シン訳 機動戦士ガンダムZZ   作:溜め無しサマソ

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 違法操業を黙認し、アーガマをジャンク山に隠すために奔走し、さらには食料の手配までしてやることになるとは…。自身にとって不本意でしかないこれらの行動を取らざるを得なくなった「受難」ともいえるこの状況が一体いつから始まったのだろうと考えた結果、あのガキ共に関わり始めてからだ、ということにゲモン・バジャックはようやく気が付いた。

 

何とかしてあのガキ共に痛い目を見せてやろうと必死に考えるが、昨日からほとんど一睡もしておらず身体は疲れ切っている。もう今日は組合にも寄らずに帰ることにして、ジャンク山の間を歩いていると、

 

「おい、スラスター用のプロペラントはどこで手に入る」

 

いきなり背後からそんな声がかかった。

 

「あん?」

 

振り返るとそこには、長身痩躯の男が立っている。ボロボロのテンガロンハットを目深にかぶり、ところどころ破れたマントを羽織ったその姿は、ほぼ浮浪者といっていいだろう。

 

この辺りにはこういう輩がいくらでもいる。ジャンクの中からめぼしいものをかすめ取ってその日暮らしをしている連中だ。そんなコソ泥風情の割に、妙に堂々としているのが気に食わない…ゲモン中でふつふつとやり場のない怒りが湧き上がってきた。

 

「何だお前は!俺ぁ今虫の居所が悪いんだ!とっとと失せ…」

 

と、言い終わらないうちにゲモンは膝から崩れ落ちていた。目の前には、眉毛のない男の顔があり、自分の腹にはその男の膝が入っていた。比喩でもなんでもなく、本当に一瞬の出来事だった。

 

「質問してるのはこっちなんだよ、オッサン。もう一度いうぞ。プロペラントはどこで手に入る?ああ?」

 

常々自分は巨漢の部類に入ると思っているゲモンだが、その自分の頭を掴んで軽々と持ち上げる男の膂力は並みではない。残念だが、おそらく、どうやってもケンカでは敵わないだろう。ひどく原始的な恐怖がゲモンを支配していく。

 

「何だよ、何だってんよ全く…」

 

「…あん?何だお前、泣いてるのか?」

 

そう、ゲモンの中で何かが決壊し、文字通りの大の男が、泣き始めた。これにはさすがにすさんだ風貌の男も、怯まざるを得ない。睡眠不足と疲労と恐怖…生き物としての本質的な欲求が満たされなくなったためにゲモンの自我は崩壊し、暴走を始める…端的にいうと、愚痴が止まらなくなる。

 

「あのガキ共に、あのガキ共にかかわったのが間違いだったってのかよぉう!」

 

「お、おい、何だ、どうしたんだお前?」

 

「俺が何したってんだ!ジャンク屋組合のためにナワバリを守らせようとしただけじゃねえか!俺が間違ってるっていうのかよぉ!」

 

浮浪者風の男は、もう先ほどまでの威圧的な様子をすっかり収めてゲモンの頭を離した。ゲモンはぺたんとしゃがみ込み、わんわんと泣き続ける。

 

「う、うう何だよ、何でこのオレがアーガマの世話なんて焼かなきゃなんねんだよぉ!」

 

「何?お前今、アーガマといったか?」

 

男の様子が一変する。

 

「いっちゃ悪いかよ、アーガマだよ!明日はオレンジを運び込む約束なんだよ!」

 

「…おい、悪かった。もう泣くな、落ち着け。お前がアーガマに恨みがあるってんなら話を聞いてやる」

 

「あ?何だ、あんたアーガマを知ってるのか?」

 

「ああ、よーく知っているさ。あそこにいる奴らに復讐するのが差しあたっての俺の目的なんでな…」

 

「復讐…?」

 

「そうさ。あの船の連中はな、俺の仲間たちを嫌というほど殺してくれたんでな…」

 

話の内容、そしてギラつく眼光がこの男がカタギではないと雄弁に物語っている…が、ひょっとするとこの男は自分の味方になってくれる可能性があるのかもしれない。だとすればこれはチャンスだ。ゲモンは正気を取り戻すべく、ゆっくりと深呼吸をしてから情報を整理し、口を開いた。

 

「あんたさ、俺と手を組む気はないか?アーガマが今どこにいてどういう状態なのか、俺はよーく知ってる。上物のプロペラントだって持ってる。何なら今日一晩あんたをうちに泊めてやったっていい」

 

「ほう…」

 

「俺はあの船に乗っているガキ共をとっちめたいんだ。お互い協力の余地はあると思うんだがな…」

 

ゲモンの言葉に帽子の向こうの眼が、ギラりと光ったようだった。さしたる間も無く、男から言葉が返って来る。

 

「いいだろう。そういうことなら協力してもうらおうか…オッサン、名は?」

 

「ゲモン、ゲモン・バジャックだ。このシャングリラでジャンク屋組合の役員をやっている」

 

「そうか…。俺はヤザン・ゲーブル、まあ軍人崩れってとこだ」

 

