キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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たくさんの感想、ありがとうございます。
全部楽しく読ませていただいておりますが、返信するとかなりネタバレとなりますので、山場が落ち着いたらボチボチ返信していければと思います…
ちょっとだけですが、ロボ戦闘シーンです。



15. キシリア様は重傷者

 

 血に塗れたシャツを脱ぎ、キャスバルは手早く新しいシャツを羽織る。

 

 キシリアが倒れて程なく、彼女の護衛たちと共にマが飛び込んできた。アンディらの巡回で襲撃者の予兆を確認し、バリケードを作って凌いでいる間に予定より早くマ達が到着。こちら側に増援が来たことから、襲撃犯は逃走したと言う話であった。

 同行していた武官が手早くキシリアの止血を試みたが、動脈か脾臓を傷つけている恐れがあると診断された。医療機器と資材を積んだヘリで応急処置をして、病院へ緊急搬送することになり、キャスバルは付き添いを希望したのだが…

「キャスバル様。“リアナ・キシ”女史とは、そこまで面識はありませんよね?」

 マにそう諭されて気づく。表向きキシリア・ザビはサイド6に居て、マス邸を訪問して負傷したのはルナ・ライン先端技術研究所の所長であると…

 推し黙るキャスバルの様子を見たマはある提案をする。熱を出しているアルテイシアも共に病院に搬送して、その付き添いで行けばどうか…と。こうしてキャスバルも同行することになったが…

「ヘリまで距離があって車が必要ですが、全員が乗れませんので先に怪我人と病人の搬送させます。我々の足としてテアボロ氏から車を借りますが、暗殺者が既に侵入していた以上はトラップの有無を確認する必要があります。病院でその姿は差し支えがあります故、車の準備をする間に身なりを整えて下さい」

 マにそう言われて、キャスバルは服がキシリアの血で染まっていることに気づき、着替えのために一度自室に戻ったのであった。

 

 服を着替えてきたキャスバルが玄関ホールに向かうと、自身が捕えた青年の隣に壮年の男が縛られ座っていた。

「この者は? 襲撃者か?」

「我々が合流した時に襲撃者は逃げました。この男は、屋敷の周囲を彷徨いていた者です」

「……アルテイシアが通っている難民キャンプのスタッフだ」

「ほう……」

 キャスバルの言葉を聞き、マはその視線をさらに鋭くして尋ねる。

「で、屋敷の近くに居た理由は?」

「…………」

 口を割る様子は無いことから、マはキャスバルが捕らえた青年の方を尋問する。殺気立った視線を向けられた青年は、顔を蒼白にしてポツポツと話はじめた。

 難民キャンプで巡回中の連邦兵から「こちらの足元を見たスペースノイドが、高額な治療薬を売ろうとしている」という噂を聞いたこと。それを聞き怒りを露わにしたところ、その連邦兵の提案を受けて薬を奪う決心をしたと言う。

 提案された事は二つ、一つ目はマス邸の指定された箇所の鍵を開けること、二つ目は指定した時間に鍵を開けた場所からマス邸に侵入することであった。

「忘れ物を装って、夕方に一度屋敷を訪れて侵入路の鍵を開けた。あの連邦兵の話通り、指定した時間で難なく侵入できた」

「他に提案された事は?」

「金髪の娘を人質にすれば、あの女から薬が貰えるだろうと…騒ぎの隙に娘を連れて行こうとしただけだ! そしたら見つかって…」

「それでキャスバル様の前で、アルテイシア様にナイフを突きつけたと…」

「…あのスペースノイドが悪い……自分らだけいい薬使いやがって‼︎」

「あの薬を作るまでに、どれほどの労力と資金が注ぎ込まれたか知っているのか? 何故それを何の対価もなく、見ず知らずの者に恵んでやる必要があるのかね?」

 冷徹にそう言い放つマに対して、青年が半ば喚き散らしながら反論する。

「お前らスペースノイドに何が分かる⁈薬を作る方法すら分からず、そのため資金を集めることも、俺たちにはできないんだ‼︎ 自ら立ち上がれる地盤を持っているのに何が『棄民』だ⁈ だったら俺たちはなんだと言うんだ‼︎」

 血を吐くような声でそう言い放ち、青年は嗚咽と共に項垂れる。

 青年の動機は理解した。そこでキャスバルは違和感を覚える。

 あの甲冑を着た暗殺者は、最初はキャスバルを襲ったにも関わらず、途中でキシリアへと標的を変えた。その目的は何なのか?

