カードゲームを広めたら、息子が世界の命運を背負ってました 作:ユースト
カードゲームの普及が自分の想定していた以上の大成功を収めた事に対して満足してから、ある程度時間が経った後にその問題は発生した。
その問題に対して俺は「そのような事が起こりうる」と一切想定していなかったのは事実だが、それと同時に「いや、確かに子供のおもちゃならばそれは起こるよな」と納得してしまったのである。
つまるところ俺、早乙女静流という転生者は子供であり、カードゲーム『レガリアコード』は現状「子供内で広まっているローカルゲーム」だったのだ。
だからこそ、その問題も子供らしいというか、だけどしょうもないという言葉では片づけられないもので――
「はい、俺の勝ちー」
俺が教室に着くとそこでは『レガリアコード』をプレイしている子供達がいて、しかし様子がどこかおかしかった。
泣いている子供、怒っている子供、はしゃいでいる子供。
……俺にとって『レガリアコード』はとても大事な存在であり、かつカードゲームは俺の人生の一部であるとまで言い切れる存在ではあったが、同時に『おもちゃ』の範疇であるという事も分かっている。
だからこそ、このように混乱を生み出すとは到底思っていなかったのでちょっとびっくりしたし、「静流ちゃん!」と友達から声をかけられた時一瞬声を出せなかった。
「ど、どうかしたのかな」
「ねえ、こんなカード存在しないよねっ」
と、友達が指差す。
指さされた方向には先ほどまでプレイされていた『レガリアコード』のカードが置かれており、そしてそこには確かに「見慣れないカード」があったのだ。
絵はお世辞にも上手いとは言えず、テキストも子供が書いたような拙いもの。
しかし、効果があまりにも――こう言っては何だがバカバカしかった。
(ぜったいれいと……サポートカードで、このカードが存在する限り相手のモンスターカードはずっと凍結する?)
濁点ついてないやんと思ったが、しかし問題はそれではないのだろう。
それの持ち主である少年は俺を見てにやりと笑う。
「ほら、このカードとかも俺が作ったんだ!」
見せてくるのは《スーパードラゴ》。
効果は――攻撃したら相手のライフが全部なくなる?
そんなカード、知らない。
いや、そのカードが何なのかは少年が口に出していた。
「え、勝手にカード作ったの?」
つまるところ、オリカ……オリジナルカード。
カードゲーマーなら多分一度くらいはやった事があるであろう(偏見)妄想の一つ。
こんな効果のカードがあったら最強じゃん、というのをこの少年は実際にやったという事なのか?
いや、現状不可能ではないのだ。
今の『レガリアコード』のカードは印刷物ではあるが特殊な加工を施されている訳でもなく、何なら「正式なおもちゃ」ではない。
究極、そこら辺のコピー紙に絵と効果を書いて「これ、使うから」と言っても問題ない……と言えちゃうかもしれない。
「これで今日の給食のプリンは俺のなー」
少年はそう言い、そしてそれに対してクラスのみんなは様々な反応を見せる。
怒る者、ますます泣く者、そして――
「え、じゃあ俺もやろうかな」
「私だってもっと凄いの作っちゃうんだから!」
オリジナルカードを作って使おうと考える者達。
それを見て俺は思わず頭を抱えたくなった。
いや、そんなローカルルールどころか俺ルールが蔓延したら健全なゲームが成り立たなくなるじゃん……!
やめて、とは言えなかった。
このゲームの作者は俺だが、同時にこのゲームの主人公は俺とは言い切れない。
カードゲームはおもちゃ、そして主人公はそれをプレイする者達なのだから。
そのプレイヤー達がそうしたいという流れになってしまったら、もう製作者であろうとも容易には止められない。
それどころか最悪の場合、無理して止めようとしたら「つまんない」として飽きられてしまう可能性だってある。
それだけは避けなくてはならない。
「……ぐぅ」
放課後、俺は家に帰り頭を抱える。
この問題を解決する手段が思いつかなかった。
カードゲームは着実に子供達の間で浸透している。
だからこそ、カードゲーマーから見れば「ズル」みたいな事も起きてしまったとも言えるだろう。
だけど、うーん、解決策が思いつかない。
「どうかしたのか、静流?」
と、お父さんが顔を見せて頭を抱えて悩んでいた俺に声をかけてきた。
「実は……」
一人で悩んでも答えは永遠に出てこないと思った俺は素直にお父さんに相談すると、するとお父さんはしばし黙ったのち「なるほど」と相槌を打った。
「つまり無茶苦茶なカードを自作されて、それでカードゲーム自体が崩壊してしまうのが怖いんだな」
「うん、そうなんだよ」
「なるほどなー、確かに自分が絶対に勝つような効果をいっぱい書かれたらもはやなんでもありだもんな」
「どうしよ、お父さん」
「……」
お父さんはしばし黙ったのち、「よし」と頷いた。
「お年玉」
「え?」
「今年のお年玉は、ゼロ一つ少ないけど良いか?」
「……え?」
「まあ、任せておけ。お父さんが解決してやるから」
「う、うん?」
あいまいに頷き、踵を返したお父さんの背中を見るしかなかった俺は、その後ひっくり返りそうになるほど驚く事になる。
そして、その次の日。
「静流ちゃん、それ凄いね!」
俺は、クラスのみんなにそれを見せた。
それは――『レガリアコード』のカード。
しかし今までのそれとは明らかに出来栄えが違う。
やや厚手の紙、そこにはまさしく『プロ』の絵師が手掛けたイラストが描かれ、テキストは魔導書みたいにややおどろおどろしいフォントで書かれている、
それこそ、俺が考えていた理想のトレーディングカードのそれ。
お父さんは、それを作ってくれたのだ。
一体全体どのような手段を取ったのかは結局教えてくれなかったけど、こんなプレゼントをもらえるのならばぶっちゃけ今後お年玉がなくても良い、それくらい嬉しかった。
「たくさんあるから、欲しい人にはプレゼントする」
わっと歓声を上げてカードの山に群がる子供達。
それを見て、迷っているのはオリジナルカードを使っていた者達だ。
当然だ、明らかにカードの出来が違うのだから。
あるいは俺が持ってきたカード達に自分のオリジナルカードを混ぜたら、それはきっといろいろな意味で「ダサい」だろう。
だから――
「え、えっとな。俺も使っていい?」
おずおずと言ってくる彼らに俺はにこりと笑って言う。
「勿論、みんなで楽しく遊ぼう!」