キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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12. キシリア様は究明者

 

 ジオン共和国の内務政務官になった私キシリア・ザビは、福利厚生の充実と引き換えに国民の管理体制を確立し、地球連邦の紐付きであるコロニー公社から国土と言えるサイド3のコロニーの管理権限を実質奪取することに成功していた。

 加えて国民管理政策で戸籍が得られた貧民層への雇用促進として、9バンチと21バンチへの公的資金の投入が決定された。この2つの海洋コロニー開発は、表向きは内需拡大に向けたリゾート開発であるが、真の目的は連邦からの独立を目指した地球降下作戦に使う水陸両用兵器の試験場を整備するためであった。

 政策を順調に進めるサスロ内務大臣の補助業務を側近のカイルに任せ、私はサイド6を拠点として各サイドとの調整に勤しんでいた。端的に言うと、外交という名の各サイドを地球連邦から引き剥がす工作である。

 一方で休暇を利用して、私が名誉会長を務めるルナ・ライン先端技術研究所に出向している事になっている。しかし実際は、所長のリアナと入れ替わり、地球に降りて研究所の看板商品である宇宙線被曝症関連の医薬品の営業をしつつ、情報収集と連邦軍の弱体化工作を水面下で進めていた。

 

 宇宙世紀0074年。

 

「ご無沙汰しております。キシリア政務官」

「久しいな、マ。いやクベ中尉殿」

「お戯れを…その階級は地球連邦相手では、全く意味などありません」

「地球連邦軍の士官学校ではなく、新設された我が国独自の士官学校とは言え、首席で卒業とは中々なものです。しかし意外ですね。ジオン国防大学に行くとばかり思っていたのだが…」

 特別養成学校の武官コースを前身とするジオン国防軍士官学校は「指揮官」の養成所である一方で、ムンゾ国防大学を前身とするジオン国防大学は「政治将校」の養成所という位置付けである。国防大学への進学を希望していたマは、学費を工面するために武官として働く合間に学芸員の仕事をしていた。その後はザビ家での家庭教師、そして内務政務官の私的秘書官…実質私の副官を勤めていた訳である。しかし私がサイド6へ移るタイミングでマは、国防大学ではなく本格的な軍政や軍略が学べるようになった士官学校へ入り直したのであった。

「国防大学とも迷いましたが、貴女の副官としての経験で充分かと…それにあそこはまだ、連邦軍の影響が強いと考えましたので」

「いずれは連邦軍士官から我が国の生え抜き軍人へと教官が入れ替わることで、改善されていくでしょう」

 その言葉を聞き、マは鋭い目をさらに細め声を落としつつ口を開く。

「木星エネルギー船団の第1次船団が帰還しました。諸所の問題はありましたが、ヘリウム3の安定供給に向けての航路確立は完遂できたとのこと」

 表向きは改良型モビルワーカーと銘打っているMS-05B「ザク」についても、私が前世で嗜んだサブカルチャー由来の情報が示す時期よりも早く量産化が確立している。そしてザクを始めとしたミノフスキー物理学を利用した機械の動力源として、ヘリウム3は必須物資である。その安定供給に目処が立ったと言う事は、長兄ギレンは地球連邦との対峙に向けて、次の手を打つと言うことであろう。つまり……

