シン訳 機動戦士ガンダムZZ   作:溜め無しサマソ

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 デブリや隕石が多く、とてもきれいな宙域とはいえない。だがこの宙域こそ、人類が最初に宇宙植民を開始したサイドなのだと思うと、心が震える。

 

「ああ、ハマーン様。このマシュマー・セロ、必ずやこのサイドの者たちと心を通わせてみせましょう。そして皆で力を合わせ、アーガマとZガンダムを打倒してみせます!」

 

ハマーンから直々に手渡された一輪のバラの花に顔を近づけて、アクシズの若き士官、マシュマー・セロは誓いを新たにしていた。

 

端的にいって、マシュマーはハマーン・カーンに心酔している。先のエゥーゴ、ティターンズとの三つ巴の争い、グリプス戦役におけるハマーンの活躍にアクシズの将兵たちは大いに感じ入っていたが、マシュマーは士官学校にいた頃から、アクシズの君主であるミネバよりハマーンに強く惹かれていた。若くして摂政の座につき、軍事・政治のセンスに長ける上、いざとなれば兵の先頭に立って戦う。さらにはあの気品と美しさだ。

 

あのような方と共に同じ時代を生きられることだけも幸運だというのに、直に声をかけられ、手足となって働くことができる…まさに無上の喜びだ。手元のバラをうっとりと眺めつつ、マシュマーはハマーンの姿と声を反芻させていた。これはもはや心酔というより崇拝に近いかもしれない。

 

「マシュマー様、入りますよ」

 

ドアがスライドし、一人の青年将校が入ってきた。

 

「おま!ゴットン!いきなり入って来るやつがあるか!!」

 

「いえ、お声掛けしましたよ。それにブリーフィングルームに入るのに別に断りなんてなくてもいいでしょう…ああ、またハマーン様のバラ、ですか。良く持ちますね?」

 

「またとは何だ!コーティングしてあるんだよ!」

 

「はあ、そうなんですか…」

 

ゴットンと呼ばれた男の視線が、マシュマーの手元で止まっている。ゴットン・ゴー、マシュマーの副官として今回の出撃に加わっており、マシュマーの意を汲んでよく働いてくれている。マシュマーとは士官学校時代から気の置けない仲ではあるのだが、こういう無粋なところがあるのはいかんともしがたかった。

 

「…お前、一体何の用だ!」

 

「ああ、はい。ガザCが妙なものを捕まえまして」

 

「航路の露払いをしているガザCか?何を捕まえたというのだ?」

 

ガザCはアクシズの量産型可変MSだ。やや型落ちの感はあるものの、これに乗り慣れた兵は多く、まだまだ一線を張っている。

 

「ええ、ポッドのようなものかと思いましたら作業用のプチ・モビルスーツでして、中に少年が乗っていたんです」

 

「何と!その少年、無事なのか?」

 

「ええ、ピンピンしています。しかし何でまたこんなところにいるんだと聞いたところ、こっちが聞きたい、などという始末でして」

 

「ふうむ…その少年、シャングリラから来たのか?」

 

「さて、方向としてはそちらから流れてきたようですが」

 

「ふふふ、そうか。よし、その少年と会おう。ここに呼んで来い」

 

「え、いやちょっと待って下さいよ。少年テロリストなんてのもいるご時世なんです。身元がわからんうちはさすがに危険ですよ」

 

「ボディチェックをしっかりやればいいだろう!いいから連れてこい!」

 

まだ何かいいたそうなゴットンであったが、直接口答えするようなことはせず、「了解しました」とぶっきらぼうにいってから、下がっていく。マシュマーはフン、と鼻を鳴らしてから、

 

「シャングリラの少年か…使いようがあるな」

 

そういってまた、胸のポケットにあるバラに触れた。

 

 

 ジュドーはすっかり参っていた。ここで何をしていた、といわれてもここでは何もしていない。正直にジャンクを集めていた、といっても、お前みたいな子供が何故そんなことをしている、とまるで信じてもらえない。

 

「あのさ、兵隊さん。さっきから説明してる通り、俺だって投げ飛ばされてここに来たんだ。そりゃあ拾ってもらったことには感謝するけどさ、こんないたいけな少年をいつまで捕まえておくわけ?」

 

本来の用途は不明だが、薄暗く狭いその個室は取調室に思えないこともない。ジュドーは、ノーマルスーツのまま、そこで二人の兵士から尋問を受けていた。

 

「まあお前みたいな子供が何か企んでいるとは思えんが、こっちも仕事なんでな。船に入れた民間人の調書は取っておかなきゃならないんだよ」

 

生真面目そうな兵士がそう答え、ジュドーは溜息をついた。

そこで急にドアがスライドしてまた兵士が入ってきた。ただ、身なりから察するに、そこそこ偉い人のようだ。ジュドーを尋問していた兵士が直立して敬礼を取った。

 

