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何とか自力航行の目途がついたランドラの艦内では、旧エンドラクルーたちが一機の小型艇の周りに集まっていた。
「よろしいのですか、マシュマー様…彼らにきちんと別れを告げなくて…」
コクピットのグレミーがそういうと、後部座席のマシュマーは小さく頷いた。
「今更あの者たちにどんな顔を向けられるというのだ…。敗軍の将は兵を語らず…だ。それより、そこな少女は一体なんだ?」
グレミーの横には、およそ軍用機には似つかわしくない少女の姿があった。半ば眠っているかのような、虚ろな表情をしている。
「ああ、漂流者を保護したのですが、戦闘に巻き込まれてかなり怖い目にあったようで、まともにしゃべれないのです。一旦静養させた上で身元が分かり次第帰してやろうと思っています」
「民間人か…うむ、しっかり休ませてやるといい」
本心からマシュマーはそういったが、グレミーが妙に饒舌であったことは気になった。予め用意していた答えをそのまま口にしたような、そんな風に感じられたのだ。
「はい、そのように考えております。それで、マシュマー様の処遇についてですが…」
「フ…まさかお前が軍監であったとはな」
「わ、私もまさか、自分の報告書がそんなことに使われているとは知りませんでした!本当ですよ…?」
マシュマーは小さく笑う。
「ああ、信じよう」
「ありがとうございます。しかし、その…エンドラを沈められてしまった以上は…」
「わかっている。私の責任は重い。どこへなりとも連れて行き煮るなり焼くなりするがいい」
「モウサに帰るだけですよ…。マシュマー様は先遣隊としての役割は十分に果たされています。こちらの試作機のデータは十分に取りましたし、エゥーゴの新型機の情報もとれましたし…」
「もういい、さっさと出せ」
「はっ…」
グレミーがゆっくりと小型艇を動かし始めると、取り囲む兵たちもまたついて来る。エアロックが開き、カタパルトに着いてからもまだ、多くの兵が船窓からこちらを見ているのが分かった。マシュマーは目を閉じて天を仰ぐ。エンドラという艦のこと、彼らのことは決して忘れない。そしていつの日か必ず、あの仲間たちと勝利の栄光を共に手にするまで、自分は戦い続ける…そう心に誓った。
見送りの兵員の中には、ビーチャとモンドの姿もあった。
「なあ、ビーチャ。あのグレミーってやつの隣にいるの、リィナに似てないか…?」
「ああ?んなわけないだろ。お前も聞いただろ?あのグレミーってのは相当のお坊ちゃん
で、実はエンドラの様子を上にチクってたってさ。きっと彼女連れで来てたんだろ」
「そうかなあ…まあ顔しか見えないからなあ…」
モンドはビーチャの言葉にイマイチ合点がいかなかったが、この距離で何となく見える顔だけでは確かに決め手に欠ける。
「まあお前は目がいいからな。もしかしたらってこともあるかもしれないけど…でもよく考えてみろよ。何でリィナがこんなところにいるんだよ」
「そうだよね…そりゃあそうなんだけど…。ところでビーチャ、あの人たち、どうなったんだろう?」
「あの人たちっていうと…あの?」
ビーチャが小声になり、
「そう、あの軍人さんたちさ」
モンドも応じて小声になる。
「わからんけど、あの人たちのことだ。きっと上手いこと立ち回ってるんだろうよ」
「そうだよね。そうだといいな…で、俺たちはこれからどうする?」
「どうするかな…パイロットが足りないから希望者にMSの操縦を教えるとかいってたから…それにでも行ってみるか?」
「いいね。ジオン系の機体って興味あるんだよね」
「お前、何だかんだで俺よりたくましいよな…」
「そんなことないよ。とにかくシャングリラには帰れそうもないんだからさ、いろいろ自分たちで何とかしなくちゃね」
「おお、そうだな」
なかなか大変な目にも遭ってはいるが、へこたれている暇はない。二人が決意を新たにしたそこへ、
「おーう、小僧共、無事だったか!」
必要以上の大声を発しながら、ゲモン・バジャックが現れた。
「ゲ、またあんか…!」
「はは、あんたも無事だったみたいね…」
「おう、お前らも無事で何よりだ。あの将校の見送りとは随分律儀じゃねえか」
そういってゲモンは二人の肩に両腕を回してきたので、モンドはギョッとした。何という馴れ馴れしさだろう。この人は自分たちをぶっ飛ばした上にクスリを含ませて拉致したことを忘れたのだろうか。
「まあ、あのマシュマーって人は別に俺たちに何かしたわけでもないし…それに人が多いところなら情報も入って来るんじゃないかと思ってさ」
ビーチャの言葉にゲモンは何度も頷いた。
「ガハハハ!やっぱりお前らは俺が見込んだ通りのガキ共だぜ。シャングリラ魂を持つ者同士、仲良くやっていこうじゃねえか!」
そういってまた高笑いするこの大男の腕の下で、
「ま、こんなんでも大人の協力者ってのはいた方がいいからな…」
「そうだね…」
ビーチャとモンドは苦笑するしかなかった。
「やれやれ、男どものむさ苦しい涙なんてのは見てらんないね」
キャラがさもうっとおしい、というような口調でそういったが、ブリッジメンバーと共にしっかりとマシュマーの小型艇をモニタリングして見送る辺り、口調ほどには彼らのことを悪く思っていないのだろう。ゴットンはそんなことを思った。
