シン訳 機動戦士ガンダムZZ   作:溜め無しサマソ

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 確実に対象を狙うならやはり実弾が有効だと聞いたことはあったが、まさか身をもってそれを知らされることになるとは思わなかった。

カミーユは、自分の足元に転がった複数の弾丸を見てここにファがいなくて良かったと、心から思う。そして、自分が暗殺の危険にさらされているというのは本当のことなのだと、改めて認識せざるを得なかった。

 

「本当に、狙われているんですね、俺は…」

 

マントのようなものでカミーユを助けてくれた見知らぬその男は、無言で頷くと左右を見回してから走り去っていく。

 

「アナハイムの人か…危なかったな…」

 

そういった直後、

 

「大丈夫ですか!」

 

と、見知った男たちが血相を変えて駆け寄って来る。アナハイム・エレクトロニクス社セキュリティ部から護衛に付けられた二人だ。

 

「ええ、別の方が助けてくれました。俺なんかのために随分人を割いているんですね、アナハイムも…」

 

カミーユのその言葉に、男たちは顔を見合わせる。

 

「いえ…ビダンさんとユイリィさんの護衛に当てられているのは私たちとハウスキーパーの2名のみでして…その、別の方、というのは…?」

 

「え…?体格のいい人で、マントのようなもので俺をかばってくれましたけど…」

 

男たちは一瞬、訝し気な表情をしたが、すぐに、

 

「…そうですか、とにかくご無事で何よりです。我々もまさかこんなところにまで危険が迫っているとは思いませんでした。とにかく、このままの移動は危険です。車の方へ」

 

そういって外から見ても特殊な装甲が施されていることがわかるその車に、カミーユを促した。

 

 シャングリラ宙域での一戦の後、カミーユとファは中破したメタスと共にアナハイムエレクトロニクスのグラナダ支社に引き取られ、付近に住居も与えられてそこで暮らしていた。二人ともハイスクールレベルの通信教育を受けさせてもらえることになり、同時にグラナダ支社でパートタイマーとして働いてもいる。

 

「このままお送りするということで…問題はありませんか?」

 

「ええ、別にケガをしたわけでもありませんし、構いませんよ」

 

「わかりました…」

 

今日はこれからそのパートの仕事があるのだ。車はちょっと異常なスピードで走り、郊外にある大きな建物に入る。そこで厳重なチェックを受けて、カミーユは「職場」へ向かう。ロッカーで着替えてモニタルームに入ると、それに気付いた中年の男が文字通り、飛んで来た。

 

「カミーユさん、聞きましたよ!ご無事なんですか!?」

 

「ああ、フロストさん、大丈夫です。さすがにびっくりしましたけどね。トライアルの方は問題無く行けますよ」

 

MSの開発技師をしているフロストは、ここでのカミーユの世話係も兼ねている。サイコミュ関連から装甲・フレーム素材にまで精通したスペシャリストだ。

 

「そうですか…今日はインコムの実働テストもあるので…その、メンタルに何か不安要素があれば言って下さい」

 

「はは、気にし過ぎですよ。実際に戦闘をするのでなければ本当に何ともないんですから…ええっと、ガンダムMK-Ⅳ、でしたね?」

 

「はい…では、MSデッキの方へ行きましょう。細かい調整がありますので…」

 

カミーユは頷き、二人はこの広い実験施設の中庭に面しているMSデッキに向かって行った。

 

 

カミーユの「仕事」とは、MSのテストパイロットだ。

この仕事はカミーユ自身から申し出た。アナハイムに引き取られてからの待遇は破格、といっていいものであったため、いくらグリプス戦争での戦功を鑑みた恩給代わりなどといわれてもさすがに何もしないわけにはいかないだろう…と、カミーユとファは相談の上で判断したのだ。自分たちに出来ることといえば結局テストパイロットくらいしか思いつかなかったわけだが、アナハイムにとってみれば実戦慣れしたニュータイプが専属テストパイロットを務めてくれるなど願ってもないことであり、カミーユとファは提示されたさらなる好待遇に苦笑いをして応じたものだった。

 

カミーユが定期健診を受けることが条件とはなったが、今の所戦闘に関わるのでなければ問題ない、というお墨付きを専属の医師から得ている。実際ここ数か月の間、心身に異常はなかった。

 

 

「しかし、本当にありがたいですよ。あのカミーユ・ビダンが専属のテストパイロットになってくれるなんて…」

 

もう、何度聞いたかわからないそんな言葉をコクピットで聞きながら、カミーユは機体の調整を進めていた。

 

