シン訳 機動戦士ガンダムZZ   作:溜め無しサマソ

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たっぷりの湯にもぐってから頭を出して、子犬のように髪を振るう。プルの入浴に作法も何もあったものではないが、それを咎める者は誰もいない。

真っ直ぐに足を伸ばしてぴちゃぴちゃと水面を叩きながら、最高の気分を味わっていたが、不意に頭の中に、走るジュドーの背中が見えた。

 

「あれ、ジュドー…。ふうん、逃げようったってそうはいかないんだからね!」

 

プルはバスタブから勢いよく身体を出すと、裸のまま走り出した。

 

「どうされました、プル様?」

 

「また外出ですか?」

 

 部屋を出て廊下に出るとすぐ、両脇に二人のメイド服姿の侍女が伴走する。慣れた手つきで一人が身体を拭き、もう一人が服を着せていく。

 

「うん、ちょっと宇宙(そら)に出て来るね!」

 

「それはそれは」

 

「ではキュベレイを手配しておきます」

 

一階のエントランスに着く頃には一人がドライヤーで髪を乾かし、もう一人がそれをセットしてエルピー・プルが完成する。

 

「ありがと、おねーちゃんたち!じゃあ行ってきます!」

 

「はい、ではお気をつけて」

 

「夕飯までには帰って来るのですよ」

 

そのまま、立ち止まることなくプルは屋敷を後にした。

 

 

 

 

「いたっ!グレミーさん、あんたに聞きたいことがあるっ!」

 

喫茶店のテラス席で1人の女性と3人の男たちが和気あいあいとしているところに、ジュドーが滑り込む。

 

「あらジュドー君、もう用は済んだの?」

 

ミアが、優雅にティーカップを持ち上げながらそういうと、

 

「何か珍しい部品はありましたか?」

 

などとグレミーがいう。どうやらミアが上手く話を作っておいてくれたらしい。大方MSマニアでパーツ屋巡りが趣味だとでもいってあるのだろう。だが、そんなことはどうでもいい。

 

「いや、そんなことはいいからさ、リィナだよ!グレミーさん、あんたリィナを知ってるんだろう!?」

 

息を切らせながら夢中でそういうと、ミアの鋭い視線が飛んで来る。それでやっと、ジュドーは何故この名前を伏せていたのかを思い出す。

 

「ほう…やはり君、リィナのことを知っているのですね。アーシタ、なんてファミリーネームは珍しいですからもしや、とは思っていたのですが」

 

グレミーはそう、極めて落ち着いた様子で答える。もうこうなれば身元がバレようと構わない。

 

「そうだ。リィナは俺の妹だ!どこにいるんだ!あんたがここへ連れて来たことまではわかってるんだ!」

 

飛び掛からんばかりの勢いでそういったが、やはりグレミーは落ち着いていた。

 

「そうか、君はリィナのお兄さんか。なら丁度良かった。リィナは、あの子は賢い。私が一人前のレディになれるようにしっかりと教育してあげよう」

 

「な…に?」

 

「聞けばご両親はほとんど帰って来ない上に、あまり豊かとはいえない生活を送っているそうではないか。そんなことであの子を良い学校に通わせることが出来るのか?」

 

「そ、それは…」

 

ジュドーにとっては痛い所を突かれた。

 

「先日このアクシズでトップレベルの学校の編入試験を受けさせたらとてもいい結果を出してね。そこに通わせることになった。君もリィナのことを本当に大事に思うなら、ここに置いて、私に任せるのがいいと、そう思わないか?」

 

「ふ、ふざけるな!リィナがそんなこと…望むはずがないじゃないか!」

 

「そうかな?今言ったように、リィナは編入試験を受けてくれた。それに彼女はやさしい子だ。兄に迷惑をかけてまでいい学校に行きたいとはいわないだろう。だったら、私に預けておくのが一番ではないか?」

 

グレミーの勝ち誇ったような笑顔はしゃくに障るが…言い返すのは難しい。

 

