アーガマが見えるところまで戻ると、カタパルトに見覚えのある黄色いMSがゼータガンダムのビームライフルとシールドを抱えて立っているのが見えた。
「あれは確かメタスとかっていう…あ、俺に武器を届けようとしてくれてたのか!?」
ジュドーはそのメタスのすぐ隣にゼータガンダムを着艦させる。コアファイターはアーガマの上空を一周してから隣のカタパルトに降りた。
『ジュドーか?無事だったのか!』
「え、カミーユさん?何で?」
『ゼータガンダムが武器も持たずに飛んでいくのが見えたんだ…まあ、余計な心配だったみたいだな』
「いえ、ありがとうございます。それより、アーガマはすぐに出ないといけないみたいなんだけど…カミーユさんも早く行ったほうがいいんじゃない?」
『ん?どういうことだ?』
カミーユがそういったところに、
『そこのコアファイター、ラビアンローズからの迎えか?』
ブライトの声が響く。
『そう、そうですよ!ブライト艦長ですね!私、ラビアンローズから来た志願兵のルー・ルカといいます!アーガマ、すぐにシャングリラを発進して下さい!アクシズの連中、もうMS部隊を出しています!』
早口でまくし立てたルーの言葉に回線が繋がっている全員が一瞬動きを止め、その少しの間の後で再び、ブライトの声が届く。
『ルー…といったな。こちらも既に発艦準備は出来ているが…その話、間違いないな?』
『はい、アクシズのMSを3機、確認しました。連中、ゼータをおびきだして、それからアーガマを攻撃しようっていう腹だったんじゃないでしょうか?』
『ふむ…トーレス、全艦につなげ!』
ブライトの指示で、回線が艦内にも繋がったらしい。じわり、と緊張感が高まる。
『アーガマはこれよりシャングリラから発艦、近辺の宙域に来ているラビアンローズと合流する!なお、現在アーガマはアクシズの艦に捕捉された可能性がある。総員発艦準備の後、速やかに第二戦闘配置に移行して待機だ!』
ジュドーは急に足元が騒がしくなったのを感じる。しかし…発艦といわれても困る。
「ちょっと待ってよブライト艦長、俺たちはどうすりゃいいのさ!シャングリラを離れるまでの手伝いって約束だったろ!?」
『そうだ、お前たちは今のうちに艦を降りろ。今日までの給料は後で精算しておいてやる。カミーユ、すまないがもう少しだけ頼む…』
『わかってますよ、ブライト艦長。ジュドー、ゼータガンダムを交代だ』
「ちょっとちょっと、俺がいってるのはそういうことじゃなくてさ、俺は別にいいんだ。このまま放り出されたらアーガマのことが気になってしょうがないからね。けど他のみんなはここで下ろしてくれよ。戦闘になるかもしれないんだろ?」
それは、ジュドーの偽らざる気持ちだった。
『ジュドー、お前…いいのか、それで…』
「いいっていってるでしょ、ブライト艦長。だからカミーユさんは早く病院に行きなよ」
『ジュドー…いや、俺も残ろう。メタスでサポートする』
『そうだカミーユ、ここはジュドーのいう通りに…いや、ジュドー、お前も…』
と、ブライトがいいかけたところで、
『ちょっとジュドー、何勝手に話進めてんのよ!私もリィナもこのまま残るからね!』
『そうよお兄ちゃん!私たちだってこのままアーガマを放り出して帰る気なんてないんだからね!』
ブライトの脇から飛び出して来たエルとリィナがモニタに映し出される。
『えーっと、僕も同じく、ってことでいいかな…?』
未だ戦闘機のコクピットにいるらしいイーノの声まで聞こえる。
「お前ら…本当にいいのかよ…?」
『いいに決まってんでしょ!ここで引いたら女が廃るっての!ね、リィナ?』
『そうそう、そういうこと!』
『僕は男だけど…引き続きお願いします。アーガマの皆さん』
イーノの通信はそこから、ゼータガンダムだけを対象としたものに切り替わる。
『ジュドー、ビーチャとモンドのことは後でみんなに知らせようと思うんだけど…』
「そうだな。今はちょっと、それどころじゃないな」
モニタ上でブライトが大きく溜息をつくのが見えた。そして、
『わかった。それではラビアンローズとのランデブーまでお前たちの力を借りることにしよう。とにかく時間がない。すまんがカミーユもそのままメタスで待機してくれ』
『ええ、気にしないで下さい。ファには…病院の方には後で連絡しておきますよ。ジュドー、艦内に入ろう』
そう言いながら進んでいくメタスから、ゼータガンダムはビームライフルとシールドを受け取る。