「近々、キシリア様に本国へ戻っていただきたいとのことです」

「承知した。ここでの活動も仕舞いと言うわけか……最後の仕上げに一度地球へ行く必要がありますね」

「差し支えなければ、途中まで同行してもよろしいでしょうか?」

「地球に用があると?」

 私がそう言うと、マは少し驚いた様子で目を開いた。

「その……本国の身内の方とは連絡は取っていないのですか?」

「ん? 時折、地球産の土産を送っている。毎回律儀に返信してくれるのはガルマだけだが…それが?」

「……婚約者の方はお忘れで?」

「妹御の分と一緒に定期的に土産を送っている」

「そうではなくて……もう少しコミュニケーションと申しますか……」

 片手で目を覆ったのち、マは小声で私に話しかける。

「キャスバル様とアルテイシア様は、3ヶ月程前から地球へ遊学しておられます」

 その言葉を聞き、私の思考は一瞬停止する。待って、そんな話は聞いて……

「……そう言えば大学を飛び級で卒業資格を得たとかで、遊学すると聞いていたな」

 キャスバルらの母親のアストライアからの話で、故ジオンの伝手で遠方に遊学させると言う話は聞いていたが、場所までは聞いていなかった。

「なるほど。その様子見というわけですね。そう言う話であれば私も同行するとしましょう」

「是非そうしてください。私が言うのも複雑な気持ちですが……流石に哀れすぎます…」

 

 こうして私は、リアナに扮して地球へ行くこととなった。頭皮の健康もまた肌年齢に大きく影響すると知ってからは、髪を染めず通気性の良い黒髪のウィッグを使用していた。それを装着して眼鏡をかけた姿を見たマは、一瞬驚くも私がキシリアである事に気づき、何事もないようにエスコートしてくれた。

 

 旧スペイン領、カディス。

 欧州で最もアフリカ大陸に近い都市、そこの有力者であるテアボロ・マス、彼の屋敷がキャスバルとアルテイシアの遊学先となっていた。マと共にテアボロへと挨拶をし、キャスバルへの挨拶もそこそこで、私はアルテイシアに連れられて共に難民キャンプを訪問していた。

 アフリカの北部…旧モロッコ領や旧アルジェリア領が砂漠の中に沈み、生活の場を追われた人々がジブラルタル海峡を越えて難民となっていた。テアボロは地球連邦難民高等弁務官の依頼を受けて、保有している土地に難民キャンプを設置する許可を与えていた。

 そしてその難民キャンプでアルテイシアはボランティアをしていると、彼女が手伝っている医療スタッフから話を聞いた。また最近薬が効きにくくなったと言う愚痴を聞き、少し気になった事から私も手伝いを申し出た。薬の在庫確認や運搬、さらにゴミ捨てまで手伝ったりした。そうやって目当ての情報を収集したところで、アルテイシアもまたその日のボランティアを終えたため、共にマス邸へと戻ることになった。

 暫く歩いたのち、何かに気付いたのかアルテイシアは慌てて私の前の立ち塞がり、じいっと顔を覗き込んできた。

「もしかして……キシリアのお姉ちゃん?」

 恐る恐る訊いてきた事で、ようやく変装に気づいたのだとわかった。

「……一応お忍びなので、他の方には内密に」

「キャスバル兄さんにも?」

「様子を見に来ただけですので、向こうが気付いたならまだしも、こちらから打ち明けるつもりはありません」

 そう言うと、アルテイシアは不満気に頬を膨らませ、そして次の瞬間には酷く落ち込んだ表情を見せた。

「もっと早く分かっていれば、わざわざ屋敷から連れ出さなかったのに…私、勘違いして…」

「どう言う勘違いか分かりませんが、今頃男同士で気兼ねなく話していると思いますよ」

「どうかなあ……兄さん相手だと、クベ先生は大人気ないし…」

「ただの男同士の戯れ合いですよ。さあ、急ぎましょう。そろそろお暇しないと」

「……泊まらないの?」

「急ぎの仕事ができましたので。また、今度寄らせていただきます」

 

「で、結局ほとんど婚約者と話さずマス邸を後にされましたが、そろそろ理由を教えていただけませんか?」

 そうマが訊いてきたのは、マス邸を後にした1週間後。ニューホンコンのホテルの部屋に招き入れた時であった。

「あの後マッチモニードと繋ぎをとった事と、ニューホンコンに来たこと、全て関係していますね?」

 旧世紀の創作で出てくる怪神の名を冠するマッチモニードとは、ニアーライトやリアラが所属するザビ家私設の諜報部隊である。その名を口にしたマの前に、私は抗生剤の飲み薬の箱を三つ置いた。

