アンケートのご協力、ありがとうございます。第3章の執筆を前向きに検討いたします。
木曜日更新にしていましたが、今後は水曜日更新に切り替えようかと思います。
地球での襲撃で負傷し一命を取り留め、最初に意識を取り戻した後には気力で一度再覚醒して、ジオンから連邦への宣戦布告を止めることができた。
それ以降は飛び飛びで意識が戻ったりしたが、今ひとつ記憶が定かではない。意識が安定したのは負傷してから1ヶ月後で、その時にはすでにサイド6の病院に移っていた。
眠りと覚醒を繰り返した1ヶ月間、夢で頻繁に見たのは例の前世の記憶であった。そこで私はある違和感を抱く。5、6年前に見てから、前世の記憶の年齢幅が全く増えていないことに…
前世の人格に喰われることを防ぐために、前世の記憶の年齢幅の上限が抑えられていると考えていた。しかし、私自身は歳を重ねているにもかかわらず変化がないと言う事は、何かしらの別に要因があるのではなかろうか。
代わりに、前世の記憶の中でぶつ切りに差し込まれた、全く異なる場面を見るようになった。そこでは白衣の男性と対峙してそして…
「キシリア様?」
気遣うような男性の声がして、意識が現実に戻る。
「ああ、申し訳ありません。少し考え事をしていました。わざわざ時間を作っていただき、ありがとうございます。シュウ・ヤシマ会長」
ヤシマカンパニーCEOと今商談中であったと、私キシリアは気を引き締める。
「サイド3でコロニーの新規発注という話で、よろしかったでしょうか?」
「はい。植物プラントにしたいと考えておりますので、小型の開放性コロニーを4基検討しております」
そう言い私は、4基の小型コロニーの図面をヤシマ会長に見せる。
「ふむ…この居住区画と病院というのは?」
「プラントで作るのは例の新薬の原材料です。その治験施設を作ろうと考えております」
そう言ったがこのコロニーの実態は、将来に備えた検疫所と隔離施設であった。連邦軍の将校であり連邦政府の高官であるゴップに、偽薬の件を伝えた直後に襲撃を受けた。連邦政府が本腰入れて対策する可能性は低いことから、地球から病原体を持ち込ませないための自衛策と、万が一コロニーで流行した時の対策を立てる必要があった。
そして残りの3基だが、薬の原材料の生産ではなく、酸素や水を浄化または生成するためのプラントであった。
コロニー内で生活する上で必要となる空気と水の半分以上は、地球からの輸入で補っている。一部で廃水の再利用や、水からの電気分解で酸素が作成されたりしているのだが、採算が取れないと研究段階で足踏みしている状態であった。自治政府が税金として支払っていることから実感が薄いというのもあるが、税金から試算した費用もまた予想以上に安く設定されていた。大部分のアースノイドである不法在住者を半ば奴隷化することで、人件費が抑えられている故の金額設定であるため、相当効率化しなければコロニーでの自己生産による水と酸素は受け入れて貰えない事は明白であった。
廃水の浄化で費用が嵩む理由として、大規模かつ効率的な処理方法がないことが原因であった。そこで、有機物分解特化型アスタロスで生活用水の浄化プラント、重金属吸着特化型アスタロスで工業用水の浄化プラントを提案したわけである。そしてもう一基のコロニーは、光合成強化型アスタロスで、接続させた製鉄所から排出された炭酸ガスを流入して酸素を作らせ、加えて製鉄時に発生する水素と合わせて水を作るという、酸素と水の生成プラントの実験機となっていた。
体調が戻ってきたにも関わらず、半年の療養の指示を医師から受けた私に、念願であった3種のアスタロスができたと報告が入ったのは5日程前の事。1週間目で療養に飽きていた私は居ても立っても居られず、偶々サイド6に来ていたヤシマ会長に、こうして商談に取り掛かったのであった。
「思った以上の大事業となりますが…失礼ながらこれは本当に一企業の事業でしょうか?」
「ルナ・ラインの事業で間違いありません。例の新薬の需要が伸びる見込みですので、増産体制を整えるための投資です」
膨れ上がったキシリア個人の資産を減らすため、ルナ・ラインの株を買い取りまくって大株主となったからこそ、ここまで大胆な手を打てるようになっていた。
「それにしても、なぜ我が社を?」
「アナハイム社を抑えて、サイド7のコロニーを受注したと聞いております。その実績を踏まえてのことですが」
「ははは…しかし此方を引き受けてしまえば、サイド7の2基目以降の入札は無理でしょうな…しかし、やりがいはありそうだ。お受けいたしましょう」
「キシリア様、ヤシマ様。お話は終わりましたでしょうか?」
