「助かりましたチマッターさん、こうして無事にシャングリラを出られるのもあなたのおかげだ」
ブライトは、モニタの向こう側にいるシャングリラの副市長に、そういって頭を下げた。
『いえ、協力出来て何よりです。こちらの港から出ることはエンドラには気付かれていませんが、くれぐれもお気をつけて』
チマッターはそういって敬礼して見せた。
「よし、アーガマはこれよりシャングリラを出る。先行するコアファイターに続いてラビアンローズへ向かうぞ」
艦内に向けてそういってから、ブライトはインカムを置いた。チマッターの誘導で、アーガマとエンドラの位置関係は円筒状のコロニーの端と端にある。
「上手くいきましたね」
ブリッジクルーのキースロンの声に、ブライトはふっと小さく息を吐く。
「このまま何事もなくラビアンローズまでいければいいですけど…」
同じくクルーのトーレスがそういって正面のコアファイターを映し出した。
「ああ、ラビアンローズにたどり着ければ、もう子供たちをあてにせずに済む…何とかそうなってほしいものだが…」
ブライトは、エンドラが取り得る行動の可能性に頭を巡らせる。どうにも悪い状況ばかりが思い浮かぶのは艦長として最悪の事態に備えておかなければならないから、という職業病のようなものなのだが…今は、とにかく行動するしかない。目の前のモニタをMSデッキに切り替えると、ゼータガンダムとメタスがカタパルトのすぐ近くで待機をしている。
「子供たちをあてにせずに…か」
もう一度さっきの言葉を口の中で繰り返して、ブライトは祈るようにして組んだ両手の上に、顎を乗せた。
その子供たちは、MSのコクピットの中でずっとやりとりをしていた。
「そうだ、上手く手足を使って反動をつければ無闇にスラスターを噴かなくても機体は思い通りに進んでいくんだ。ある程度のパターンは設定されているけど、いざという時に慌てずこういう動作が出来るようになると、相手のちょっとした隙に対応出来るようになる。よく訓練しておくことだ」
メタスのコクピットから、カミーユはジュドーに対してレクチャーを行っていた。
『なるほどねえ。しっかし実際には動いていないのにこんなシミュレーションが出来るなんて、すごいな』
「ああ、過去の戦闘、パイロットの挙動なんかをしっかり記憶して学習しているんだ。ゼータは試作機だからデータを取るのも大事な仕事でね」
『なるほどね…このデータを元にまた新しいMSが開発されるってわけだ』
「そういうことだ。これからはジュドーの動きを学習していくから、また面白いデータが溜まっていくだろうな」
『ええ?何かそれ、ちょっと恥ずかしいな…』
「はは、それにしても大したもんだよ。こんなにあっさりゼータを動かせるようになるなんて…」
『そりゃあ、身体を張ってプチモビに乗ってたからね。それにこのパイロットスーツってすごいよ。色んな情報が出てきてサポートしてくれるんだからさ』
カミーユは笑いながら、確信する。ジュドーにはニュータイプ能力と同時にパイロットとしてのセンスがある。機体のサイズなどの感覚が、すんなり頭に入っていくのだろう。
そしてもう一つ、自分には無いパイロットに向いた素質が垣間見える。パイロットスーツのバイザーに映し出される様々な情報の中から自分が必要なものを本能的に選んでいるその様は、次々と変わっていく状況にためらいなく自分を合わせていくことが出来る、ということを示している。命の奪い合いをする戦場でも、いちいち過去に引っ張られることはないかもしれない。それは、とても大事なことだ。
「ジュドー」
『なんです?』
「最近のMSは、人の意思に感応して動くようなシステムが搭載されているものがある。ゼータもそうなんだが…」
『MSが人の意思で動く…?操縦せずに勝手に動くってんですか?』
「そうだな…うん、そんな感じだ。人が作った機械であるはずのMSが、そういうシステムなんかの影響で勝手に動いたり、カタログスペック以上のパワーを出すことがある。あれは、パイロットの意思に感応しているとしか思えない…そういうことが何度かあった」
『へえ…』
「これからのMS戦ではそういうちょっとオカルトのようなことが実際に起こり得るだろうし、重要になって来ると思う」
カミーユは大真面目だったが、
『いやいやそんな、アニメじゃないんですから…』
