キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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今話で山場がひと段落です。
感想につきましては…無理ない範囲で返していきます。



16. キシリア様は治療中

 

 サイド3、ジオン自治共和国。

 首都バンチ。CLUB Eden。

 空になったグラスを片手に、ランバ・ラルは机に突っ伏していた。

「大尉…じゃなかった、少佐。屋敷の方から連絡が…」

「クランプ! 無視しろ‼︎」

 店のマスターである元部下に半ば怒鳴りつけるように返事をし、ランバはぼんやりとグラスを眺める。

 キャスバルとアルテイシアの地球への遊学先として、ランバ・ラルはラル家と誼があるマス家を斡旋した。そこを地球に追放したランバの父親であるジンバが、暗殺者を引き連れて襲撃したのだ。

 ジンバはキャスバルを庇って落命したと、帰国してきたキャスバル自身からの説明でラル家の存続は首の皮一つで繋がっている。しかし責任を取る必要があり、ランバは新生ダイクン家の筆頭をカーウィン家に譲ることになった。

 

「ラル家の頭領が、こんな所で何をやってる?」

 

 聞き覚えのある低い声が聞こえ、ランバは突っ伏したまま怒りを込めてグラスを投げつける。

「そんなもの…もう何の意味などない‼︎」

 起き上がり個室の扉の方を見ると、予想通りの人物…グラスを避けなかったのか額に赤いアザをつけたドズル・ザビの姿があった。

「親父を使って何をやらせた⁈ お前らザビ家がぁ、ラル家を陥れるために仕組んでやったっ‼︎ そうだなあっ⁈」

 胸倉を掴んできたランバを、ドズルは半ば投げ飛ばす勢いで床に叩きつけた。

 ランバが反撃しようとしたその時、ドズルから今まで見た事が無いような怒気が放たれている事に気づく。

「お前の親父のせいで……姉貴が刺された」

 凄まじい形相でドズルが言ってきた内容を聞き、ランバは驚愕する。

「キシリア・ザビが? そんなことは聞いて…」

「その話は本当のようね」

 個室に入ってきたハモンがドズルの言葉を肯定する。

「ハモン?」

 どちらが先と言わず、取っ組み合いから離れてランバとドズルは立ち上がる。

「随分と厳しい情報統制が掛かっていて、つい先程情報の裏が取れたわ。キャスバル様を襲撃した暗殺者と相打ちになったそうよ。まだ昏睡状態らしいわ」

 ハモンが持つ情報網は広く深い。ジオン国内だけではなく地球連邦の方にも網を張っている彼女が持ってくる情報の正確性は、ランバはよく知っていた。

「……どういう……ことだ?」

「会議に出ろ。そこで分かる。復讐の機会をふいにするつもりか?」

 

 ドズルと共に車に乗り込み、ランバが連れてこられたのはザビ家の別邸であった。そして窓一つない会議室に案内され、入室したランバは驚き目を見開く。

「っ!」

 ザビ家の者だけと思っていたのだが、部屋にはそれ以外の人物の姿があった。

 旧ローゼルシア派で筆頭だったサハリン家、新生ダイクン派筆頭のカーウィン家、中立派のカーン家…ジオン共和国の名家の名を背負う武官が揃っている事に驚きつつ、ランバはラル家当主の武官として与えられた席に座った。

「全員揃いましたかな? 改めて議会にあげる予定ですが、それより前に非公式ではありますが、事前会議をしたいと思います」

 進行役のサスロがそう宣言し、ギレンに目配せをする。

「…地球で由々しき事態が発生した」

「キャスバル様とアルテイシア様への襲撃事件ですかな?」

 カーウィンがランバを一瞥した後に、そう尋ねる。

「その襲撃の折、我が妹キシリアが負傷した。現在、意識不明の重体に陥っている」

 ギレンの言葉を聞き、驚き一部の者は席から腰を浮かせていた。

「襲撃犯はダイクン家の者とザビ家の者に刃を向けた事になる。我らが分裂するような工作をしようとしたようだが、雇われ暗殺者が疑念を残してくれたゆえ、黒幕についての予測は簡単についた」

