「なるほど、大体の構造はわかったが…こりゃあ回路があちこちやられてそうだな」
スキャンした図面と、ミリィがデータバンクから引っ張って来た過去のキャトルの機体データを見比べながらアストナージがそういうと、モンドとミリィが頷く。
「はい。コロニー内とはいえ、長い間野ざらしだったわけですから…配線交換が必要な箇所は結構ありそうですね」
「うん、でも電源は通りそうだし、駆動系は大丈夫みたいだから意外とすぐに動くんじゃないかな?」
3人で頭を突き合わせながら意見を交換していると、これが実に楽しい。それにアストナージやミリィはさすがに専門職だけあって聞けば自分の知らないことを何でも教えてくれる。これは、モンドにとって新鮮な喜びだった。
ここへ来た全員が、一旦キャトルの頭部にあたる場所に集まっていた。おそらく複数人で機体を動かすことが可能なように設計されたコントロールルームのような場所なのだろう。
その適度な広さと見晴らしの良さから、時折光族が儀式で使っているとのことで、サラサやラサラには馴染みの場所らしい。
「それじゃ手分けして行こう。俺とメカニックチームは配線のクサイ所をあたる。ミリィさんには一人つけるから駆動系のチェックを頼む。モンドはその起動のためのキーを調べてくれ」
アストナージの指示の後、ブライトが続ける。
「よし、ムーンムーンの方々からはそのアーガマに迫る危機、という話を詳しく聴きたい。こちらでもう少し話をお願いします。それからビーチャ、モンド、お前たちも今いるアクシズの連中のことで知っていることを話してもらうぞ。イーノ、エルはコアトップ、コアベースで待機だ。各自持ち場についてくれ」
指示を受けて全員が動き出す中、
「あの、俺は…」
ゲモンが消え入りそうな声でそういう。
「あなたにはジャンク屋ということで来てもらっています。メカニックと一緒にパーツの交換に立ち会って下さい」
「わかった!」
ゲモンはそれを聞くと嬉しそうに走っていく。
「ええと、モンド君ね。自己紹介が遅れました。初めまして。アナハイムのミリィ・チルダーです。よろしく」
「あ、はい。モンド・アガケです。こちらこそよろしく」
そう言って握手を交わしているのを、横からラサラに見られている。
「ふうん、やっぱり同じ趣味の方がいいんですかね、モンドさん?」
「いやいや、そういうことじゃなくてさ…あ、そうだ。ルフォイの星、また借りるよ」
「はい、どうぞ」
そういって首を突き出すラサラから、モンドはそっとネックレスを外す。
「あらあ、やるわねえ。モンド君?私ラビアンローズの艦長代理でエマリーっていうの、よろしくね」
「ああ、はい、どうも…」
「モンドさん!鍵を調べるんでしょ!」
「フフフ…ラサラ、悋気は男を遠ざけるわよ…」
「もう、姉様は黙っていて下さい!」
モンドはまさかこんなに女性から声をかけられる日が来ようとは思ってもいなかった。もちろん悪い気はしないが…いざそんな立場に置かれると案外いたたまれないものだな、と思う。ラサラがいればそれでいいと思う…それが自分という人間のようだ。
ジュドーはコアファイターに被せていたシートを取り払い、コクピットに滑り込む。
遮るような高層建築が無いので、ここからでも量産型百式改とガザDが交戦している様子がよく見えた。数的不利もあり、かなり押されている。
「ルー、頑張ってくれよ…!」
コアファイターを垂直に離陸させると同時に回線を開き、
「エル、イーノ、聞こえるか?こちらジュドー、ルーの百式がアクシズのMSと戦ってる!急いでこっちに来てくれ!」
そういったのだが返事がない。
「何だよあいつら…何やってんだよ、もう!」
とりあえず加速をかけてルーのところに向かう。一応、アクシズの連中も村を巻き込むのはまずいとは思っているのだろう。4機のMSは村から遠ざかるようにして移動していき、その距離に比例して火力の強い武器を使うようになっている。ジュドーはおよそ敵味方の位置関係を把握した上で、戦闘機の小回りと速度を活かして木々に紛れるような低空からガザDの背後に回り込んだ。
「そこだ!」
