シン訳 機動戦士ガンダムZZ   作:溜め無しサマソ

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「アウドムラ、予定ポイントに着水しました」

 

トーレスの声に合わせたかのように、アーガマの船体が大きく揺れた。

 

 

アーガマはアクシズの先遣部隊による地上での迎撃を避けるため、ギニア湾の南西、ほぼ赤道直下の位置に降下していた。幸い、というべきか大気圏上の戦闘が大規模なものにはならなかったため、これはほぼ予定通りの位置であり、思わぬ接敵はあったものの、アウドムラとは無事に合流することができた。だが、旧世紀の国名でいうセネガルの首都、目指すダカールまではまだかなりの距離がある。少ない戦力でこの距離をどう詰めていくかが問題だった。

 

 

アウドムラの巨大な船体の一部を横目に、ブライトはキャプテンシートから立ち上がった。

 

「全く、地球に降りて早々敵襲とは肝を冷やしたな…」

 

ブリッジに呼ばれてオペレータの助手をしていたビーチャは、そのブライトの方を振り返る。

 

「けどあいつら、何だったんでしょう?」

 

「何って、奇襲じゃないのか?」

 

隣に座るサエグサがそういうと、ブライトが寄って来た。

 

「何か思うところがあるのか、ビーチャ?」

 

「いえ、アーガマとカラバのアウドムラ、ですか?その合流を狙うにしちゃあタイミングが良過ぎるというか…何かの別の目的があったんじゃないですかね?」

 

「偶然我々に出くわした、か?確かにな…奇襲部隊にも偵察部隊のようにも思えなかった。少数で何らかの任務にあたっていた…ということは考えられるな」

 

「何らかの任務…?」

 

ブライトはビーチャの背中からモニタに腕を伸ばし、アフリカ大陸の地図を表示させる。

 

「このアフリカ大陸には一年戦争の頃に降りてきたジオンの残党が今なお点在している。これがその予測ポイントだが…」

 

さらに少し条件をつけてその地図にタッチすると、大陸全域に大小いくつかのマークが表示された。

 

「こんなに…ジオンの残党っているんすか!?」

 

「上手く地元の反連邦組織と結びついて政治的な動きを起こしている連中もいるらしい。MSを運用出来るだけの軍事力を持つ勢力は限られるとは聞いているが…アクシズがダカールを占拠したことを知れば組織の大小に関わらず、呼応して来るだろうな」

 

「アクシズがそういう連中をまとめたら厄介…ってことですよね?」

 

ブライトは頷く。

 

「だから、さっきの敵がそういう、各地の勢力への使者だという可能性はある」

 

トーレスがそれを聞いて笑う。

 

「確かに、アナログなやり方ですけど、新型MSが直にザビ家の親書を持って来たら、残党の奴らは感激しちゃうんじゃないですか?」

 

「そりゃあ…8年もの間、置き去りだったわけですもんねえ…」

 

ビーチャの何気ないその一言は、一年戦争を経験してきた大人たちには重い意味を持っていたらしい。期せずして沈黙をもたらしてしまったことに少し慌てたが…ちょうどその時、海上で位置を調整中のアーガマとアウドムラ、両艦のブリッジが並ぶ位置に来た。はるかに大きいアウドムラからは見下ろされる形だ。

 

「あ、向こうのブリッジの人たち、こっちを見てますよ!」

 

殊更明るい調子でそういうと、ブライトが弾かれたようにさっと窓際に向かって行き、アウドムラを見上げて背筋を伸ばし、敬礼を取る。覗き見ると向こうの窓越しに立つ、がっしりとした男がそれに返すように敬礼を取っていた。

 

「ハヤト…すまん…」

 

ブライトが、そうつぶやくようにいいながら沈痛な面持ちで立ち尽くす理由を、ブリッジクルーの中ではビーチャだけが知らなかった。

 

 

 

 

「プルプルプルー!」

 

医務室から自分の名前を連呼しながら飛び出してきた少女が、ジュドーの腕に飛びついてくる。白い検査着のままだ。

 

「こらプル!ちゃんと着替えなさい!」

 

それ追って、服を持ったエルが出て来る。

 

「やーだよーだ!」

 

