何でも5月7日がキシリア・ザビの命日だとか…
と言うわけで、今週に限り1日早めに本日更新します。
次週は月曜日、遅くとも木曜日更新予定です。筆が乗れば、土曜日に追加更新しようかと思います。
それにしても、キシリアが主人公の長編って結構少ないですね。しかもキシリアに前世の記憶情報がINって話、あまり無いのですね…
私キシリア・ザビが始めた託児施設の経営。
純利益の1割と引き換えに、経営権をアストライア・トア・ダイクンへ完全に移譲していた。今ではサイド3の各バンチに最低一箇所は設置されているほど事業が拡大しており、孤児院の運営も始めているらしい。前世の記憶由来の情報では、ザビ家が幾つか孤児院を経営していたらしいが、この世界では故ジオン・ズム・ダイクンの側室であるアストライアが経営する形に収まった。
安定した収入を得たアストライアは、ジオンの子であるキャスバルとアルテイシアのために、ダイクン邸を正式にローゼルシアから買い取ることにした。ローゼルシアはアストライアと対面での話し合いを望み、その上でジオンの遺産を含めて話し合いが行われた。結果、ダイクン邸は相場の5割増での買い取りとなり、キャスバルの婚約者であるキシリア・ザビを特別代理人とし、キャスバル・レム・ダイクンへ名義変更する事で同意が得られた。ジオンの遺産については屋敷以外には目立ったものはなく、キャスバルとアルテイシアは放棄し、遺品という形でローゼルシアが全て受け取る事になった。見方によればキャスバルらは屋敷を、ローゼルシアは繋がりと思い出を、それぞれジオンの遺産として受け取ったという事になるだろう。
ローゼルシアが亡くなったのは、アストライアとの話し合いがあった半年後のことであった。
その連絡を一瞥したのち、私はこれまで投資してきた事業の報告書の確認作業を再開する。
ミノフスキー物理学研究への投資は言わずもがな、そこから発展したモビルスーツ開発で宇宙線被曝症の予防薬が売れに売れた。前世の情報を元に需要があると見込んでの投資であったため、確実に資金回収できると見込んでいた訳だが、定期的に入ってくる配当金の額は予想を遥かに超えていた。
そうやって貯蓄してきた私の個人資産だが、地球で滞在し始めたここ3ヶ月で大きく目減りしていた。
私個人の口座残高を端末で眺めながら、私はフェイスマッサージ器を顔にコロコロさせていく。
ここ最近は笑顔を作ることが多く、頬の筋肉が攣る。表情筋を鍛えるのも老け顔対策だからと前向きに考えつつ、隙を見てはこうしてマッサージをしていた。
その時、滞在しているホテルの一室にノックが響き渡り、身内間の合言葉を含めた入室の許可を願う声が聞こえてきた。今居る場所はサイド3でもサイド6でもなく、地球連邦のお膝元である地球上であるため、特に身辺の警戒が必要であった。
「アンディか。入れ」
入るように促すと一人の男…護衛のアンディ・ストロースが入る。ドアを閉めるや否や敬礼し、アンディは徐に口を開いた。
「失礼します」
「良い。で、首尾は?」
「サカキの情報通り、お目当ての男を確認。ホワンが接触に成功しました。会談の詳細はこちらに」
そう言いつつ見せられた紙の切れ端を、キシリアは一瞥する。
「ご苦労。この日時で問題ないと、先方に伝えなさい」
キシリアの言葉に了承の意と共に敬礼し、アンディは退室して行った。
「それにしても、私設部隊は良い仕事をしてくれる」
ニアーライトだったか…彼の優秀さには感謝しかない。
前世の記憶と言う根拠が曖昧な情報であっても、サカキをはじめとしたニアーライトの部下達は、私が欲していた詳細な情報を手に入れ、私が命じた裏工作まで果たしてくれた。
ルナ・ライン先端技術研究所、所長リアナ・キシに変装した私キシリアは、宇宙線被曝症対策医療品の売り込み営業を隠れ蓑として、水面下である事を実行していた。それは前世で嗜んだサブカルチャーの情報をもとに、将来の地球連邦軍における兵器開発で必要不可欠となる、基幹素材や基幹部品へと繋がる人材の引き抜きや特許の買取であった。
一生かけても使いきれないほど膨れ上がっていた個人資産を注ぎ込んだ訳だが、充分な成果をあげることができた。特筆すべきは、工学博士のモスク・ハンの引き抜き、ルナ・チタニウム製の複合装甲材の特許の買取、サムソニ・シム発動機の買収に成功したことであろうか。ガンダリウムの開発に繋がる複合装甲材の特許の売却はツィマッドに、将来的にフィールドモーターを開発するサムソニ・シム発動機の吸収合併はジオニックに持ちかける予定である。
そしてミノフスキー博士から聞いた彼の弟子達の情報を元に、将来的にエネルギーCAPの開発に関与する可能性の高い研究者を、軒並みスカウトすることに成功した。彼らはルナ・ライン先端技術研究所で実績を積ませてから、いずれはMIPへ高待遇で就職できるように斡旋するつもりであった。
「ここが正念場」
テム・レイ。
それが明後日に会う約束を取り付けた者の名であり、一番スカウトしたい人物でもあった。
********
テム・レイは緊張した面持ちで、対面した女性を観察した。
地球やコロニー間を往来するシャトルを運航する民間航宙会社「ルナ・ライン」、そこに新設された先端技術研究所の所長と名乗ったこの女性の年は20辺り。黒髪でやや切長の眼は怜悧な光を灯している。やや彫りは深いものの、モンゴロイドの混じった肌の色と差し出された名刺に記された「リアナ・キシ」と言う名から、おそらく日系の血が混じっていると推定された。
二、三交わした何気ない雑談で披露してきた知識から、一見アースノイドの様に感じるがおそらくは……
