エンドラのエアロックというエアロックの周辺で、殺伐とした光景が広がっていた。
我先に、と救命艇のイスを奪い合う兵士たちが生み出す喧騒は、子供の目からみても見苦しいものだった。
「何がアクシズの騎士だ。結局自分の命がかかったらこのザマじゃないか!」
ビーチャが吐き捨てるようにいうと、
「ガハハハ!そりゃあお前、誰だって死にたくはないんだ。そんな時にまで誇りだ何だとぬるいことはいってられん。それより俺たちも急ぐぞ」
「何が俺たち、だよオッサン!大方子供がいりゃ優先的に助けてもらえるとでも思ってるんだろう!」
そこで、ゲモンがピタリと止まる。そして、
「当たり前だろうが。生きていくためにはなりふり構ってらんねえんだ…とは思ったがな。こりゃあバラバラに探した方がいいかもしれねえ。お前らも勝手に載せてくれる船を探せ」
ごく自然にそう言って、再び歩き始めた。残念ながら、これは確かにゲモンのいう通りだ。今は利用できるものは何でも利用して、とにかく、生き延びなければならない。ビーチャとモンドは、ゲモンとはまた別の船に向かって走り出した。
「ちょっと、俺たちも乗せてくれよ!」
「何だ!?子供か!?」
「そうだよ。あんたたちの都合でシャングリラから連れてこられたんだ。乗せてくれよ!」
「そんなこといわれてもな…正規のクルーもまだ全部収容しきれていないし…」
アクシズの下士官は、そういって手元の端末を操作している。名簿か何かを確認しているようだが、ここで引き下がるわけにはいかない。
「俺たちゃ一般市民だぞ!」
「そうだそうだ、これで乗りそびれたら大問題になるぞ!」
文字通り必死で食い下がる二人の後ろから。声が掛かる。
「おい、こいつらは途中で収容した民間人だろう。しかも子供じゃないか。何とでもなるだろうが。さっさと乗せてやれ」
声の方を振り返ると、あの3人の軍人の姿があった。こんな短時間に一体どうやって手に入れたのか、3人共にアクシズの士官服を当然のように着ていた。
「はっ…了解です」
下士官がそういって端末への打ち込みを開始したところで、
「あ、あの、ありがとうございます」
ビーチャがそういうと、
「おう、お前たちも気をつけてな」
リーダー格の男がそういうのと同時に、後ろの2人もニヤッと笑う。
「そこの二人、入ってすぐのところにノーマルスーツがある。着替えてこの座席に向かえ」
「お、了解!」
「助かった…」
もう一度軍人たちの方を振り返ると、そこにはもう3人の姿はない。2人は頷き合ってからすぐに救命艇に乗り込んだ。指示通りノーマルスーツに着替えて座席に向かったが、すでに船内は一杯で座るどころではない。押し合いながら船窓に近い位置を確保したところで、救命艇は動き始めた。
「ビーチャ、あれ!」
「エンドラ…結構やられてたんだな…」
エンドラが見えるところまで来ると、左舷エンジンが火を噴いているのがわかる。あれでは確かに航行を続けるのは不可能だろう…などと思ったその時、青白い光がエンドラを包む。救命艇の中は大騒ぎになった。
「何だ、あれは!?」
「おい、もっとよく見せろ!」
ビーチャとモンドは兵士たちに押されながらノーマルスーツのバイザーを窓に押し付けて食い入るようにエンドラを見る。青白い光の中でその艦影は溶けるように歪み、爆ぜて、消えた。
「ああっ!エンドラが…!!」
兵士たちから上がっていた怒号にも似た悲鳴は、母艦の残骸を目の当たりにしてからすすり泣きへと変わって行く。すっかり消沈した空気は、しっかりとビーチャとモンドにも伝染していく。
「自分の艦を失うって…キッツいな…」
「家を無くしたようなもんだもんね…」