「第二戦闘配置っていうのは、このまま待機っていうことなんでしょ?」
『そうだ。まあ、待ちぼうけになることもあるけどな』
「ははっ……今回は、そうなることを願いたいですね」
『そうだな…ああ、トイレは今のうちに行っておけよ』
カミーユの言葉に、ジュドーは思い出したかのように尿意を催し、ゼータのコクピットハッチを跳ね上げた。
「あら、もしかしてビアンノさん?」
「え、アーシタさん?お久し振りです!」
二人の四十絡みの女が出会ったのは、シャングリラ行きのシャトルの機内だった。ビアンノと呼ばれた女性は端末上の座席表示を確認しながら、アーシタと呼ばれた女性のすぐ前の座席で端末をかざすと小さな電子音が響き、シートが開いて座れる状態になる。
「そっかあ、ビアンノさんの勤め先ってこのコロニーだったか。それにしてもすぐ前の席とはね」
「ええ、すごい偶然…ではないですよね?このシャトルにアーシタさんが乗ってらっしゃるのは、もしかして…」
「ええ…学校から連絡があったわ。エルちゃんも、うちの息子たちと一緒に行動してるみたいね」
二人の溜息と同時に、シャトルがゆっくりと動き出す。
「もう、本当に驚きよね。子供たちが軍艦にスカウトされたなんて…」
「冗談じゃありませんよ。力づくでも取り返してやります。まだ年端の行かない子供を連れて行こうなんて、本当に、軍人って何を考えているのかしら?」
「ええ、とにかく子供たちからもきちんと話を聞きましょう。もし何か弱みでも握られて無理矢理連れていかれそうになってるんなら、訴えてやるんだから!」
息まく二人の女性をよそにシャトルは進む。エアロックを通過すると窓の景色は漆黒の宇宙空間に変わる。スラスターノズルに火が入ると機内が少し揺れ始め、シャトルは星の海へ飛び出した。何段階かの加速の後で速度が安定すると、客席のモニタにはシートベルトの解除をしても構わないという旨と、航路に乗ったという表示が現れた。乗客の履歴から全員がリピーターだということがわかっているため機内のアナウンスは控え目で、次が終点の1バンチ、シャングリラであることも自動メッセージだけで知らされた。
だが、しばらくして急に、
『ええ…船内の皆様にお知らせいたします。ええ…こちらは機長のフェイです』
そんな、男の声が機内に響いた。
「あら、何でしょう?」
ビアンノの疑問はアーシタにとっても同様であったが…その機長の名前と声には覚えがあった。
「何でしょうね?それにしても機長さん、オートのメッセージに頼ってばかりだからアナウンスが下手くそね」
「あら、もしかしてアーシタさんが勤めていた頃にいた人?」
「ええ、後輩よ。フェイ君が機長か…すっかり偉くなったものね」
「そりゃ、アーシタさんが辞めたのはリィナちゃんが生まれるから、でしょ?もう10年になるんじゃない?」
「おっと、そりゃそうね。道理で歳をとるわけだわ…」
二人が笑うと、その一因となっていた機長からの言葉が続く。
『当機の進路上にアクシズの所属らしき艦を確認いたしました。民間機である当機に対して行動を起こすようなことはないと思われますが、当機は念のため、規定の航路を外れてシャングリラへ向かいます。ええ、そのため…到着予定時刻は多少の遅れが発生すると思われます。乗客の皆様におかれましては…安全優先…ええ、安全第一の航行ということで何卒ご理解下さい』
言いたいことだけを言って、機長は放送を切ってしまった。機内はシンと静まり返る。一年戦争の頃は民間機が戦闘に巻き込まれて犠牲になった、というニュースはそう珍しいものではなかった。おそらく乗客の誰もが、そんなことを思い出していたのだろう。すぐに機内がざわめき始める。二人の中年女性も顔を見合わせて怪訝な表情を浮かべた。
「アクシズって…ジオンでしょ?」
「そうね…戦争は終わってアクシズは地球圏を離れるって聞いていたけど…」
「もうエゥーゴだのティターンズだのアクシズだのわけがわからない!とにかく戦争は他所でやってくれないかしら!」
ビアンノの言葉に、機内の乗客たちは皆、頷いていた。
ガザCを回収出来たのはまあ、良しとしよう。だがそれはマイナスをゼロに戻したに過ぎない。意気揚々とアクシズ艦隊から出発し、アーガマを発見したまでは良かったのだが、今に至るまでにガザC2機、ガザD3機とそのパイロットたちを失い、さらに試作機として預かっているガルスJとズサにも損傷を与えている。それにもかかわらず戦果らしい戦果は今の所ゼロ、といっていい。
