地響きにも似た重低音と共に迎賓館が揺れる。エゥーゴとカラバの部隊による攻撃が始まったのだろう。面倒ではあるが、連中が今夜を狙って来るというのは予想の範囲内だ。
「フン、まあ分かっていても防げるものではないか…」
人々が上げた大小の悲鳴に紛れるようにハマーンはそう呟くと、衛兵の一人に小さく耳打ちしてミネバを会場から見えないように裏口へ出した。そして、自らは再び壇上に立つ。
「皆様、余興の準備が整ったようです」
余裕の笑みを浮かべながらそういうと、会場の人々の注目が集まる。楽隊が再び穏やかな楽曲を奏で始めていた。
「只今の衝撃は我々がリークした情報に群がって来たエゥーゴ、カラバの攻撃によるものです。皆様におかれてはおそらく、先ほどの我らの言葉を信じていただけないと思いましてな…これより我がネオ・ジオンの力の一端をとくとご覧いただきましょう!」
空中に浮かぶモニタがダカール周辺の景色に切り替わると、そこではもう、戦闘が始まっている。ハマーンの言葉を受けて、会場からは悲鳴に似た歓声が上がった。それはいいのだが…思ったよりも敵の戦力が多い。アウドムラが繰り出しているMSは最近ロールアウトしたというGMⅢが大半を占めているようだ。ハマーンは苦い顔つきになる。
「やってくれるな…あれだけの数、どこから手配した?」
連邦軍のMS供給源はある程度押さえていたはずだが、さすがに地球にはまだまだ未知のルートがあるということなのだろう。あるいはカラバという組織そのものの力を見くびったのかもしれない。こちらのダカール守備隊は地球慣れしていないネオ・ジオン兵と、招集に応じて来た地球には慣れているが旧式装備の旧ジオン兵だ。数こそそれなりだが、ガルダ級と百戦錬磨のアーガマが相手となれば決して油断は出来ない。
宇宙に戦力を残し過ぎたか?とは思ったものの、あの演出のためには仕方のなかったことだ。サイド1、3に向けたMSの半数は自動操縦の無人機でもあったのだ。
ネオ・ジオンの誕生宣言という最大の目標が達成出来た今、ダカールに固執して戦力を割いておく必要はない。さっさと撤兵してもよいのだが、目の前の連中をなびかせるためにはもう少し、パフォーマンスが必要だろう。
「私も戦場へ出ましょう。皆さまにおかれてはここでゆるりと観戦をしていただきたい」
そういって壇上から下りようとした、その時だった。弾けるような強い感覚が、ハマーンの頭を駆け抜けた。この、見境の無いプレッシャーに、ハマーンは覚えがある。自然と笑みがこぼれて来るのを抑えられなかった。
「来ているな、ジュドー・アーシタ…!」
呟くようにそういいながら、衛兵に先駆けてハマーンは賓客を割って進んだ。
「MS全機発進しました!」
「よし、高度を下げろ!波をバリアにするんだ!」
ハヤトの指示は的確で、それを実行に移すクルーの腕も確かだった。アウドムラの巨体が海面すれすれを進むと、それを囲むように波がせり上がる。メガ粒子砲、いわゆるビームによる攻撃は、この波によってほぼ防ぐことが可能だ。水分子によってミノフスキー粒子の収束が解けて拡散してしまうため、その威力が大きく減衰するのだ。実弾攻撃は直掩のMS隊が対処するため、ダカールのネオ・ジオン艦隊によるアウドムラへの迎撃はほとんど功を為さなかった。もちろん、こちらからの攻撃も届かなくなるわけだが、アウドムラの役目はとにかく敵を引き付けることにある。
「アウドムラはこのまま微速前進、アーガマは敵に捕捉されていないな?」
「はい!奴ら、アウドムラに夢中ですよ!」
「そうか…上手くやって下さいよ、ブライトさん…!」
アウドムラはダカールから付かず離れずの距離を保ちつつ、続けざまに発進させたMS隊をダカールの海岸線に展開していた。防御の薄いところからゆっくりと、巻き付くようにダカールを囲むのだ。アクシズには連邦政府の迎賓館を守らなければならないという戦術的な負い目がある。少しずつ動きを封じて、旗艦サダラーンをアーガマのハイパー・メガ粒子砲で狙う…無論、こちらとしても迎賓館に攻撃を当てるわけにはいかないから細心の注意を払う必要があったが、上手くいけば旗艦ごとハマーンを討つこともできる。ダカールの奪回と同時にアクシズの中枢を潰すという欲をかいた作戦ではあるが、こちらには陸側から攻める別動隊のガンダムチームという切り札もあるのだ。勝算は十分にある、とハヤトは踏んでいた。そこへ、
「来ました!ガンダムチームです!」
クルーからの報告が上がる。いいタイミングだ。ハヤトは、周りからは見えないようにぐっと拳を握る。
「よし!アクシズの戦力は陸側と海側で分断される。その隙を逃さずにアウドムラは浮上するぞ!それまでは我慢だ!」
了解、というクルーたちの返事を聞きながら、