「出来ることといえば、これくらいのものですからね。サイコミュの起動を確認…ああ、こんな感じなんですね」

 

「サイコミュといっても簡易版です。お、さすがですね。こんなに適応範囲が広いとは…」

 

手元の端末で調整数値をチェックしているフロストが、そんな言葉を漏らす。

 

「どういうことです?」

 

「ああ…普通は、ですね、脳波にも人によってクセのようなものがありまして、それを…今回の場合でいえばこのインコムシステムと同調させなければ上手く起動しないんですよ。ところが、カミーユさんの場合はほとんど調整抜きでそれが出来てしまう…すごいもんですよ」

 

「ああ、そういうことですか…。それはこれが簡易サイコミュだから、でしょう?本当のファンネル何かだともっとシビアな調整が必要なんでしょうけど」

 

「そりゃそうなんですが…自分はサイコミュ兵器に携わってはいましたけど、正直あなたに会うまではニュータイプっていう存在には半信半疑だったんです。これなんかですね、誰にでも使える簡易サイコミュだといっておきながら人によって念入りな調整が必要だから、実質最初に乗った人の専用機になっちゃう可能性があるんですよ」

 

「それは可笑しいですね。誰にでも使えるはずなのに?」

 

「そうなんです。だから、こういうのを見るとね」

 

フロストは、苦笑しながら端末を見せる。そこにはインコムシステムの起動に推奨される脳波の波長域と、現在のパイロットの波長強度が示されている。端的に言って、カミーユの脳波がオーバースペックであることが一目でわかるものだった。

 

「もう細かい調整だのなんだの、そんなのとはレベルが違う。嫌でもニュータイプってのはいるんだなって思わされますよ」

 

「こんな風に数値化されるようになってるんですね…」

 

「ええ、サイコミュの研究はこのところ目覚ましい発展を遂げていますので、こういう目に見える形での指標はニーズがありましてね」

 

どうやら、アナハイムはこれからどんどんサイコミュ搭載機を生産するつもりらしい。

 

「目覚ましい発展…ですか。確かにサイコミュ兵器があればある程度は数的不利を覆すことも出来るでしょうからね」

 

「戦争のことはよくわかりません。けど、そう考えている連中は結構いるんでしょう。うちの上も含めて、ね」

 

自分の考えを読まれたかのようなフロストの言葉に、カミーユは微笑み、

 

「ニュータイプとかそんなのは関係無く、人は話をすればわかりあえるはずなんですけどね…」

 

そう、小さな声で呟いた。

 

「何か?」

 

「いえ、駆動系のチェックも終りました。いつでもいけますよ」

 

「お、その辺りもさすがですね。ではモニタルームとトライアル内容の最終チェックをしてきますので…少し待っていて下さい。よろしければ、これでも読んでいただければ」

 

渡された端末はアナハイムジャーナルの最新号を表示していた。巻頭にハマーン・カーンの姿があり、カミーユは思わず目を止める。

 

「何です、これ…?アクシズ潜入取材…?」

 

「ははっ、驚きでしょう?アナハイムの広報がアクシズに滞在しているらしくて、そこから記事を送って来ているんですよ。特集『モウサのカフェ事情』って…何をやっているんだかって感じなんですが…今、社内で話題になっているんです」

 

「へえ…アナハイムはエゥーゴに見切りをつけてアクシズにつこうっていうんですかね?」

 

「だから死の商人なんていわれるんです。全く、現場の身にもなってもらいたいもんですよ…と、それではちょっと行ってきますので」

 

「ははっ、了解です」

 

フロストが手を振って離れていき、カミーユはハッチを閉める。全天周囲モニタに切り替わったコクピット内で、カミーユはその話題の雑誌をめくってみた。

 

「美しき蝶、ハマーン・カーンとキュベレイ…本気で書いてるのか?これ…」

 

苦笑していると、モニタルームから発進の指示が届いた。

カミーユは読みかけの端末をしまい、ガンダムを起動させた。

 

 

 月面は緩いとはいえ重力がある。その微妙な感覚に注意しながら、カミーユは機体をチェックポイントへ移動させていく。

 

「ティターンズらしいクセはあるけど、いい機体だな」

 

今時のMSとあまり類似点のない、多くの曲面で構成された純白の機体は、カミーユの言葉通りティターンズで開発されたものだ。

 

「まあ、コイツもまさかアーガマに回るとは思ってなかったろうな。ジュドーたちの役に立てばいいが…」

 