「地球連邦政府と言うわけですな」

 カーン家当主…マハラジャが穏やかにそう言うが、怒りを抑えきれていないのか両手が微かに震えていた。

「我々は独立宣言に伴い、連邦政府へ要求を叩きつける。それを拒否した場合は、速やかに軍事行動を…」

 その時、部屋にノックが響き渡る。

「緊急連絡が入りました。対応をお願いします」

 誰の声か即座に理解したサスロが立ち上がり、細く扉を開ける。

「マレーネ、大事な会議だと…」

「地球から緊急連絡です。マ・クベ中尉からで、キシリア様が急ぎ話をしたいと…」

「っ⁈ 意識を取り戻したのか?」

「構わん。通信機をここに」

 デギンの鶴の一声で、サスロは通信機を受け取り会議室のメインスクリーンに繋げた。

 すると病室のベッドで上半身を起こしている、病院着姿のキシリアが映し出された。

『このような姿で失礼致します』

「よい。で、急ぎ伝えたい事とは?」

 デギンに促されて、キシリアは静かに話し始める。

『今回の襲撃、キシリア・ザビとして受けたものではありません』

「どう言う事だ?」

『襲撃を受けた時、私は“リアナ・キシ”に扮しておりました。相手はルナ・ライン研究所所長と認識した上での襲撃であったはずです』

 そう言うキシリアに対して、ギレンは目を細めつつ口を開く。

「キャスバル・レム・ダイクンが襲撃を受けたことは事実であろう。それにお前が重傷を受けたことには変わりあるまい」

『そうだとしても今蜂起するべきではありません。我が方にはまだ押し切れる戦力はないのではないかと…』

 キシリアの言葉を聞き、ランバは思わず頷く。こちらは数多くの新兵器があり短期決戦であれば優勢に進められる見込みは高い。しかし連邦政府が物量を持って押し返した場合、戦いが泥沼化し長期化する危険性も孕んでいた。国力差が30倍と言うのは伊達でないのだ。

『確実に戦局は泥沼化します。こちらが短期決戦を目指したとしても、長期戦に誘導するでしょう。何者かの意図によって、我がジオンと連邦政府との争いが誘導されている以上は』

「何者かの意図?」

『今回の件、連邦政府が関与したように見せかけるための、偽装工作が多数見つかっております。一方で連邦政府を直接探ったのですが、上層部が襲撃に関与している可能性は低いと結論づけられました。後ほど報告書をお送りしますので、ご確認ください』

 キシリアにそこまで言い切られ、会議室にいる者は一様に推し黙る。

「となると、アナハイムですかな?」

 尋ねたカーウィンの言葉に、マハラジャが同意する。

「軍事産業に食い込めるチャンスだ。アナハイムが動く理由としては充分…」

『ある意味正解と言うのが正しいです』

 キシリアのその言葉を聞き、ギレンは呟くように言う。

「アナハイムの一部の者が関与していると言うことか。その言い方では、連邦政府の一部の者も絡んでいると言ったところか」

 アナハイム社も地球連邦政府も巨大な組織で派閥争いもある中では、上層部の意に反して一部が勝手に動く可能性は充分にあった。

『その可能性が高いと踏んでいます』

「お待ちください。それらが各々勝手に、それも同時に事を起こしたとは考えにくい」

 サハリン家当主で技術士官であるギニアスの意見に対して、キシリアは困った表情を見せつつ口を開く。

『それこそ“何者か”の意図が関与しているかと。絵を描いた者がいるはずですが…辿りきれていません。利益で動いている訳ではないようですので…』

「…思想で動く類の者か。こちらの常識が通じない故に厄介だな」

「そのような輩に踊らされて、被害覚悟で動くと言うのは…」

 サスロに続きドズルもそう言う中で、キシリアは特大の爆弾を落とす。

『それと…おそらく我が国の者も絡んでいる可能性が…』

「っ⁈」

 何を馬鹿なと言いかけた言葉を、ランバは飲み込む。限られた者しか知るはずもない、キャスバルとアルテイシアの滞在期間と場所が正確に割れていた事から、その可能性が高いと認めるしかなかった。

『現状のままで開戦に踏み切れば…国内に潜む工作員が戦争を長引かせるように動く危険性が…』

 今回の件に関与した工作員への対応が最優先事項であると言う考えに、大半の者が傾いたのは当然のことであった。

『不安要素がある中で…わざわざ今仕掛ける必要はありません。リアナ所長のみを被害者とすれば、新薬目的の強盗事件であったと……言い張れ…ます…』

 キシリアの身体が傾き、控えていたマが慌てて支えた。

『ウラガン、医師を呼べっ‼︎』

 切羽詰まったようなマの声が聞こえ、ずっと黙っていたデギンはゆっくりと口を開く。

「お前の意見は了承した。再検討をしよう」

「父上⁈」

「だから暫く休め。医師の許可があるまで、仕事への復帰は認めぬ。よいな?」

 ギレンの言葉を制したデギンの言葉で、ようやくキシリアは表情を緩めた。

『……承知……しました…』

 

 ********

 

