さすがは天下のアナハイム、といったところか。グラナダのドッグはとんでもなく大きい。ぶらぶらと歩いていると、さっき聞いたアーガマの新兵器、巨大なメガ粒子砲の砲塔が運ばれて来るのに出くわす。それをぼんやりと眺めながら、ジュドーは考える。
アーガマ単艦での偵察行動という話は他のクルーには悪いが、ジュドーにとってはむしろ好都合なのではないだろうか?どさくさで「モウサ」へ潜入…という芽が出て来たような気がする。
「けどまあ、敵の本拠地だもんなあ…そう簡単には入れないよなあ…」
うっかり口に出していうと、いつの間にか他のシャングリラメンバーとルーがすぐ後ろにいた。イーノが苦笑する。
「やっぱり…どうやってモウサに忍び込もうかって、考えてるんでしょ、ジュドー」
「ああ、そりゃあチャンスじゃないかって思えるからな…」
「そうだな。俺たちも援護してやりたいけど、さすがにシャングリラみたいなちゃちなセキュリティじゃないだろうし…」
ビーチャがそういって腕を組んだ。
「ん?さっきの子供たちか…」
聞き覚えのある声の方を向くと、少し前方に痩身の男が立っている。先程ブリーフィングルームにいたアナハイムの二人と、ブライトも一緒だった。
「お前たち、どうした?こんなところで」
「あれですよ。アーガマの新兵器っていうのを見に来たんです」
ルーがサラッとそう返すと、大人たちは「そうか」などといって頷いている。
「艦長、カミーユが連れて来たというのは…」
「ええ、この子たちです」
確かウォン、といったか。何だかいつも不機嫌そうに見えるこのおじさんは、カミーユを知っているようだ。そう思った時にはもう、ジュドーはウォンに話しかけていた。
「おじさん、ウォンさんっていったっけ?カミーユさんを知ってるの?」
「…艦長の所に来る子供は大抵、口の利き方を知らないな」
ブライトが慌てた様子で間に入って来た。
「ジュドー、ウォンさんはな、カミーユをアナハイム系列の大きな病院に入れて下さったんだ。あの時、ケガもしていたらしくてな…」
「ええ!?そうだったのか…それで、カミーユさんは?」
「こちらで引き取った時にはあまり良いとはいえない状態だったが…今ではケガも完治して、精神面もかなり安定しているそうだ」
「そうか…それなら良かった。おじさん、ありがとよ!」
ジュドーがそういって頭を下げるのに合わせて、シャングリラメンバーも頭を下げる。ウォンは、少し面食らったようだった。
「さっきは遅刻ギリギリでブリーフィングルームに入って来てどういうつもりだと一つ説教でもしてやろうかと思っていたのだが…」
「行儀作法は身についておりませんが、素直な子供たちではあります」
ブライトがそういってジュドーたちに笑顔を向けると、ウォンもやむなく、といった感じで微笑した。そこへ、
「しかし…まだこうして子供をあてしているのか…」
ウォンの横から、そんな声が割って入る。恰幅のいいもう一人のアナハイムのおじさんだった。そういえばこの人は何という名だったか、ジュドーはすっかり忘れていた。
「そっちのおじさんは…えーっと、何か面白い名前だったよね?」
「メチャメチャさんだよ、ジュドー」
「え、ムチャムチャさんじゃなかったっけ?」
みんながいうのは正しいような気がするが、間違っているような気もする。こちらとしては至って真面目なのだが、そのおじさんはお怒りのようだ。
「メッチャー・ムチャ准将だ、お前たち…」
ブライトが小声でそういったが、もうそんなことはどうでもよくなっていた。
「そういやそんなだったね。で、准将っていうのはさ、ブライト艦長より偉いの?」
「あ、当たり前だろう!ジュドー、お前いい加減にしないと…」
そこで、その准将様が怒鳴った。
「貴様ら!エゥーゴの一員だろうが!上官に対するその態度は何だァ!」
全く、何を怒っているのだろうか?ジュドーは肩をすくめた。
「ほら、みんながからかうから」
