シン訳 機動戦士ガンダムZZ   作:溜め無しサマソ

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 月面都市グラナダは月の「裏」側にある。

月は自転周期と、地球の周りを回る公転周期が完全に一致している(27.32日)天体なので、常に同じ面だけを地球に見せながらずっと地球と共に回っており、そのため地球の人々は、自分たちから見える側を「表」、そして見えない側を「裏」と定義した。

 

旧世紀の人々は、いい女と同じように常に同じ面しか見せない月を、神秘の象徴ともしてずっと愛していたのだが、このいい女は宇宙世紀に入ってその裏側でサイド3という愛人を作り、ついには人類の大半を死に至らしめるというルナティックな不貞を働いた。

その後、多少反省した月と、どうしても未練を断ち切れない地球は、結局サイド3という愛人を残したままうやむやのうちにその関係性を取り戻したのだが…二人の間にはもう、かつての熱い季節が巡ってくることは無く、時は宇宙世紀0088年5月になっていた。

 

 

 

 

「おい、ビーチャ、モンド、こっちだ!」

 

ジュドーは待ち合わせていた二人を呼んでエレカに乗せる。

 

「おう、何だ、遅かったな」

 

「うわ、ちょっと買い物し過ぎじゃないの?」

 

キャビンから座席にあふれている買い物袋を押し込みながらビーチャとモンドが座ると、

 

「これでも足りないくらいよ」

 

「久しぶりに上陸したってのに全然時間もないしね」

 

ルーとエルが口々に不満を漏らす。ジュドーはもう二度とこいつらの買い物に付き合うのはごめんだと思ったが、そんなことを口に出したら殺されるのは確実なので、黙ってハンドルを握りながら話題を変えにかかる。

 

「それで、あのおじさんたちはエアーズ市だっけ?」

 

「そう。ティターンズの残党が大暴れしたってさ」

 

「めちゃくちゃ混乱してるからしばらくは連邦軍の統治下に置かれるらしい。その手伝いをするみたいだな」

 

思わぬ形でアーガマを助けてくれた3人の軍人たちは、結局地球連邦軍に戻ることになった。逆にいえばジュドーらがアーガマの民間協力者として正式にクルーとして認められた、ということでもあるのだが、ともかく、その3人が命じられたのがグラナダ市と同じく月の裏側に位置するエアーズ市での治安維持ということだった。浅からぬ縁のあるビーチャとモンドはその3人を見送りに行っていたのだ。

 

「ふーん、エゥーゴの人たちもそのうち連邦軍に吸収されていくのかねえ…」

 

「それよりさ、ジュドー、急がないと遅れちゃうよ。今日はアナハイムの取材があるんでしょう?」

 

「そうそう、アナハイムの広報が来るなんてこんなこと滅多にないんだから遅れちゃダメよ」

 

また、女たちは勝手なことをいっている。

 

「取材はついでだろ?偉い人たちが来て今後の作戦を伝えるっていってたから、面倒な話の方が多いんじゃないか?それに大体誰のせいでこんなギリギリになったと…」

 

ジュドーはそこで、言葉を飲み込む。隣のエルと、後ろのルーから強烈なプレッシャーが発せられているのを感じ取った。

 

「さ、さあ、飛ばすぜ!」

 

ジュドーはわざとらしくそういって、エレカの操縦を自動運転からマニュアルに切り替えて加速させる。もう、二人の目を見ないようにした。

 

 

 

 

アーガマとラビアンローズはグラナダに到着してすぐに、エゥーゴの上層部とアナハイム・エレクトロニクス社の幹部に接触することになった。今後の作戦行動とアーガマの補給と修理、戦力増強について話があるのだという。ラビアンローズの一室を借りることになり、ブライトはエマリーに案内されて部屋に通された。

 

「久しぶりだな、ブライト艦長」

 

まだ席にも座っていない来訪者の一人から声を掛けられる。馴染みのある男だった。

 

「ウォンさん、お久しぶりです。カミーユの件ではご尽力いただいて…」

 

「ああ…早めにこちらの病院で預かれて良かった。今はケガも治って様態も安定したと聞いているぞ」

 

二人が話をしている横で、少々この場には似つかわしくない派手な女性がエマリーの方へパタパタと駆けていく。

 

「エマリー先輩!お久し振りです!」

 

「ミア!?どうしてあなたが…」

 

「今日はジャーナルの取材も兼ねてるんですから、私が来るのは当然じゃないですか!」

 

「ジャーナル…?アナハイム・ジャーナルを出しているのは確かAEクレジットでしょう?」

 

「ええ、でもアナハイム広報との連動企画もよくやるんですよ!」

 

「それで社内報担当のあなたが来たの?」

 

ミアというらしい若い女性が頷くと、その後ろから恰幅の良い壮年男性が二人、近付いて来る。

 

「はっはっは、そういうことなんだよ。久しぶりだねえ、オンス君」

 

「ヒルバレー部長、お久し振りです…」

 

エマリーのかつての同僚と上司、といったところだろうか。ブライトには面識の無い人たちだ。

 

「エマリー、こちらは?」

 

