陰の実力者になるという僕の夢は、残酷な現実に打ち砕かれる……はずだった。
ーーー『呪力』
この力は、人の負の感情に由来する。そして何より、強大だ。この力を支配し、必ずや僕は陰の実力者になる。
僕の名前は影野実、影野家に生まれた術師だ。正確に言えば、子供だからまだ違うけど。影野家は呪術を扱う家系だ。公には隠されている呪術を使う家……それだけで『陰の実力者』になったような気になる。
だが、それで満足はできない。影野家は呪術界では正にモブなのだ。言ってしまえば、たまーに呪術師が生まれるだけの一般家庭だ。
しかし、それはつまり呪術界における『陰の実力者』を目指せるということだ。この機会を見逃す僕ではない。
「ヒャッハー!!黒閃パンチ!」
僕は今日も今日とて日課の呪霊狩りに精を出している。呪霊というのは、呪力に由来する怪物的なヤツだ。呪力を使った腕試しに丁度いい。
「ウロロロロロロ」
「ウガガガッ ガッ ガッ」
呪霊は大体ちゃんとした言葉を話せず、うめき声しか出さない。たまに話せるヤツがいるが、そういうヤツは珍しい。
「なんだこのチビは!」
喋る呪霊!わざわざこんな田舎まで遠出してきた甲斐が……と思ったが、人間だ。第一村人発見。
「なんだか変な声をだしていたぞ……」
「見るからに怪しい格好をしているぞ……」
「そもそもここは俺の家だぞ……」
続々と人が集まってきた。不気味がられているが、無理もない。呪霊は普通の人には見えないのだ。こういうときは、さっさと逃げた方がいい。
しかし、この村に金目のものはないのかな。田舎すぎるとそういうものも中々ないのかもしれない。『陰の実力者』としての活動資金の足しにしたかったが残念。
と思いきや、なんだか怪しげな小屋を発見。なんかいいものあったら盗…ではなく、拝借していこうか。
小屋の中には、小さな牢があった。そこに一人の少女。みすぼらしい格好だ。それを見て、僕はすべてを察してしまった。なんて悲しいことだろう。
「あなたは一体……?」
「我が名はスタ……いや、我が名はシャドウ……」
彼女は僕に希望を見いだしているのだ。その眼差しで分かる。今こそ仮初めの名を捨てる時!
「私を……助けてくれるの?」
「自分を救えるのは自分だけだ……」
そう、自分次第なのだ。『陰の実力者』になるとは、そういうものなのだ。
僕には分かる。彼女も僕と同じく、それに憧れ、今ももがき苦しんでいる。
僕もやったなぁ…。こういう修行。
檻を壊し、手を差しのべる。僕の使命は、彼女の希望となることだ。つまり、ここで格好良く『陰の実力者』を演出するのだ。
「呪いに翻弄されし子よ……もはや貴様を縛るものは何もない……」
「呪い……?これは一体……?」
「……フッ……世界の闇に手を伸ばすか……」
「悪いがこれ以上は話せない……危険すぎる……」
よし!決まった!裏世界で暗躍する謎の男……その深淵に触れてしまえばもう戻れない!このままフェードアウトし、姿を消す……だが、彼女の記憶には深く刻まれるだろう……。
ってかこの子、呪力見えてるっぽいし。そのうち呪力を扱えるようになって、夢に向かっていくだろう。
「構わない。死んだように生きるくらいなら、その闇にも手を伸ばす。」
「…い……いいだろう……教えてやろう……」
「呪いに対抗する力、かつての英雄、そして呪いそれ自体さえも世界の闇に葬られ、忘れられた……」
「……何者かが歴史を、世界をねじ曲げたのだ……」
少女は真剣に耳を傾ける。
ここですかさず呪力を解放!演出も忘れない。
「それでも闇に立ち向かうと言うのなら、我とともに来い」
「もちろん、ともに往く。そのためなら、この身を、命さえも、捧げると誓う。」
おお、即興の台詞とは思えないクールさだ。なかなかやるな……。僕も負けていられない。
「いいだろう。君は、今この瞬間生まれ変わった。君は今日より、ステラと名乗れ」
「ステラ……分かった」
ステラ、それはもし僕が女だったら名乗っていた陰の実力者ネームだ。男ならシャドウが一番って感じだけど、女性となるとまた別だ。残念ながら披露する機会はないと思っていたけど……君に上げよう!
「そして、シャドウガーデン、それが我らの名だ」