「なあビーチャ、また騒がしくなってきたよ。何だろう?」
「ああ…シャングリラを出る時も大騒ぎだったけど今度はなんだ?」
ビーチャとモンドはエンドラ艦内の、見張りのついた小部屋に押し込められていた。エゥーゴの関係者と見なされて、行動に制限をかけられている。ゲモンの方はまた別の部屋にいるようだ。扱いが違うらしい。そんな二人のいる部屋の扉が不意に開き、
「おら、さっさと入れ!」
「乱暴に扱うなよ。南極条約違反だぞ!」
などど言い争う声とともに、3人の男たちが放り込まれて来た。
「うわっ」
「何だよ、あんたたち!」
たまらずビーチャとモンドがそういうと、
「先客か…」
「何だ?子供じゃないか」
「狭いな…ここに5人はないだろう」
その3人からそれぞれそんな言葉が返って来る。立っている男たちはいずれも屈強で、独特の精悍さすら持ち合わせていたが…身ぐるみはがされてTシャツにパンツ一枚の姿ではさすがにしまりがなかった。
「あんたたち…軍人か?」
ビーチャがそういうと、男たちは顔を見合わせた。その中でリーダー格と思われる角刈りの男が一歩前に出てビーチャとモンドをじっくりと眺めながら、
「そうだ。我々はエゥーゴの者だ。君たちは何故こんなところに?」
丁寧な、抑え気味の口調でそう答えた。エゥーゴの軍人…なるほど、そういうことかとビーチャはピンと来た。
「俺たちはさ、エゥーゴに協力した市民っていう扱いで保護観察にするとか何とか…そんなだったよね、ビーチャ?」
「ああ…シャングリラに寄港したアーガマの手伝いをしてたんでね」
それを聞いて、
「なんだって!アーガマの協力者か!」
「こいつは驚いたな」
後ろの二人が好意的な反応を示す。やはりか、と思いビーチャは切り出す。
「あんたたち、アーガマの補充パイロット…ってとこか?」
「ああ、その通りだ。ラビアンローズ…ああ、ドッグ艦の名前だが、そこでアーガマと合
流する予定だったんだが…突然あらわれたアクシズの艦に拿捕されてしまってな…このザマってわけだ」
角刈りの男がそういうと、後ろの二人はため息をついていた。
「確かに…アーガマはドッグ艦に向かうっていってたな。俺たちはそれまでの手伝いだって言われてました。あ、まあ座って下さいよ」
ビーチャにうながされて男たちが腰を下ろす。目線が同じになると、狭い部屋がさらに狭く感じられる。
「そうか、現地徴用の協力者ということだったんだな…」
「悪いなあ。完全に俺らが巻き込んだってわけか」
「アーガマの人手不足は深刻だと聞いていたが、ここまでとはね」
自分たちに同情的な大人たちに、ビーチャとモンドは少し驚いて顔を見合わせる。悪い人たちではなさそうで安心したが…イマイチわからないところがある。
「まあ、まだろくに働いてもいなかったんですけど…それより皆さん何で捕まっちゃったんですか?そのラビアンローズってドッグ艦に向かっていたんでしょう?」
ドッグ艦に向かっていたはずなのに何故シャングリラを出たばかりのエンドラに捕まるようなことになったのだろうか?
