オルタと巡る日本全国、食街道!   作:絹ごしタマゴ

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完全な見切り発車で始めてしまったのでどうしようか暫く考えていました。


第二話 夕陽

 一際大きな音と光の後、普通では聞こえるはずのない、いつもイヤホンから聞き慣れた声が耳を打った。

 

 あり得ないはずのそれに、伏せていた顔をパッと上げて声の主を見る。

 尋常ではないプレッシャーを湛えた男の姿が。幾度と画面越しに見た男の姿がそこにはあった。

合った目に心がひどく高揚した。あり得るのか。

 

 

「grrrr…!!!!!!」

 

 

 惚けていたのも束の間。吹き飛んでいたグールがこちらへ近づくのを視界の端で捉え、咄嗟に震える声で高く叫んだ。

 

 

「クー・フーリン・オルタ!目標はここにいるグール全ての撃破!!必ず私を守り抜いてここから生還!そしてこの路地裏から脱出!!!」

 

「了解した。」

 

 

 言うが早いか、オルタはこちらへ寄る数歩で何体かのグールを薙ぎ払い、傍へと来た。トゲトゲとした尻尾がぐるりと体の周りを守るように巻かれ、オルタが戦闘するなか、その内で膝をついて顔を伏せる。

 

 このオルタは私のオルタだろうか。はたまた真っ新なオルタか、限界のあまり作り出された幻覚か。もはや、そのどれらでも、どれらでなくとも構わない。周りを囲んでいたグールを瞬く間に倒してゆくその心強さに安堵し、視界が滲むのを感じた。

 

 暫くの後、静まった空間に戦闘の終わりを察して顔を上げる。

 これで、外に出られるだろうか。現実味の無い全てにぼうとしていると、槍を収めたオルタが尻尾で器用に私を持ち上げ問いかける。

 

 

「おい、お前が俺のマスターだな。」

 

 

 確認するような口調に、そのまま頷こうとするものの、留まって言葉を詰まらせる。本当に、私がマスターで合っているのだろうか。

 

 そもそも、今の状況はなんなのか。手の甲を見てもゲームの主人公のように令呪はない。Fateについてもゲームをやっているのみだったし、始めたばかりだからFate世界の設定やの仕組みもよく分かっていない。

 どう返答すれば良いものか、先ほどの極限状態から救われたばかりの今に、頭も回らず考えがまとまらなかった。

 

 そんなだんまりな様子に、少し顔をしかめたオルタは私を乗せたままの尻尾を軽く揺らし、そして何を思ったかは定かではないが、器用に歩を進め始める。

 

 

「質問を変える。どういう状況だ。」

 

「っ、あー、その、自分でも今よく分かってないんだけど……。」

 

 

 こちらを向かず前を見据える双眸が怪訝にしかめられる。それからその薄い唇が開く。

 

 

「ゆっくりで良いから話せ。全てをな。」

 

「それは、もちろん。」

 

 

 コクコクと首を振ってその意思を示せば眉間のシワがほどけるのが見えた。

 

 

「君に、説明させてほしい。全部を包み隠すことなく話すことを誓うよ。」

 

 

 

 

 それから全てを話した。といっても、ほんのショートカットで路地裏に入ったら何故かグールに追いかけられた上、何故か路地裏から出られなくなり、祈ったらオルタが召喚された。という現実味のない状況説明だったが。

 そして、少し迷ったが、この世界にはFateと呼ばれる作品群があることも話した。私にとって、オルタはそこの登場人物の一人で、フィクションの世界の住人であるのだと。

 彼は眉一つ動かすことなく、話を遮ることもせず、ただ話を聞いてくれていた。

 

 

「つまり……そうだな、なんで君がここにいて、こうなっているのかは分からないし、どうなってるかも分からないんだ。

……英霊が召喚されるときは聖杯戦争ってやつが定石らしいが、全く身に覚えがない上……それに、そもそもFateもよく分かっていなくって……。」

 

 

 段々と窄まっていく声に釣られ下がっていた視線をそっと上げ、少し上にあるオルタを見上げる。

 

 精悍な顔立ちだ。スッと伸びた鼻筋、張りのある美しい肌に凛々しい眉。パキッとした深い青色の髪に魅入られるような朱色の双眼。恵まれた体躯はまさに彫刻のようで、トゲトゲとした尻尾をはじめとした禍々しさはその妖しい魅力を増幅させている。

 

 本当に、オルタが目の前にいる。ヴィーナスやアフロディーテすらも嫉妬するような、美しい男だ。

 ずっと画面越しに焦がれ、誰よりも何よりも育成リソースを突っ込み、幾度とゲームで扱ってきた彼がいる。

 

しかし、

 

「令呪?ってやつもないみたいだから、本当に君のマスターかすらも、自信が持てないんだ……。」

 

 