「これは?」 

「右端の物は、ルナ・ライン先端技術研究所を経由して購入した正規品。他の二つは難民キャンプで手に入れたもの」

「一見同じに見えますが……」

 そこで言葉を止めたマは一瞬目を見開き、製品番号を指さす。

「正規品ではない二つの箱、全く同じ製品番号が印字されている……複製品ということですか⁈」

「偽造品だ。希釈して一つ分の薬を複数個に増やして売るパターンだろう。元の製品番号が印字された箱を複製して、それぞれ梱包していると言ったところでしょう」

「水増しして、その分を懐に入れている……着服ですか?」

「寄付や支援を隠れ蓑にするのは、旧世紀からの資金洗浄の常套手段。地球連邦難民高等弁務官の周囲を探らせて繋がったのがルオ商会」

「確かビスト財団に匹敵する規模の商会でしたよね?」

「ビスト財団が美術品を使った方法で、ルオ商会は寄付金を使った方法。どちらも資金洗浄が主な生業と言うわけだが……このやり方はいただけませんね」

「それはどうして……」

 その時、突然懐の携帯電話が鳴った。

 

 恰幅の良い体躯を地球連邦軍の軍服に収めている初老の男が、柔和な笑顔を見せつつ口を開く。

「すまないね。面会場所と日にちを変えさせて貰って」

 今居るのは地球連邦軍の極東基地。流石にマ・クベはホテルに残し、営業の時に付けている護衛のアンディと共に訪問していた。

「お忙しい身の上で無理を言ったのはこちらですので。ゴップ中将殿」

 地球連邦軍の高官で、宇宙線被曝症関連の医薬品の売り込み先でもあった。尤も大半は窓口担当の者が対応していたため、私が会うのはこれで2度目であった。

「サイド6を離れるとかで、その挨拶であったな」

「はい。去る前に一度ご挨拶をと思いまして」

「ルナ・ラインの本社があるサイド3に戻られるのであったな? サイド3の駐留武官にエルランと言う者が居る。何かあれば彼を介して連絡したまえ」

「ご配慮感謝申し上げます」

 私がそう言い頭を下げたタイミングで、ゴップは席を立つ。

 取り敢えず大事な予定の一つが終わり、心の中で安堵の息を吐く。今頃マ・クベは骨董品漁りをしているだろうと考えていたその時、ゴップは思い出したようにこちらを振り返った。

「ああそうそう、今君が調べようとしている商会。これ以上はやめた方がいい」

「っ⁈」

 驚き慌てて頭を上げると、意味深な視線を向けたゴップの姿が目に入った。ルオ商会に近づかないようにと言う警告。これが面会日繰り上げと場所変更の理由であると悟った。

「……ご忠告、感謝申し上げます」

 鷹揚に頷き去ろうとしたゴップの背に、私は徐に話しかける。

「多剤耐性菌をご存知ですか? 耐性菌は中途半端な投与量で発生します。患者が自己判断で途中で投薬をやめる。または、希釈された偽薬を使う…と言ったところが原因と言われています」

 歩みを止めて振り返るゴップ。 

「……それが?」

「治療薬が効かない肺炎が急増していると聞いております。最近では各地の都市部でも発生しているとか…他人事では居られない。それだけの話ですよ」

「………」

「我が社で新しい抗生剤を作っておりまして…ご入用でしたら、私の後任者が挨拶に来た時にでもお申し付け下さい」

 そう言い笑みを浮かべる私に対して、ゴップは一瞬苦い表情を向ける。しかし流石は政財界を渡り歩く政治屋の軍高官。瞬時に表情を整えて、彼の従卒が開けた扉を潜って退室したのであった。

 




マス邸があった場所は、originでの描かれている状況から予測して決めました(違っていたらごめんなさい…)。
次回か次々回あたりに、すっぽん料理回の予定です。

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