『ええっと、あなたは?』
『初めて見るお顔ね?』
「はい、ルー・ルカといいます。エゥーゴの志願兵をやっています」
『志願兵?』
『あなたみないな女の子が、何でまた…』
ルーは少し鼻息を荒くした。
「失礼ですが、別に若い女が軍人を目指してもいいんじゃないでしょうか?大事なものを守るために戦いたいという気持ちに男女の差はありませんし、私は17歳ですが、この歳になれば自分のことは自分で判断出来ます」
ルーは一気にそこまでまくし立てた。ジュドーとエルの母親たちから言葉が出てくるのを許さない、といった勢いでさらに続ける。
「ここにいるのは…リィナさんは違いますけど、みんなもう15歳なんでしょう?15といえばジュニアハイは卒業で、もう一人前ですよ。私のように自分で進む道を決めたっていいんじゃないですか?」
モニタの向こうで、二人の母親が顔を見合わせていた。
『確かに、ルーさんの言い分には一理あるわね。でも、どうなの?あなたのご両親はあなたのその決断に賛成だったの?』
エルの母がそういうと、
「それはまあ、最初は反対されましたけど…最終的には納得してもらっています」
ルーは、軍といっても友人たちと一緒に広報の仕事に回してもらう、と両親には説明していた。まさか、友人たちに裏切られて人手不足からパイロット候補生にされているなどとは…当の自分でさえ夢にも思わなかったのだから、嘘をついたわけではないと思っていた。だが今、こう答えてみると一抹の後ろめたさがあることに気が付く。
『そう?…ならいいけど。でも、そうなってくると親が反対している私たちとは事情が違うことはわかるわよね?あなたがどういおうと、15歳なんてまだほんの子供よ。自分のことを自分で決めるにしてもあまりにも知らないことが多過ぎる。それで…他の職業ならまだしも、殺し合いをするような重い責任が生まれる仕事に就こうなんて、親の立場からは到底賛成出来ません』
場がシンと静まり返る。エルの母の言葉は、あまりにも正論だった。
「おっしゃる通りです。周辺宙域の安全が確認でき次第、お子さんたちはシャングリラヘお送りします」
ブライトがそういって母親たちに一礼をした…それを見たジュドーは堪らなくなった。
「待ってくれよ!じゃあ俺たちの気持ちはどうなるんだよ!ジオンの、アクシズの連中が来て、アーガマがやられたら…そんなことになったらたまんないよ!俺たちは今、子供かもしれないけどさ、今しかないんだよ!」
ジュドーはそういってモニタに背を向けようとした。
『待ちなさいジュドー!私たちのいうことがわからないの!』
「いい加減にしろよ!ろくに親の責任も果たさずにこういう時だけしゃしゃり出て来て…!アーガマの人たちはもう、俺にとっては他人じゃないんだ!ここで止めるっていうんなら、俺はあんたたちを一生恨む」
にらみ合いがしばらく続いた後、母のほうから溜息がもれる。
『なら…もうあんたは好きになさい。でもリィナは置いていきなさい。いいわね?』
「それは…」
ジュドーは妹の方へ視線を落とす。確かに、リィナを巻き込む必要はない。
「私も行きます」
だが、当のリィナが毅然とそういった。
『リィナ!』
「おい、リィナ…?」
「私も行きます。お兄ちゃん、いいでしょう?」
リィナが、まっすぐな目でジュドーを見据える。妹のこういう覚悟の座ったところが、ジュドーは好きだった。
「よし、わかった。お前のことは何があっても俺が守ってやる!」
『ちょっと、ジュドー!』
「俺とリィナは今まで通りやるだけさ。母さんもそうするといい。じゃあな」
ジュドーはそういうと、一方的に回線を切った。
「おいジュドー、さすがにそれはまずいだろう」
ブライトはそういったが、今、再度回線を開こうとは思えなかった。
「何いってんの艦長、このまま続けたって平行線ってやつさ」
「そりゃあそうかもしれんが…とにかく、お前たちは本当にいいんだな?」
「俺とリィナはいいけどさ」
ジュドーはそういって、エルとイーノのほうを見る。
「ねえねジュドー、私のことも守ってくれる?」
エルが、ジュドーの腕を掴んでくる。
「当たり前だろ」
「よし!じゃあ私も残るよ。ビーチャとモンドのことも気になるし…」
それを聞いてイーノが頷く。
「そうそれ。さすがにさっきはいえなかったけど、ビーチャとモンドは僕たちで探さないとね」
友達思いなのは結構なことだが…やはり彼らはまだ子供だ。それでも、冷静に徹すれば、今これ以上の戦力になる人材はいないという判断になる。ブライトは溜息をつき、
「すまんな…まさか補充パイロットが行方不明になるとは…」
子供たちに詫びた。これもまた、母親たちには到底いえないことだった。ラビアンローズに入ってすぐ知らされたこの情報に最も取り乱したのはブライト自身だったかもしれない。子供たちは「だったら俺たちがやればいいじゃないか」と随分軽く受け入れていた。
確かにそういってくれるのは軍人としてはありがたい。だが、自分たち大人がこの半ば選択肢の無い選択を与えてしまったのではないかという思いもある。結果的に自分たちの都合が、この子供たちの人生を大きく変えてしまうことになるのではないかと思うと、ブライトはやりきれなかった。
「艦長が謝ることはないですし、そんなことをいってもしょうがないですよ。それよりアクシズの連中が6時間の戦闘停止なんて守ってくれる保証はないんですから、早く新しいMSの受領をしておかないと」
ルーが冷静に、割り込んできた。確かにその通りなのだ。
「ああ…そう、そうだな。エマリー艦長代理、案内を頼めるか?」