マシュマーの知らないところで軍監が派遣されているという噂もある。これは…あまりうかうかはしていられない状況にあるといえるだろう。
「うーむ、さすがにこのままではマズいが…」
そういって艦長室のデスクの上で頭を抱えていたところへ、
「マシュマー様、入りますよ」
ゴットンの間の抜けた声が響く。
「入れ…全く、お前はのんきで結構なことだな」
「はい?」
スライドした扉から入って来たゴットンは、怪訝な表情を浮かべる。
「何でもない。で、どうなんだ。やつらの身元は割れたのか?」
やつら、というのは先ほどの戦い…戦いといっていいかも定かではない小競り合いでエンドラに収容した者たちのことだ。
「はい、トラックを運転していたのはシャングリラのジャンク屋でゲモン・バジャック。荷台にいたのはビーチャ・オーレグとモンド・アガケ、いずれも地元のジュニアハイに通う子供たちです」
「うん、あのいかにも品性に欠ける男と子供たちか…。それで、ガザCのパイロットは?」
「はい…あの男、どうもティターンズのパイロットであったようです。本人は黙秘していますが、データベースに照会をかけたところ、ヤザン・ゲーブルで間違いないかと…」
マシュマーはハッと顔を上げる。
「何…!ヤザン・ゲーブルというとあのバーサーカーか!?」
「おそらくは」
何ということだろう。アクシズのベテランパイロットたちからも恐れられていたティターンズのエースが、図らずも手の内に転がり込んでくるとは…!
「フフフ、ハハハハ!やはり天とハマーン様は私を見捨てていなかった!連中からアーガマの居所は聞き出しているんだな?」
「ええ、奴らにとってもアーガマは敵らしいですからね。あっさりしゃべってくれましたよ。ジャンク山の方だそうで」
「よし、ゴットン!ヤザンを加えて追撃部隊を編成だ!アーガマめ、今度こそ墜としてやるぞ!」
椅子に足を乗せて気を吐くマシュマーへ、ゴットンが冷静に続ける。
「は?ヤザンを加えて!?あ、いや、とにかくちょっとお待ち下さい。本隊から連絡がありまして、キャラ・スーン様がランドラでこちらに向かっているとのことです」
「何!?キャラだと!?」
「はい、エンドラがアーガマを発見したという報を受けて、増援を出してくれたようです。アーガマを襲うのはそれを待ってからの方が良いのでは?」
「バカ者!この大バカ者!それでは我々だけではアーガマを墜とせないといっているようなものではないか!そうか、キャラのヤツが軍監ということか…!ええい、こうしてはおれん!何としてもキャラが来るまでにカタをつけてやる!そこをどけぇい!」
いうなり、マシュマーはゴットンを押しのけて艦長室を出ていく。
「あ、マシュマー様!本気であのヤザンを使うおつもりなんですか?ちょっと、マシュマー様ぁ!」
廊下に出たマシュマーの背中にかけた声は届いているのかいないのか。ゴットンは少しうなだれてから、その背中を追いかけた。
「機動戦士ガンダムZZ」という作品には、これ以前の1ST、Z、そしてこの後のガンダム作品と比べても異質、と思える所がいくつかあるのですが、その一つに主人公の両親について全く触れられていない、という点が挙げられます(Wやオルフェンズは親がいないのが作品としての前提みたいなところがあるので例外ですけど)。
少年少女の話をするにあたって親の存在が全く見えないというのはやはり不自然で、逆にそのあたりに触れることでドラマの重厚さが自ずと出て来るんじゃないか、とも思えます。
もしかしたら1ST、Zで親子関係についてはかなり粘着質に描いたので、ZZでは一切触れずに行こう、という当時の作り手側の挑戦だったのかもしれませんが…個人的にはやっぱりここに触れてこそガンダム、という気がするので、本作では止む無くオリジナルという形でジュドー、リィナとエルの母親を出すことにしました。
この作品を書くにあたって、出来るだけオリジナルキャラクターは出さないようにしよう、というのが自分の中の決まりとしてあるのですが、同時に原作で不自然と感じたところを何とかしたい、とも思っています。
この二つの条件を同時にクリアするのは厳しい場面があるため、今後も多少オリジナルキャラクターは出ることになると思います。
そういったキャラクターが出てきたら、ああ、ここは仕方なかったんだな、と思っていただけますと幸いです(笑)。