ジャンク山の付近は「半地下」などとも呼ばれていて、実際には1Gに満たないエリアになっている。居住区には出来ず、本来であれば緑地帯にでもして市が管理しておくべき宇宙との緩衝地帯なのだが、重量品の受け渡しには大変都合がいい。そこでジャンク屋組合などが市の担当者たちを抱き込んで、ここでグレーな営業活動をしているのだ。
連なる灰色の山脈はシャングリラの腐敗を象徴する景色であり、この場所での出来事は、当局も関知しない。
「お前…こんなこともやるのか」
「こんなことって…トラックの運転か?」
「いや…それも含めてだが…」
ヤザンは、自分と揃いの作業着に身を包み、ハンドルを器用に回すゲモンの姿に半ば呆れ、半ば感心していた。
「メシを食うためならジャンク屋からオレンジの輸送まで、何でもやるぜ。今回はそれが幸いしたんだからいいじゃねえか」
「それはそうだが…」
「それよりあんたこそ怪しまれないように気を付けてくれよ?自分じゃ気付いてないみたいだが黙ってても殺気がダダ漏れなんだからな」
「ふん、余計な世話だ…お、あれは確かにアーガマ…!」
目深にかぶって視界の上半分が隠れている作業帽を通してでも、その巨躯ははっきりとわかる。ジャンクの山に隠れてはいるが、それは紛うことなき憎き敵艦、アーガマだった。
「アーガマは表向きには港にいることになってるし、ここは俺らのナワバリだ。何が起きても何とでもなる。ま、手筈通りに頼むぜ」
「ああ…」
ゲモンがトラックをアーガマの脇に停めて運転席を降り、アーガマの前にいる警備兵に何やら話かけた後で戻って来た。
「よし、裏の搬入口に回れってさ。全く荷物チェックも無しとは不用心なことだぜ」
ニヤリとしたゲモンのその横で、ヤザンも笑う。
「まさかこうもスンナリ事が進むとはな…ようやく俺にも運が回って来たってことか…」
トラックはそのまま、アーガマの後部、大きく口を開けた搬入口の方へと回り込んだ。
「ようし、そのまま少し前に歩いてくれ!」
アストナージの指示にしたがって、ジュドーはゆっくりとゼータガンダムをハンガーから起こす。コクピットハッチは開放したままで、MSデッキの喧騒がそのままジュドーの眼下に広がって来る。悪くない気分だった。ゼータを動かすのは楽しい。わずかなレバーの操作を敏感に感じ取って動いてくれるこの感覚は、レンタルのプチモビではちょっと味わえない。そんな高揚した気分でいると、
「これから物資の搬入がある!ゼータを使って手伝ってくれ!」
思いもかけない指示が飛んできた。
「ええっ!?ゼータにそんなことやらせるのかよ!それよりさ、変形してコロニーの中を飛ぶとか、そういうのがしたいんだけど!」
「馬鹿野郎!アーガマはここにいることを出来るだけ知られたくないんだ!物資の搬入が終わったらさっさとここから離れる予定なんだからな!」
「何だってそんなに急ぐんです?」
そう問い返すと、アストナージが周囲を少し見回した後で、
『アクシズの巡洋艦がシャングリラに入港したそうだ。今、連中と鉢合わせになったらアーガマは間違いなくやられる』
そう、肉声ではなく通信で答えを返してきた。突然機内から声が聞こえてきたのでジュドーは驚いたが、確かにそれは一大事だ。だからわざわざ接触回線で当人同士にしか聞こえないようにしたのだろう。
実際、今のアーガマには動くMSがゼータガンダムの他にはメタスという支援用MSがあるだけだ。しかも、それを動かすパイロットがいない。
「なるほどね、カミーユさんたちを急いで入院させたのもそういうことか…」
『そういうことだ。食料を積んだトラックがもうすぐ入って来る。わかったらテキパキ働いてくれよ、ニュータイプ!』
