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『所属不明機を確認、パイロットはすぐに待機に入れ!』
トーレスの声を無かったことにしたい…と、よく働かない頭で考えながら、ジュドーは毛布をかぶる。大気圏付近の戦闘はさすがに神経を使った。ようやくアーガマに回収されてひと眠りできたと思ったらこれだ。とにかく身体が重い。
「ホントに身体が重いな…やっぱ疲れてるんだな…」
「そんなに疲れてるの?ジュドー?」
「そりゃそうさ…って!?」
その思わぬ声に身体を起こすと、にっこりと笑う少女と目が合う。
「お前、プル!こんなところで何やってるんだ!」
身体が重かったのは無理からぬことだった。パンツ一枚の姿で慌ててベッドから飛び降りると、プルが何食わぬ顔で背伸びしながら欠伸をしている。
「何って、ジュドーが一緒に寝てあげるっていったんじゃない」
「な…!そんな、人が聞いたら誤解されるようなこと、言うんじゃありません!」
「ええ~?なにを誤解するの~?ねえジュドー、もっと一緒にくっついていよ~よ~」
「バカいってないで!お前は先生のところでメディカルチェックだっていわれたろ?ほら、行くぞ!」
一瞬、プルの笑顔に引き寄せられそうになった自分に喝を入れるようにそういって、ジュドーは着替え始めた。
むずがるプルを医務室に預けてMSデッキに駆けていくと、メカニックマンたちが立ち話をしている。
「アストナージさん、所属不明機って、敵なのか?」
そういいながら輪へ加わると、パイロットスーツのルーとエルもやって来た。
「わからんがカラバの機体ではないそうだ。十中八九、敵、だな」
その答えを聞いて、エルがルーに話しかける。
「結局さ、カラバってどういう組織なのさ?」
「うーん、それって結構難しい質問なのよね。最初はエゥーゴと同じような反地球連邦の秘密結社みたいなものだったらしいけど…」
ルーの様子を見て、アストナージが後を継ぐ。
「グリプス戦争で連邦軍からガルダ級のアウドムラっていうとんでもなく大きな輸送機を奪ってな。それを動く拠点にしてから結構な力を持つようになったって印象だな。リーダーがブライト艦長と同じホワイトベースにいたハヤトさんっていう有名人だったから人も結構集まって来たみたいだ」
「へえ…で、その動く拠点と合流予定だったんでしょ?」
「残念ながらその前に敵に捕捉されたってことかしらね」
ジュドーはルーの言葉に頷く。
「そういうことだな。それで、地球用の調整っていうのは?」
「お前たちが休んでる間に何とか済ませてある。ただな、ダブルゼータはこのまま出られるが、ゼータと百式はアウドムラと合流後に改修予定になってるんだ。こっちの都合で悪いが、あんまり動かしたくないってのが本音だな」
メカニックマンたちは一様に濃い疲労の色を浮かべながら。頷いている。不眠不休の作業だったのだろう。
「そうか…よし、そういうことならまずは俺がダブルゼータで出て、様子を見て来る。ルーとエルは待機しててくれ」
ルーとエルが頷くが、アストナージが手を振る。
「待て待て、俺らだけでそんなことは決められんし、それに地球じゃMSはサブフライトシステムに乗らないと運用が厳しいんだぞ?」
確かに、MSは地球上で飛行を続けることは出来ない。空中で運用するためには一年戦争でジオン公国軍が採用していたドダイのような足場になる飛行機、いわゆるサブフライトシステム(SFS)が必要になる。アーガマは現在、大西洋上を航行中なのでSFSは必須といえた。海にでも落ちたらまた、このメカニックたちに面倒を掛けることになる。
「ダブルゼータのGフォートレスなら問題無いだろ?」
「何なら分離させて私たちが乗ろうか?」
ジュドーとエルがそういってアストナージを問い詰めていると、
「みんな、メガライダーが使えるよ!」
「地球での慣らしも兼ねて出してみたいな」
イーノとモンドがそういいながらやって来た。メカニックマンたちが二人の頭を叩きながら歓待していると、
『所属不明機はアクシズのMS部隊と断定だ。こちらのMSは…出せるのか?』
ブライトからの通信が入る。
「ダブルゼータとメガライダーの組み合わせならすぐにいけますよ」
アストナージがそう答えながらこちらに笑顔を向けた。
ジュドーはメガライダーの「乗り心地」に感心した。
「地球でもこのスピードで飛べるのはすごいな…。イーノ、モンド、敵の位置はわかるか?」
メガライダーにはイーノとモンドが二人で乗り込んでデータ収集をしつつ、不測の事態に備えている。