「もちろんですブライト艦長!では、こちらへ!」
何故か嬉々とした様子のエマリーの後に、ブライトと子供たちが続く。
「俺は引き続きゼータ、ルー…さんがその新型のパイロットってことでいいんだよね?」
ジュドーの言葉にブライトは頷く。
「私が乗ってたあの戦闘機が新型機の一部って本当なんですか?」
「ええ、コクピットブロックになるの。まあ他にも色々と運用方法がある機体だから、パイロットは多いに越したことは無かったんだけど…」
ルーとエマリーの会話を聞きながら全員でエレベータに乗る。一度に7人が乗りこむと、さすがに狭い。特に、前にいるエマリーとはかなり近くなっていた。うなじの辺りからふわりと、よい香りが漂ってくる。ブライトは少し頭を振った。
「ルー、正規の教育を受けているパイロットは君だけだ。すまんがジュドーのフォローを頼む」
「新型機に乗ってそんなに器用に立ち回れるかわかりませんけど…善処いたしまーす」
ルーのおどけた調子に乗じたのか、エマリーが振り返って微笑んでくる。不意を突かれて咄嗟に微笑みを返して…ブライトは、少し気分が楽になるのを感じた。
「あなたがゼータガンダムのパイロット?」
パイロットスーツに着替えてラビアンローズのMSデッキに入るや否や、丸眼鏡の「少女」といっても差し支えの無い女性メカニックに、ジュドーは声をかけられた。既にアーガマのクルーがあちこちにいたので、彼らから聞いたのだろう。
「ああ、そうだけど…」
MSハンガーで斜めに横たわっているゼータガンダムは、よく見ると所々が煤けていた。
「ふーん…随分派手にやってくれたわね。ゼータは外装と操縦系を含めてオーバーホール
に近い修理が必要よ。とても出撃出来る状態じゃないわ」
「え…?」
「ちょっとミリィ、あなた皆さんにご挨拶したの?」
ゼータの状態を聞いて固まってしまったジュドーを押しのけて、エマリーがミリィの前に出る。
「ああ、初めまして。私ミリィ・チルダー。アナハイムのメカニックです。ちょうどよかったエマリー艦長代理、シータの…、ダブルゼータのパイロットたちはまだ来ないんですか?」
「え?ええ…実は…」
「当分来る見込みはない。彼らが代わりのパイロット候補だ」
言い淀むエマリーに代わってブライトがそう答えて、ジュドーらに手をかざした。
「そうですか。では皆さんこちらへ」
「皆さんって…新型は多人数で動かすんですか?」
どうみても民間人の自分たちをあっさりと受け入れたミリィに、慌ててイーノが声を上げる。
「MS形態では一人ですが、3機に分かれての運用が可能です。控えのメンバーも必要ですから、パイロットは多いに越したことはありません」
先程のエマリーと同じことを言われた子供たちは、顔を見合わせる。その時、少し離れた
所にいたルーが、
「あら、あれって…百式じゃないの?」
金色のMSを指さした。
「あれは確かに百式…いや、少し形が違うようだが…?」
「ああ、あれは、量産型百式改です。百式改の量産型という立ち位置ですが、実際には大半がオリジナルの百式と同じ部品で出来ています。ちょうど百式2号機の改修が間に合ったので回してもらいました。クセのあるスラスターバインダーを外して固定武装を増やしているので、扱いやすい機体に仕上がっていますよ」
ブライトの疑問にすかさずエマリーがスラスラと早口で答える。
「ほう、エマリー艦長代理は随分とお詳しいんですね」
「え!?あ、やだ、お恥ずかしい…私ってば余計なことまでべらべらと…」
「いえ、そんなことはありませんよ。熱意をもって仕事に接するのは素晴らしいことです」
「ほ、本当ですか!?ブライト艦長!あの、私、昔からMSが好きでハイスクールの時に職業体験でアナハイムに行ったんです。その時にプレゼンしてもらったMS開発担当のメンバーがみんなきれいなお姉様方で、特にラビアンローズにいた先輩がとってもかっこよくって…!だから私、ここにはすごく思い入れがあるんです!」
「そ、そうですか。なるほど、憧れの職場、というわけですね…」
話が止まらなくなってきたエマリーに付き合う形で、二人が離れていく。
「ねえねえあの二人さ、なーんか怪しくない?」
エルが思いもかけないことを言って来た。
「何言ってんだよ。ブライト艦長は地球に奥さんと子供がいるんだぞ?有名だろ、ホワイトベースのクルー同士で結婚したってさ」
「チッチッチ、ジュドーもわかってないわねえ。艦長もやもめ暮らしが長いんだから、一緒にいるうちにクラっときちゃうなんて、よくあることよ?」
「お前…すごいこというんだな…」
「ちょっとお兄ちゃん、ミリィさん行っちゃったよ!」
あの丸眼鏡はあくまでマイペースらしい。二人の世界に入ってしまった大人二人を置いて、子供たちはミリィを追いかけた。
親の存在を感じさせない不良少年たちの物語、というのが「ZZらしさ」なのかもしれませんが、後から考えてみるとこれが結局「ガンダムらしさ」を削いでいる一因なのではないかと思うんですよね。
ジュドーがちょくちょく口にする「だから大人ってやつは!」というセリフは当時流行っていた尾崎豊の反抗精神が表れているものだと思いますが、そもそも最も身近な大人である親への不信に端を発するものだとも考えられます
ただ、自分の子供を喜んで戦争に出すような親はいないわけで、ジュドー達の親も、確かに普段は子供たちを放ってはいるが、決して子供たちのことを考えていないわけではない…というのを入れたかったんです。
前回からサラッと出ているエマリーさん、わかる方はわかるかと思いますが、0083のアナハイムギャルの直系、ということにしてみました。