「ゴットン様、アーガマです!発見しました!」
大声で走って来るその兵の頭を、ゴットンは小突く。
「バカ、声が大きい!しかしまあよくやった。どこだ!」
その兵のいう方角へ双眼鏡を向けると、港をブロック毎に分ける隔壁がある。そしてその切れ目を注意深く見ると…確かに、その奥にアーガマの姿があった。
「住民の話通りだったか…まさかこんなに近いとはな…」
双眼鏡から目を離しながらゴットンがそういうと、兵も頷いた。
ゴットンは自らの献策通り、一旦ランドラに戻ってから旧エンドラクルーを連れてアーガマの捜索にあたっていた。港の位置を住民に確認するとそんな施設はいくつもあるわけではなさそうだということがわかり、ランドラの近くから調べていたらいきなり見つかったのだ。幸先がいい、といえるかもしれないが、アーガマの方も条件は同じだ。急がなければならない。ゴットンは速やかに全員に集合をかけた。
「揃ったな。あの隔壁の向こうにアーガマが確認できた。これから気づかれないように進みながら攻撃をしかけるぞ。できれば先に機関部辺りを潰しておきたいが…」
といったところで、大きな爆発音が響いた。アーガマとは逆…自分たちが来た方からだった。
「何でしょう、ランドラの方向からですが…」
そんなことはいわれなくてもわかっている。兵の一人が、指示する前にランドラの方向へ走って行き、すぐに帰って来る。
「奇襲です!ランドラ、機関部にダメージを受けた模様!」
「しまった、先手を打たれたか…!」
やはり考えることは同じであったらしい。こうなっては仕方がない。
「ええい!戻れ!全員ランドラに戻れ!アーガマの奇襲部隊を後ろから撃つぞ!」
そういって全員に転進指示を出し、兵たちが慌ただしく動き始める。だが、数名の兵士がその場で火器を構え始めた。
「おい、お前たち!何をやっている!」
「はっ、アーガマの増援が来ないとも限りません。我々は殿を務めます!」
確かに、それも一理ある。ここで後ろを突かれたら…と思うとゾッとした。
「わかった!すまんが任せる!」
そういいながらゴットン自身もランドラへ向かって走る。走りながら、さっきの兵たちはあまり見かけない顔だったな、とふと思った。
ランドラへ向かって駆けていく連中の背中に向けた銃の照準が、隣に立つ男の手の平で塞がれた。
「いいんですか、今ならもれなくやれますぜ?」
顔を上げてそういうと、
「止めておけ。そういうことをしていると本当に汚れ仕事しか回って来なくなる。出てくる前に仕掛けた爆弾が上手く爆発してくれた上に俺たちがこうもあっさり自由になれたんだ。それで充分だ」
隊長らしく、隊長がそう答えた。
「そりゃまあ、そうかもしれませんけどねえ…」
完全に銃を下ろしてそういうと、
「それに…あの程度の指揮官であればどの道あの部隊はそう長くはあるまい…」
隊長はそんな予言めいたことをぽつりといった。確かに、自分の手足となる人間の顔も把握していないようでは、戦場で長生きは出来ないだろう。
「で、どうするんです?上手いこと連中が見つけてくれましたし、アーガマに行きますか?」
「ああ、まあそうしたいところだが…」
「隊長、あのガキどものことが気になってるんでしょ?」
もう一人の仲間がそういうと、隊長は少し笑ったようだった。
「そりゃあ、な。まあアイツらは船外には出ている…アーガマの連中と合流出来ていると信じたいが…」
「その辺はあのガキどもの運次第ってやつでしょ。俺たちもこの運を活かさねえと」
「そうだな。とはいえ…この恰好のままではアーガマの連中に撃たれかねん」
「チームマックールとしてコールサインを入れておきましょう。既にMIA扱いにされているかもしれませんが…アーガマにMIAにされてしまっては適いませんからね」
そう軽口を叩くと、隊長はその強面にあまり似合わない笑みを浮かべた。
キャトルの前に、関係者たちが集まっていた。中心には後ろ手に縛られた若い女と、拘束こそされていないが周囲から厳しい目を向けられている老いた男の姿がある。
若い女、キャラの方は縛られたことに何故か興奮気味で、老いた男、光の教えの伝道師ロオルは、程よく破壊された聖殿の片付けを男たちと共に行っているところを連れて来られていた。その男たちはというとキャトルやMSを恐れているのか、一定の距離をとって数人が少し離れた所に立っている。
