ゆっくりじっくり魔王を殺していく。勇者達が 作:ねるね
『お肉、美味しいです。ありがとうございます』
ある程度俺の話をした後、約束通り報酬を受け取って貰った。あ、復活したら生で食べてる。まじかよ。
《それ、美味しいのか?》
思わず俺はそう訪ねてしまった。前世で焼肉やしゃぶしゃぶにローストビーフなど多種多様な調理法を知っているからか正直言ってあまり美味しそうに見えない。
『これは美味しいお肉だから美味しい、ですよ?柔らかいし』
彼女は当然の事のように言った。もうその時には肉は彼女の胃の中だった。
そりゃあ美味しくないお肉は……。じゃなくて調理は?焼いて塩かけるだけでも大分違うと思うんだ。
《魔法は使えないのか?肉は焼くと美味いんだ》
『私達獣人は使えない。でも、その代わりエルフには無い。この鋭い爪や牙。それに良く効く鼻があるから大丈夫』
今度ガスコンロかチャッカマンでも出そうかな。でも、望んで無さそうだな。
『あれからね!凄い調子が良いんだ。毎日ご飯食べてるからかな』
衝撃的な生肉直喰い事件から、彼女はほぼ毎日の様に俺の元へ来るようになった。最初に比べて表情は明るくなったし、良く喋る様になった気がする。仲良くなれたのかな。
『お肉のおじさんはさ』
《うん?》
一応言っておくが、お肉のおじさんとは俺の事だ。あ、後今会話してるのはテレパシー的な物で食いしん坊の脳に直接呼びかけている感じと言えば伝わるだろうか。
余談だが声帯が無く、思った事を直接伝えるこの方法と人を選び望みを叶える方法のせいで。神と勘違いされて巷では俺の宗教団体が発足しているらしい。後、聖女を名乗る女が居るとか。
どっちも心当たりがあって笑えない。……まぁ、後回しにしておこう。どうせ近いうちに呼んでも無いのに来るだろうしその時でも良いだろ。今は、せっかく食いしん坊ちゃんがいるんだからな。
『ねぇ!聞いてよおじさん!』
《すまなかった》
ほら、言わんこっちゃ無い。頬を膨らませてアピールした様子は年相応と言う感じだ。子供っぽくてとても可愛らしい。きっと俺はだらしない顔でにやけていたのだろう。不思議そうな顔をしている食いしん坊ちゃんと目が合ったので、今度はしっかり話を聞こうとこっちから振る。
《何かあったのか?怪我でもしたのか?》
『いや、そう言うわけじゃないよ。おじさんはどっか行かないの?』
《どっか?》
『どっか』
《行かないと言うか行けないな。まず、俺は動けないし》
『動けないの?』
《ああ、今は大事な仕事中だからな》
『へー』
あ、もう興味無さそう。酷いな自分で話しかけといて。まぁ、子供はそんな感じか。
《この仕事が終わったら何処かへ行こうかな》
『何処へ?』
《何処へでも。お金も無いから、稼ぎながらゆっくり世界中を旅して回るのも良いかもなぁ。俺の世界は今の所半径数メートルだからな》
実質子供部屋おじさんと変わらないと思う。
『じゃあ、同じだね』
《同じ?》
食いしん坊ちゃんも旅をしたいのか?
『私も、世界中の美味しい物を食べ歩く旅をしたいんだ。ね、同じでしょ?』
そうだな、同じだな。キラキラした彼女の瞳に負けて、俺は頷く代わりに小さく唸った。
ある日、いつも通りやってきた彼女はいつも通り肉を得た後、リュックにしまった。
『おじさん、なんか最近変わった事無い?』
《変わった事?》
特には無い気がするが。いつも通り、死んでアイテムはドロップしてるし。
《無いな》
『なんかこの近くで新たな魔物を見かけたらしくてね。その魔物がなんと全部燃えてるんだって!』
ふむ。
で?
『でじゃないよ!おじさんが言ったんじゃん!!お肉は焼いた方が美味しいんでしょ?』
あー、確かに前言ったけど。そんな事。だからなんだってんだ。
『ふっふーん。分からない?その魔物は全部が燃えてるんだよ?全身が燃えてるって事は既にこんがり焼けてるって事!つまり!魔法が使えない私でも美味しいお肉を食べれる!』
食いしん坊過ぎる。顔近いし、鼻息荒いし。
《よかったね》
『それでお肉がドロップすれば、おじさんが死ななくても良いし私は魔物を殺せるし、お肉も食べれる!だから、行ってくる。おじさんのお肉も焼いて貰えたら焼いて貰ってくるからね!』
《あ、だからしまったのか》
合点がいった、そう言う事かと納得すると同時に彼女は言った。
『私さ、お肉のおじさんに感謝してるんだよ。最近なんか強くなってる気がするんだ〜。これなら、きっといつかアイツも殺せるんじゃないかって』
聞こえないフリをしようとしても無駄だった。きっと彼女にも事情があるんだろう。それでも少し重くなった空気から逃げる様に。
『焼いたお肉食べたいから食べに行ってくる!』
そう言ってその場から走り去っていった。