『11時の方向で間違いないよ。ダブルゼータのセンサーにももうすぐ引っ掛かると思う』
『サブフライトが2機、ベースジャバーっていう機種みたいだ。上に乗ってるのは合わせて3機かな』
二人へ返事をする前に、ミサイルが飛んできた。ジュドーが動こうと思ったのとは逆にメガライダーが動いてミサイルを避ける。
「おおっと!イーノ、モンド、悪いけど操縦はこっちでやらせてくれ!」
『ああそうか』
『わかった。You have control…と、ジュドー、これでどう?』
モンドの声を聴きながら、ジュドーは背後に回ったミサイルを頭部のバルカン砲で撃ち落とす。
「OKだ。攻撃の方はそっちに任せる!当たりそうになったら適当にメガ粒子砲を撃ってくれ!」
『わかった!』
『よーし、やっちゃうぞ!』
敵部隊がはっきり見えると、ジュドーは無暗に攻撃をするのではなく、なるべくいい位置をとるための機体操作に注力する。宇宙と地球では機体の制御はもちろん、火器の使い方もいろいろと勝手が違うことを一応、学んできたからだ。地球上では磁場や重力の影響でビームの軌道がやや下に曲がる上に射程と威力が落ちること、そして廃熱についてもラジエーターを使う宇宙と、空気の対流を利用する地球とでは使用感が異なるのだそうだ。およそコロニー内の戦闘と思っておけば問題無いようだが、外壁の損傷などを気にせず大火力の武器を使える、という点は大きく異なる。
機体制御と武器の使用感の違いを同時に見ていくのはさすがに難しいだろう。機体制御を優先させ、攻撃については一旦狙撃風の確実な射撃にしたい…というのがジュドーの考えだった。そういったこともあって、早速敵を散らすように放たれたメガライダーの攻撃は大いに助かる。
「ようし、そこだ!」
ベースジャバー2機のうち、その上に1機だけMSが乗っている方にダブルビームライフルを放つ。ほとんど思い通りに飛んでいくビームを見て、ジュドーはメカニックマンたちの調整に感謝をした…が、それはあっさりとかわされてしまう。
「あれ、ザクか?やるな…!」
頭に3本の角がついた大型のザクのようなMSだ。データにないところを見ると、新型らしい。残りの2機はシャングリラでも見たガルズJだ。新型ザクの方が指揮官機と見える。何やらサインを出す素振りをしてから、攻撃を仕掛けてきた。
サブフライトシステムに乗っての空戦は、MSを使用しているとはいえ航空機同士の戦闘に近いものがある。航空機ほどではないにせよ、後ろをとった方が有利というのも同じだ。
二機のベースジャバーに追われる形になったジュドーはさすがに不利かと思われたが、メガライダーの性能はその数の差を補って余りあった。
「小回りの効きがダンチじゃないの!こりゃいいや!」
いわゆるドッグファイトにおいてはまず速度の差、それが同程度であれば旋回性能の差が勝敗を分ける。イーノとモンドの悲鳴を聞きながら、ジュドーはメガライダーを繰り返しターンさせて敵の追撃を振り切りながら背後を取りにかかる。バイク好きのジュドーにとって、この「空飛ぶバイク」の挙動は痛快そのものだった。
そこへ、ウェイブライダーが現れて射撃を加え始めた。ルーも出撃してくれたのだ。一応優勢といえる状況に持ち込めたようだが…もう少し、というところで攻撃が当たらない。
『ジュドー、連中戦い慣れてるわ。あんまり調子に乗って吹かしてるとこっちが先に息切れするわよ!』
機体を動かすのに夢中だったジュドーに、ルーの冷静な言葉が刺さる。
「いわれてみれば…確かに…」
徐々に、こちらの隙を狙って撃ってくる敵の動きが見えて来る。どうやら自分にはまだ、地球上に適した機体の操作が出来ていないらしい…そんな躊躇が生まれたその一瞬だった。
例のザクが大胆にもメガライダーの機首に肩口から体当たりをしてきた。メガライダーごとスピンをしているところへビームが飛んでくる。
「やられるかよっ!」
メガライダーを蹴ってダブルゼータを飛び上がらせると、その両機の間をビームが走っていく。すかさず反転してダブルビームライフルを撃つが、それはまたしても当たらない。
「クソッ!照準が…ああ、それで落ちるのかよっ!」
スラスターの推力が一旦尽きて、落下していくところにまたビームが飛んで来たが、危ういところでウェイブライダーにすくい上げられてそれを回避する。
『ちょっと、大丈夫なの!?』
「ああ、悪い。しかし厄介だな、この重力ってのはさ…!」
戦いの流れを上手くコントロールされているような…そんな強いプレッシャーを、あのザクからは感じる。それはハマーンやプルから感じるようなものとはまた別物だったが、危険なことに変わりはない。ダブルゼータはウェイブライダーに乗ったまま上昇しつつザクと対峙する。メガライダーの方に目を遣ると、もう一機のベースジャバーに捕捉されたようだ。このままでは、危ない。