「カツ、あの子たちを守ってやってくれ…!」
ハヤトはそう呟いて、ダカールの空を睨んだ。
「リィナ…リィナ!」
「お兄ちゃん!」
抱き締めたその身体は、確かに本物の、生身のリィナだった。ジュドーは溢れてくれる涙を抑えることが出来ない。それは、リィナの方も同じだった。
「うんうん、良かったわねえ。もう、こっちも泣けて来ちゃうじゃない」
こうもあっさりと妹に会うことが出来たのは、この協力者のおかげだった。ジュドーは、改めてミアに頭を下げる。
「ありがとう、ミアさん。あんたのお陰で…」
「お礼をいうのはまだ早いわよ。何とかここから逃げ出さないといけないんだから」
ミアが後ろを振り返り、階下に目を遣る。
「ここは来賓の控室だから一応安全だとは思うけど…ジュドー君も見て来た通り、あちこち警備がすごく厳重だからどうやってリィナちゃんを連れだすか…あんまり時間をかけてるとグレミーさんも探しに来るでしょうし…」
「ああ、そうだな。すぐに動こう。ざっと見て来たんだけど一旦上の階を通って下りればあまり人に会わないと思うんだ。俺もこの格好だし、リィナはここで怪しまれる人間じゃないしな。上手く逃げられるんじゃないかと思う」
リィナが頷く。
「うん、警備は下の階の方が多いはずだからそのほうがいいかも」
「そっか…となればグレミーさんの方は私が時間を稼いであげる。二人は急いで!」
「すまない、ミアさん。俺、あんたにはほんと何ていったらいいのか…」
「いいからいいから、早く行きなさい!」
ミアに押し出されるように部屋を出ると、ジュドーとリィナは顔を見合わせて頷き、怪しまれない程度の早歩きで廊下を進んでいった。
『うわ、もう戦闘が始まってる!?』
ウェーブシューターの上に乗せたディジェのエルがそう、声を上げる。ダカールの街のあちこちで火の手が上がっている。カラバによる奇襲が始まっているのだ。
「ビビってる暇はないわよ!不意を打てるのは今だけなんだから!」
『わ、わかってる!よーし、じゃあいっちょやってやるか!』
「その意気!」
エルの戦闘経験が浅いのは、ルーの目から見ても明らかだ。出来ればしっかりフォローしてやりたいところだが…この防衛網を見る限り、そこまでの余裕は無さそうだ。展開している敵機の位置を確認していると、
『やっぱりあそこ、ジュドーのコアファイターだ!』
『あの位置からなら迎賓館に潜り込めたんじゃない?』
後ろから合流してきたコアトップのプルと、コアベースのイーノから通信が入る。
「だといいけど…」
その、目的の迎賓館まで数キロまで近づいたところでルーはディジェを下ろし、ウェーブシューターをゼータガンダムに変形させる。懸架していたハイパーメガランチャーを構えながらいくつかの目標をピックアップする。
「さあ、大暴れと行きたいところだけど…ビーチャ、そっちにもジュドーからの連絡は無し?」
上空を旋回していくコアトップ、コアベースと入れ替わるように、後方からメガライダーに跨った量産型百式改がやって来る。百式はビーチャ、メガライダーはモンドが操縦していた。
『ああ、確認できない…よな、モンド!』
『うん、こっちの通信機でも何も拾ってない』
モンドの返事に溜息を漏らしそうになったその時、
『ジュドーならあそこだよ!あそこにいる!』
プルの断定的な言葉が入って来る。
「ジュドーがわかるの?プル!」
『わかる、わかるよ!あの建物の中だよ!』
コアトップが捉えている迎賓館の画像が共有されると、全員、何となくそんな気がして来る。この広い戦場でたった一人の人間の存在を感じるなどというのはまず不可能なはずだが、それでもそれを感じるというのは例のニュータイプの勘、というヤツなのだろう。全員の知覚が共鳴しているように思えるのは、それぞれのMSに搭載されたバイオセンサーの働きもあるのだろうと思っていると、
『ああ…危ない、ジュドーが危ないよ!メガライダー、この座標に撃って!出力はおさえて!』
急にプルがそう叫んだ。
「エル、どう思う?」
咄嗟にエルにそう聞いたのは一番近くにいるから、ということだけではない。ジュドーのことはエルに伺いを立てなければならない…そんな気がしたからだ。
『いいんじゃない?プルのいうことが合ってると思う』
「ン…モンド、プルの言う通りにしてちょうだい!」
『ええっ?ちょっと…』
『おい、ルー!今ここで攻撃なんか仕掛けたら俺たちの位置が敵にばれるんだぞ!奇襲の意味が…』
「うるさい!後ろを突くのは変わらないんだからさっさとやりなさい!」
モンドの言葉にかぶせて来たビーチャの言葉をさらに、ルーが遮る。
『そうだよ!早くしないとジュドーが!』
というプルの金切声が決定打となり、
『ああもうわかったよ!全員射線から離れて!』