「あまり詳しくはいえんが、俺たちは元々ティターンズの残党勢力を討つための部隊に編入される予定だった…のだが、そちらは連邦軍のみで対応することになったとかでアーガマに回されることになってな。それで急遽、小型の輸送船でラビアンローズに向かっていたところを、赤いエンドラ級の艦に拿捕されてしまった、というわけだ」
「え?ってことはアクシズの艦がもう一隻いるってこと!?」
モンドのその上ずった声は、もう少し遅ければビーチャが発していただろう。
「アクシズは本気でアーガマを潰しに来てるってことか…」
つとめて平静を装ってそういうと、男たちは静かに頷いた。
「全く何だったんだあの攻撃は!これじゃランドラは動けないじゃないか!」
ランドラのブリッジで地団駄を踏んで悔しがるキャラに向けて被害状況が次々と報告されていく。ゴットンはそれを見ながらキャラが少し気の毒だと思ったが、隣に立つマシュマーは上機嫌だった。
「ハンマ・ハンマを持って来てくれたのか!お前にしては気が利くではないか!」
「あれはお前用に調整が進んでいたから置いといても邪魔なだけなんだよ!クソっ!」
新型MSが来た上に、ランドラのこの状態ではアーガマ追撃は引き続きエンドラ単艦で行うしかない。この期に及んで、まだマシュマーにはツキがあるということなのだろう。
一応、エンドラに所属するゴットンとしても歓迎するべき事態ではあるのだが、味方同士でこんなやり取りをしている場合か、とは思う。そこへ、手にしている端末にエンドラからの連絡が入った。
「お、哨戒機からの連絡です。アーガマがドッグ艦と合流したようです」
「そうか…だが、フフフ、MSの補充を受けたところでパイロットが足りないはずだ!時は来た!エンドラをアーガマへ向けるぞ!ドッグ艦もろとも沈めてくれるわ!」
「そのパイロットたちを捕えたのは誰だと思ってるんだ!」
「貴官の数々のお膳立てには感謝する、キャラ・スーン!あの民間機をアーガマと勘違いしたという言い訳も信じてやろう!ではハンマ・ハンマはもらっていくぞ!ハハハハ!」
あまりにも能天気な上司がブリッジを去っていくと、ゴットンも作り笑いを浮かべて一礼し、キャラの元を去ろうとした…が、
「おいゴットン!」
「はいッ!」
やはりそう簡単には帰してはもらえないらしい。キャラがゆっくりと近づいて来る。他のブリッジクルーからの注目も浴びているようだ。金縛りにあったように身動き一つ取れずにいると、キャラが耳元でささやきかけてきた。
「グレミーは見つかったのか?」
「は…?グレミーというとあの、グレミー・トト…ですか?」
「そうだ」
何故、キャラがあんな新米士官のことを気にするのだろうか?イマイチ図りかねた。
「ははあ…キャラ様はああいうのがお好みで…?」
「バカ。あいつの待遇、不自然だとは思わなかったか?トト家の人間だけあってあいつに
は色々と上からの息がかかってるんだよ。ここで死なせるわけにはいかないってことさ。で、どうなんだ?」
「は、位置は把握しております……ええっと、その、エンドラはアーガマを追ってこの宙域を離れますので回収が難しく…」
ゴットンはそこで、キャラの顔色を伺い、
「位置データをお送りしますので、グレミーのことはランドラにお願いしてもよろしいでしょうか?」
そういった。キャラは大笑いすると、ゴットンを引き寄せて豊満な胸にうずめる。そして、
「ものわかりのいい男は嫌いじゃないよ、ゴットン。マシュマーには上手くいっておきな」
艶っぽい声でそういった。
マシュマー以上にこの女に振り回されている…ゴットンはそう自覚せざるを得なかった。
ドッグ艦、ラビアンローズはあくまでアナハイム・エレクトロニクス社の所有艦ではあるが、連邦軍の宇宙艦艇の修理・補給、及びMS開発の拠点ともなっており、建艦時からその利用による収益を長期的に見込んでいたと思われる特殊な立ち位置の艦であった。実際その有用性は非常に高く、宇宙世紀0083年のデラーズ紛争時には、提供した補給と新型MSにより、一強襲揚陸艦を戦略レベルの存在にまで押し上げている。
そんなラビアンローズのモニタルームに、シャングリラの子供たちはいた。