カミーユが自分と仲間たちのことをどう触れ回ったか知らないが、どうやらこの「ニュータイプ」という言葉からは逃れられないらしい。ジュドーは特に返事もせずに、ゼータを指示通り搬入口へ向けた。アストナージのいっていたものであろうトラックが、荷台の側面を大きく開けようとしていた。
トラックの荷台に積まれたダンボール箱の山を見て思わず感嘆の声を上げたリィナだったが、次の瞬間にはそれが悲鳴に変わった。その茶色の山が、噴火でもしたかのように荒々しく吹き飛んで宙を舞っていくのだ。破裂した箱からは無数のオレンジが飛び出し、雨霰と降って来る。それらから身を守りながら一体何事かと思って目をこらすと、その嵐の中心には、いつの間にかピンク色のMSが立っていた。
「あれは…ガザCか!?アクシズの連中に察知されたってのか!?」
隣にいたブリッジクルーのサエグサがそういうのを聞いて、リィナは息をのんだ。もう悲鳴を上げているどころではない。
「アクシズのMS…?あれが…?」
「リィナ、危ないよ!船の中に避難して!」
エルが駆け寄って来た。すると、
『アーガマにはここで沈んでもらう!死にたくない奴はここから出ていけ!』
ガラの悪い怒声が、そのアクシズのMSから響いた。リィナはエルにしがみつく。
「何、これ、どういうことなの!?」
エルの両腕に抱え込まれるような体勢になりながら、ぎゅっと目を瞑り、
お兄ちゃん、助けて…!
と、強く念じた。今、この場を何とか出来るのはゼータガンダムに乗ったお兄ちゃんしかいない…!リィナが心の中で叫べば、兄はどんな時でも必ずやって来てくれた。きっと今だって…!そう思ってこわごわと目を開けると、そこに颯爽とゼータガンダムが現れて、ピンク色のMSを殴りつけた。
「お兄ちゃん!」
やっぱり兄は来てくれた。リィナは堪らずそう叫んでいた。
「リィナ!みんな!無事か!?」
ジュドーはそう叫んで足元を見渡す。どうやらケガ人が出ているらしい。それを見て、頭に血が上った。
「お前!何もんだ!」
体勢を崩されていたMSが起き上がる。その機影には見覚えがあった。間違いない、エンドラにいたガザCだ。
『はっはー!ゼータか!お前の方から出て来てくれるとはなあ!だがここじゃあ狭すぎる、ついてこい!』
ガザCはスラスターを吹かし、あっという間にその場を離れる。
「な!?待てよ!」
カっとなっているジュドーはすぐにその後に続いた。
2機のMSから噴き出たスラスターの熱風がさらにオレンジを不規則に巻き上げて、アーガマの格納庫周辺を阿鼻叫喚のオレンジ地獄に仕立て上げていたが、そんな様子は全く目に入らない。
ジャンク山を抜けて観光エリアにほど近い丘陵地にガザCが降りる。続いて降りようとすると、ガザCが胸元の辺りにあるビーム砲を撃ってきた。素早くそれをかわして着地したが、そこでようやく、
「あ…武器が無い…」
そんなことに気が付いた。
舞い上がったオレンジが容赦なく身体を叩きつける。重力が緩いとはいえ、当たれば痛い。ビーチャはリィナをかばっているエルを見つけるとさらにその頭をかばって、自分の頭に直撃を受けた。
「いてっ!ちっくしょう!何だってんだよ全く!」
「ごめん、ありがとビーチャ!」
「いいからよ、エルとリィナは早く艦の中に入れって!」
「わかった!行こう、リィナ!」
エルとリィナが駆けて行くのを見送ると、ちょうど逆の方向に走る男がいるのが見えた。
オレンジを運んできたトラックのドライバーのようだが…あれは…。
「ビーチャ!あれ、ゲモンだよ!ジャンク屋組合のゲモン・バジャック!」
