シン訳 機動戦士ガンダムZZ   作:溜め無しサマソ

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 カミーユ・ビダンは確かに、少年の助けを求める声を聞いた。そしてクルーが制止するのも聞かず、ほとんど本能の命ずるままゼータガンダムに乗り、アーガマを発艦していた。

 

「聞こえたんだ、助けを求める声が、確かに…。向こうもわかっているはずだ…」

 

狭いコクピットで一人発する言葉とその息遣いは少し、荒い。カミーユは、MSに乗ることを禁じられていた。度重なる戦闘で蓄積されたストレスによるPTSDと診断され、MSへの搭乗はその症状を確実に悪化させると伝えられていた。

 

自覚もある。自分の精神の波が、自分という器から溢れ出ようとしている…。それを何とか押しとどめているのはいつも自分の傍にいてくれるファ・ユイリィという少女の存在…その表面張力がなければ自分はとっくに決壊していた…。それは、わかっている。

 

だがそれでも、出ていかなければいけない。そう感じさせるものが、その少年の叫び声にはあった。だが、

 

「あれは…しまった、アクシズの艦か…!」

 

いつのまにか、周囲のミノフスキー粒子が戦闘濃度にまで上がっている。岩石やデブリの多い宙域とはいえ、完全に目視できる距離まで敵の艦に気付かないなど、かつての自分ではありえないことだった。

 

「気付かれているな……来る!」

 

前方から現れた3機のMSが散開してゼータガンダムを囲むように迫って来る。あの緑色の艦から出てきたのだろう。先手を取られた恰好だ。カミーユは岩石から岩石へと機体を動かしながら、さらに荒くなってきた呼吸を何とか抑えて3方向からの敵機に注意を集中させる。

 

3機のMSは一定距離まで近づいて来てから、ほぼ同時に変形をした。その脚部から伸びた鋭い爪がゼータに襲い掛かる。データベースには無い機体だった。

 

「ガザCに似ているが…新型か。よく連携がとれている…!」

 

3対1、数の上では確かに不利だ。だが、ここは宇宙だ。地面があり、重力がある地球上ならばいざ知らず、上下左右の空間を利用出来る宇宙においてはこの程度の戦力差などは何の問題も無い…3機のMSの動きを見てカミーユはそう瞬時に感じ取っていた。

 

ゼータガンダムは一瞬にして飛行形態であるウェイブ・ライダーに変形して加速、あっという間に3機を出し抜いた。慌てた様子で追いかけてくる敵機の気配を背中に感じながら、カミーユは少しずつ速度を落とし、十分に引き付けて敵機からロックオンをされる寸前のところで機首を反転させ、機体を再度MS形態に戻した。

 

急に止まったゼータの動きに、3機のMSは対応できない。そのままゼータを追い越しながら、背中をさらすことになる。カミーユは落ち着いてビームライフルの出力を強めにして連射し、3機のうちの2機は、一瞬にして火球となって消えた。

 

「撃ち漏らした…!?」

 

残った1機は大きくターンして、丁度ゼータの真上、MSにとっては死角になりやすい位置に移動していた。変形を解くと同時に胴体に直結されたビーム兵器、ナックルバスターを構えたが、火を噴いたのはその銃口ではなく、機体そのものだった。

 

「変形を解除するのと同時に武器を構える…ガザCと同じか。パターンとして教え込まれてるんだな」

 

カミーユは事も無げにそいうと、真上に向けていたビームライフルを機体の胸元に持って来る。エネルギーパックをエジェクトし、シールドの裏にある予備パックに換装したその時、強烈な頭痛と吐き気に襲われた。

 

「うっ…!だめか、早く離れないと…」

 

そういいながら視界の隅に、新たな機影を確認する。モニタを拡大すると、そこには見慣れない緑色のMSと、プチ・モビルスーツの姿があった。

 

「あれは…そうか、あれが…!」

 

カミーユは心身の不調をなんとかこらえて各カメラを索敵モードに切り替えた。

 

 

 

「すげえ…一瞬で3機撃墜かよ…」

 

プチ・モビルスーツのコクピットで、ジュドーはゼータガンダムの戦闘を直に見ていた。ジオンの騎士の闘いを近くで見たい、といったらマシュマーは何やら感じ入った様子であっさり許可してくれた。無論、ジュドーとしては戦闘のドサクサで何とか逃げよう、としか考えていないわけだが…そんな企みを自分でも忘れるほど鮮やかなゼータガンダムの動きだった。

 

『馬鹿な…新型のガザD3機、ああも簡単に…!』

 

隣にはマシュマーの乗るガルスJというMSがいる。通信回線からはそのマシュマーの苦々しい声が聞こえてくる。それはそうだろう。MSは無人では動かない。仲間が3人、死んだということなのだ。

 