「さて…まずはアクシズのキャラ・スーンといったか。貴官は巡洋艦ランドラを任される責任ある立場でありながら軽率な行動でこのコロニーの建造物を破壊したばかりか住民を巻き込んでの戦闘行為に及びコロニーそのものも損壊させた…この事実に間違いはないな?」
ブライトが淡々とそう述べると、
「なんだ、裁判ごっこか?そうか!お前たち、こんな風に私を縛って…!捕虜にしてとても口では言えないようなことをするつもりなんだろう!」
キャラが息を荒げながらそんなことを言い出した。ブライトは眉間を押さえて溜め息をつく。
「あなた何をいっているんですか!ブライト艦長のような紳士がそんなことをするわけがないでしょう!」
エマリーがそういうと、
「そうだそうだ、アーガマにもラビアンローズにもあんたよりよっぽど若くてかわいい私らみたいのがいるんだから!オバハンに出番はないよ!」
エルも調子づき、何故かルーまで髪をかき上げてキャラを威圧している。ミリィは…無表情だ。
「はん、お前たちみたいなガキがもてはやされるようじゃエゥーゴにはろくな女がいないんだねえ」
キャラはそういって縛られたことでただでさえ強調されているその豊満な胸部を、揺らして見せた。
「キィー!何よこのおっぱいオバケ!」
「デカけりゃいいってもんじゃないのよ!」
「お前たち、いい加減に…」
低俗な内容になって来た上に話が進まない。ブライトがさすがに声を荒げようとしたその時、
「エル、ルー、もういいだろう!この人はアクシズの偉い人らしいから、色々聞けるチャンスなんだ!」
ジュドーがそういって割って入った。なるほど、リィナのことか、とわかってその場が鎮まる。
「ん…ジュドー、お前の話から先にするか?」
「いいの?ブライト艦長?」
「ああ、全員の気掛かりでもあるからな…」
ジュドーが頷き、キャラの正面にしゃがむ。
「キャラさん、あんたリィナって女の子を知らないか?俺の妹なんだけど、この間エンドラと戦った時以来、行方不明になってるんだ」
キャラが「リィナ…?」と小さく呟くのと、ビーチャとモンドが顔を合わせるのが同時だった。
「おい、ジュドー、リィナが行方不明って…」
「それ本当なの!?」
ビーチャとモンドがジュドーに詰め寄る。
「今いった通りだよ」
ジュドーがそう答えると、ビーチャとモンドはまた顔を合わせる。
「ビーチャ、それじゃやっぱりあの時の子は…!」
「ああ…!」
「何だ…?おい、何か知ってるのか、ビーチャ、モンド!」
今度は逆にビーチャとモンドがジュドーに食いつかれたが、二人はジュドーの腕をくぐって、キャラの方へ顔を出す。
「キャラさんよう、マシュマーさんがグレミーってのに連れていかれる時、隣に座ってた女の子のこと、知ってるか?」
「ほら、黒のショートカットで目の大きい…」
二人がそういうのに合わせて、ルーが先程村の人にも渡していたカード型の端末をキャラに差し出して見せた。
「ああ、この子か。確かにリィナ、とかグレミーのヤツがいってたな」
「何!本当か!」
ジュドーが大声で振り返り、今度はキャラの両肩を掴む。
「ああ、何だお前、あの子の兄貴なのか?名前は?」
「ジュドー、ジュドー・アーシタだ!」
「ああ、そうだそうだ。確かリィナ・アーシタとかいってたよ」
その言葉に、エゥーゴのメンバーから歓声が上がる。エルに至っては口元を押さえて泣き始めた。
「そうか、良かった…やっぱり生きてたんだな、リィナ…!」
「男の子が泣くなよ。ふん、まあでも良かったじゃないか」
「ああ、ありがとう。それで、リィナは今、どこにいるんだ?」
「どこってそりゃあ…本国だろうねえ…」
「本国?」
ジュドーとキャラが敵味方に分かれた者同士とは思えない会話を続けているのにやや危機感を覚えたブライトが、そこで割り込む。
「モウサ…だな?」
キャラが頷き、「モウサ?」とだけいってジュドーがこちらに顔を向けてくる。
「アクシズの中心とされている居住ブロックだ。ハマーン・カーンもそこにいると聞く」
「ふーん…リィナはモウサ、か…」
「さて、キャラ・スーン、先程貴官は自分を捕虜にする気か、といっていたが貴官の身の上は既に捕虜といっていい。こちらにとって色々と交渉の材料になってもらう手はあるが…」
