アーガマはミアとジュドーのフォローと、本来の任務である威力偵察を兼ねて、かなりアクシズに近づいていた。いざとなれば新装備のハイパーメガ粒子砲を撃って場を荒らすことも考えており、クルーは皆ノーマルスーツを着込んで第二戦闘配置を取っている。
「ビーチャ機と…本当にキュベレイです!黒いキュベレイが着艦しました!」
トーレスの報告と同時に、ブライトはMS格納庫の映像を確認する。もう、この子供たちが何をしてもいちいち驚かないようにしようと心に誓う。
「ジュドーが鹵獲してきたとでもいうのか?」
「どうなんでしょう?説明している暇はない、ということですが…」
そこへ、格納庫から通信が入る。
『ブライト艦長、ビーチャです!』
「ああ、お前何を考えている?あのアクシズのMSと取引をしようというのか?」
先程のビーチャの呼び掛けについては、もちろんアーガマでも聞いている。
『あのMSのパイロット、知ってるんですよ。アクシズでもかなりいいところ出のボンボンなんですよ、アイツ。』
「交渉の余地があるということか?」
『ダメなら人質の価値もあるってことです。あと、キュベレイのパイロットもいるんですよ。女の子なんですけど、あのMSってニュータイプじゃないと動かせないんでしょ?だとするとそっちもアクシズにとっては重要なんじゃないっすかね?』
ビーチャはどうも、こういう謀略、平たくいうと悪だくみを巡らせるような傾向がある。生き抜くために知恵を働かせるのは大いに結構だが、こういう才能(?)を果たして伸ばしてよいものかどうか…。
「ビーチャ、お前はそのキュベレイのパイロットと一緒にブリッジに上がって来い。ジュドーはコアファイターで出撃、それからイーノとモンドを百式とメガライダーで出せ。アーガマの周りにいるだけでいい」
メガライダーは先日アナハイムから納入された大型のサポートメカで、MSを数機乗せて大気圏内では飛行を可能にし、宇宙空間では航続距離を延ばすといういわゆるサブフライトシステム(SFS)にカテゴライズされる機体である。ただ、このメガライダーは普通のSFSには無い多くの特徴を有している。MSが機体をまたがる恰好で乗ること、機首に強力なメガ粒子砲を装備していること、さらにコクピットスペースが広く、機内で数人が十分に寝泊り出来るという簡易移動基地の機能を持っていることなど、今のエゥーゴの戦略に沿った少数精鋭のMS部隊運用…まさにそれをサポートする目的で開発されていた機体だ。
あちこちから『了解』の声が返って来たところまでは良かったのだが…ジュドーのコアファイターと、それを追ってモンドの量産型百式改を乗せたイーノのメガライダーが出撃してもなお、ビーチャが来ない。ブライトの様子を察したのか、トーレスが格納庫と連絡を取った。
「艦長、あのキュベレイのパイロットが駄々をこねているようです。ジュドーが一緒じゃなきゃ嫌だ、とか」
「何をやってるんだ…もういい、ここはしばらく頼むぞ」
ブライトは素早くキャプテンシートを後にする。
「全く最近の子供たちは…」
移動しながらそんなことを口にしていると、頭の中をアムロやカミーユ、それから自分の子供たち…ハサウェイとチェーミンの姿がよぎっていく。
「子供…か」
そんなことを呟きながら格納庫に着くと早速、メカニックの面々がキュベレイの周りでたむろしているのに出くわす。
「パイロットは出て来んのか?」
アストナージとビーチャが一緒にいるのを確認して、ブライトもその輪に入り込む。
「あ、艦長。そうなんですよ。外からは全く操作を受け付けなくて…」
「ジュドー、ジュドーばっかなんすよ」
この二人は声が似ていて、うっかりしているとどちらが話したのかわからなくなる時がある。ブライトはパイロットスーツのビーチャと、ノーマルスーツのアストナージの顔をよく確認して頷く。
「機体のデータは取っているのか?」
「ええ…まあ外から取れる範囲では、ですけどね」
アストナージの返事を聞いて、ブライトは床を蹴って飛んでいく。
「一人じゃ危ないっすよ!」
すぐにビーチャが付いて来たが、それを待つことなくブライトはコクピットに取り付いた。
「キュベレイのパイロット、聞こえるか?」
ハッチを軽く叩きながら柔らかい声音でそういうと、
「ジュドーじゃないと話さないよ!」
本当に、女の子の声が聞こえて来た。ビーチャのしかめ面が横目に入る。