「マシュマーさん、ゼータガンダムは強いよ。ここは退いた方がいいんじゃない?」

 

『バカをいうな、少年!やはりゼータは危険な相手だとわかった。やつを生かしておいてはアクシズの、ハマーン様の災いの元になる!ここで、この私が討つ!』

 

マシュマーのような熱血タイプはこんな状況で人の話を素直に聞いたりはしない。むしろ熱くなってしまうのだろう。ジュドーは小さく舌打ちしてゼータガンダムの方を見た。向こうもこちらの出方を伺っているように見える。もし、ゼータガンダムに乗っているのがあの時アーガマから聴こえた声の主であったら、もしかしたら話が通じるかもしれない…とは思ったが、さすがに戦闘中にそんな悠長なことはしていられないだろう。

 

『ガザC隊出撃!エンドラは艦砲射撃で援護だ!ゼータガンダムの退路をふさげ!』

 

マシュマーの声に応じて、エンドラの主砲がゼータガンダムの方へ向く。強烈なビームの閃光が宇宙空間を走っていく。当たるなよ、とジュドーは祈りながらそれを見ていると、すぐにエンドラから増援のガザC3機が出てきた。艦砲射撃はそこで止まる。

 

『よし、ガザC隊、我に続けー‼』

 

マシュマーの号令とそれに応じる兵たちの声が聴こえ、ジュドーは一人、取り残される。

 

「あらら、置いてけぼりかよ。マシュマーさん、こうなると周りが見えないのね…」

 

そんなことを呟きながら前方を眺めていると、ビームの光芒が見える。戦闘が始まったかに見えたのだが…。

 

「あれ、ゼータガンダム、こっちに…!?」

 

変形したゼータガンダムが、4機のMSを大きく迂回しながらジュドーのいるエンドラの右舷側へ向かってくる。

エンドラの機銃による対空砲火が始まったが、それは高速のウェイブライダーが残したスラスターの光跡を追うばかりだった。

 

「直接エンドラを叩きに来たのか……いや、違う。ゼータガンダムは、俺に…!」

 

ゼータガンダムが近づくにつれ、ジュドーにははっきりとパイロットの意思のようなものが感じられた。

そして…ジュドーが感じた通り、ウェイブライダーは目の前で止まり、変形する。

 

『機銃掃射、止め!…いや、少年に当たらないようにやれ!』

 

こちらにターンしているマシュマーの声が入ってくると、対空砲火が弱まる。と同時に、エンドラはその巨体をゼータガンダムに寄せてきた。これは単純にジュドーを避けて機銃を命中させるための動き、というだけでなく、MSに艦のブリッジやバイタルパートを狙い撃ちされないように距離を殺すための動きでもある。

 

最も、それらの動きにジュドーの関心は全く無かった。ジュドーは目の前のMSの、そのコクピットであろう腹部の赤いハッチをじっと見つめていた。するとそれに応じるように、ガンダムが手を伸ばし、それがプチモビルスーツに触れる。

 

『君か、俺を呼んだのは』

 

「ああ、やっぱりあんたか」

 

互いに声を交わしたその時、ジュドーは広大な星空の中にゼータガンダムのパイロットを見た。まだ実際に顔も合わせていないにもかかわらず、ジュドーにはカミーユが見えた。二人の間に意思の奔流が生まれ、互いの頭を流れていきながらそれがどんどん共感となっていく…それは長い、とても長い一瞬だった。

ゼータのコクピットが開き、カミーユが姿を現す。

 

『こっちだ』

 

「わかった」

 

実際に口に出した言葉はたったのそれだけであったが、十分だった。ジュドーはプチ・モビルスーツのコクピットを開けて、ゼータガンダムのコクピットへ移る。コクピットハッチが閉まると、全天周囲モニターが周辺の空間を映し出した。

 

「うわ、これがリニアシートか…すごいな」

 

「すぐに慣れるよ。後ろにサブのシートがあるから引っ張り出して座ってくれ。ええっと…」

 

「ジュドー、ジュドー・アーシタだ」

 

「ああ、カミーユ・ビダンだ。それじゃ、この空域から離れよう。あのプチモビはレンタルか?」

 

「出来れば持っていきたいところだけど…」

 

「難しいかもな」

 

カミーユはそう答えるとの同時に、ゼータガンダムがゆっくりとプチモビを抱いた。シートを出しながら、ジュドーは右方向にマシュマーたちが迫っているのを確認する。

 

「出来ればあの人たちとは戦ってほしくないんだよね」

 

「ああ、…こちらもこれ以上の戦闘は…」

 

カミーユの様子が何となくおかしいことはジュドーも気付いている。

 

「だったら、俺を人質ってことにすればいいじゃないか。あの人たちはシャングリラの人たちと仲良くしたいらしいからさ、俺を攻撃するようなことはしないよ」

 

