オルタの口調が分からず苦戦しました。難しい。
路地裏から無事に生還した私たちは公園で手足を洗った後、少しの時間電車に揺られて、最寄駅の駅ビルにあるサイゼリヤの前に立っていた。
ドアを押せば軽やかな音が響き店員さんがこちらを見る。
「お一人様…でよろしいでしょうか」
「ごめんなさい、二名です。」
二人ではなく一人と言われたことに安堵しながら首を振って示す。どうやらオルタの魔術は上手く作動しているらしい。
お好きな所にと言われたのに従って、一番隅の店員の死角になる席にオルタと向かい合って座る。もしかしたら、やはりオルタの術はかなり高度なのかもしれない。
荷物を背中に置いてメニューを開く。季節の料理から始まり、食欲そそられる料理がズラリと並んでいる。
どれを選ぼうか少し迷うが、一番手はやはりラム肉の串焼き。アロスティチーニだろう。
ここに来たら必ずこれを選ぶほどにお気に入りの一品だ。
オーダー用紙に書き記しながらオルタをチラと見て考える。サーヴァントにとっての食事の立ち位置とはなんだろうか。小声で問いかける。
「オルタにとってご飯ってどういう立ち位置?栄養には…ならないよね?魔力補充にはなるって感じ?そもそも食べれる?」
「食事は可能だ。必須じゃねえがな。食えば魔力の足しにはなる。」
なるほどと頷き用紙に書き加える。少しでもプラスになるなら悪くない。いつもはシングルだけれど、今日は生還&召喚祝いとして奮発してダブルにしよう。口に合わないようなら私が食べれば良い。
配膳を待つ間、鏡を取り出して目元を確認する。腫れはだいぶ収まってきていた。これなら強い心配もされないだろうという具合だろう。
「お待たせいたしました。こちらご注文のアストロティチーニです。」
「ありがとうございます!」
いつもはここにフォカッチャも頼むのだが今日は無しだ。なにせ夕飯が家で待っている。ラム肉をダブル頼んでおいて何をと言われるかもしれないが、満腹になるのは少し避けたかった。
皿に陳列している4本の串焼きを見る。表面は肉汁でテラテラとしている。照明を弾いているような眩さだ。
「いただきます…!」
ピシッと手を合わせてから、まずは何もつけずに…と、そのままかぶりつく。
口の中で肉汁がぶわわっと溢れた。とてもジューシーだ。旨味を垂れ溢してしまわぬように少し啜るようにしながら串から引き抜き咀嚼する。
噛めば噛むほどに旨味が増す。なんて美味しいんだ。空腹なのも相まって過去一番感じる。ああなんて素晴らしい。生きている。生きている。
今度は付属されているスパイシーな香草にたっぷりとつけてから頬張る。塩味とスパイシーな風味が口の中いっぱいに広がった。スパイスがラム肉の美味しさをこれでもかと引き立てている。
一本食べきり満喫したのち、二本目の串を手に取りフォークを使ってほぐす。
オルタにも食べさせたいが、流石に食べている最中に串がずっと浮いていたら、死角といえども怪しい気がするので、一口サイズにほぐして摘まんでもらったら良いのではないかという思いだ。
一本二本…いや全部ほぐしてしまおう。オルタが食べずとも私が食べるときに楽になる。こういうのは先んじてやってしまう方が楽なのだ。
しかし、現代服を買い揃えたらこの手間も無くなるだろうか。明日にでも買いに行こう。でも男物の服ってどこで買うのが良いんだ?というか、サイズあるだろうか。
「おい。」
思わず手を止めて考え込んでしまっていた間にペロリと丁度二本分食べたらしいオルタがこちらを見ていた。唇は心なしか肉汁でプルプルに見える。
「ふふ、可愛らしい。どういう原理なのかしら。」
「あ?早く食っちまえ。冷めるぞ。」
「そうね。お夕飯にも間に合わなくなっちゃう。」
コクコクと頷いて、頬張る。美味しいお肉、目の前にはオルタ。至福の時間だ。しかし急がなければならない。
パクパクと手際よく胃に収めてから手を合わせる。食事において最も大切なところの一つだ。
「ごちそうさまでした。ほら、オルタも。」
「…ごちそうさん。」
荷物を整えてお会計を済ませ、店を出る。今度は現代服のオルタと二人揃って来たいな。
あぁ今日はなんて特別な日。怖いこともあったが、オルタと出会えた。一緒に食事を摂れた。
行きつけのお店が特別なお店に変わった特別な日。私たちのハッピーバースデーといっても良いのではないか。
今日はもう遅いが、明日お洋服を買いに行くついでにケーキ屋さんでなにかスイーツでも買おう。
明日への幸せな予定たちに胸を膨らませながら帰路に立つ。生きているって幸せ。家に帰れば更にお母さんとご飯が待っている。なんて幸せだ。