「随分と地球の文化にお詳しいようですが、出身はどちらで?」
「ムンゾです」
サイド3「ムンゾ」。
臆することなくスペースノイドであると笑みと共に伝えてくる相手に、テムは一段と警戒を強める。しかもサイド3、地球連邦からの独立機運が高まるかの場所は、師であるミノフスキー博士が地球へ亡命しようと画策している矢先であり…
「貴方のことはミノフスキー博士からよく聞いております」
「っ⁈ そ…そうですか…」
「はい。非常に優秀であると」
「博士とお会いしたことは?」
「先日サイド6でお会いしましたよ。我が研究所に来ていただく予定ですので」
その言葉を聞きテムは、ミノフスキー博士の亡命計画は失敗したと悟る。サイド6に着いた時点でミノフスキー博士からテムへ連絡を取り合い、月のフォン・ブラウンで落ち合う予定であったのだが、その動きを全て察知され先手を打たれたのは明白であった。
現在、テムは苦境に立たされている。
新たな駆動系を用いた人型機械。その研究を進めているのだが、基礎研究を主体としている協力研究者たちが、研究費の削減の憂き目にあっているからであった。
その理由は、テムの目の前にいる女性の出身地、今では「ジオン共和国」と名乗っているサイド3が原因であった。ここを皮切りに他のサイドにおいても、コロニー公社を介した連邦政府からの制御から離れる動きが加速しているのだ。それを警戒した連邦政府は、軍事予算の増強を決定し、その分を他の経費を削ることで賄うことになった。当然、公的研究資金も削減から逃れられず、効率的運用の名目で「直ぐに結果が出る応用研究に注力すべし」と言う流れとなった。結果、工学系を含む基礎系研究分野全体で、大幅な研究費削減を招いていた。
テムはどちらかと言えば応用研究を専門としているが、自身の研究の発展に向けて協力が不可避となる基礎研究者が、軒並み消滅する危機に立たされた。そこでテムは、基礎研究の研究者仲間を集い長期の研究計画を立て、大型研究費獲得に向けて連邦政府に申請しようと考えた。計画にミノフスキー博士という高名な研究者を加える事で、研究費獲得が確実となる予定であった。そしてその功績を持って研究チームごと、アナハイム・エレクトロニクスの研究員もしくは地球連邦軍の技術士官になる予定であったが…
「そうそう、モスク・ハン博士も来ていただくことになっていますよ。我が研究所に」
相手の言葉を聞き、テムは危うくコーヒーカップを倒しかける。
その名はまさしく、テムの研究計画を協力してくれる予定であった分担研究者の中核である。
「それからミノフスキー博士の推薦を受けまして…」
さらに続けて相手が羅列していく名も全て、研究を分担する予定であった研究者たちであった。そしてそれらが皆、目の前の女が所長を務めるという「ルナ・ライン先端技術研究所」に行くと言うのだ。
「やってくれたな……」
戦慄きつつ睨み付けるも、相手の女は涼しげに受け流す。
余りにも迅速な動きであることから、用意周到で事を成したことは明白。タイミングの良さから研究費削減の流れについても、この目の前の者が仕組んだのではないかとすらテムは疑いの目を向けた。
「確かに我が祖国が貴方がたを追い込んだ原因かもしれません」
「それはその存在か? 独立に向けた工作か?」
裏工作の有無を問う声に対して笑みを深めるも、どこか挑発的な視線をテムに向けつつ女は口を開く。
「どちらでも構わないではないですか。連邦政府が本当に貴方の様な優秀な研究者を大事に思っているのでしたら、この程度で揺らぐはずはないのですから」
「っ⁈ それは……」
「そう言えば、政治資金への課税案は否決された上に、例年通りの予算で通ったらしいですね。連邦政府の為政者達にとって貴方がたの研究と存在の価値は、己らの優雅な生活よりも大分低いと考えている。その証左ではありませんか?」
自身らの価値を理解しない相手に、義理立てする必要はあるのかと暗に訊かれ、テムは思わず押し黙る。
「……我らを引き抜いて、何をやらせるつもりだ?」
半ば呻く様な声でテムは問いかける。
「今の所は、特にこちらからの指定はありませんよ。好きに研究をしていただければ結構です」
「今の所は……ね」
「其方も似たような事を言って、ミノフスキー博士を引き込もうとしたではないですか? 彼が逃れたいと願っている軍事開発に、最終的には巻き込むつもりであったにも関わらず」
痛いところを突かれて、テムは更なる追求に言葉を出すのを押し留める。
「まあ、お互いに気持ちのいい状態で仕事をしていただきたいので、嫌厭する様な事を強要しないと言う点はお約束しましょう」
「……研究費の浪費にしかならない可能性が高いとしても?」
「未来への投資を浪費だとは考えたこともありませんよ。それに色々あって、思った以上に資産ができてしまいましてね。まあ、金持ちの道楽的意味合いもあるのですよ」
そう笑みを浮かべる女のその言葉だけは、嘘偽りのないものだと、テムは感じ取り大きなため息を吐いた。
「……家族をサイド6へ移住させることは可能か?」
「どうぞご自由に。他の方たちも所帯ごと移られる方は多いですよ。我が社は託児施設も完備しておりますので」
テムは少し表情を和らげ、相手の女……ルナ・ライン先端技術研究所所長リアナ・キシに扮した、キシリア・ザビに握手を求めたのであった。
すっぽん料理の話は当分先です。今しばらくお待ちください。
想像以上にすっぽん料理に食い付く方が多くて……少し驚きました。
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