ただ、悲しいというだけではない。精神的な支柱を失った喪失感と惨めな敗北感…兵士たちの心情は、わずかに時間を共にしていただけのビーチャとモンドでさえ、察するに余りあった。こんなのはもう二度ごめんだ…ビーチャは奥歯をかみしめながらそう思った。
宇宙漂流も二度目となれば心得たもの…であるわけがない。グレミーは突然母艦の、エンドラの反応が消えてしまったことにただ、狼狽した。
「距離が空いたと思ったら消えてしまうなんて…!そんな、神は僕を見放したのか!」
実際には近くにランドラがおり、キャラとゴットンとのやりとりでグレミーのズサの位置はきっちりと友軍が把握しているのだが、エンドラ撃沈の報を受けたランドラでは脱出者引き受けのため当分は放っておいても問題の無い、救助優先順位の低い漂流者に構っている場合ではなかったのだ。もちろん、ランドラに気づかないグレミーの方向感覚にも問題はあるのだが…。
「どうしよう…まさかまたこんなことになるなんて…」
とにかく、エンドラの反応が消えた方へ行ってみようと機体を泳がせる。少ない燃料でも慣性を利用すれば何とか進めないことはない…あの時奪われたガザCの動きを思い出しながら、スラスター噴射は最小限にしてズサの短い手足をバタつかせながらゆっくりと進んでいると、前方へ突き出していたマニピュレータに異物の反応が出た。
「うん?おかしな反応だな…」
何か、妙な気配を感じ取ったグレミーはモニタを拡大すると、
「なっ!?人か!?」
慌ててゆっくりと逆噴射でブレーキをかけてからコクピットを開け、背中にブースターを装着して外へ出る。ズサの指に引っかかっていたのはシートのようなもので、そこには確かに、人の姿があった。そしてそれは思ったより小さい。子供だろうか。
「何ということだ…!!おい、大丈夫か!!」
相手のノーマルスーツにヘルメットを接触させて直接呼びかけると、
「お兄…ちゃん…?」
大きな瞳を瞬かせて、バイザーの向こうの少女はそういった。
「何と…可憐な…」
この一瞬で、グレミーはルーとはまた違う意味で、この少女に魅入られた。
「ほんとにエンドラ沈めちゃったよ…何て威力…!」
ジュドーは、エンドラの残骸が漂う前方の光景に少し恐怖を覚えた。機体はまだオーバーヒート中で、各種センサーも最低限の表示になっているため射程範囲内にあった宙域の全容はわからないが、MS単体の火力としては常識を覆すほどの一撃であったことは確認するまでもなかった。
「けど…このパワーが無いとアーガマとラビアンローズは守れなかったんだから…すごいMSですよ、こいつは…!」
ジュドーはバイザーを上げてパイロットシートに全身を預け、一息つく。あまりにも色々なことがあったが、これでようやく落ち着けるだろう。いろいろと考えなければいけないことはあるような気がするが、今は少し休みたい。そこへ、エルからの通信が入る。
『ジュドー、聞こえる?!』
「ああ、エルか。無事だったんだな」
気怠げにそう答えたが、モニタの向こうのエルは、切羽詰まった様子でかぶりを振る。
『ジュドーごめん、大変なの、リィナが、リィナが…!』
その尋常では無い様子に、ジュドーは反射的にシートから身体を起こした。
『こちらアーガマ、トーレスだ。ジュドー、よくやった!周辺にアクシズ機の反応は無しだ。帰艦してくれ!』
迎えのアーガマが発光信号を出しながらゆっくりと近づいて来る。
少年たちの旅路は、まだ始まったばかりだ。
1部はここまでです。ご覧いただいている皆様、ありがとうございます。
好き勝手に自分の読みたいものを書く…というスタンスで書いてはおりますが、それでも閲覧数が伸びたり色々と反応をいただけるというのは嬉しいものですね。
カミーユやあの人やあの人も出しながらきちんと最後まで走る予定でおりますので、引き続きよろしくお願いします。