「バカ者がっ!自分のミサイルでやられるやつがあるかっ!」
マシュマーはそう叫んで主砲のナックルバスターをゼータに向けて放つがそれは回避され、さらに背後からアーガマの攻撃が始まった。
「マズイ!挟み撃ちか!」
ヤザンか、まだ反応の消えていないグレミーと合流しなければさすがに分が悪い。エンドラもコロニーの反対側だ。艦砲射撃による援護は望めない。
「ここは一旦退くか…いや、グレミーはヤザンのところに飛んでいったか…」
マシュマーは機体を素早く変形させると、速やかに敵艦から距離をとった。
カミーユはメタスの出力を最大まで上げて、ガザCとビームサーベルで切り結んでいた。
「コイツ…やる…!」
どちらも格闘戦が強いMSではない、それどころか宇宙世紀0088年の今現在、基本性能が高いともいえない機体同士だ。にもかかわらず、その二機による白兵戦の様は正に人機一体、手練れの剣士同士による一騎打ちといった風情すらあった。
『その声…やはりお前か!ゼータのパイロット!』
「何…!?貴様、ラーデッシュをやったヤツ…!」
ビームサーベルが交わる間は嫌でも接触回線と同様の状態になる。互いにそこで相手の強さに納得する。妙な共感だった。
「何故お前がアクシズの機体に乗っている!」
『お前こそ何故ゼータに乗っていない!』
上半身がビームサーベルの交差状態となっている中で、ガザCが変形機構を利用した鳥足で蹴り上げを放ってくる。カミーユは敢えてそれを受け止め、その反動でメタスの背部から突き出た飛行形態時の機首部分をガザCの頭部へ叩き込んだ。
『ぐわっ!』
敵のコクピットから絶叫が上がる。すかさず、機体を飛行形態へ変形させて機首にひっかけたガザCを、そのまま近くの岩にぶつけようとしたその時、
「何だ!?」
カミーユの頭の中を、奇妙な感覚が走り抜けた。次の瞬間、民間機と思われる船がメタスのすぐ後ろに現れていた。その一瞬の隙に、ガザCはメタスから離脱してしまう。
「公社の循環便か…!何でこんなところに!」
間違いなく、それはコロニー公社の旅客機だった。サイド1のコロニー間を行き来する、どのサイドにもある市民の足だ。相手のガザCもそれに気付き、躊躇しているように見える。
だが、そこへ、
「熱源…ミサイルか!?」
不意に大量のミサイルが飛んできた。撃ち落とすのは難しくない…だが、この距離では旅客機を爆発に巻き込む可能性がある。カミーユはミサイルを撃ち落としながら、反射的に自分が旅客機の盾になるような位置に機体を進めていた。
機内は騒然となった。危険を回避するコースをとったはずが、何故本当の戦闘に巻き込まれているのか。
「ちょっとアーシタさん…これって…きゃあっ!」
ミサイルか何かわからないが、すぐ近くで立て続けに爆発がおこり、船が大きく揺れた。黄色いMSが爆発に巻き込まれているように見えたが、一定以上の衝撃を受けると自動で作動するシャッターが下りてきて、船窓は塞がれてしまった。もう、コクピットにでも行かなければ外の様子はわからない。
「馬鹿船長、完全に航路選択をミスってるじゃない!」
「その馬鹿船長、何の音沙汰もないけど乗客に説明は無し!?」
「全くその通りね。ちょっと奴らのタマ蹴り上げてくるわ!」
アーシタはそういい捨てると、激震の機内をコクピットへ向かって飛んでいく。それは実に機敏な動きで、ビアンノも何だかもう付いていくしかない、というように思えてきて、その背を追った。
「こらフェイ!ここを開けなさい!」
行儀も何もあったものではない。アーシタはコクピットに続く扉をハイヒールでガンガンと蹴り始めた。
「ちょっと、何をされるんですかお客様!すぐに座席へお戻り下さい!」
慌ててコパイロットと思われる男が扉を開けてやって来る。
「何言ってんのあんた!こういう時まずは乗客に安心感を与えるのが仕事でしょう!何の機内放送もないとはどういうつもりなの!」
「は、それはその…機長と相談を…」
「その機長に用があるってのよ!」
コパイロットの男がしどろもどろになった隙に、アーシタはずかずかとコクピットに押し入った。当然のようにビアンノもそれに続く。
「な、なんだあなた方は!」
中年と呼ぶにはまだ少し早い、アジア系の細い目をした男が突然の闖入者に声を荒げた。
「フェイ!あんたこんな時に何やってんの!」
「え、あ……あなたは…え?え?もしかしてアーシタ先輩!?」
「乗客名簿くらい事前に見ておきなさい!機内マイクは…、ああ変わってない、これね」
「ちょっと、何を…」
とフェイ機長が止めに入ったときにはもう遅い。アーシタはその顔を蹴とばしてマイクのスイッチを入れた。
『乗客の皆様、ご心配をおかけし大変申し訳ありません。当機はただいま地球連邦軍の模擬戦に出くわしてしまった模様です。この戦闘訓練は極秘であったらしく、弊社への連絡はありませんでした。先に機長からお伝えした軍の船は、この戦闘の用意をしていたものだったと思われます』