 私が頭を下げようとしたところ「動いてはだめです」と押し留め、マは本国の通信を切った。

「会議のこと…情報を掴んでくれて助かった」

 礼を言うと、焦燥し切った顔で半ば睨みつけつつマは、ベッドのリクライニングをゆっくりと元に戻す。

「本当は絶対安静なんですよ! 」

 昨日深夜にようやく目覚め、各種報告と共に会議のことを聞いた私が、時間になったら起こして通信を繋ぐよう厳命した事を、マは根に持っているようであった。

「キシリア様とリアナ殿の入れ替わりについてですが…一部で勘づかれていた可能性が高いです」

 先ほどの会議でリアナとして襲撃を受けたと言ったが、少なくともヘリを狙った者については、キシリアと認識していた可能性が高いと言うのがマの見解らしい。私がリアナに扮して地球で活動していることがバレているのであれば、キシリアとリアナが共に標的にされている現状から、私自身に対する強い殺意を感じられた。

「近いうちにサイド6の病院に移っていただきます」

 例の襲撃事件。それぞれ異なる目的を持つ者が複数、実行犯として混在していた。そして彼らの背後に、ジオン共和国の分裂または偽薬拡散を揉み消したい連邦政府と、戦争を引き起こして軍事産業を拡大させたいアナハイム社の姿が見え隠れしていた。その中で例の甲冑に扮した暗殺者は、偽薬関係のルオ商会、連邦議会の議員、連邦軍の一部派閥、アナハイム社の一部派閥からも、同時期に依頼を受けていた事が発覚した。

 鬼気迫るマとニアーライト達の仕事の結果、全ての背景が同一である可能性が導き出された訳である。

 黒幕の狙いは状況から鑑みて長期に渡る大戦の勃発。泥沼化すると分かりきったタイミングで戦争を避けたかった私は、末端の襲撃犯の動機を前面に出して、ジオン共和国が面子を掛けた対応をしなくても良い状況へと落とし込む事にした。一部とは言え連邦政府がルナ・ライン先端技術研究所所長の傷害に関与していた証拠はそのまま残ることから、好きなタイミングで連邦への新薬供給を止める手札になるため、父デギンは納得してくれた様子であった。

「ニアーライトに……入れ替わりが発覚している可能性を除いて…調査報告を急ぎ本国に……」

「お願いですから喋らないでください」

 身体が横になった事で目眩が治り指示を伝えようとすると、マは毛布を掛け直しつつ小言を口にする。倦怠感が押し寄せる中、私は大きく息を吐き出しマに視線を向ける。

「……頼みがある」

「まずはお休みください」

「……一度眠ると……次はいつ目覚めるか…分からない…から……」

 瞼が落ちるのを必死に堪えているが、視界がどんどん狭まっていく。猛烈な眠気と戦っていると、マは言葉を逃さないようと私の口元へと耳を近づけてきてくれた。

「マ、貴様は…すぐに帰国しろ」

「何を仰りますか。貴女様が回復するまで側に居ります」

「……兄は……本当は仕掛けたいはずだ……カイルと協力して…逐一動きを…サスロ兄と父上に伝え…独断専行せぬよう動いてくれ」

 今回の宣戦布告を回避することはできた。しかし自身が療養している間に、事態が動かないと言う保証はないのだ。

「我が方も大損害となるこのタイミングで動くことは…」

「それが兄の……目的だったら?」

 一瞬聞き間違いかと思ったのか、マは私の目を凝視してきた。

「我が国の独立……それは確かに私と…兄の共通の目的……だがその先は……」

 痛みが走り言葉が詰まる。鎮痛薬の効果が切れてきたようだ。

「お願いですからお休みになって下さい!」

「兄の考えを覆す方法はある……そのために準備を続けて…情報を集めてきた……それを突きつける前に事が起こってしまえば……」

 その時、マは落ち着かせるようにそっと私の手を強く握った。

「落ち着いてください。大丈夫です、私にお任せください。貴女が願われるのであれば、どのような命令であっても、必ず遂行するとお約束いたします」

「マ・クベ……」

「だから、どうか今はお休みください」

 懇願するような声と視線に押されて、私は目を閉じて力を抜いた。

 前世の記憶から一番好きな声かもしれないと思いつつ、ただただ静かに眠りに落ちていった。

 





第二章もあと4話ほどで終幕です。
第三章の需要があるかどうか、またアンケートをしたいと思いますので、よろしくお願いします。

第三章「ジオン公国」篇で多めに読んでみたい内容は?

  • 戦争の裏側での駆け引き
  • モビルスーツ等の戦闘
  • ニュータイプ研究所関係
  • ザビ家関係の深掘り
  • キシリアとキャスバルの掛け合い
  • キシリアとマ・クベの掛け合い
  • キシリアのモビルスーツ搭乗
  • キシリアの前世関係
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