キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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 キシリア・ザビという人物をご存知ですか?
 老け顔とか、ドギツイ紫スーツとか、私怨を最悪なタイミングで暴発させたとか…おそらくこの紫ババアに対して良いイメージを持つ人は、少ないのでは無いのでしょうか?

 そんな人物に転生してしまった私は、生き延びる事ができるのか…



第一章「ムンゾ自治共和国」篇 【第一部】
1. キシリア様は転生者


 

 最初に視界に入ってきた真上の白い布。

 それが豪奢なベッドの天蓋と気づき、重みを感じている脹脛あたりに視線を向けると、1人の少年の姿が目に入った。

 

「……え………ええ⁈ ここドコ⁈」

 

 思わず出た声に驚く。

 あれ、声がちょっと違うような…

 頭に違和感を感じ、包帯が巻かれていることに気づく。それよりも明らかにおかしいのは髪の色。日本人に有るまじき赤みの強い茶髪。そう言えばさっき見た少年の髪は紫だったと考え視線を戻したその時、うたた寝をしていた少年が目を覚ました。

 目を擦りつつこちらを見てきた少年。左側で髪を分け、人懐っこくはあるが涼やかな目元に整った面差し。

 

 知っている、見覚えがある。

 自分の中の感覚でつい先ほど、スマホ越しで読んでいたフルカラー版の漫画で「謀ったな! シャアっ‼︎」とか叫んでいた青年の幼少期の姿。

 その名は……

「……ガルマ?」

 思わず口から漏れた名で正解だったらしく、嬉しそうにガルマ少年は安堵の笑みを浮かべる。

「キシリア姉さん。良かった…気がついたんですね………って、どうしましたか?」

 思わず頭を抱えた私を心配したらしく、気遣うような声でガルマは話しかけてきた。必死に何度も名を呼んでくるガルマ少年。お願いちょっとまって欲しい。情報過多で状況把握が追いつかないのです…

 いやその…全く気づいていなかったわけではない。ベッド横には大きな鏡があるし、周辺視野で否応にも認識してしまう訳で…

 

 今自分は、キシリア・ザビになっている。

 

 認識を受け入れると、次から次へと湧き出てくる記憶…歯抜けで全部思い出した訳ではないけど、サブカルチャー溢れる世界で生を全うした。そして慣れ親しんでいたサブカルチャーの一角に君臨していた「機動戦士ガンダム」。その所謂敵キャラのキシリア・ザビに生まれ変わって、前世の記憶を知らない状態で今まで生きてきたのは理解した。先日、兄のサスロに頬を叩かれて、その勢いで倒れて頭を打ってしまうその時までは…

 そこまで思い出したその時、部屋にノックが響き渡る。それに返答する間も無く、部屋の扉は豪快に開かれた。

 

「ガルマどうした⁈ 何かあった……おう! 目を覚ましたんだな」

 

 扉を開ける許可すらしていないはずが、ドカドカと遠慮なく部屋に入ってきた男。

 キシリアとして生きてきた記憶と、前世の情報が告げている。原作によって設定が異なるが、この世界ではキシリアにとって弟に当たるドズル・ザビであった。

 大柄で強面の老け顔だがまだ20歳前、そう10代。驚きである。確かに肌の張りは年相応ではあるが…

「どうした、姉貴。まじまじと見てきて」

 怪訝そうな視線を向けられ、自身がポカンとした間抜け面になって居ることに気づく。場を取り繕う様に咳払いをした後、咎めるような視線をドズルに向けた。

「……私の返事を聞いてからドアを開けなさい。ノックをする意味が無いであろう」

「姉さん、ドズル兄さんは心配していたから…」

 慌ててそう執り成すガルマ。年相応にコロコロと表情を変える少年に私は苦笑する。そう言えば自身が目覚めるまで、そばに居てくれたことを思い出し、なんだか無性にガルマが愛らしく感じられた。

「心配をかけてすまなかった。もう大丈夫だから」

 そう伝えてもまだ心配そうな表情を浮かべるガルマ。それを見た私は、ほぼ無意識にその頭を撫でた。

「なっ⁈」

「ね…姉さん?」

 困惑したガルマの声と、驚愕したドズルの表情を見て、私はハッとして慌ててガルマの頭から手を戻す。

 そして一つ空咳をした。

「すまないが父上に伝言を頼みたい。手が空いている時に面会したいと。それから医師を呼んで欲しい。明日から仕事に復帰していいかどうか、確認をとりたい」

 努めて淡々とした口調でそう言ったところ、金縛りから解けたようにドズルは動きだし、まだ固まっているガルマを引き摺って、そそくさと部屋を後にした。

 