「ああ、アナハイム広報のシノラー・ヒルバレー部長とミア・ヨハンソンです。それから技術部門のムチャ次長…ええっと、今はエゥーゴに出向されているんですよね」

 

最後に紹介された「ムチャ次長」は、

 

「ああ、今はエゥーゴの准将だよ。さ、では早いところ始めようじゃないか。ブライト艦長、よろしく頼むぞ」

 

身に着けているエゥーゴの将官服を見せつけるようにしながら鷹揚にそういった。少しクセのありそうな人物だな、とブライトは思う。

 

「え、ええ。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

その場の6人が着座し、エゥーゴとアナハイム側から作戦概要説明…という名の一方的な指示・命令がブライトに下された。

 

 

 

 

ジュドーたちがアーガマに戻ると、すぐにブリーフィングルームに集合するよう指示が来た。すでに座っていたイーノが手を上げたのを見て、5人はその近くに陣取る。

 

「揃ったな…では今後の作戦行動に関する説明を行う。その前に…こちらはエゥーゴの参謀本部からお越しになったメッチャー・ムチャ准将、それと皆知っていると思うが、アナハイムのウォン・リー相談役だ」

 

メッチャーが軽く敬礼した後でウォンが、

 

「艦長、作戦概要は私から話そう」

 

そういった。

 

「いや、しかし…」

 

「構わん、艦長からでは言い辛いだろう。少し挨拶もしておきたいしな」

 

「そう…ですか」

 

ブライトはそういって、その場をウォンに譲る。ウォンはクルーたちを見渡した後、小さく頷いてから、話を始めた。

 

「まずは先のコロニーレーザーを巡る戦いの礼をいっておこう。おかげでエゥーゴはティターンズに勝利することが出来た。苦しい戦いではあったがよくやってくれた。貴官らの健闘に感謝する。それと…」

 

初老の男はそこで言葉を区切り、少しの間の後で、

 

「この場にいないメンバーやラーディッシュのクルーたちには心から哀悼の意を表したい」

 

そういって黙祷した。着座していたクルーたちは全員立ち上がり、敬礼をとる。ジュドーたちも慌ててそれに倣った。シャングリラの子供たちも、ラーディッシュがずっとアーガマと作戦行動を共にした艦だった、とは話に聞いている。

 

「ああ、すまんな。座ってくれ…さて、アーガマの今後についてだが…」

 

クルーたちが座り直すのを見ながら、ウォンは言葉を続ける。

 

「現在、エゥーゴと地球連邦軍の間で組織統合に向けた交渉の準備が進んでいる。この結果次第でまた色々と変わって来るのだろうが…今の所、エゥーゴは引き続き独自の作戦で動く。よって…アーガマについては単艦で任務にあたってもらうことになる」

 

単艦、という言葉に場がざわめく。

 

「こちらとしても心苦しいのだが…この状況で新たな人員の補充は難しい。ラーディッシュに代わる新たな艦を用意出来たとしても、操艦するための人員を揃えられんのだ」

 

さすがに、これにはジュドーらも驚いた。

 

「おいおい、まさかこのままアーガマだけで戦えっていうんじゃないだろうな」

ビーチャが小声でそういうと、

 

「はぁ…やっぱりこうなったか…」

 

と、ルーが頭を抱えながら独り言のようにそういうのを聞いて、ジュドーらはその先を察した。

 

「アーガマには当分の間、このグラナダを拠点としつつ、アクシズ艦隊への威力偵察を行い…場合によっては地球へ降下してもらう」

 

なかなかに信じ難い内容であったためか、少しの間、全くの静寂があった。それから、

 

「ちょっと待って下さい、アーガマ単艦で場合によっては地球降下って…正気ですか?」

 

さすがに堪りかねたのか、アストナージがそういって立ち上がった。その言葉を、ブライトが溜め息で受ける。

 

「ああ、アクシズが艦隊を編成して地球に降下をするという情報がある。ティターンズを倒したはいいが、そのせいで連邦軍の部隊が宇宙でも地球でも混乱している。その隙をついて連中、地球の制圧を企てているようだ…」

 

「だからって、それをアーガマだけで止めようってんですか?」

 

「まだ作戦説明中だぞ!質問は後にしろ!」

 

メッチャー・ムチャがそういって前に出て来た。

 

「ウォンさん、この先は私から説明しよう」

 

「メッチャー、お前…」

 

「参謀本部から作戦を預かっているのは私ですよ?」

 

ウォンはまだ何か言いたそうだったがそこで下がり、小太りのメッチャーが薄ら笑いを浮かべて前に出る。

 

「アーガマの諸君、エゥーゴからの作戦は今言った通りだ。詳細については正式に文書の発信があるが…人員が不足している以上これは止む無き処置なのだ。その代わり、戦力は充実させていく」

 

メッチャーは得意そうに、正面モニタに数々の図面を表示させた。

 

「この通り、アーガマ本体の武装強化に加えて新型MSとサポート機の導入が決まっている。強力な装備とMSをアーガマに一点集中してアクシズの動きに備える」

 

