二日目・・・セイバーとランサーの動きを観察
戦闘の最中、湾港区画を覆うように大量の兵器設置
攻撃
三日目・・・おじさんを利用してセイバーと切嗣を攻撃
戦闘中におじさんを攫ってバーサーカー延命
おじさんに令呪を使い切らせ、バーサーカーを暴走させる ←今ココ