「リィナが…あいつが俺と離れるのを喜ぶはずがないだろ…!」

 

「ふむ…そうだな、だったら君をスカウトしてもいい。このアクシズでパイロットをやりながらリィナと一緒に暮らすのはどうかな?エゥーゴのジュドー・アーシタ君?」

 

二人の兵士が、同時に立ち上がってジュドーの背後に回り、銃を突きつけた。ミアの「キャアッ!」という悲鳴を聞きながら、ジュドーは軽く両手を上げる。

 

「何だよ…最初からわかってたってわけか…」

 

「アクシズの諜報網を舐めてもらっては困る。ああミアさん、あなたの身元もはっきりわかっている。大人しくしていただければあなたに危害が及ぶようなことはしません。ご安心を」

 

ミアは複雑な表情を浮かべながらオロオロとしている。だがそれを聞いて、ジュドーの方が安心した。ミアはここに置いて行っても問題は無い、ということだ。

 

「へえー、大したもんだ。だったら今、俺がハマーン・カーンに会って来たってのは知ってるか?」

 

「何!?ハマーン様と…?それはどういうことだ!」

 

グレミーがそういうと、後ろの兵士たちまで慌てた様子を見せた。何か動揺を誘うようなことを言えれば、と思っただけだったが思いの外、功を奏したようだ。この調子で最もらしいホラを吹いてさらに動揺させれば上手く逃げられるかもしれない…などと思ったその瞬間、

 

『そのまま前に走って、ジュドー』

 

という声が頭の中に響いた。

 

「そう、俺とハマーンさんはちょっとした知り合いでさ、宮殿に行って挨拶してきたんだよ。ほんと、迷子になるくらい広いよな、あそこ!」

 

「な!?そんなはずは…!」

 

グレミーはもちろん、後ろの兵士たちの動きも完全に止まった。その隙を逃がさず、ジュドーはテラス席を一気に突っ切る。他の客もいるから銃は撃てないはずだ。そこで、またあの声が聞こえる。

 

『そのまま道路の反対側に走れば港につくよ!』

 

声の主はわかっている。わかっているだけに、その指示に従って良いものか疑問が残るが、今はとにかく他にアテがない。兵士たちも追いかけて来ている。

 

「もう…お前を信じるからな!プル!」

 

ジュドーはそういって車道に飛び出す。走る車をかいくぐり、交通を麻痺させながら何とかひかれずに反対側にたどり着くと、

 

「なるほど、あれか…!」

 

芝生が広がる公園の入り口付近に、小さな建物がある。避難用地下通路への入り口だ。シャッターが下りていたが、グレミーからもらっていた身分証明をかざすと素直に上がる。すかさず駆け下りて行くと確かにそこはもう、宇宙港に繋がる一角だった。

 

 

 

 

急ブレーキのせいで身体がシートベルトに締め付けられる。

 

「ちょっと、何です!?」

 

隣に座る従者の女が、初老の運転手に声をかける。

 

「飛び出しのようです。危ないなあ…あ、ほら、あそこ」

 

その指す方向に目をやった瞬間、リィナは我が目を疑う。だがあれは間違いない。咄嗟に窓を開けて叫んだ。

 

「お兄ちゃん!」

 

シートベルトを外して車を降りようとしたところで止められる。

 

「何をしているの!お兄ちゃんって…どういうことですか!」

 

「あれ、私のお兄ちゃんなんです!早く行かないと!」

 

リィナは従者の手を払って車を降り、走り出す。だがそこへ、

 

「リィナ!?何をしているのです!」

 

グレミーが現れた。お付きの兵士たちは手際よく交通整理を始めている。

 

「グレミー…!お兄ちゃんが、私のお兄ちゃんがいたんです!」

 

「お兄ちゃん…そうか、リィナのお兄さんならこちらできちんと保護をしてあげよう。どこに行ったか、わかるか?」

 

「あっち、公園の入り口の所で見えなくなった!」

 