プルはジュドーを支点にしてクルリと身を翻しつつ走り出す。どこでそんなことを覚えるのか、舌を出してエルを挑発することも忘れない。

 

「こんのー!待てー!」

 

激高したエルに苦笑いしつつ、

 

「悪いエル、頼むぞ」

 

ジュドーはそういってプルを追いかけていくエルを見送って、医務室に入った。

 

「先生、どうだった…?」

 

診察室を覗き込むようにすると、外の様子が聞こえていたのか、ハサン医師も苦笑していた。

 

「ああ、もう少し詳しく調べてみる必要はあるが…」

 

ハサンはそういいながらデスク上の端末にいくつかの資料を表示させ、ジュドーに座るよう促す。

 

「心身ともに異常なし…といいたいところだが、薬物反応が出ている」

 

「それって…強化人間ってやつ?」

 

ハサンが頷く。

 

「おそらく、そうだろう。身体の方も骨や筋肉の密度が常人離れしている部分がある。いろいろな負荷に耐えられるように調整されている…そう考えられるな」

 

「調整って…それ、実験台にされてるってこと?」

 

ハサンが、ジュドーの目を暫く見てから、溜め息をつく。

 

「そうだろうな。あの子が乗っていた機体、脳波インターフェイスがあったそうじゃないか」

 

「ああ、あるな、そういうの…」

 

「ここには正確に脳波の様子を調べられるほどの設備はないが、いわゆるニュータイプと断定出来るだけの数値は出ている。これからあの子に付き合うのなら、精神状態のケアを優先して行うべきだろうな…どういう扱いをするつもりか、艦長から聞いているか?」

 

「いや、そういうのはまだ…とりあえず俺に預けるってことだけど…」

 

「そうか…ブライト艦長のことだ。あんな子供を捕虜扱いすることもないだろうが…とりあえずはジュドー、君に懐いているようだからしっかり面倒を見ることだ。いいね?」

 

「わかったよ。妹の面倒見るのは慣れてるからね」

 

「うむ…ああ、お前たちも不調があったらすぐに来るんだぞ。月で一通りのワクチンは打っているが、何しろ初めての地球なんだからな」

 

「そうだね。先生、ありがとう。じゃあ何かあったら頼むよ」

 

ジュドーは一礼して、立ち上がる。ハサン医師のいう通り、とりあえずプルは自分の目の届くところに置いておくのが良さそうだ。医務室を出てすぐ、無意識に止まっているリフトグリップに手を伸ばしてから、これは地球上では意味がないのだと気づいて少し恥ずかしくなる。それから改めて、あのすばしっこい少女を捕獲するために走り出した。

 

 

 

 

浮橋で繋がった両艦では、人の行き来が始まっていた。物資などはボートを使っても搬入・搬出が行われている。MSの改修・調整はスペースに余裕のあるアウドムラで行われることになり、アーガマのメカニックチームがほぼ全員移っていく一方で、作戦会議についてはアーガマで行われることになり、アウドムラの主要メンバーがアーガマのブリーフィングルームに迎えられた。アーガマのメンバーの中にはブリッジに呼ばれていたビーチャが、成り行きで混ざっている。

 

「何で俺だけこっちなんだよ…」

 

などとぼやいていると、「静かにしろ」と隣に座るトーレスに叱られる。仕方なく黙って前を見ると、ブライトと、さっきブリッジから見えた人が握手をしていた。

 

「お久し振りです、ブライト艦長」

 

「ああ、ハヤト…」

 

というのを聞いて、やはりあの人がさっきの「ハヤト」なのだと思う。ブライトがまだ何か言おうとするのを、その男が首を振って制した。

 

「その話はまた後で…今日は特別なお客に来てもらっているのでその時にでも…」

 

「ン…?そうか…」

 

「ええ、今は作戦の話をしましょう」

 

ブライトは頷き、集まったメンバーを見回して口を開く。

 

「みんな、紹介するまでもないかもしれないが、こちらがアウドムラのハヤト・コバヤシ艦長だ」

 

「ハヤトです。これからのダカール奪還作戦にカラバは全面的に協力します。以後、よろしく」

 