ジュドーの方は話半分といったところだ。無理もない。あれは実際に体験しなければわからない感覚だ。
「そう、だけどアニメじゃないから始末に負えないんだ…もし、このままジュドーがゼータのパイロットを続けていくようなことになってしまったら…そういうこともあるんだな、と思って、むしろそういう力をしっかり使えるようになってほしい」
『うーん…わっかんないな…』
カミーユはそこで、自分が少し空回りしていることに気が付く。いつの間にか、ジュドーが自分と一緒に戦っている…そんなイメージが先行していたのだ。
「ああ、そうだな…俺は何を急いでるんだろう……ただ、上手くいえないがジュドー、君は多分そういうことを違和感無く出来るんじゃないかと思うんだ。それで、出来れば多くの人たちを救ってもらいたい」
『はあ…』
ますますわけのわからないことをいってしまったが、今、言わなくてはならないという思いが先走って仕方が無いのだ。そしてその思いは、
『6時方向、アクシズのMS隊です!』
やはり正鵠を射ていた。ブリッジからその連絡を受けると同時に、カミーユは強いプレッシャーを感じていた。
「そうら見ろ、やっぱり反対側の港だったろうが!」
コクピットでそう叫ぶヤザンの声を、僚機はどう聞いているのかわからない。だが、そんなことはどうでもいい。アクシズのお人好し士官は、アーガマを倒すために力を貸してくれといって正式にMSを預けてきた。さすがに信じきれないところもあるのだろう、与えられたのはまたしても旧式のガザCだが、今度のは整備の行き届いたフルスペック機だ。ヤザンはがガザCを変形させ、単機でアーガマめがけて突撃する。
『おいヤザン!突出するな!連携してアーガマとゼータガンダムを叩くという約束だろう!』
甘ちゃん士官のその言葉に、ヤザンは心底からの笑いを発した。
「はぁっはっは!ティターンズの俺と、ジオンのお前らが連携?笑わせるなよ!そんなつもりはお互い無いだろうが!結果的にはお前たちのためになることをやってやろうってんだ!黙って見ているのが嫌なら俺について来い!」
自分の言葉に、やつらは反論出来ないだろう。全く、あんなのが前線で指揮官をやっているのだからアクシズの人材不足には同情するしかない。
「邪魔だけはしてくれるなよ…」
変形すれば最低限の機動性があるこの機体であれば、アーガマを墜とすことは難しくないとヤザンは本気で思っている。艦の下に取りついて一発入れれば、後は後続の連中が何とかするだろう。その間に、ゼータと闘える。
最高まで加速をかけると機体がかなりガタつく。やはり基本構造そのものに問題がある機体のようだが、もうそのクセは掴んでいるし、自分の腕でカバーすればいいことだ。ともかく、これから始まる戦闘の間だけまともに動いてくれればそれでいい。
アーガマの下に潜り込むため、フレームの歪みすら利用しながら緩やかに旋回をかけたその時、背後に殺気を感じる。変形を解除しながら急停止すると、ビームの光がすぐ前を走っていった。
「何、捕捉されたのか!?」
いつの間にか、背後を取られていたのだ。モニタを確認すると、前にやり合ったことのある確かメタスとかいったエゥーゴのMSの姿があった。こんなパイロットがいるのか、ヤザンは興奮のあまり舌なめずりをしていた。
「やってくれるじゃないか、黄色いの!」
その「黄色いの」に向かってMS形態のまま、スラスターを出来る限り一方向に全開、その勢いでビームサーベルを振りかぶった。こうすると、慣性がかかって通常よりも機体1つ分はリーチが稼げる。しかも相手MSは想定以上に伸びてくるビームサーベルにまず、対応出来ない。…はずなのだが、ヤザン必殺の斬撃は鮮やかな粒子の光跡を残しただけだった。
声を上げる間も無かった。下方向からの射撃を受け、ガザCの左足の先端が吹き飛んでいた。慣性で機体が回転してしまうところへすかさず敵機がビームサーベルを突き出してくる。視界の端にそれを捉えていたヤザンは、各部のアポジモーターを吹かして姿勢を戻しながら何とかそれをかわした。
「動きを読まれた!?いや…こいつとは戦ったことがある…?」
流れていく敵機めがけてナックルバスターを発射するが、それは当然のように回避され、少しの距離をとって両機は向かい合う。これは…楽しめそうな相手だ。
「おい、マシュマー!ゼータではないが腕利きがいる。俺が引き付けておくからその間にアーガマを墜とせ!」