カミーユがモニタを確認しながら追ってきたMS隊の方に機体をターンさせた。コクピットが開け放たれたプチ・モビルスーツを盾にするような格好になる。

 

「迷っている暇はないみたいだ。悪いけどそうさせてもらう。ジュドー、回線を開くから向こうに上手く呼びかけてみてくれ」

 

ミノフスキー粒子散布下とはいえ、この濃度と、対象を目視できる距離であれば通信は可能だ。いきなりそんなことをさせるとは、このカミーユという人も随分と大胆だな、とジュドーは思ったが、分かり合えた者同士ならこんなものか、とも思う。

 

「このまましゃべればいいの?」

 

カミーユが頷くのを見て、ジュドーは小さく息を吸った。

 

「聞こえるか、マシュマーさん?俺だ、ジュドーだ」

 

その瞬間、マシュマー隊の動きが止まる。ややあって、

 

『ジュドー!無事か!何だ、まさかゼータに捕えられたのか!?』

 

そんなマシュマーの興奮気味の声がゼータのコクピットに響き、ジュドーとカミーユは顔を見合わせて笑う。どうやらこちらの思い通りに勘違いしてくれたようだ。

 

「ああ、そうなんだ。ゼータガンダムに捕まった。人質だ。この宙域を抜けるまでは手を出すなってさ」

 

『おのれゼータガンダムのパイロット…!聴こえているか!子供を人質にするなど、それでも戦士か!恥を知れ!』

 

ガルスJがジタバタと手足を動かしているのを見て、カミーユが回線を切った。

 

「ジュドー、やっぱりプチモビを持っていくのは無理そうだ」

 

「わかった。ま、アクシズの人たちも壊しはしないでしょ」

 

そのジュドーの返事を聞いて、カミーユはゼータガンダムを変形させた。コクピットが大きく動き、ジュドーは前のシートに頭をぶつけた。

 

「行くぞ」

 

カミーユがそういうのと同時に、ウェイブライダーは一気に加速する。ジュドーはシートにしがみつきながら、そのスピードに驚愕し、感動した。

 

「すげえ、これが可変機のスピード!」

 

「ああ…だが連中、追いかけて来ている。あの指揮官機、変形したガザCに掴まっているな…」

 

いわれて後ろを振り返ると、確かに変形したガザCがガルスJを引っ掛けて猛追してきていた。MSが変形した飛行形態というのは多くの場合、推力を得るためのスラスターの向きを揃えることで高速移動が可能になっている。そのため、飛行形態に変形可能なMSは変形の出来ないMSを一気に置いていくほどのスピードを出すことが出来るが、双方が変形可能となると一方的に振り切ることは難しい。

 

「どうするのカミーユさん、このままアーガマまでひとっ飛び?」

 

「いや…それじゃあ連中にアーガマの場所を教えるようなものだ…かといって…」

 

「他に行けるところもない?」

 

「ああ…」

 

「…随分行き当たりばったりなんですね」

 

「まあ…そういうなよ」

 

カミーユの呼吸が荒い。

 

「大丈夫ですか?さっきから苦しそうですけど」

 

「…実は、MSの操縦を禁じられているんだ」

 

「ええっ!?」

 

「君の声が聴こえたから、飛び出して来たんだ」

 

カミーユはそういって苦しそうに笑顔を見せたが、ジュドーは苦笑するしかなかった。

本当に腹案はないのだろう。この人は、ゲモンに吹き飛ばされていた時に自分が無意識のうちに発していたであろう「助けてくれ」という思いを感じて、無理を押して出動してくれたのだ。その結果、こうして敵に遭遇して戦闘に巻き込まれてしまったのだから、今の事態は自分に責任があるともいっていい。

 

実際には先にアクシズの艦に拾ってもらったのだからカミーユの行動を気にする必要などないのだが、この、無鉄砲なゼータガンダムのパイロットの気持ちを理解してしまった以上、それに深い恩義を感じざるを得ない…それがジュドー・アーシタという少年だった。

 

だから、カミーユをあてには出来ず、さらにこのスピードではすぐにアーガマの隠れている宙域に着いてしまう…というこの状況で、ジュドーはアクシズのMS隊を撤退させる何かいいアイデアはないか、必死に頭を捻った。

 

「暗礁地帯…隕石か……そうだ!カミーユさん、アーガマと連絡は取れないか?」

 

「ん?ああ、この距離なら問題ないだろう。何かいい手があるのか?」

 

「いい手ってほどのもんじゃないですけど…俺だってアーガマが沈むのを見たくはないですからね」

 

「そうか…わかった」

 

カミーユはそういって、アーガマへの回線を開いた。

 

 

 

 

 




ガンプラ大好きなのでMS戦は色々と設定やギミックを活かしたいなあと思いながら書いています。

それにしてもジムをゲルググと呼ぶ日が来ようとは…。
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