「貴様ァ!」
メッチャーが叫びながらジュドーに殴りかかって来たが…ジュドーはそれをひょいとかわして距離を取る。
「あっぶないな、何すんだよオッサン!」
「おう、オッサン!何様だか知らねえけど仲間に手ぇ出すってんならこっちも黙っちゃいねえぞ!」
ビーチャがそういって啖呵を切ると、モンドとイーノも身構える。
「何だとこのガキども…!」
睨み合いになりそうになったその時、
「『鬼のムチャ准将、少年兵を鉄拳修正!?』ってとこですかね?」
見覚えのない若い女と、
「止めろ止めろ。旧世紀じゃあるまいし、軍隊でも暴力はご法度だ。アナハイムのイメージが落ちるような真似はしないでもらいたいな。ムチャ准将殿」
ムチャと同年代と思われる、ムチャと同様に恰幅のいい男が現れた。
「…取材といえばどこにでも首を突っ込めると思っているのか?ヒルバレー部長殿?」
腹の張った男たちの雰囲気が悪い。その空気に、子供たちの上げた気炎がかき消される。
「次長から准将とは大層なご出世だが、軍人風を吹かすのもそろそろ終わりにしておいた方がいいんじゃないかねえ?」
「はっ、お前こそ若い女にいいように使われてるとウワサになっとるぞ」
睨み合う二人の様子を見て、ウォンが溜め息をついていた。
「ウォンさん、何なのよ、あれ?」
ジュドーの問いに、ウォンはもう一度溜め息をつく。
「あの二人は同期入社でな、昔からウマが合わないというか…ヒルバレーが広報部に配属になったのが気に食わなくてムチャはエゥーゴに志願したなどども聞くが…」
そんな説明を受けている間にも二人の言い争いが段々と熱を帯びていく。ウォンの血管がピクリと動いたのをジュドーは確かに見た。その直後、
「いい加減にしないかお前たち!」
ウォンはそう言い放つや二人の間に入り、ムチャのアゴに正拳突き、ヒルバレーの鳩尾に肘打ちを瞬時に叩き込んだ。それはすでに初老ともいえる見た目からはとても想像出来ないキレのある動きであり、残身を取ると同時にムチャは仰向けに、ヒルバレーはその場で膝から崩れるようにして倒れた。アクション映画でも観ているかのようなその光景に、その場の全員から感嘆の声が漏れる。
「子供たちが見ている前で…見苦しい…!」
白目をむいて倒れている男たちにそういう姿がこれまた決まり、
「すげえ…!」
「かっこいい!」
「チャイニーズクンフーかよ!教えてくれよ!」
ウォンは子供たちに取り囲まれる。
「な、何だお前ら、静かにせんか!」
そんな様子を横目でみながらブライトが笑っている。
「お前たち、ウォンさんは拳法の達人なんだ。空手をやっていたカミーユやプロの軍人も敵わないくらいでな。くれぐれも生意気な口を利くんじゃないぞ」
それを聞いた子どもたちのボルテージはさらに上がる。さすがのウォンも、タジタジ、といった有様だ。
「おい艦長、茶化すようなことは言わんでくれ!」
「フフ、しかし事実ですから」
そこに、少し離れたところにいたミアが寄って来る。
「『オジサン管理職をぶちのめすウォン相談役!子供たちにも大人気!』いやー、いい画いただいちゃいました!」
カメラを回していたらしい。
「バカモン、身内の恥をさらしてどうする!さっさとそんなものは消せ!それと、そこの二人を任せたぞ!」
まだ倒れているオジサンたちの方を見ながら嫌そうな顔をしているミアをよそに、ウォンはさっさと歩き出す。
「あれ、ウォンさんどっか行くの?」
「本社に報告の時刻だ。お前たちもフラフラしていないでアーガマの作業を手伝え」
ジュドーはそこで、このおじさんにモウサ行きの件をお願いしてみるのはどうか、と思いつく。
「あ、ねえちょっと、ウォンさんさ、アナハイムの力でアクシズのモウサに行くこととか出来ないかな?」
「…何?モウサ、だと?」
ウォンが立ち止まると、ブライトが寄って来る。