「ゴットン様!どうされたのです?」

 

「ああ、ご苦労。マシュマー様がこの少年と直に会いたいんだと。連れて行くぞ。取りあえずノーマルスーツを脱がしてボディチェックだ」

 

兵士が「はっ」と短く答えると、ゴットンの後ろにいた兵士と合わせ、3人がかりでジュドーは取り押えられた。

 

「え、何、ちょっと、なにするの!」

 

さすがにプロの軍人といったところか、ジュドーはあっというまに身ぐるみはがされ、ボディチェックはあっさりと終わって、そのまま部屋を連れ出された。

 

「ふー、全く荒っぽいことは勘弁してよ。俺ってばバリバリの民間人なのよ?」

 

「ああ、よくわかったよ。しかしお前、ここは軍艦だぞ?もう少し緊張でもしたらどうだ?」

 

「軍艦だとか軍人だとか、そんなことでいちいち緊張してたら大人相手に金は稼げないからね」

 

「全く最近のガキは…それ、その部屋だ。いいか、これから会うのは一応、この艦で一番偉いお人だ。くれぐれも粗相の無いようにな」

 

ゴットンはそういいながら扉の前で「よろしいですか?」と声をかけた。すぐに「入れ」という声が聞こえてくる。溜息なのか何なのか、扉がスライドするのと同時にゴットンが小さく息をついたのにジュドーは気が付いた。

 

「よく来たな、少年。まあ座れ」

 

戦闘前ともなれば多くの兵士が詰めることになるブリーフィングルームは、広い。座れといわれてもあちこちに長椅子とテーブルがあり、どうしたものかと思っていたら、ゴットンが手近な長椅子を指したので、そこに腰掛ける。するとすかざず対面に、座れといった張本人が座り、ゆったりと足を組んだ。ゴットンと、ジュドーを尋問していた兵士は立ったまま、その男の両脇についた。

 

「少年、シャングリラから来たのか?」

 

「そうだけど…」

 

「そうか。ジャンク集めをしていたそうだな。子供がそんなことをしていて問題は無いのか?」

 

「少年とか子供とか…俺にはジュドー・アーシタって名前があるんだけど」

 

少しむっとした口調でジュドーがそういうと、相手の男は目を丸くしたあとで笑い出した。

 

「そうか、これは失礼をしたアーシタ君。ならば私も名乗ろう、この巡洋艦エンドラを率いているアクシズの騎士、マシュマー・セロだ。ああ、何か飲み物でも用意させよう。何がいいかな?アーシタ君」

 

「…ジュドーでいいよ。じゃあ何かスカッとするやつを頼むよ」

 

「そうか、ジュドー。うん、では私のこともマシュマーと呼ぶといい。おい」

 

そういって、マシュマーはジュドーを尋問していた兵士に声を掛けた。兵士は頷いて奥に向かい、すぐに飲み物のパックを持って来た。

 

「ここで一番人気のドリンクだ。お前も気に入ると思うぜ」

 

兵士はそういって、パックをジュドーに手渡した。

 

「サンキュ」

 

そういってから、ジュドーはひどく喉が渇いていることに気が付いた。早速パックに備え付けのストローを起こして一気に吸い上げる。

何かの果物のような、さわやかな酸味と少し遅れてじわりと甘味が口の中に広がってくる。確かに、美味い。

 

「へえ、美味いね、これ。兵隊さんたちはこういうの飲んでるんだ」

 

「いつもというわけではないが…まあ、気に入ってくれて何よりだ。それでジュドー、君に聞きたいことがあるのだが、いいかな?」

 

マシュマーが組んでいた足を直し、ジュドーに向き直った。その神妙な様子に少し警戒感を覚えながらも、ジュドーは頷く。

 

「俺に答えられることなら」

 

マシュマーも頷く。

 

「シャングリラの住民はジオンについてどう思っている?」

 

「え?ジオン?ジオンってあの一年戦争で地球にコロニーを落とした?」

 

「…そうだ、そのジオンだ」

 

マシュマーの顔が少し歪んだ。

 

「うーん、よくわかんないけど、まあ、あんまり評判はよくないかな。サイド1も一年戦争の頃に大分やられたからね。今でも根に持ってる大人はたくさんいるって感じかな」

 

「そうか…」

 

「アクシズってのはさ、そのジオンの人たちなんだよね?」

 

「そうだ。一年戦争後に地球圏を逃れたジオン公国の者たちが集まった場所であり、組織の名だ」

 

「だからなんだろうな。ジオンの亡霊が今更何の用だって、そういう大人は結構いたな」

 

ジュドーはドリンクの残りを一気に吸い上げた。マシュマーたちは黙ってそれを見ていた。

 

「あ、別に皆さんがどうこうっていうことじゃないんだぜ。あくまで周りの大人たちの話ってことでさ」

 

さすがに、そのシリアスな反応を見てジュドーも少し気を遣った。

 