落ち着いた、品性のある艶やかな声に加えて絶妙の間、乗客の全てが思わずこの放送に聞き入り、機内は一瞬にして静けさを取り戻す。
全く、これが扉を蹴ってコクピットに押し入り、機長を蹴りつけた女性とは思えない切り替えの速さだった。場の3人は、乗客とはまた違う意味で言葉を失っていた。
『ですが、ご安心下さい。先ほど連邦軍より、直ちに訓練を中止するとの連絡が入りました。お客様におかれましては、引き続きシートベルトを着用の上、落ち着いてご着席下さい。当機はこのままシャングリラ第二港へ向けて航行いたします。落ち着いてご着席下さい』
乗客が、アーシタのいうことを聞いて落ち着きを取り戻していくのがコクピットからでもよくわかった。ビアンノは素直に感心する。
「すごいじゃないアーシタさん!よくもまあ、そんなデタラメをスラスラと…」
「こういう時のためのシナリオってのがいくつかあるのよ。それよりフェイ、シャングリラに繋ぎなさい。ついでにこの宙域全体に伝わる回線を開いて!」
もう、男たちはこの女傑の言葉に抗する術がない。淡々と回線が繋がれた。
「こちらサイド1循環便です!シャングリラ、それと戦闘中のMS!聞こえますか!」
コクピットに突然入って来た聞き覚えのある声に、ジュドーは怯んだ…というより瞬間的に顔が火照ってきたのを感じる。
「え、ええっ!?この声って…!?」
民間船の通信が入ったその場のMSの全てが、一瞬動きを止めた。
『ちょっとお兄ちゃん、今の聞いた!?』
ゼータのコクピットに、アーガマのブリッジにいるらしいリィナの顔が映し出される。
「ああ…リィナ…お前もやっぱ…そう思う?」
『うん、間違いないと思う。あれは…お母さん…』
『何だ?あの旅客機にジュドーとリィナの母親が乗っているのか?』
ブライトの声に、ジュドーは頭を振る。
「艦長が学校に連絡なんかするからでしょうが!」
『それは当然のことだろう…んっ!』
『ちょっと、まさかジュドーとリィナ?そこにいるの!?』
回線に突如、その声が割り込んでくる。
「ゲッ!やっぱり母さんなのかよ!?」
『ゲッとは何よ、ジュドー!ってあんた…え?まさかMSに乗ってるの!?』
「いやもう、そんなことはいいからさ!今戦闘中なんだぜ?静かにしてくれよ!恥ずかしいな!」
『親に向かって恥ずかしいとは何よ!』
と、アーシタ親子の会話が続く中、
『もしかしてエルちゃんもいるの?聞こえるかしら~?』
『え!?ママもいるの!?』
ビアンノ親子までやりとりをはじめる。周辺の宙域をまたにかけた両親子の会話が繰り広げられているところへ、
『こ、こちらシャングリラ管制室です。公社のサイド1循環便、ですね?』
それは少し震えた声だった。どうやら笑いをこらえているらしい。
『そうです、こちらはサイド1循環のA-301便です!この宙域での戦闘をすぐに止めるよう、指示願います!』
『ええ、了解………え、あ、はいそうです…』
アーシタの快活な返事を受けた管制官の声が急に遠ざかる。誰かと話を始めたらしい。そのまま通信が切れてしまった。
そこへ、またしても熱源の接近を告げるアラートがゼータのコクピットに響く。
「またか!空気の読めない奴らだな!いや…これはミサイルじゃない!?カミーユさん、大丈夫なの!?」
先ほどのミサイルで、カミーユのメタスは被弾していたように見えた。機体の反応はあるが、ジュドーの位置からではどの程度ダメージを受けているのかわからない。このままでは、まずい。
突然紛れ込んで来たコロニー公社の旅客機を、マシュマーのガザDとヤザンのガザCは並んで確認していた。ミサイルの爆発による塵が四散すると、盾となっていたメタスが煤まみれの無残な姿になって現れる。
「何と!あのエゥーゴの機体が民間機を守ったのか!?」
『バカなやつだ。あんなのに構わなければ俺を墜とせたものを…』
「何をいっている!あれはグレミーの撃ったミサイルだろう!民間機を誤って撃墜などいうことになれば我らアクシズの評判はガタ落ちだ!」
『知ったことか!チッ、突然こんなところに現れるとは…あの民間機の船長は頭がおかしいのか…?おい、とにかくあんなのがいたら戦闘を続けられんぞ!どうする!』
確かにヤザンのいう通りだ。艦隊同士が入り混じる大会戦の最中ならば事故として処理されるかもしれないが、こんな局地戦で民間機を墜としてしまったら誰がどんな状況で船を撃ったのかはすぐにわかる。戦争犯罪人としての責任追及は免れないであろう。そんなことを考えていると、その民間機が何やらエゥーゴの連中と話を始めたようだ。
「ん?ジュドー…だと?」
『なんだ、どうした?』
「いや、驚いたな。あの少年がゼータに乗っていて…あの少年の母親が船に乗っているのか…!」