「重力、か…ルー、俺が囮になる。上手くあのザクみたいなのを墜としてくれ!」
『はい?ちょっと!』
ジュドーはウェイブライダーから飛び降りるようにダブルゼータをジャンプさせ、降下しながらザクに向けてダブルビームライフルを2連射する。
「これは、かわすんだろう…!」
予測通り、ザクはその攻撃をかわし…そのまま落下していくダブルゼータに向けてビームライフルを構えるのを、ジュドーはしっかりと見てほくそ笑みながらレバーを引く。
「見なし射撃っていうんだろ、そういうの!」
ダブルゼータがGフォートレスに変形し、その高度で急停止する。その少し先、落下する位置へ向けてライフルを放っていたザクは、完全な隙をさらすことになった。
「今だ、ルー!」
『了解っ!』
ジュドーはバックパックのミサイルランチャーを放って弾幕を作りつつ、Gフォートレスを上昇させて大きく旋回をかける。そこへ、交差するようにウェイブライダーが突っ込んで来てゼータガンダムに変形し、動きを止めてビームライフルを連射した。ミサイルの誘爆を横目に、ジュドーはもう一機のベースジャバーの後ろを取った。
「もらった!」
Gフォートレスの機首に据えられた2本の火線が、乗っていたMSのうちの1機とベースジャバーに直撃する。すぐに爆発が起きてサブフライトが落ちていくが、もう1機のほうは上手く離脱していた。
そこへ、あのザクがやって来て上手く味方を拾っていく。
「何っ!?あれで墜ちなかったのか!あいつ…!」
あのザクは間違いなく強敵だ。こちらの燃料は残り少ない。メガライダーと連携し直して再度体勢を整えなければ…と思っていたその時、予期せぬ方向から複数のビームがアクシズの機体めがけて飛んで来た。
『カラバのMS部隊だわ!』
ルーの声に目を移すと、滑るようにしてサブフライトが3機やってくる。さすがに不利と悟ったか、ザクと僚機を乗せたベースジャバーはそのまま離れていった。
ジュドーは安堵の溜め息をもらし、GフォートレスをMS形態に戻してまたメガライダーに乗せる。ゼータガンダムがその後ろに乗ってきた。さながら二人乗りのバイクのようになったその横を、バイザーのような目を輝かせた白いMSが親指を立てて通過していく。
『助かったわね』
「ああ…」
そんな言葉を交わしていると、MS部隊の後ろからゆっくりと、巨大な何かが姿を現す。ほとんど冗談のような大きさだ。
「おい、ルー、あれがカラバの…?」
『ええ、ガルダ級アウドムラ…スペックは見ていたけど、こう、自分の目で見ると…ちょっと信じられないくらいの大きさね…』
近づいてきたアーガマが子供のように見える。高度を落としたメガライダーが海上をホバー走行しながらアーガマへ向かっていると、上空をその巨大な艦が覆い、完全に影に入る。こんな巨大なものが重力に逆らって飛ぶのか…ジュドーは信じられない思いでアウドムラを見上げた。
「行き掛けの駄賃…どころかとんだしっぺ返しを食ったな。アリアス、お前の方はどうだ?」
三本角のザク…アクシズの新型機、ザクⅢのコクピットでラカン・ダカランは呻くようにそういった。浅黒い肌に鋭い目つき…一見して武人とわかる風貌の男だ。
『はっ、ラカン大尉。こちらは問題ありません』
「そうか。デガスには悪いことをした…。トト家の御曹司だか何だか知らんが、こんな小僧の捜索なんぞを押し付けられたから…」
『かなり上からの命令のようですから…いたし方ないでしょう』
ラカンは、モサブニタ上のグレミー・トトを睨み、その映像を消す。
「ダカールの制圧はラインのヤツに遅れをとったが、先遣部隊の戦果は俺とお前がトップだろうが?」
『確かに…正当な評価を与えられているとは言い難いですが…この捜索は特命ですよ。考えようによっては更なる手柄になります』
「前向きだな、お前は…」
『トト家の御曹司に近づけば今までの軍功が顧みられることもあるだろうといっているのです』
「フン、ならばせいぜいその御曹司様とやらに取り入ることにしようか…!」
アクシズのベテランパイロットたちはアーガマとアウドムラの位置情報を味方に知らせると、与えられた「特命」に戻るべく、ベースジャバーを大きくターンさせた。
3部、地球編に入ります。
大気圏内のMS戦は宇宙とはまた違った緊張感があって面白いと思います。
復刻元祖SDのバーサル騎士ガンダムがいくら新規金型とはいえ6,000円もすることに刻の涙を見ています。