 上げた視線をまた下げる。このどうしようもない不安に抱えながら、手持ち無沙汰な指先を絡めるように一人握っては、にへらと笑う。

 頭上でため息が聞こえ、咄嗟に強く拳を握った。

 

 

「気に入らねぇな。お前は俺のマスターに違いない。

お前には分からないだろうがパスは繋がっている。微弱だがな。……それに、いつものテンションはどうした。」

 

 

 零れるように告げられた言葉にパッと顔を上げる。

 

 

「も、しかして、あの、その、私のこと、分かるの?」

 

「どうなっているかは俺にもさっぱりだ。ただ喚ばれたから来た。だが、ありったけのリソースをぶちこんだ物好きの女……お前の駒なことは、確かだ。」

 

 

 オルタが立ち止まる。路地裏の出口がもうすぐそこにあった。

 グールを倒したからか、まるで世界から隔離されているようだった路地裏に、夕陽が射し込んできた。

 もう大丈夫だという安堵、そしてオルタの言葉に、滲む視界が決壊し、耐えていたもの全てが涙となって氾濫した。

 

 

 泣きながら溢す。

 

 怖かった。死んじゃうかと思った。もうダメかと思った。私のことを知らないオルタだったら、どうすれば良いかも分からなかった。あのままグールに襲われてしまうかと思った。もう二度とお家に帰れないかと思った。なぜグールに襲われたのか、召喚が起きたのかも分からないし、私のことを知らないオルタに袈裟斬りにされてしまったらどうしようかとも不安だった。路地裏から一生出られないのではないか。

 もう、おしまいかと思ったと。

 

 

「オルタ、オルタありがとう。来てくれて、ありがとう。なんで、どうしてこうなってるかは分からない。分からないけど、ありがとう。救われた。ありがとう。」

 

 

 泣きじゃくりながら感謝の言葉を溢せば、慣れない手つきでグイグイと目元を擦られる。拭ってくれているのだろうか。その優しさに更に涙が零れた。

 

 少し落ち着いたところで、ズズッと鼻を啜り、それからずっとオルタの尻尾に座っていたことを思い出して急いで下ろしてもらう。

 

 

「オルタごめんね、重かったでしょう。ありがとう。」

 

「大したことはない。」

 

 

 換気扇に鞄を起き、鏡とメイクポーチを取り出して目元の赤みを隠す。少し腫れているが、映画が泣けたのだとでも言えば両親には良いだろう。

 

 鞄を肩にかけ、路地裏から出ようと一歩踏み出し、少し考える。

 オルタは、他の人にはどう見えるのだろうか。視認できるとしたら、流石に目立ってしまう。

 

 

「……オルタって、幽霊みたいになれる?透明化みたいなやつ。霊体化?みたいなの。できれば私だけは見える程度の塩梅で。いや、霊体化よりルーン?とかで認識阻害みたいなやつの方がいいのかな…?」

 

 

 少し難しそうに顔をしかめた後、オルタは竪琴の鳴る音を立てた。そのゴツゴツとした雄々しく、しかし彫刻のように美しい指が宙をなぞり、輝く文字を描く。素人の私でも分かるくらいの精密かつ練度の高い繊細なルーン魔術を、彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 オルタがこれほどの技能を持っていた驚きが一瞬よぎったのも束の間、初めて目にするその美しい業に目を奪われて放心した。無茶振りに即座の対応。器用だ。流石私の最強サーヴァント。

 

 

「その状態でファミレスとか行って周りからの見え方確認してみよっか。」

 

「ああ。」

 

 

 霊体化だと一人言が多い人みたいになってしまうかと思っていたが、認識阻害ならその恐れも減る。僥倖だ。

 スカートを叩いていてから背筋を伸ばす。

あともう数歩で路地裏からもおさらばという具合だ。

 

 ゆっくりと歩を進める。射し込む夕陽が擦り傷を負った私を照らしている。路地裏に入ったときは、まだ昼下がりだったというのに、随分と長い間の出来事だったらしい。

 

 そのまま進めば、そこはもういつも通りの喧騒溢れる町の姿があった。生きている。その実感がジワジワとまた、指の先から足の先、頭のてっぺんまで充足するように満ちていった。ああ、眩しい。

 

 あとは擦れた手足を洗えば家に帰れるだろう。

 

 今日食べる予定だった限定団子はもう、きっと売り切れてしまっている。

けれど、生きている。それだけで十分だった。家に帰ろう。お母さんが、夕飯と共に待っている。

 

 右に立つオルタを、そっと見上げる。合った目に、にこりと口角を上げ、微笑む。それから、もう一度ありがとうと伝えた。

 

 

 

 服装的に、オルタには現代服を渡すまでは暫く認識阻害、もしくは霊体化していてもらおう。

 帰りの電車は取り敢えず切符を買おう。交通系ICカードを持つオルタを想像して、笑みをこぼす。なんだかずっと考えていた自分の生と、停滞が、進む気がした。

 

 

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