「おいゴットン!」
「はいぃっ!」
そこへ唐突に声がかかるのだから、恐ろしい。反射的に返事をして、ゴットンはビクリと背筋を伸ばした。キャラがゆっくりと近づいて来る。
「エンドラのクルーは一旦私の指揮下に入れて引き続きアーガマを追撃しろという上からのお達しだ。とりまとめはお前に任せる。いいな?」
「ありがとうございます。我ら一同、ランドラに拾っていただいた恩は忘れません。しかし…水と食料がかなり厳しいのでは…?」
その問いかけにキャラは、「猫目のキャラ」と仇名される通りの吊り上がった目を光らせた。
「そうだゴットン。戦争なんてものは戦線を維持するだけでバカみたいに水も食料も消えていく」
そういってキャラは手にしたタクトで、ゴットンの腹をつつく。
「追撃しろといわれても目標のアーガマはロストしている。連中を見つけるのにこの先どれくらい時間がかかるかわからない。エンドラメンバーに飲み食いするなとはいわないが、自分たちの飲み水くらいは…氷の塊くらいは探して来てもらいたいな」
今や排泄物から飲み水を精製するばかりか、宇宙放射線すら除去可能な循環・浄化システムが大型艦には備え付けられている時代ではあるが、使用者が大幅に増えるとなればその維持は厳しいものがある。
「なるほど、了解しました。エンドラメンバー総がかりで目を皿にして周辺宙域の探索にあたります!」
「ついでにMSの訓練もしておけ」
「はっ!」
キャラの言い方は厳しいようで、エンドラメンバーに肩身の狭い思いをしないように、という配慮にもとれた。一部始終を聞いていたであろうブリッジクルーの面々が、こちらを向いて頷き、笑顔を見せたところからも、そういうことなのだろうと判断出来る。キャラとマシュマーは共にハマーン麾下で、その下にいる者たちも似たような境遇で育った知己のある面々が多く、同族意識が強い。ゴットンは彼らへも一礼しつつブリッジを後にした。
ダブルゼータでエンドラを沈めてから、つまりリィナが行方知れずになってから十日余り、ジュドーはアーガマ内で厳しい監禁状態にあった。
「ねえ、だからもう勝手に脱走なんてしないっていってるじゃない。ここから出してよ」
「あれだけの騒ぎを起こされた後にそういわれてもすぐには信じられないからな。本当なら軍事裁判にかけられてもおかしくないんだぞ?ブライト艦長に感謝して、当分はそこで大人しくしてろ」
食事を持って来た通信士のキースロンにそういわれて、ジュドーは独房の床に身体を投げ出した。
「さっさと食えよ。俺が戻れないだろ」
「あのさ、頼むから食う時くらい一人にさせてくれない?」
「だめだ。食事は見張ってろって指示だからな」
「お堅いなあキースロンさんは…あ、それでエルのやつはどうしてる?」
リィナがいなくなってすぐ、アーガマではコアファイター、エル機の航跡を辿り、そこからどのようにサブシートが飛び出てどこへ飛んで行ったか、何パターンものシミュレート結果を出して、ジュドーたちはそれに基づいて捜索を行った。だが、結局発見には至らず、その後にジュドーがダブルゼータを勝手に使って捜索を続けようとしたため大騒ぎになったのだ。妹がいなくなった…それは、信じがたいほどの衝撃と苦痛を伴うものだった。母親にリィナは俺が守ると見得を切った手前もあるが、最初の数日間は自分がとても普通の状態ではなかったと、少し冷静になれた今ならわかる。
そして、そうなると自分と同じくらいショックを受けている者がいることに気が付いた。エルだ。リィナを乗せてコアファイターを操縦していたエルは大きなショックを受けていて、普段の様子からは考えられない程に落ち込んでしまっていた。
「ああ、まだふさぎ込んでるな…」
「そっか…」
ジュドーが少し冷静になれたのには理由がある。あの感覚が、リィナの存在を告げているのだ。もちろん、宇宙に放り出された人間がそう都合よく見つかることがないことはわかっている。だが、それでも、どこかでリィナは生きている…そう、思えるようになった。だから、エルにはあまり気にするなと言ってはいたのだが…エルの立場ではそういわれても難しいのだろう。
「お前たちの気持ちはわからなくもないけど、アーガマもアクシズの連中をまかなきゃいけないし、これ以上は時間を割けないんだ。悪いな…」
アーガマのクルーたちは、このキースロン同様ジュドーたちに同情的ではあったが、軍艦である以上戦闘中にパイロットやクルーが行方不明になるのは起こり得る事で、それは事務的に処理されなければ前に進めない。
「わかってるよ…わかりたくないけどな…」
ジュドーはそういって、仕方なく目の前のフォークに手を伸ばした。
2部に入ったということもあり、章管理の機能を使ってみました。
目次が少し見やすくなったかな?
前にも触れたかもしれませんが、アニメ本編を見返すと前半のビーチャとモンドは憎まれ役というか、かなり不愉快な奴らになっていますよね。導入部で引っ掛かっているので正直この二人は最後まで嫌い、というかどうでもいい存在でした。
それではかわいそうかな、と思っているのでこの二人には色々経験させて成長を促しております(笑)。