一気に上昇して、すれ違いざまにモノアイへ機銃を撃ちかける。モノアイはガザDのメインカメラだ。突然視覚を奪われたそのガザDは、たたらを踏んでその場に倒れる。
『やるじゃない、ジュドー!助かった!』
「へへん、コアファイターだって攪乱くらいは出来るのよね!」
ジュドーはそのままコアファイターを上昇させてコロニーのミラー光を利用して姿を眩ませる。この辺りはコロニー育ちの勘だ。一瞬姿が見えなくなったコアファイターを警戒したもう一機のガザDの注意が散漫になったところを、ルーが見逃さない。ビームライフルを放って主砲であるナックルバスターを上手く破壊した。
「ナイス、ルー!」
『ええ、どうも…けど、コロニーの中でMSを爆発させるわけにはいかないから難しいわね…とにかくジュドー、早いとこダブルゼータになってもらわないと!』
「わかってるんだけどさ…!」
と答えたところで、
『ごめんジュドー、連絡もらってた!?』
イーノからの通信が入った。
「イーノか!アクシズの連中と戦ってるんだ!早く来てくれ!」
『わかった!エル、そっちはどう?』
『大丈夫!すぐ行くからね、ジュドー!』
コアベースの起動音と共に、エルの声が入って来る。
「ああ、頼むぜ!」
といったところでRジャジャがビームライフルを連射してきた。
「そんな出力で撃つとコロニーに穴が空くぞ!」
敵パイロットの悪態を突きながら、それを何とか避け続ける。それにしてもパイロットスーツなしでの操縦というのはかなりキツイ、ということが良く分かった。身体に伝わる衝撃やGが強く、参考にしたい情報を取り入れるのも難しい。
「くそ、このままじゃそう持たないぞ…」
ボソリと呟いたところで、モノアイを破壊したガザDが起き上がって来た。サブカメラへの切り替えが出来たのだろう。これは、まずい。
『ジュドー、一旦百式の後ろに退がって!』
「わかった!」
奇襲のタイミングが去った以上、一発当たればお終いのコアファイターを前に出すのは上手い運用とはいえない。百式のサポートに回るしかないが、これではジリ貧だろう。
だが、逆転の目はある。
「キャトルの方向があっちだから…よし、ルー、こっち側に回り込んでくれ。上手くいけば挟み撃ちにできる!」
ジュドーはルーに位置データを送信する。
『なるほど、了解よ!』
百式とコアファイターは少しずつ、角度をずらしながら応戦していく。
我慢の時間はそう長くはなかった。思惑通り、敵機の後ろからコアトップとコアベースの機影が見えた時、ジュドーは思わず小さくガッツポーズをとっていた。
モノアイをやられた方のガザDがまた、後ろから奇襲を受けた。だが今度は何とか装甲の厚いバインダーで受けることが出来たため、それほどの損傷はないようだ。
「何だ、また戦闘機!?」
モニタには小型の敵軍マーカーが2つ、現れていた。
『キャラ様、あれです。データにあった新型です!』
「何!?じゃあ、あれがエンドラをやったMSなのか…?そうは見えないけど…」
『あれが合体するってんです!』
両側についたガザDから交互に通信が入る。
「そうか、そうだった。よし、合体なんてふざけたマネをさせるんじゃないよ!金色は後回しだ。あの戦闘機から潰すぞ!援護しろ!」
『了解』という声が両側から聞こえると同時に、キャラはRジャジャをジャンプさせた。なるほど、そういわれれば確かに3機の戦闘機が合体のためだろう、こちらと距離を取ろうとしているのがわかる。
「させないよ!」
3機の進路上に置いておくようにビームライフルを放って牽制していると百式が迫って来たが、2機のガザDが回り込んできてRジャジャの側面を守る。百式の相手はガザDたちに任せ、キャラは戦闘機を追いかけた。
「一機だけでも潰せれば合体はできないんだろう…!」
こうなるとキャラはしつこい。あの蚊トンボのような戦闘機どもを何とかして墜としてやろうとビームライフルを撃ち、飛んでビームサーベルを振るう。さすがに敵も必死らしく撃墜、とまではいかないものの、こう執拗に追撃されたのではさすがに合体は出来ないと見える。コロニーの限られた空では逃げ切ることは難しいはずで、いずれ獲物は息切れをおこすはずだ。キャラは、狩りに夢中になっていた。