観念したようにモンドがそういった。
各機が速やかにメガライダーの射線から退避するとすぐに、迎賓館に向けてメガ粒子砲の光が伸びていく。少しして、目標の建物が攻撃の影響で揺れたように見えた。上手く出力は加減できたらしい。
これは多分意味のある行動なのだろうが…ビーチャの言う通り、こちらの位置はバレてしまった。
「これでアドバンテージは無しだけど…挟み撃ちにはなってるんだから、みんな、バラバラになり過ぎないように!火力を正面に集中させて突撃するわよ!」
そこでルーはハイパーメガランチャーを一射する。それを追うように、ガンダムチームの進撃が始まった。
サダラーンに向かうつもりであったハマーンは、その足を止めた。
「何…ここにいるのか、ジュドー・アーシタ…!」
おそらく、向こうも気付いたのだろう。いかにも気配を消そうとしている風が、却って違和感となって印象を強くしている。
「フフフ…それでごまかしているつもりか?」
口の中でそういって兵たちの方を振り返りながら、懐の拳銃を確認する。
「所用ができた。お前たちは暫くここで待っていろ」
それだけ告げて、小走りで気配の方へ向かう。兵たちの声が背中にかかるが、もうそんなものは耳に入ってはいなかった。
そして…それは探すまでもなく、ハマーンの目の前に現れた。見下ろす階段の踊り場に、走る少年と少女の姿がある。ハマーンはためらわずに階段の少し先に向けて発砲すると、二人は足を止めた。
「どうしたジュドー、その恰好は?お前ならいつでも我がネオ・ジオンに入れてやるというのに」
「冗談…!悪いけど急いでるんだ。ここであんたと話をしてる暇はない…!」
ジュドーは、特に驚いた風もなく、目深にかぶっていた軍帽のツバの先からこちらを睨んで来た。ここまで互いの存在を感じ合っているということには驚きを禁じ得ない。この少年のニュータイプの能力はやはり、自分と深く通じ合うものがあるのだろう。
「そうか、奇遇だな。私も忙しいんだよ。あまりここで時間を費やすわけにはいかない」
銃を構えたまま、階段を下りていく。銃声を聞きつけたのだろう、兵たちの駆けて来る足音が響いて来る。ジュドーを捕らえるなら兵たちがいた方がいい。だが、彼らの存在がノイズに感じられる。ハマーンは小さく舌打ちをした。
「ここから逃げられはしないよ、ジュドー。エゥーゴが来ているのだろう?みすみすお前をMSに乗せるわけにはいかない。拘束させてもらうぞ」
「お兄ちゃん!」
ジュドーの横にいる少女が、そういって前に出て来た。ジュドーの妹、そういうことなのだろうか。よく見ればその顔には見覚えがある。
「お前は…グレミーのところにいた…。フッそうか、グレミーの奴、私に隠れてこんなカードを用意していたか…」
ハマーンは改めて銃を構え直した。
「リィナに…銃を向けるなよ…!」
「どちらにしろすぐに私の部下たちが来る。お前たちはここを出られんよ」
「そいつは…どうかな?」
ジュドーがリィナを改めて後ろにかばうようにしながら、肩に下げていた銃を構えようとするのをハマーンは見逃さない。
「なめるな!」
そういってまた引き金に指をかけた、その瞬間だった。
さっきとは明らかに種類の違う、この建物を狙ったと思われる衝撃が走り、轟音と共に足元が大きく揺らいだ。その勢いで指に力が入り、発砲してしまう。辛うじて二人を狙わない角度で放つことは出来た、はずだった…が、
「ああっ!」
鋭い金属音が響いた次の瞬間に、少女の悲鳴が響いた。
跳弾だった。ハマーンの放った銃弾は、誰も予測できないような角度からジュドーに向かっていた。だが、それはジュドーに当たることは無く、リィナの身体が受け止めていた。
「リィナ!?」
ニュータイプといってもこんな不規則な弾道を瞬時に予見できるものではない。反射的に兄を庇うような動きをしたのだろう。倒れかけるリィナの身体を、ジュドーはしっかりと抱きとめた。
「おにいちゃん…大丈夫?…うっ…」
「リィナ!お前こそ、なんてことを…あっ…!」
手の平に暖かい液体の感触がある。見るまでもなく、リィナの血だった。
ZZ40周年ということで色々と立体が発売されるのは嬉しいことです。
HGハンマハンマは嬉しいのですが、4,000円!?って感じですね。4,000円というと初期の大型MGであるGP02やスーパーガンダムやドムのイメージがあるので、それが1/144というのはなんとも…というか2017年発売のRE100と比べても大して値段が変わらないのか、と思うと実に、何というか、隔世の感がありますね…。
本編はダカール攻防戦になってきました。アニメだと納得いかないところが多い割りに大筋は変えられないという難しいところなんですよねえ…。小説版はアムロが出てきていい感じなんですがねえ…。