「そうか、すまないがジュドーは仕事でね、代わりに少し話をさせてほしいんだ。君は何という名前かな?」
少しの沈黙の後で、
「エルピー・プル…」
そんな、小さな声がする。
「そうか、エルピー・プル…君のお父さんやお母さんはアクシズにいるのかな?」
「そんなのいないよ!お姉ちゃんたちはいるけど…」
嫌な予感ほど当たるものだとブライトは常々思っているが、今回もそういうことかもしれない。この子はニュータイプの素質を持つ戦災孤児か、それとも…。
「そうか…悪いことを聞いたな。ジュドーとはどこで会ったんだ?モウサの街中かな?」
「そう、だけど…」
「ジュドーは…アイツは妹を探しているとかいっていなかったか?」
「そう、そうだよ!リィナ!私知ってるんだ!」
上手く話がかみ合いそうだ。ブライトはビーチャに向かって笑って見せる。
「そうか。アイツはずっとリィナを探していたんだ。エルピー・プル、ジュドーを手伝ってやってくれるか?」
「うん!」
「ならジュドーが仕事から帰って来るまで、少し待ってくれるか?」
「いいよ!」
「よい、いい子だ。ならそれまでアーガマの中を歩いてもいいぞ。飲み物でも用意して、ジュドーが帰って来たらびっくりさせてやろう」
「うん!」
キュベレイのコクピットハッチが勢いよく跳ね上がる。メカニックたちはブライトの子ども扱いの上手さに思わず拍手を送っていた。
「ん…お前たちも子供が出来れば、な…」
気恥ずかしくなってそういいながらコクピット内を見ると、確かに小さな女の子の姿がある。ブライトは手を伸ばし、小さな手もそれに応じた…かに思われた。
「え、何?ハマーン様…?怒ってるの…!」
だが、その小さな手は途中で引き返して、自身の頭を覆う。
「どうした、エルピー・プル?」
「わかんない、わかんないけど…どいてっ!」
再び、コクピットハッチが閉じ、ブライトとビーチャは振り落とされる。
「何だ、どうしたっていうんだ!」
『そこを開けて!開けないと壊して行くよ!』
キュベレイの周囲にファンネルが数基、浮かび上がる。本気で言っているらしい。
「わかった!開けるからもう少し待て!全員退避だ!」
こういう時のクルーの動きは素早い。ジュドーのために閉じていたエアロックをプルのために開く。キュベレイMKⅡはそこからカタパルトデッキに進み、さっさと発艦してしまった。
『何だったんです、ありゃあ…』
ビーチャの声に、ブライトも首を傾げる。
「わからん。だが…ああいう情緒の不安定さというのは…気になるな」
強化人間…経験上、やはりその言葉がブライトの頭をよぎった。
「ん、何だ?言い合いになってる…?」
コアファイターに乗り換えたジュドーがルーとエルの近くまで来ると、回線が急に騒がしくなった。
『ルーさん、やはりあなたはこんなところで戦っていてはいけない人だ!私と共にアクシズに来て下さい!』
『しつこいっての!大体あんたに私の何がわかるってのよ!』
グレミーとルーが何やら盛り上がっているようだ。
「おいエル、どうなってるんだ?」
『あ、ジュドー!来たんだ!いや、もうルーが口説かれちゃってさ、大変なの!』
「ああ?口説かれてるって、グレミーにか?」
『ちょっと!余計なこといってないで!さっさとドッキングするわよ!』
苛立ったルーの声が聞こえる。その言葉通り、ルーはコアトップの機首に配されているダブルビームライフルを撃ってグレミー機を牽制し、ジュドーのコアファイターに寄せてきた。エルのコアベースも続いて来る。何だかよくわからないままではあったが、ともかく合体体勢に入った3機は、無事にダブルゼータへと姿を変えた。ジュドーはグレミーに向けて回線を開く。
「グレミーさん、余計な事話してる場合じゃないんじゃない?さっきいわれたこと、覚えてる?」
『む、ジュドー・アーシタか…!』
「ああそうだ。リィナとミアさんを返さないと、あんたをここで墜とすぞ!」
『何を…!リィナは私が救ったのだし、ミアさんはお前が勝手に置いていったんだろう!返せなどといわれる筋合いは無い!』
「あ…そりゃそうかもしれないけど…」
痛い所を突かれてしまった。ジュドーも根がお人よしであるため、そういわれると言葉に詰まってしまう。
『しかもプルをかどわかしてキュベレイまで奪っていくとは…!このグレミー・トト、貴様のような奴は決して許さんぞ!』