それで、そのツタが絡まった巨大な影の接近には全く気が付かなかった。空中にいたRジャジャはその巨大な影から出てきた複数の腕によって羽虫のように叩き落され、森の中を転がって大木に激突した。上空を捉えたままのモニタ上で3機の戦闘機が合体していくのを朦朧と見つめながら、一体自分の身に何が起こったのか理解することも出来ずに、キャラは失神した。
ヒヤヒヤの連続だったが、何とかダブルゼータに合体して着地したところで、ジュドーは改めてその巨大な、異形の協力者を仰ぎ見た。
「これが…伝説の巨神…なのか?」
と呟くと、
『そうだよジュドー。伝説の巨神、キャトルのパワー、大したもんだろう?』
聞き覚えのある声から応答があった。
「それに乗ってるの、もしかしてモンドか!?」
『大当たり!まあ他にも沢山乗ってるけどね』
「沢山…?まあいいや、とにかくルーを、あの金色を助けないといけないんだ!協力してくれ!」
『任せとけって!行っくぞお!』
一体どういう構造になっているのかジュドーには見当もつかなかったが、キャトルはその巨体の割に敏速で、滑るように移動しながら上下に展開している4本のアームを広げてガザDに襲い掛かっていった。
あんなのに迫られたら嫌だな、とジュドーは思ったが、それはガザDのパイロットたちも同じだったらしく、慌てて間合いを取ろうとしたのか、単に逃げようとしたのかはわからないが、とにかくキャトルから離れようとしたところを2機揃ってアームに捕えられた。ジュドーも意外に思ったほどそのアームは長かったので、逃げ切れなかったのだろう。
『脱出して下さい。機体を潰します』
という少女の声が大音量で響くと、すぐに腹部のコクピットが開いてパイロットたちが飛び降りた。走って逃げて行くパイロットたちの頭上で彼らの機体は腰の辺りから握り潰され、上半身と下半身がボトボトと地面に落ちてその残骸をさらす。
「うわぁ…なかなかエグいパワーじゃないの…」
『ジュドー、赤いのはあっちだよ!』
『森の中で倒れてる!』
コアファイターに分離していたエルとイーノからの声で、ジュドーは我に返る。
「おっと、そうだった。折角合体したのに出番無しじゃあしまらないからな!」
そういってコアファイターに誘導された先で、自分たちを散々追い回してくれた赤いMSを発見する。大木を背にしてグッタリ倒れている様は何とも情けなかった。
「ありゃ、パイロットは気絶でもしてるのか…?」
ダブルゼータは右手でビームサーベルを抜いてそれをRジャジャの腹部の前に構え、
「おいパイロット、聞こえるか!コクピットを潰すぞ!さっさと起きろ!」
そう呼び掛けた。反応を待っているとコクピットが跳ね上がり、中からあの派手な女が飛び出てきた。ダブルゼータの左手の平をその前に持っていくと、女はそこへ飛び移る。
「さーて、ここからが難しいところなのよね…」
ジュドーはビームサーベルの出力を最小にしぼって、ゆっくりとRジャジャのコクピットに差し入れるようにして突き出し、それからビームを落とした。コクピットだけ貫ければそう大きな爆発は起こらないはずだが、ジュドーは念のため機体を上昇させる。ちょうど森が眼下に見えたところで、小さな爆発が起きてRジャジャが完全に崩れるのが見えた。
「よーし、上手くいったな!」
といったところで異物感知のアラートが鳴り、モニタに左手の拡大画像が表示される。人差し指に掴まった女が、何やらわめいていた。
聖殿での話しぶりやその後の暴れっぷりをみるとこのまま解放する、というのはちょっと考えられない。
「ま、一旦ブライト艦長に相談だな」
ジュドーは女が飛び出さないように気を付けながら、ゆっくりとダブルゼータを着地させた。
原作アニメではモンドが一人でキャトルを動くようにしてしまいますが、さすがにあんなガキがそこまで出来ないだろうということでアーガマクルーに助けてもらう形を取りました。
いずれにしてもモンド最大の見せ場、といったところでしょうか(笑)。