ヤザンと名乗った男はそういって片手を差し出した。ゲモンは応じてその手を取る。このヤザンという男、案外いいやつなのかもしれない。ついさっき膝蹴りをもらった相手ではあるが、根が単純なゲモンはもう、そんなことを思っていた。

 

 

 

「港の停泊に金がかかるのはわかるが…これは少々…いや、法外といっていい額なのでは?」

 

ブライトは手渡された端末から目を上げて呟くようにそういった。付き添いの整備士、アストナージもその額を見て目を丸くした。

 

どうにかシャングリラの港に入ることが出来たアーガマだったが、港の施設に呼ばれて様々な注意事項を受ける中で、また多くの難題を抱えることになりそうだった。

 

「申し訳ありませんブライト艦長。このシャングリラは決して豊かなコロニーではないのです。下町に暮らす市民は満足に医療や教育も受けられない有様で…この入港・停泊税はそういった社会福祉事業へ還元しております。どうか、ご理解いただきたい」

 

取り乱す様子を見せながらもそう答える男のいうことが本当かどうかはわからないが、信じるしかない。エゥーゴのシンパであるというこの副市長の協力がなければ、アーガマはシャングリラに入ることさえ叶わなかったのだ。

 

「チマッタ―さん、副市長のあなたがそういうなら信じもしますが…シャングリラは美しい街並みを売りにしている観光コロニーだと聞いたこともあります」

 

「ああ、あれは観光客の誘致を兼ねて作った山の手の連中の居住区域ですよ。残念ですが、あんなものは、このコロニーの本当の姿ではありません」

 

チマッタ―が憤るようにそういったのを聞いて、ブライトはかすかに眉を上げた。多少は信頼を置いてもいい相手かもしれない。

 

「そうですか…まあ、どこのコロニーも似たようなものです。利権に預かる連中とそうでない人たちの間には大きな格差が生まれてしまう…」

 

「はい。特にここはそれが酷い。コロニーの老朽化も進んでいますしね…。多少強引なやり方でも取れるところから取らないと、その利権にあずかれない人たちの生活を守ることが出来ないんです」

 

ブライトは無言で頷く。なかなか強かな人物でもあるようだ。

 

「あなたのいうことはわかりました。入港・停泊の条件は全て呑みましょう」

 

「ありがとうございます、艦長」

 

深く頭を下げるチマッタ―を制して、ブライトは続ける。

 

「ただ、何故かはわかりませんがアクシズの連中が近くに来ています。昨日の戦闘はこちらでも確認しているのでしょう?」

 

「ええ、連中、シャングリラへの入港許可を求めて来ているようです。アーガマを追ってきたのでしょう」

 

やはりそうか。ブライトは溜息をつくと、それを見たチマッタ―が会心の笑みを浮かべた。

 

「ご心配には及びません。実はジャンク屋組合からアーガマを匿いたいとの要請がありまして、確認したところ上手く隠れ蓑になりそうな『山』がありました。すぐにでもご案内できます」

 

「そうですか。それは助かります。まあコロニー内での戦闘は向こうも避けるでしょうが…」

 

どうやらアクシズの件は何とかなるかもしれないが、このコロニーに立ち寄った本来の目的はそこではない。

 

「それでチマッタ―さん、一つお願いがあるのですが…」

 

「何でしょう。私で力になれることであればなんなりと」

 

「ええ…ご存知の通りアーガマは連戦に継ぐ連戦で傷病兵を多く抱えております。彼らを設備の整った医療施設に預けたいのです。出来ればエゥーゴの軍人であるという身分を伏せた上で…」

 

チマッタ―が大きく頷いた。

 

「そういうことならお任せ下さい。私同様、エゥーゴを陰ながら応援している病院関係者に知り合いがいます。すぐに確認をとりましょう」

 

ブライトはそれを聞き、肩の荷が下りた気がした。彼は本当に、エゥーゴの役に立てるのが嬉しいらしい。僥倖とはこういうことをいうのだろう。チマッタ―に向けて手を伸ばす。

 

「ありがとう、チマッタ―さん」

 

「とんでもない。私の方こそあなた方に協力できて光栄です」

 

二人がそういって握手を交わしたところへ、

 

「艦長、カミーユが帰ってきたとのことです」

 

耳につけた小型のインカムを押さえながらアストナージがそういった。

 

「そうか、もう少し手続きに時間がかかりそうだが…」

 

「いやあ…何でもカミーユが何人か子供を連れて来ているようで…早く戻った方がいいかもしれません」

 

「子供…だと…?」

 

ブライトは、また嫌な予感に襲われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ハンブラビとEVAみたいなサイコガンダムを瞬殺し、中からGフレームみたいのが出てきたブラウ・ブロじゃなくてキケロガには全く参りました。ニャアンをジオンに誘うところはあれ、F91でしたね。

こちらはそのハンブラビの元のパイロットが元気に動き始めました。ヤザンとゲモンってなんだかんだで仲良しだったんじゃないかと思っています。
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