「な、何だよ!、リィナの情報はあげたじゃないか…あ、そうだ、お前たちこんな所でのんきにしていていいのか!?」
「それは…どういう意味かな?」
「フフフ、どうしようかな、いっちゃおうかな…フフフ」
キャラが含んだような笑顔でこちらを眺め回すので、苛立ったと見えるジュドーがその額を中指で弾いた。
「いいから早くいえよ」
「痛いじゃないかジュドー!もう…じゃあ言っちゃうぞ!今頃うちの連中がアーガマを襲っているはずだ。フフフ、お前たちの帰るところが無くなるんだ。そうなったら、今度は私がお前たちをまとめて捕虜にしてやるんだからな!」
ジュドーがまた振り向いて来たので、ブライトはサラサの方を向いて頭を下げるような素振りをみせてから、
「ああ…残念だが逆の事態になっている。こちらの潜入部隊がランドラの機関部爆破に成功した、との連絡が入った」
そういった。つい先程、メカニック班が持っていた強力な電波の通信機でサラサのいう「危機」を知らせたところ、先程になってそんな知らせが入って来た。ブライトも全く関知していなかったのだが、ランドラには工作員が潜入していたらしい。色々と事情のある者たちらしいが、無事アーガマに迎え入れたということだ。
「な、何!?そんなはず…」
うろたえるキャラに、憐みの目が注がれた。
「ああ…それでアクシズの人たちは誰も助けに来ないんだね…」
「何だかこのオバサン、気の毒になってきたわね」
イーノとルーがそういうと、キャラは涙目になって、
「やめろお!人をそんな目で見るなあ!」
そう、喚きたてた。
「ブライト艦長、どうするのさ?この人、根っから悪い人ってわけでもなさそうだし…」
「そうだジュドー!お前はいいことをいう!私は悪人じゃないぞ!」
キャラがそういうのを聞き流しながら、ブライトは考える。
実際、捕虜など取っても扱いが面倒なだけだ。自軍の危機的状況を乗り切るために人質として利用する、という手は使えるかもしれないが、3機の敵MSを無力化した今、彼我の戦力にそう差があるとは思えない。加えて艦そのものが航行に支障を来しているようだから十分な運用が出来ないわけで、そうなれば対処方法はいくらでもある。さほどの脅威はない。
巡洋艦の艦長クラスの人物だから本来であれば戦略的観点から利用価値を考慮しなければならないのだろうが、生憎今のエゥーゴの台所事情ではそれほど遠大な計画を遂行するのは難しいし、何よりこの人物は…色々と難がある。
やはり、ここで無理に捕虜を取る必要は無いだろう。
「ふむ、我々としては…そうだな…ビーチャ、モンド!」
ブライトがそういうと、二人が居住まいを正して「はい」と返事をする。
「お前たちはどうしたい?パイロットの訓練を受けていたというが…アクシズがいいか?それともアーガマへ帰って来るか?」
「あ、アーガマに戻りたいです…」
「お願いします…」
ビーチャとモンドの二人が殊勝にもブライトに頭を下げた。
「ん…よし、それではキャラ・スーン、捕虜交換ということで手を打とう。我々は貴官の身柄を解放し、そこの両名をもらっていく」
シャングリラの子供たちが沸き立つ。
「本当か!私に酷いことはしないんだな!」
キャラもまたそんなおかしな喜び方をしていたので、
「但し!解放とはいってもそれはあくまでエゥーゴの手を離れた、というだけだ。後の処分は貴官から直接の被害を受けているこのコロニーの住人に任せる、そういうことだ」
ブライトはそう、釘を刺した。キャラの笑顔が引きつっていく。
「ブライト艦長、ありがとうございます。やはりあなたは頼りになる方ですね」
サラサがそういってブライトに近づこうとすると、流れるようにエマリーがその間に入って来た。
「さ、この後はムーンムーンの方々のお話でしょう?これからの光の教え、どうされるんです?」
エマリーの言葉に、サラサとラサラ、それにムーンムーンの女たちが前に出て来てロオルを取り囲んだ。
マシュマーやキャラは、敵組織の人間というより、ライバル校の生徒たちって感じですよね。彼らの緊張感の無さがダブルゼータ前半の明るさを成す一つの要素であったことは間違い無いと思います。
本編でもその辺りは大事にさせてもらっていますけど(笑)、さすがにこのムーンムーン編辺りでそういう関係性も一区切りかな…という感じです。