「すいませんウォンさん。実はこの子の妹が交戦中にアクシズの連中に囚われたようで…それでどうやらモウサに送られているらしいのです」
「ほう…」
ウォンが向き直るのと、ミアが横になっているオジサン二人を弾き飛ばすようにしてやって来るのがほぼ同時だった。
「それ!いいじゃないですか!アクシズ内部への潜入取材!是非、お願いします!」
「何をいっている…」
といった後で、ウォンは少し考える風な様子を見せ、
「フム…だが…まあ、どうしてもというのであれば…まずはそこで寝ている二人を説得してみることだな」
そういってまた踵を返して歩き出した。ジュドーとミアは色めき立ち、
「おい、オッサンたち!寝てる場合じゃないぞ!」
「部長、スクープですよ!スクープ!」
二人は、アナハイムとエゥーゴの幹部を起こしにかかった。
そんな様子を見ながら、ビーチャはブライトの方へ歩み寄る。
「モウサに潜入って、そんなこと本当に出来るんですか?」
「さて…どうかな。アーガマに与えられた任務はアクシズの調査ということだから、エゥーゴの上の連中は情報が欲しいとは思っているのは確かだろう。それにアナハイムはジオン系の連中とも深いパイプを持っている企業だ。取材を申し込むという形であればあるいは…」
「可能性はゼロじゃないってことですか…?」
「ああ…」
ブライトがいうならば、本当に可能性があることなのだろう。
「しかしアナハイムってのも恐ろしい会社ですね。連邦ともジオンとも、エゥーゴとも繋がりがあるって…」
「死の商人、と呼ばれることもあるな。このグラナダ支社と表のフォン・ブラウン本社では別の会社のようだ、という者もいる」
「へえ…」
「まあ、MSとそれに関連する技術を一手に独占している以上、どの勢力も手出しが出来ない、というのが現状だ。それをいいことに好き勝手やっているんだろう」
「いいんですか、スポンサー様にそんなこといって?」
「いいも悪いも、私のような一軍人が何を言ったところで揺らぐような企業ではないよ」
「そりゃそうかもしれませんけど…何ていうか、給料をもらうためには完全に信頼してない相手のいうことも聞かなきゃいけないんですね」
「そうでなければ家族を養えんからな」
「なるほど…大人もツライっすね」
そこでブライトは一瞬目を丸くした後、声を立てて笑った。珍しいことだったので、全員の目が集まる。
「そういうことだ、ビーチャ。それがわかればお前も大人の仲間入りだな」
ブライトはそういってビーチャの肩を叩いた後、
「さあ、お前たちもお二人方を起こしたら戻って来いよ」
そういって、アーガマへ戻って行った。
「何、どうしたのさ、ビーチャ?」
そのブライトを見送るビーチャのところに、エルがやって来る。
「エルはさ、ああいう大人になりたいなって人、いるか?」
「何よ急に。そうねえ…うーん、ママっていうのも違うような気がするし…ちょっと思い浮かばないかな」
「まあ、そうだよな」
ビーチャは不思議そうな顔をするエルを見ながら、この女を養いながら給料をもらう自分を想像してみたが、恥ずかしくなってきたのですぐに止めた。
ジュドーは2回もアクシズに潜入していますが、ここはダブルゼータの中でもかなりぶっ飛んだ内容で、新兵器を無断持ち出しして偽装とはいえ投降を謀るなど、普通に考えたら軍法会議ものの展開になっています(笑)。
wikiの「ジュドー・アーシタ」を見るとこの辺りのことは「怪行」って書いてありますね。そりゃそうだ(笑)。
前回から出ているアナハイム広報部の二人については、この後のアクシズ潜入を何とか普通の形にするためのギミックのようなものですね…。因みに部長の「シノラー・ヒルバレー」という名前については、その昔エンターブレインから発売された「アナハイムジャーナル」に載っているアナハイムの系列企業一覧の中にあるAEパブリケーションの代表の名前からとっています。アナハイム本体の部長が系列の社長に出向とか、あるだろうなあ…。