そこで、グレミーの表情が一瞬だけ狡猾そうに歪んだが、リィナはそれに気が付かなかった。

 

 

 

 

逃げるには最低でも宇宙船とノーマルスーツが必要だ。ジュドーとミアが乗って来たアナハイムの小型艇は当然押さえられているだろうし、何のチェックも無しに港を出られるとは思えない。と、普通に考えればまだまだ問題は多いわけだが、

 

『こっちこっち、こっちだよ、ジュドー!』

 

およそ、そんな常識とはかけ離れた存在からの呼び出しなのだから、難しいことを考える必要などないのだ。案の定、向こうから歩いて来る濃紺のMSに乗っているのがプルだということが、ジュドーにはわかった。

避難通路というだけあって、艦艇やMSが並行して行き来可能な構造になっているらしい。

目の前に広げられたそのMSの手の平に、ジュドーは手摺を乗り越えて飛び乗った。コクピットハッチが開き、独特の長く尖った指の先に、確かにあの少女の姿が見えた。

 

「アハハ!見つけたよ、ジュドー!さあ、遊ぼう!」

 

「お前…MS持ってるなんて…本当にお嬢様だったのか?」

 

「んーよくわかんないけどキュベレイとはずっと一緒だよ」

 

「そうか…」

 

といいながら後ろを振り返ると、グレミー達の姿が見える。

 

「そこのMS…キュベレイ!?プル、それに乗っているのはエルピー・プルか!止まれ!すぐに止まれ!」

 

「あれ、ジュドー、止まれっていわれてるよ?」

 

「止まるな!絶対に止まるな、プル!」

 

ジュドーはコクピットに飛び移ると、ハッチが閉まる。全天周囲モニターの後方には、数人の男たちが追って来ているの見えるが、時間が経てばもっと大掛かりな追跡になるだろう。ミアには悪いがもう、このまま脱出させてもらうしかない。

 

「プル、このまま宇宙に出られるのか?」

 

「もっちろん!ファンネルで遊ぼうよ!きっとジュドーも出来るからさ!」

 

「『ふぁんねる(漏斗)』?何言ってんのお前?」

 

「すぐにわかるって!ほら、そこのエアロックを抜ければ宇宙だよ!」

 

「お?おう…」

 

キュベレイの存在を認識したのか、エアロックが開いていく。一応後ろを確認すると、追手の男たちは既に引き返して、元来た階段を上り始めている。あれなら宇宙空間に吸われることはないだろう。

 

「よーし、行っくよー!」

 

キュベレイは勢いよくスラスターを吹かし、一気に宇宙空間へ躍り出る。ジュドーは安堵の溜息をついてから、手持ちの端末を取り出して目の前にかざし、光彩を認識させる。端末のホーム画面が一般的なOSのものからエゥーゴの特殊仕様に切り替わり、さらにいくつかの操作で宙域情報を受信させると、付近の友軍機が表示された。

 

「よーし…近くにいるな!」

 

ジュドーはその青い3つの光点を見て、笑みを漏らした。

 

 

 

 

『ジュドーの反応、確認したよ!』

 

コアベースのエルから通信が入り、ウトウトとしかけていたビーチャは慌てて端末を確認する。

 

「お、おう、こっちも確認したぜ!」

 

『アクシズのMSの反応と重なってる…?緊急事態みたいね、急ぐわよ!』

 

コアトップのルーからも連絡が入る。それとほとんど同時に、コアトップとコアベースが、ダミー隕石の中から現れて颯爽とジュドーの反応目掛けて飛んでいく。

 

「お、おい待ってくれよ!」

 

やや遅れて、ビーチャのコアファイターも飛び出した。

 

 

 

 

 




なんだかジュドーはずっと走りっ放しでしたね。
書いてる方もこの辺りは勢いでやっていたような気がします。

ちょい役でしたがプル付きのお姉さんたちはなかなか気に入っています。この後出る予定はありませんけどね(笑)。
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