モンドがそういいながら駆け寄って来た。
「そうだ、ゲモンだ!けどなんでこんなところに…」
「よくわかんないけどアイツがあのMSを手引きして来たのは間違いないよ!どうする?アイツ、逃げる気だ!」
確かに、トラックの運転席に走っているようだ。考えてみれば、元はといえばアイツが商売の邪魔して来たのがケチの付き始めだ。アイツのせいでジュドーがゼータに乗り、アーガマと渡りをつけることになったのだ。アイツのせいでジュドーをこんなに意識しなけりゃならなくなったのだ…!そんな、逆恨みにも似た感情が、ビーチャの中でどっと湧き上がる。
「野郎…!とっ捕まえてやる!ついて来い、モンド!」
「あいよ!」
走り出すと背中から、
「どうしたんだよビーチャ!モンド!」
というイーノの声がかかる。
「イーノ、悪いが俺たちは少し抜ける!よろしく伝えといてくれ!」
「抜けるって…!?ちょっと!」
それ以上はもう、聞こえなかった。二人は運転席に上がろうとするゲモンに追いつき、引きずり下ろす。その動作の中でゲモンの、目深にかぶっていた帽子が落ちた。
「うお、何しやがる!」
「やっぱりゲモンだな!ジャンク屋組合の!」
「何…!お前らは…あっ、違法営業のガキ共か!」
「何が違法だ!お前らジャンク屋組合が勝手に作ったルールだろうが!」
そういってビーチャはゲモンに殴りかかった。が、そこはさすがというべきか、ゲモンはビーチャの大振りのフックを体勢を低くしてかわし、立ち上がる勢いでアッパーカットを繰り出す。それは見事にビーチャのアゴをとらえた。
「ぐわっ!」
ビーチャは吹き飛ばされて、後ろにいたモンドもろともにダウンする。そこへすかさず、何かスプレーのようなものを二人まとめて吹きかけられた。
「何だ…力が、入らない…」
「ウソ…でしょ…」
「バカなガキ共だ。大人を怒らせるとどういうことになるか、たっぷり味あわせてやる!」
身体を引きずられるような感覚があったのはわかる。だが、それから後は滑り落ちるかのように、二人の意識は失われた。
カミーユとファは、頭上を2機のMSが飛んでいくのを確かに見た。
「あれはゼータ、それにガザCか!?」
「何でこんなところを飛んでるの!」
あれに乗っているのはジュドーだろう。一体どういう状況かわからないがゼータはビームライフルどころかサブユニットすら持っていなかった。あれでは変形も出来ない。
「素人が…格闘戦でもしようってのか…!すいません、降ります!停めて下さい!」
カミーユがそういうと運転手は慌ててエレカを停めた。飛び降りて、カミーユは走り出す。
「ちょっとカミーユ!待ちなさい!」
「ファ、すぐに戻る!先に病院へ行っててくれ!」
「カミーユ!もう…!」
ファはすぐにでも追いかけたかったが、他の乗客の手前そうはいかない。不安そうな顔をしているシンタとクムを放っておくわけにもいかない。カミーユの背中を見ながら、
「出してください!」
運転手にそういうしかなかった。
イオマグヌッソってクトゥルフ神話の厄介者、ヤマンソのことなんですね。空間を歪ませる兵器ってガンダムでは初めてかな?何かナデシコっぽい…。
そしてまさかギレン総帥がちょい役だとは思いませんでしたが…まあ、セシリア秘書が愛生声でしゃべったのでよしとしましょう(笑)。セシリアといえばZZでもおなじみの名前ですけどね…。
さて本編ですが、
シャングリラでのドタバタの所に入ってきました。アニメだとかなり話数を割いていましたが、あんな風に何度もゼータに乗っては下りて、を繰り返すのはちょっと不自然なので、早めに宇宙に上げたいと思います。