 

 ダイクン派とザビ派の抗争はキャスバルとキシリアの婚約で小康状態である。

 しかし…

 ダイクンの遺児が暗殺されたとしたら?

 キシリアが暗殺されたとしたら?

 

「両派閥を疑心暗鬼にさせてジオン共和国内を分裂させる事が、あの暗殺者の目的か?」

「確かにそれでしたら、ジンバが殺された理由として、守ろうとした、あるいは返り討ちに遭った、その両方の解釈ができます。ザビ派とダイクン派が互いに相手が攻撃してきたと言えるわけであり、アナハイムもジンバに押されて致し方なく協力したとも言える。しかし…」

「それならば、ターゲットをどちらか一つに絞るべきだった。私を襲い、ジンバを殺し、彼女を刺した理由は何だ?」

 マも抱いている疑問をキャスバルは明確に言葉にする。怒気が込められた声はまるで仇敵を探しているかのようで…

「偽薬を指摘されて邪魔だから排除した、あるいは“リアナ・キシ”女史が持つ利権を奪うための脅しと言う考えもあるかと」

 キシリアとリアナ。どちらに害を与えるつもりであったかにより、予測は異なるのだ。

「おそらく目的は複数あると推測されます。そして暗殺者本人としては、複数の依頼報酬が貰える相手を優先しただけかもしれません」

 キシリアとして狙われた理由、リアナとして狙われた理由。それを考えると、キャスバルよりも報酬が高額であったと容易に予測できた。

「動機が何であれ覚悟はなさってください。このままでは済まないでしょう」

「……報復するのか?」

 初めて見る殺気立った表情を隠し切れないマから視線を外し、キャスバルは訊ねる。

「今回の件は、ザビ派やダイクン派に関わらず、ジオン全体を敵に回す結果となりました」

「……戦争か?」

「最終的にはそこまで至るでしょう」

 その時、マの副官であるウラガンが車の準備ができたと報告してきた事から、この話題は一度終わらせる事になった。

 

 玄関ホール前に車が回され移動しようとしたその時、先行していたアンディからヘリの離陸準備が完了したと連絡が入る。キシリアの容体は一刻を争うとのことで、先に病院までヘリを飛ばしたいと言う。アンディの言葉にマが了承の返事をしようとした、その時…

 キャスバルはドロリとした空気を感じた。

 キャスバルの顔色が変わったことに気づいたマは、捕縛した襲撃者の顔に一瞬過った嘲笑を見逃さなかった。

「待て、ヘリを飛ばすな!」

『は⁈ しかし……』

 アンディが聞き返したその時、マの業務用携帯電話にメールが入る。

「……ウラガン、コイツを立たせろ」

 メールの内容を見るや否や、マはウラガンに襲撃者を立たせて銃を突きつけるように命令した。一方でヘリの離陸を制止したことに対して、アンディが疑問を呈する。

『クベ中尉?』

「奴ら、ここから離陸するヘリを撃ち落とすつもりだそうだ」

『な⁈』

「地対空装備を無力化させる。私が連絡を入れるまで待て。ホアンとガブリエルは予定通り此処で待機。テアボロ氏の護衛および警察へあの青年の引き渡しと事情説明をしてくれたまえ」

 襲撃者を連れて歩き出したマとウラガンを見て、ガブリエルが驚き訊ねる。

「お待ちください! どうやって無力化を⁈」

「連邦軍から払い下げられた主力戦車2機とのことだ。今我々が持つ装備では太刀打ちできない。故に1機を奪取して、もう1機を潰す他あるまい」

「マ中尉が行かれるのですか?」

「君たちの中に操縦技術を持つ者は?」

「いえ……ありません」

「承知しました。ご武運を」

 敬礼するガブリエルとホアンに一つ頷いた後、マは温度のない蛇の視線を襲撃者に向ける。

「さて、主力戦車を隠してある場所まで、案内を頼もうか? 地球連邦軍の元兵士である君が、砲撃担当であることも知っている」

「お前……何故その事を⁈」

「いい目といい耳があってね……君も新しい治療薬目的らしいね。薬を必要としている息子の名前と年齢を言い当てても構わんが?」

「…案内する。家族には手を出さないでくれ……」

 