「…俺たちの仕事は増えそうですね」

 

アストナージの冷めた口調に、クルーからの苦笑が起こる。

 

「数の不足を兵装の質で補う、という方針だな…。仮に地球に降りた場合もカラバとの協力体制は取れる。あまりいい作戦とも思えんが、現状、参謀本部にもこれ以上の案は無い、ということだ…すまんが、頼む」

 

ブライトは、その皮肉交じりの言葉の後で敬礼を取る。まだ話し足りなそうにしているメッチャーは少しムッとしたように見えたが、すぐに全員が立ち上がり敬礼を取ったので、ここで解散となった。

クルーたちがそれぞれの持ち場へと戻っていく中、

 

「何だか大変なことになっちゃったね…」

 

エルがボソっとそういい、皆が頷いていたが…ジュドーには少し、思うところがあった。

 

 

 

 

 エマリーに用があってブリッジに上がって来たミリィは、そこにいたエマリー以外の二人の姿…正確にはそのうちの一人を見てすぐにその場から引き返そうとした。が、

 

「ミリィ!どうしたの?」

 

エマリーがこちらを目ざとく見つけて声を掛けてきたので、エマリー以外の二人もこちらを見てきた。

 

「あら…ミリィ、ミリィ・チルダーじゃないの!」

 

「ミア…久し振りね」

 

こうなれば逃げるに逃げられない。ミリィは内心舌打ちして、その同期入社社員を見る。こちらに手を振るその動作ですら計算された可愛さに溢れていて、ミリィは眉間にしわを寄せつつ、歩み寄った。

 

「エマリー艦長代理、量産型百式改のビームライフルの件ですが…」

 

「ああ、それね。ええっとこれ、Eパックじゃなくて本体側のマニピュレータに問題があるかもしれないから調べてみてくれる?」

 

手元の端末を切り替えて百式とビームライフルのエネルギー経路図を見せながら、エマリーが答える。

 

「なるほど…わかりました。電圧に問題は無さそうなのでその線で調べ直してみます」

 

「ええ、それでお願いね」

 

といったところで、

 

「エマリー先輩!そんなの全然先輩に似合いません!」

 

ミアが大声で割って入った。

 

「ミア、うるさい。少し黙ってて」

 

ミリィがぴしゃりとそういうと、ミアはビクリと体を震わせる。

 

「な、何よ!そんな風にいわなくても…」

 

「仕事の話をしているの。昔話やエマリー艦長代理の異動願いをするんだったら別の所でしてちょうだい」

 

「わ、私そんなつもりじゃ…部長―…」

 

ミアはそういって、こちらから顔を反らす。後ろに座っている腹の出た男に涙を浮かべた目でも見せているのだろう。

 

「ああ、ちょっと君、君も元アナハイムの人間なんだろう?あまりうちの若いのをいじめないでくれ」

 

ミリィはこういう、何も出来ずに男に泣きつくだけの女も、女を若さと容姿だけでしか見ていない男も反吐が出るほど嫌いだった。

 

「ヒルバレー部長、ミアさん、申し訳ありませんが先程ミリィのいった通り、昔話や異動の話はまた別の機会でよろしいですか?こう見えて結構忙しいもので」

 

エマリーがそういうと、二人は何かいいたそうにしながらも、「ではまた」などといってブリッジから去って行った。

 

「…良かったんですか、艦長代理?」

 

「ええ、いいタイミングで来てくれたわ。あの人たちだってさっさと自分たちの仕事をした方がいいのよ」

 

「自分たちの仕事って…アーガマの取材、ですか?」

 

「ええ、今度の特集、『若きパイロットたちと新鋭機、生まれ変わるエゥーゴ』ですって」

 

「あの…それって、ジュドーたちを取り上げるんですかね?」

 

「…軍人でもない未成年を取り上げるのは正直どうかと思うけど、彼らの給料はアナハイムから出るんでしょうし、ある程度は仕方ないでしょうけど…」

 

「けど?」

 

「ミリィは、ミアがコネ入社、っていわれているのは知ってる?」

 

「そりゃあ、まあ聞いたことはありますけど…本当なんですか?」

 

エマリーがしっかりと頷く。

 

「ええ、あの子のお父さん、連邦政府の関係者なのよ。まあ、うちの会社はそういうのがかなりいるんだけど…あの子はそういわれるのを嫌がっててね。それでなんていうのか、特ダネを当てて自分の実力をアピールしたいって、そんなことを狙ってるフシがあるのよね…」

 

「それで…あの子たちを使って斬新な記事を書こうってわけですか?」

 

「そんなところじゃないかしら?あの子たちの親がそんな記事を見たらどう思うかなんて考えてないのかもしれないわね…」

 

エマリーとミリィは、示し合わせたように同時に溜め息をついた。

 

 

 

 

 




ウォンさんがグリプス戦争の時のお礼とお悔やみをいって、アーガマクルーがそれに応えるシーンは、ダブルゼータでやってほしかった…という願望がこもっています。

ウォンさんは新訳ゼータで理解のある人になっていたので、こういう役目が似合うようになったと思うんですよね。
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