「いや、よく包み隠さず話してくれた。礼を言うぞ、ジュドー」

 

「あ、ああ…」

 

マシュマーが慇懃に頭を下げるので、ジュドーは意表を付かれた。このマシュマーという軍人からはある種の清々しさが感じられる。こういう大人もいるのか、と思う。

 

「ジオンとは、スペースノイドの自治独立を求めて立ち上がった偉大な人物の名だ。その名を冠する我らは、スペースノイドの代弁者たることを自負している。故に…だな、コロニーの住民たちからそのように思われているのは実に、その…つらい、つらいのだ」

 

マシュマーはそういって立ち上がり、士官服の短いマントを翻して背を向けた。そしてそのまま、しばらく黙っている。ジュドーはゴットンたちに目で問いかけたが、そっぽを向かれた。するとようやく、マシュマーが顔だけをこちらへ向ける。何だか芝居がかった動きだ。

 

「わかるかジュドー、人類はもう母なる地球を離れて宇宙で暮らしていける術を手に入れたのだ。本来であれば新たなステージに立った宇宙の民こそ、人類の主役となるべきなのに、それがどうだ?地球連邦政府はそのスペースノイドたちをあくまで地球から押さえつけ、縛り付けようとする」

 

マシュマーは手を伸ばし、天を…軍艦の狭い天井を仰ぐ。

 

「その地球連邦の軛を断たんと立ち上がったジオンは、しかし、倒れてしまう。ジオンの遺志を継いだザビ家も奮戦届かずあともう少しのところで裏切者たちによる偽りの終戦協定により兵を退かざるを得なかった…。スペースノイドのために戦っていながら今にいたるもその思いが報われることもなければ理解されることもない…。我らは、我らジオンは本当につらい、つらいのだ!」

 

両手を広げて大仰にポーズをとったところでようやく、マシュマーの小芝居が終る。悪い人ではないようだが、かなり独特の人ではあるようだ。

 

「マシュマーさんってさ、いつもこんな感じなの?」

 

小声でゴットンらにそう尋ねると、彼らは何も言わずに目を瞑って頷いた。なるほど、こういう上司を持つと部下も大変だろう。ジュドーも軽く頷いた。

 

「ロマンチストだね、マシュマーさんは。そんな風にいわれると…まあ、ジオンも悪くないかなって思えてくるよ」

 

「おお!そうか、そう思ってくれるか、ジュドー!」

 

素早くやってきた満面の笑みのマシュマーに両手を取られ、ジュドーは苦笑した。そこへ、備え付けのインカムが鳴り響く。慌ててゴットンがそれを取った。そしてすぐに、

 

「何?ゼータガンダムだと!?」

 

そんな声が響き、全員がゴットンに注目した。その隙にジュドーはマシュマーの手を振りほどく。

 

「どうしたゴットン!ゼータガンダムがどうかしたのか!」

 

「あ、はい。ゼータガンダムを確認したとの連絡です。至急ブリッジまで来てほしいとのことでした」

 

「ほう…そうか、ほう…ふっふっふ、私にも運が向いて来た!」

 

マシュマーがまた大げさに両手を広げてわめく横で、

 

「ゼータガンダムってあのゼータのこと?エゥーゴの?」

 

ジュドーは戻ってきたゴットンに尋ねた。

 

「そうだよ。さ、お前はさっきの尋問室に戻れ。これから戦闘になるかもしれんからノーマルスーツを…」

 

「いやジュドー、お前はブリッジに行け!アクシズの、ジオンの騎士の戦いをその目に焼き付けるのだ!」

 

「はあ?マシュマー様、まさか出撃なさるおつもりで?」

 

「当然だ!ガルスJの整備は終っていたな。私はすぐに出る!お前はブリッジに戻ってゼータガンダムをしっかりと捕捉しておけ!」

 

いうが早いか、マシュマーはさっそうとマントを翻して床を蹴った。

 

「あ、ちょっと、マシュマー様…っておい、小僧!」

 

ゴットンの声をすり抜けるように、ジュドーはマシュマーの後を追って飛び出した。

 

「悪い、ゴットンさん!マシュマーさんの方が面白そうだ!」

 

「な…」

 

その理屈も何もない言葉に、ゴットンは伸ばした手の行き場を失う。

 

「あの、追いかけましょうか、ゴットン様?」

 

兵士がそういったが、ゴットンは首を横に振った。

 

「放っておけ。マシュマー様が何とかするだろう。それよりブリッジに行くぞ。ゼータガンダムを見失ったらそれこそ大目玉だ」

 

「そうですね」

 

二人はそこで苦笑しながら、ブリーフィングルームを後にした。

 

 

 

 

 

 

 




マシュマーが出てくると一気にZZ感が高まっていいですね。好きなキャラクターです。
しばらくは週末更新のペースで進められると思います。
よろしくお願いします。(2025年4月26日)
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