『何!?…』
その後に続く言葉を聞かずに通信を切り、ヤザンは眼前の相手に意識を集中した。不思議なことに、相手の方もこちらを見据えたまま動かない。あいつは俺を知っている…おそらく、向こうも同じことを思っている。
「フフフ、そうか、そういうことだな!いくぞぉ!ゼータのパイロットォ!」
そう叫び、ヤザンは再び突進した。
『アーガマ、180°回頭!応戦だ!ルーにはこちらに構わず先に行けと伝えろ!』
ブライトの声がコクピット内に響く。ジュドーはモニタ上のカミーユ機の動きを追いながら、ブリッジとの回線を開いた。
「カミーユさんが交戦状態に入ったのか!?」
『ああ、アーガマの下から…上手く少し離れた所に誘導してくれたみたいだ。ジュドー、お前も出られるか?』
トーレスの声に、ジュドーの身には緊張が走った。
「そりゃあ出るさ!」
『ジュドー、カタパルトは使わずアーガマの前に出て、そのまま護衛につけ。適度にビームライフルを撃って牽制してくれればそれでいい』
「ブライト艦長…でもカミーユさんを援護しないと」
『カミーユなら滅多なことではやられん。他に2機、アクシズの機体が確認された。お前はアーガマと一緒にそいつらを叩くことを考えろ』
「他に2機?しょうがないな…」
ジュドーはやむなくゼータガンダムをデッキに進ませる。
「こういう時なんていうんだっけ…そうそう、ジュドー・アーシタ、ゼータガンダム、行きます!」
そういって、ジュドーはゼータガンダムをジャンプさせた。
「カタパルトを使わないとイマイチ雰囲気が出ないよな…ええっと、あれか!」
転送されてきたデータ通りの位置に、敵機の姿が確認出来た。
「確かに2機、それじゃ挨拶と行きますか!」
ビームラフルを撃つと、さっと敵機が散るのが見える。すぐお返しとばかりに幾つもの熱反応、ミサイルが飛んできた。
『弾幕を張れ!』
ブライトの声と共に放たれたアーガマの対空機銃が、ミサイルのほとんどを宇宙に咲く花に変える。ジュドーは思わず口笛を鳴らしたが、その花の中から突出してくるMSの姿があった。瞬時にデータベースからガザDという機体の画像とその大まかなデータが現れる。
「よし、俺の出番ってことね!」
ジュドーはゼータの両手でビームライフルをしっかり固定し、まずは軽い出力で二連射、
そして…
「当たれッ!」
さらにこちらも敵機に近づいて強力な一発を放つ。最初の二発は牽制、それを相手に避けさせて、最後の一発を直撃させる…さっきまでみていたシミュレーションでよく使われていた戦闘マニューバだ。見よう見まねではあったが、これが見事に命中した。
「やった!?」
と喜んだのも束の間、爆風の中から敵機がさらに突っ込んで来た。右肩のバインダーを上手く旋回し、局面部分でビームを弾くようにして凌ぎ切っていたのだ。焦げたようなビーム痕の残るそのバインダーが見えて、しまった、と思った時にはもう遅い。咄嗟に回避運動をとるが、至近距離で敵の主砲をシールドで受けるハメになった。
「うわっ!」
コクピットに強い衝撃が走り、機体が大きく弾かれるのがわかる。だが、ここで目をそらしたら死ぬ、ということだけは何となく感じ取り、必死に敵の動きを追うと、今度はビームサーベルの斬撃が正面から迫っていた。
「なんとぉ!」
ジュドーはゼータを変形させ、推進剤の熱風を敵機へモロに浴びせてそれを回避した。すると今度はそこへ、ガザDの後方にいる敵機からミサイルの雨が飛んでくる。
「こっちは初めての宇宙戦なんだぜ!?ちょっとは手加減してくれよ!」
そういいながら追尾してくるミサイルを引き付けて、そのミサイルの発射元に急接近していく。
「お前かっ!」
シャングリラで見かけた機体のようだ。その機体の少し手前で変形を解除すると、ミサイルはゼータを追い越して行き…そこに向けてビームライフルを連射した。爆発に巻き込まれる形で、敵機が吹き飛んでいくのが見える。直近のデータにあったカミーユの闘い方を、ジュドーはあっさり真似ていた。
「よーし、まずは一つ!」
ジュドーはそういって、追いかけてきたガザDの方へ、ゼータをターンさせた。
ちょっと週末忙しくなりそうなので一日早く更新いたします。
いよいよシャングリラを出ます。アニメ本編でも47話中10話ほどがシャングリラ編なんですよね。いやあ、長いわけだ(笑)。