ブライトの脇から進み出たハヤトが挨拶をすると、メンバーたちから拍手が送られた。

 

「それでは今後の作戦概要について説明しておく。各自頭に叩き込んでおくように」

 

ブライトがそういうのと同時に、メインモニタにはヨーロッパ、アフリカ大陸の地図が映し出された。

 

 

 

 

「ちょっとこれ…大分正規の計算とズレてるけど、大丈夫なの?」

 

ハッチを解放しているゼータガンダムのコクピットで、ルーはそう、作業中のメカニックマンに話しかける。

 

「さあ…こっちはフライングアーマーの付け替えをしろっていわれてるだけですから」

 

その答えに小さく溜め息をもらしながら、ルーは背部装備を換装した機体の姿をモニタに映し出し、変形のシミュレーションをしてみる。

 

「大気圏内用の推力装置に切り替わって、変形後の名称は…ウェーブシューターっていうの?月のアナハイムで作った装備が本当に地球で使えるのかしら…?」

 

ぶつぶつといっていると、アストナージから通信が入ってくる。

 

『最初は必ず初期設定で使ってくれ、といわれてる。ゼータに詳しい人間が調整をしたらしいから、それで試してみてくれってさ』

 

「りょーかい…ゼータに詳しい人、ねえ」

 

いわれてみれば不要と思われる挙動にまで妙に細かい設定がなされているようだが…とにかく、そういうことならとりあえずこの初期設定を尊重することにしようかと思っていると、

 

『アストナージさん、百式のバックパック、取り付けが上手くいきませんよ!』

 

『この地上用のビームライフルってのも設定が合わないみたいだけど!?』

 

イーノとモンドの声、そして、

 

『こんな良さそうなの、もらっちゃっていいんですか?』

 

『ああ、「カラバの護り」からアーガマへのプレゼントだとさ』

 

カラバが元々所有している陸専用のMSを譲り受けたエルの声も入って来た。

整備に勤しむ彼らに、

 

「頑張りたまえ少年少女たち…」

 

と頷きながら呟いて、ルーはハッチを閉めた。全天周囲モニタを起動し、外部の通信を遮断して、アナハイムから命じられている次の仕事に入る。

一旦全てのシステムをダウンさせてから専用のIDで再起動をすると、特殊なメニューが開く。ルーは慣れた手つきで必要な情報のあるところまで進んでゆき、とあるデータが表示されたところで手を止めた。

 

「…あの子、やっぱりとんでもないわね。月で入れ替えたばっかりの新型バイオセンサーが稼働限界ギリギリだったなんて…」

 

それは、先だってジュドーが大気圏に突入した際のレコードだ。本来、ブラックボックスであるはずのバイオセンサーの動作記録を、ルーは展開していた。

 

「周囲のミノフスキー粒子を動かして力場を作ってる…サイコフィールドっていうの…?アナハイムの連中、こんなの見たら大騒ぎでしょうね…」

 

その部分の記録を取ると、前後の戦闘記録と共に手持ちの端末に移し、それから予め抜いていたエル、イーノ、ビーチャ、モンドのMS操縦シミュレーション結果をまとめてアナハイムに送信する。

 

「別に悪いことしてるわけじゃないけど…当人たちに秘密っていうのはちょっと、気が引けるわね」

 

そう呟きながら外部との通信を復活させると、

 

『あーっ!私のキュベレイに何してるのよ!』

 

また賑やかな声が入ってくる。

 

「ああ…この子もニュータイプよね。ニュータイプはニュータイプを呼ぶってことなのかしら?また、やることが増えるわね…」

 

ルーはブラックボックスへのアクセスを切断し、コクピットの天井を見上げてそう呟いた。

 

 

 

 

 




いよいよ不定期更新になりそうです。よろしくお願いします。

今回は大気圏内用の換装について触れてみました。ゼータはこれで0088装甲のウェーブシューター用フライングアーマー装備となります。最初のHGで何とか変形モデルとするためにゼータプラスの可変構造を逆輸入した感じのウェーブシューターでしたが、その後大気圏内の飛行形態という設定が追加されたので、折角なのでそれを出すことにしました。

いやあ、思い出深いんですよね、ウェーブシューター。
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