「いや、あいつは自分の意思で来たんだけど…」
『ええい、最早語る言葉はない!行くぞ、ジュドー・アーシタ!』
グレミーのMSが唸りを上げてビームライフルを連射してきた。重量級のダブルゼータは初速が遅いため回避は間に合わず、それをシールドで受けてからすぐにダブルビームライフルで応戦する。狙いはつけていたが、このタイミングでは少し遅い。当然かわされるだろう…と、撃ったジュドー本人でさえそう思っていたのだが、開きっ放しの回線からはグレミーの悲鳴が聞こえてきた。見れば、グレミー機の右脚が火を噴いている。
直撃はしていないが、2本のビームの射線が機体をかすめただけでもそれだけの威力があるのだ。さらに、グレミーの運が悪いのか、ダブルゼータのパワーがすごいのか、それが本体に飛び火したらしく、大爆発を起こした。
「あ!マズイ!」
咄嗟にジュドーはそう叫び、脱出ポッドでも飛んでこないかと近付く。いろいろと死なれては困る理由がある相手なのだ。だが、ジュドーには知る由もないことだったが、それは迂闊な動きであった。
グレミーの機体、「バウ」には上半身と下半身の分離・変形機構がある。まさに「Z計画」の血を引いた機体であることを体現しているような機構なわけだが、この変形はやや特殊で、上半身が変形した戦闘機「バウ・アタッカー」が、下半身が飛行形態に変形した「バウ・ナッター」を無線誘導でコントロールするという運用になっている。グレミーの機体は今、ダブルゼータによって下半身を破壊されたが、上半身が変形して撃墜の難を逃れたばかりか、反撃に転じようとしている…つまり、ジュドーは完全に不意を打たれる形になっていた。が、
『ジュドー!』
『危ない!』
コアファイターのエルとルーからの声で、目の前の敵がまだ戦闘力を失っていないことに気が付く。
「んなろー!」
ジュドーは敢えて距離を詰める選択をする。左腕のシールドを押し出して突進すると、
『なあっ!?』
オレンジの戦闘機は質量差に押し負けて、妙な声と共にあっさりと弾き飛ばされた。吹き飛びながらあらぬ方向に発射されたビームライフルの火線が、哀愁を誘う。
「終わりだグレミーさん!もう抵抗するな!」
そういいながらダブルビームライフルをバウ・アタッカーに向けて構えたところで…脳を刺すような、強烈なプレッシャーに襲われた。
「な…これって…!」
『ジュドー、もうダメだよ!ハマーン様が怒ってる!』
後ろからプルのキュベレイMKⅡがやって来る。
「何?ハマーン…だって!?」
構えたライフルの向こうに、白いオリエンタルな顔立ちの鬼面が浮かび上がっていた。それは、ジュドーの「恐怖」の原点だった。幼い頃に博物館で見て強烈な印象を与えられ、その夜は恐くてねむれなかったほどで、未だに頭の中で恐いものといえば結びつくイメージになっている。
その、ジュドーにとっての恐怖の象徴が、ゆっくりと白いキュベレイに姿を変えながら目の前に現れた。左右に派手な装飾の施されたMSを従えての堂々たるご登場である。いつの間にか口の中が乾いているのを感じながら、ジュドーはその白い機体に話しかけた。
「ハマーン…本当に、あんたなのか…」
『ジュドー・アーシタ、私の庭で散々舐めた真似をしてくれたようだな』
「俺は妹を助け出したかっただけなんだけど…お騒がせしちゃったようね」
そういったところで、ルー機とエル機が牽制のミサイルを撃ち、さらに後ろから百式と、それを乗せたメガライダーが接近してくる。
『ジュドー!ハマーンって聞こえたけど…!』
『ハマーンってアクシズの親玉だろ!?』
「イーノ、モンド、お前たちは下がってろ!あの白いキュベレイにはいくら頭数を揃えても無駄だ!」
『ほう、よくわかっているじゃないか』
という、こちらを嘲笑うかのようなハマーンの声が聞こえたかと思うと、あの、「ファンネル」が白いキュベレイから渦を巻くように飛び出していた。
さりげなくビーチャとアストナージの声優ネタを入れてみました。
メガライダーは放映当時キット化するかと思っていたらしませんでしたねー。最近になってビルドファイターズの百万式にくっつけるメガライドランチャーというのが出ましたが、正規のスケールのものは未だ発売されておらず残念です。
まあ、出たら出たで相当の大型キットになるので、置く場所を確保するのに苦労しそうですがね…。