「……失敗した…」

 

 前世の記憶を思い出す前の私だったら、ガルマの頭を撫でることなどしない。いや、それなりに溺愛していたし全くない訳ではないが、罷り間違っても他に誰かが居る前でやることなど無かったのだ。

「変に疑われる前に、申告した方がいいでしょうね…父上とギレン兄。少なくともどちらかには…」

 しかしどのタイミングで明かすべきか…

 実は大仕事が近々に差し迫っている。

 

 我らが共和国の首相、ジオン・ズム・ダイクン議長が急死したのだ。

 

「そのどさくさで議長の遺族をラル家に奪われて…その失態を咎められてサスロ兄に叩かれたのであったな」

 今の自身の立場は保安隊の隊長。

 近いうちに執り行われる国葬の警備について、副官と打ち合わせなければならない。

「あの有名な壺の人は…まだ部下にいなかったな。確かもう1人の方、トワニングは既に副官だったはず」

 困ったことに、キシリアとしての記憶と前世のサブカルチャーで知った情報が、現在ごちゃ混ぜになっていた。しかも情報源のサブカルチャーの設定は複数パターンあるため、それについても正誤を確認したいところ。

「ボロが出ないように乗り切らなければ…とりあえず、今確認できる方法は……」

 枕元の機械…携帯通信機を手元に引き寄せる。機械が示した日時から、自身が倒れてから半日程経過している事がわかった。

 そしてボタン操作をし、一つ息を吐き、呼吸を整え、真っ直ぐ右腕を挙手する。

 

「んちゃ!」

 

 一言そう言った後、録音した声を客観的に聞き直す。

「……ファーストのTV版、または劇場版か」

 しかし即座に小説版と漫画版の可能性を棄却できないことに気づき、何バカやってるんだと、掛け布団を頭から被り一人悶えるしか無かった。

 

 ********

 

 ドズル・ザビは常駐していた医者にキシリアが目覚めたことを知らせ、弟のガルマを部屋まで送って別れ、副議長である父デギンの執務室に入室した。

「どうだ、キシリアの様子は?」

 そう尋ねてきたのは、執務室に居た長兄のギレンであった。

「ああ、さっき目を覚ました。多分今は医者が診ているだろうよ。そうそう、姉貴が親父に会いたいって言ってた」

「キシリアが?」

「ああ、手が空いたらでいいってさ」

「まあ意識を取り戻して何よりだ。保安隊長の後任を探す暇などないのだからな」

 そう言い放つギレンに対して、ドズルは苦い表情を隠すことなく、近場のソファーにどっかりと座った。

「で、サスロ兄は?」

 姿の見えないもう1人の兄の所在を、ドズルは尋ねる。

「保安隊と打ち合わせに行った……アレでもそれなりに気にしておる」

 今まで黙っていたデギンが、静かにそう説明する。

 サスロとしては怪我を負ったキシリアに配慮して、彼女の仕事を肩代わりしているのであろう。しかし、ここ最近のサスロとキシリアの関係を鑑みれば、キシリアは仕事を奪われたと感じ、また一悶着起こるのではないかとドズルは苦い気持ちとなった。

 人のことを言えないが、どうも言葉足らずで互いにすれ違っている。家族間でありながらもギスギスした空気を、ドズルは感じ取っていた。幸いにも末弟のガルマは社交的であることから、成長すれば上手く仲を取り持ってもらえるのではないかと、ドズルは内心期待しているのであるが……

 

 先ほど、キシリアがガルマの頭を撫でた。

 

 その行動を自身が居る前でやった事も驚きであったが、それよりも驚愕したのは慈愛に満ちた笑みをキシリアが浮かべたことであった。最近保安隊長となり、予断許さぬ状況下で治安維持に務めているキシリアは、若い女故に舐められぬようにとギレンに迫る鉄面皮となってしまい、無理に浮かべる笑みも酷薄さが滲み出るような有様であった。

 しかし先ほどのキシリアの笑みは、亡き母親を彷彿させるもので……

 

「どうした? さっきから頻繁に表情を変えて?」

 そう言うギレンは、変な物を見るような視線をドズルに向けている。

「……いや。別に……」

 ギレンにそう返しつつ、ドズルは静かに視線を逸らす。

 ギレンには言わない方がいい。

 勘ではあるがそう感じたドズルは、姉キシリアの変容の片鱗について、この場で伝えることはなかった。

 





続けるかどうか迷い中です…

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