「だからさ、俺たちは別に無理やり戦わされてるわけじゃないんだよ。カミーユさんが…アーガマのエースパイロットがいなくなっちゃって、パイロットの補充も出来ないっていうんだから俺たちがやるしかなかったんだよ!」
シャングリラ宇宙港と繋がった回線は、早くもヒートアップしつつある。
『なんであんたたちがやるしかないのよ!あんたたちはエゥーゴやジオンなんて関係ないただの子供でしょ!とにかくジュドー、あんたは黙ってなさい!艦長!』
モニタ越しでも母は強い。ジュドーは気まずそうに隣に立つブライトを振り返るしかなかった。
「ああどうも、アーシタさん…。アーガマ艦長のブライト・ノアです。この度は…」
『あなたのことはここにいる全員が知っています!また子供たちを連れて一年戦争と同じことをしようっていうおつもりですか!』
ブライトの言葉は、あっさりと遮られる。
「いえ、決してそういうわけでは…」
『そういうわけではないならどういうわけなんです!人の子供を戦争に駆り出して命の危険に晒すなんて!あなただって人の親でしょうに!』
ぐうの音も出ないとはこのことだった。さすがのブライトも言葉を失う。
「ちょっと待って下さいお母様!あ、私、このラビアンローズの艦長代理をしているエマリー・オンスといいます。あの、ブライト艦長はこの子たちを戦争に巻き込もうだなんて思ってはいなかったんです。アーガマが人手不足だったのであくまでもシャングリラからこのラビアンローズに来るまでの手伝いをお願いしたと、そういうことなんです」
ブライトのすぐ後ろから、長身の若い女性が出てきてそういった。
『あら、きれいな艦長代理さん、ご説明ありがとう。でも…そうねえ。結果的には戦闘に巻き込まれたんですからそこはちょっと考えが甘いというか、そもそも軍艦に乗る以上は戦闘に巻き込まれるのは当たり前なんじゃないかしら…ねえ?あなたもそう思うでしょ、エルちゃん?』
突然母親から回ってきたお鉢に、エルは咄嗟に言葉が出てこない。
「え?ええっと…はは、そ、そう…かな?」
「申し訳ありません。それについてはおっしゃる通り、こちらの見通しが甘かったと言わざるを得ません。彼らの才能に頼ってしまった…情けない話です」
ブライトがそういって、モニタに映る二人の母親に頭を下げた。
『…わかりました。もう、終わったことをとやかくいうのは止しましょう。そちらのラビアンローズ、ですか?そこから子供たちを送り返して下さればそれで結構です』
「な!?何言ってんだよ母さん!アクシズの連中はまたすぐにここを襲いに来るんだぞ!」
『だからそれはあなたたちと関係の無いことだといったでしょう!』
「関係無いってことはない!」
そこで初めて、リィナが口を開いた。
「そうだね、関係ないことはないと思う。おばさん」
すぐにイーノが続く。
『イーノ君…よね?大きくなったわね』
ジュドーは、母のその一言に少し感じるものがあった。確かにもっと小さい頃にイーノと母は会っていたと思うが、まさか、覚えているとは思わなかった。
「あ、はい。お久しぶりです。あの、おばさん、そんな風に一方的にいわずに、まずはジュドーを褒めてくれませんか?」
『褒める…?』
「そうです。ジュドーはゼータガンダムに乗って、それでアーガマの人たちの命を救っているんです。いや、もしかしたらシャングリラの人たちも救ったのかもしれない。すごいんですよ、本当に…誰にでも出来ることじゃない」
「イーノ…」
モニタの中の母は一瞬、不意を突かれたようだった。そこへリィナがたたみかける。
「お母さん、私は別にこのままアーガマにいた方がいいっていうわけじゃないけど、お兄ちゃん学校はサボるし、モグリでジャンク屋はやるし、今のままだとろくな大人にならないと思う。お母さんが…全然帰って来ないから注意出来る人もいないし…」
『それは…ごめん。でも、シャングリラじゃまともな仕事がないのも本当なの。これはわかってほしい…』
「何だよ、それじゃ結局アーガマから帰っても何も変わらないじゃないか!」
と、モニタの中の母にジュドーが食って掛かるのを止めるように、
「ちょっといいかしら?私は部外者だから口を挟まないようにしてたんだけど」
ルーが割って入った。
どうしてもやりたかった親子の会話、次回も少し続きます。