『敵の私情に首を突っ込むなよ。いざという時、引き金を引けなくなるぞ』
「あ、ああ…それは確かにそうかもしれんが…我らが弱きを助けるアクシズの騎士であることに変わりはない。誰が乗っていようとあの船は…」
といいかけたところで、友軍からの通信が入る。誰かと思い回線を開くと、
『ハハハハ、随分苦戦しているようじゃないか、マシュマー!』
モニタには最初肌色だけが映っていたが、だんだんカメラが引いていくとそれが女性の豊満な胸部であったことがわかる。この時点で、マシュマーは完全に気分が悪くなっていた。
「キャラ…お前、何故こんなところに…!」
赤と金に染め分けられた長い髪、露出の多い真っ赤な士官服に身を包んだ女のバストアップがモニタに表示される。こんな品性の欠片もない女が何故、我がアクシズの幹部候補になっているのか常々疑問に思っているマシュマーなのだが…。
『なんだ?ゴットンから聞いていただろう?アーガマを見つけたっていうから援軍に来てやったのさ!』
「援軍など不要だ。全く、何というタイミングだ…」
『アハハハハ!アーガマが逃げるといけないからエンドラとは反対の港につけようとしたら正にドンピシャだったってわけさ!アタシは運がいい!』
本当に、呆れるほどに勘がいい。こんな具合できっちり戦果も上げているため、その言動や恰好に物申す者は誰もいない…それが、キャラ・スーンという女だった。
「それで…ランドラで来ているのか?どこにいる?」
『何だマシュマー、そんなに早くアタシに会いたいのかい?』
「笑えない冗談だな。戦闘中だ、さっさと位置情報を送ってこい!」
『つまらない男には教えてやらないよ。とにかくそこを動くな。艦砲射撃ってのはどこから飛んで来るかわからないスリルがいいんだからね!』
「何!?貴様ふざけるな!」
いきり立ったマシュマーが機体を動かそうとしたところで、ヤザン機がそれを押さえる。
『動くなといっていただろう!今のがどんな奴かは知らんが味方に当てはしない。しばらく様子見だ』
「む、それは確かにそうだが…」
と、マシュマーが不承不承答えたその瞬間、巨大な光の奔流がすぐ傍を通り過ぎて行った。
『うお!?』
ガザDをつかんだまま、とっさに回避運動をとったヤザンが叫ぶのが聞こえる。
「見ろ!ほとんど当たるところだっただろう!キャラのいうことなどあてになるものか!あの民間機を沈められたら寝覚めが悪い!どけ!」
マシュマーのガザDは、ヤザンのガザCを振りほどいて変形した。この形態ならば、民間機はスラスター一吹かしで届く距離だ。
「左エンジンに被弾!出力13%ダウン!あ…前方のカミーユ機と旅客機も被弾しています!」
艦内に鈍い衝撃が走る中、そんなトーレスの悲鳴のような声がブリッジに響き、ブライトは軽く舌打ちする。
「メガ粒子砲か…艦砲射撃だな。位置はわからないのか!」
「射線から凡その位置はわかりますが、こうミノフスキー粒子が濃くては…」
「そんなところから当ててきたのか…」
ブライトはモニタを拡大して旅客機の様子を見る。一年戦争の後、似たような船の船長をやらされていた経験から損害は容易に想像出来た。推進力に影響を受けている。まともに旋回出来るか怪しいものだ。ここへ次の攻撃が来たら…と考えると冷や汗が出てくる。
「すぐに第二射が来るぞ!回避運動を取りつつアーガマを旅客機の前へ出せ!」
「あの船の盾になろうってんですか!?」
サエグサの頓狂な声に、
「当たり前だ!」
ブライトは即答し、
「カミーユはどうなっている!」
続けざまにそう叫ぶ。
「応答ありません!メタスは中破のようです!」
「ええい…カミーユへの呼び掛けを続けつつ、前進だ!急げ!」
自分の苛立ちがクルーに悪影響を及ぼすということは、よくわかっていた。だが、直掩のMSが足りない艦があっさり沈むのを、ブライトは嫌というほど見てきた。案外ここでアーガマは沈むかもしれない…そんなことを考えるとどうにも冷静ではいられなかった。
メタスというMSはZⅡ、リゼル、ガンキャノンディテクターなどの色々な派生機、後継機を残していて、何気に後のMS開発史に大きな影響を与えている名機だと思うんですよね。
なので、ちょっと見せ場を作っちゃいました。
本編中、
・ヤザンの攻撃を受けて機首部分を叩きつけるところ
→ファイブスターストーリー冒頭のLEDミラージュと黒騎士バッシュの戦いで、
LEDミラージュのカウンターウエイトをぶつけるシーン。
・機首にガザCを引っかけて変形し、岩にぶつけようとしたところ
→ゼータガンダムがジ・Oに仕掛けたいわゆる「ウェーブライダー突撃」のシーン。
…といったネタを織り込んでおります。特にファイブスターの方はわかっていただけると嬉しいっす…。
※感想でいただいていた前話のガザDがゼータの高出力ビームライフルを「受けきった」
部分は訂正いたしました!