 連邦軍の主力戦車…初期型ガンタンクの運転席に座り、帽子を目深く被りうたた寝をしていた男は、物音を聞きつけ目を覚ました。

「遅かったな。暗殺者の首尾は……」

 問いかけを最後まで口にする前に、ウラガンに昏倒させられ、マが気絶させた案内役共々縛られ床に転がされた。

「無線で相手の状況を探る。ウラガンはもう一機の位置を確認しろ」

「了解しました」

 マがマイクを切った状態で備え付け通信機の周波数を合わせると、程なく無線が繋がった。

『ヘリに動きがあったそうだが、暗殺者は上手くやったのか?』

『仕留められずとも重傷である事は間違いない。屋敷からの車にターゲットが2人いたのは確認済みだ。一発で仕留めろ。あくまで誤射という体裁だ』

 その時マの持つ通信機から、アンディの切羽詰まった声が聞こえてきた。

『離陸許可を‼︎ これ以上はキシリア様が…』

「っ! ウラガン⁈」

「申し訳ございません。周囲に熱源が多くて特定が…」

 その時突然、マたちが乗っているガンタンクの砲塔が動き出した。何が起きているのか理解する間もなく、両肩のキャノン砲が火を噴いた。

「っ⁈ 着弾確認……敵戦車に当たっている⁈」

「誰か砲塔にいるのか⁈」

 呆然と報告するウラガンを残し、マは上部の砲塔に登る。そこには操縦桿を握ったキャスバルの姿があった。

「キャスバル様‼︎」

「コイツらは皆……敵だ‼︎」

 マが制止するより先に、キャスバルはミサイル・ランチャーを発射した。

「敵戦車の沈黙確認…中尉! 多数の熱源がこちらに接近‼︎」

「撤収だ‼︎ ウラガン‼︎」

 キャスバルを抱え込んで下へ引き摺り下ろし、ウラガン共々ガンタンクから脱出する。

 近くの岩陰に伏せた直後、相手の攻撃が着弾しガンタンクは爆発炎上した。

「対空装備は沈黙させた! 離陸しろ‼︎」

 爆風が収まるや否や通信機に半ば怒鳴りつけるようにそう言い、キャスバルに対してマは走るように嗾しかけ、目的のポイントへと走る。下車した場所とは異なる地点、倒壊した建物の側にキャスバルがこっそり隠れて同乗した車があった。

 後部座席にウラガンとキャスバルが乗ったことを確認した後、マは助手席に乗り込む。

「此処もすぐ見つかる。車を出せ、ニアーライト」

「随分と派手にやったわね〜りょーかい」

 マに促され、運転席にいたニアーライトは軽快にアクセルを踏み込んだ。

 

 地平線が光を帯び始めるまで走り続けたが、車への追手の姿はないことを確認し、マは安堵の息を吐く。

「ウラガン、キャスバル様は?」

「眠っておられます」

「……そうか。脱出前の隠蔽工作は?」

「…滞りなく。焼け跡の遺体から、あの2人が実行犯と判定されるでしょう」

「相手が攻撃してくれたおかげでな。だが、対戦車ロケット弾は聞いて無かったがね」

 そう言いマは、半ば非難するような視線をニアーライトに向ける。

「地対空砲じゃないしヘリの場所まで距離があるから大丈夫よ〜近づけないように工作したと言うのが正しいんだけど〜」

「ヘリは?」

「先ほど病院に着いたと連絡があったわ…って、殺気向けるの止めてくんない?」

「その口調は止め給え。不愉快だ」

 キシリアの前で真面目な報告をする時は普通の口調であることから、ニアーライトが敢えてオネエ言葉を使っている事をマは知っていた。

「朝が大変で中々出発できなかったとは言え、飛行機の時間は変わらなかったでしょうが」

「うるさい!」

「後は神にでも祈るしかないんじゃなあい」

「貴様がやらない事を、なぜ私がやる必要があるのかね?」

「…ホント、世に溢れているのは悪魔ばかりだわ。いっそ、悪魔に祈る?」

「くだらん。それより私たちの足は?」

「先ほど、幹線道路の復旧が完了したと連絡があったわ。このまま向かうわよ」

「承知した。少し休む」

「で、旅館ではどうだったの?」

「うるさい‼︎」

 キシリアの代わりに先行できなかったことをニアーライトに暗に突かれ苛つき、色々と後手に回った自分に怒り、何より襲撃してきた顔もわからない黒幕への憎しみを燻らせつつ、それを全て押し込むようにマは目を閉じたのであった。

 





連載1ヶ月記念でストーリーの山場を当てようとしたらドンピシャで…
金曜配信の方を見ているから、地上波の放映曜日まで把握してませんでした(汗)

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