そんなことを呟きながらビームライフルの照準を合わせて、目標を破壊する。

ガンダムMKⅡから続くこのMKナンバーを持つガンダムは、数奇な運命を辿ることが多い。この機体は今行っている実弾トライアルが終了後、異常がなければグラナダに停泊中のアーガマに渡る予定になっている。アーガマは現在、地球へ降下するための艤装改修を行っており、この機に合わせて戦力を増強しようということらしい。カミーユも折角なのでアーガマへ行ってみたかったが、暗殺の危険がある身ではそう自由にはさせてはもらえない。アーガマの方でも今、自分がどこにいるかは知らないはずだ。

 

『目標撃破を確認、続いてエリア移動後にインコムの使用をお願いします』

 

「了解です」

 

トライアルも後半に入る。カミーユは機体を滑らかにターンさせつつ指定のエリアに向けながら、インコムシステムを起動させた…その瞬間だった。簡易、とはいえそこはやはりサイコミュ、ということなのだろうか。急に鋭くなった感覚が、何か異物のようなものを捕らえた。

 

「ん…何だ…!?」

 

モニタを拡大していくと、そこには見慣れない輸送船が映りこんでいた。

 

 

 

 

 

「あれなんじゃないんですか?アナハイムの実験施設というのは…」

 

「おお、確かに…」

 

部下からの報告を受けてモニタを見ながら、ゴットンはそう呟いた。傍らにいた女性士官も頷く。

 

「MSが出ているな…あれはティターンズが開発していたガンダムか…お前たちの情報通り、ということか?」

 

「どうだイリア、我々の情報網もなかなかのもんだろう?アーガマの居場所はわからんが、ここでトライアルを行ったMSがアーガマに搬入されるってわけだから…」

 

「ここでMSを叩くも良し、泳がせてアーガマの居場所を探るも良し、か」

 

「そういうことだ」

 

ゴットンはその女性士官に得意げな笑みを見せた。

エンドラの生き残りたちはムーンムーンで捕虜同然の扱いを受けた後、金銭で何とか

解放され、ランドラの修理を行ってようやくモウサまで戻ったのだが…さすがに連戦連敗の上に余計な金まで使わせて戻って来たとあっては本国に居場所がなく、何とかして手柄を立てるためにアーガマが寄港しているという噂のあるこのグラナダに潜伏していたのだ。

 

「情報網などといって、汚い真似をしたんじゃないのか?ハマーン様のためにならない人物を消すようなこともしているらしいじゃないか」

 

「ふん、背に腹は代えられんよ。俺たちはアーガマを叩くためならなんだってするのさ」

 

「そうかい。まあ、そのために私もハマーン様からあの機体を預かってここまで来たんだ。チームエンドラの汚名返上には協力してやるよ」

 

この女性士官…イリア・パゾムは、ニュータイプと噂される逸材だ。ゴットンとは同格で兵科も違うため、特にぶつかる要素がなく、互いに互いを利用出来ればそれでよい、という間柄だ。

 

「ああ、いざという時は出撃してもらうさ。ただ、まだ出るとは…」

 

と、ゴットンが言いかけたその時、モニタ上の白いMSがこちらに突進して来るのが見えた。

 

「何だ!?見つかったのか!?」

 

「そ、そのようです!」

 

「ええい…MSは出られるな!」

 

「はい、クレイユがガ・ゾウムで待機中です!」

 

「よし、ネルとユラーもガザDで出してしまえ!ここは公表されていないアナハイムの実験施設だ。交戦状態になってもいくらでも言い訳が立つ!」

 

ゴットンの指示を聞いて、イリアが笑う。

 

「そうだな。どうせ乗っているのは民間のテストパイロットだろう。腕は良いだろうが実戦ともなれば恐れをなすはずだ。せいぜい脅して機体を奪うのもいいかもしれんな」

 

「ああ…一応お前も待機しておいてもらおうか」

 

「わかったよ」

 

そういって、イリアがMSデッキの方へ向かって行く。

 

「いいんですか、ゴットン様。このまま戦闘に入っても…」

 

部下の一人が不安気な声を出す。

 

「俺たちはもう、やるしかないんだ。こんな輸送船だがMSは全部で4機もいるんだ。やってやるさ…!」

 

ゴットンの目には、昏い炎が浮かんでいた。

 

 

 

 

 




今回から数話、グラナダのカミーユ編です。アニメ本編では「泣き虫セシリア」にあたる時系列になりますが、カミーユが健在であればここで絡むと面白いな、と思ってやっております。

フロスト、という人が出てきましたが、この人は逆シャアのオクトバーの知り合い、という脳内設定です。オクトバーが10月だから11月で霜月、フロスト…みたいな感じです。愛馬が狂暴な兄弟とは関係ありません。
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