そう言い応接室に入ってきたのは、ルナ・ライン先端技術研究所の所長、リアナ・キシであった。
「キシ所長。すみません、貴女との方が先のお約束だったのですが…」
どうやらヤシマ会長は偶然サイド6にいた訳ではなく、リアナとの商談のために来ていたようだ。
「構いません。どうせキシリア様が無理やり面会を捩じ込んだ事でしょうから…」
その言葉通りなので、私は反論せずに口を閉ざして静かに紅茶を飲む。沈黙は金とはよく言ったものである。
「怪我をなさったと聞きましたが…無事復帰されたようで何よりです」
「…え…ええ、そこまで大した怪我ではなかったですので」
「そうでしたか。てっきり貴女の療養先かと思っていたのですが…」
「療養先?」
ジロリとリアナの方を見ると、リアナは取り繕った笑顔を見せる。
「貴女の療養先ですよ。キシリア様」
思わぬ言葉で思わず息を呑む。
「キシリア様でしたか。確かに少し顔色が優れないと感じていたのですが…」
「っ⁈」
「そうなんですよ。私が怪我を負って入院していた折、キシリア様が私の仕事を肩代わりしまして…」
私が言い訳を考える間も無く、リアナが流れるように創作した事情を話していく。
「加減が悪いと言いますか…過労気味と診断されて、医師から療養するように言われているのですよ。ここにいてもご覧の有様で、隙を見て仕事をする始末でして…」
「それでリゾート系のコロニーを探しておられたと…」
「しっかり仕事から離れられるような環境で、サイド3近辺で良い場所に心当たりはないでしょうか?」
「それでしたら…私が所有するコロニーで、最適な所があります」
サイド5「ルウム」、テキサスコロニー。
途中で放棄されたレジャー施設構想をそのまま受け継ぎ、シュウ・ヤシマ氏が完成させたコロニーは、建物に地球産の石材や木材を使われ、周辺に草や木々までも植えられた凝った作りになっており、都会の喧騒から離れ長期療養をするには最適の環境となっていた。
そして私キシリアは、テキサス・ビレッジにある風情あるログハウスを一棟、一年契約で借り受けることにした。
「で、身柄は今どこに?」
ログハウスの日当たりの良い一室、そこで私は通信機越しにリアナと話していた。
『マス邸です。サカキが監視についてます』
定例連絡のおり、襲撃騒動の時に非意図的な暗殺者の侵入幇助と、アルテイシアを一時的に人質にした、難民キャンプの医者の助手の青年の処遇についてリアナが相談してきた。
しかしその内容と言うのは、ニアーライトが拷問尋問を希望しているとか、サカキから処分は任せてほしいという気概だとか、既に出ている物騒な結論への承認であった。暗に処分を急かす声色のリアナの様子を見る限りだと、こちらが連絡をしなかったら勝手に闇に葬っていただろうと予測できた。
彼女と言いニアーライトと言い、ザビ家私設の諜報部隊「マッチモニード」の面々は、どうも私キシリアを始めとしたザビ家への忠誠の度合いが重すぎる。
「確かにアルテイシア様に刃物を突き付けた事は看過できませんが…」
『貴女様の怪我の要因ですよね?』
「怪我を負ったのは貴女でしょう?」
そう、表向きはキシリアではなくリアナが負傷した事になっている。そう指摘すると非常に複雑そうな表情で、画面向こうのリアナはこちらを見返してきた。
はっきり言って、あの青年が居ようが居まいが、力量の差から自身が暗殺者の刃を受けていた可能性は高い。しかしそれを言ったところで、納得はしないだろうが…
「青年は確かアフリカからの難民と聞いているが、医師の助手をしていた経緯は?」
『一通りの教育を受けていた事と、正規の旅券を持っていて身元を証明できたからとか…』
「偽造や仮発行ではなく、正規の旅券を持っていた? という事は、連邦政府が認めた地球在住者と言うことか?」
特権階級であるならば、難民にならず亡命も可能だったのではと疑問を抱いたが、両親を亡くして家が没落したと言う話であった。と言う事は…
「後ろ盾はないが、連邦議会の選挙権と被選挙権を持っていると言うことか。となると、かなり大きな価値がある」
『……実はテアボロ・マス氏が例の青年…エドワウに同情しております。テアボロ氏が言うには、普段は優しく誠実な青年だと…薬を手に入れるために暴力と窃盗を選択した以上は、全く説得力はありませんがね』
「エドワウを唆した連邦兵、まだ見つかっていないのでしたね? 手練の工作員は、相手方の正常な判断力を奪いつつ思考誘導する事は容易。そうであろう?」
対話による思考誘導を得意とするリアナ自身も思う節があるようで、ただ大きな溜め息を吐いた。
『彼の妹を盾にすれば、大人しく要求を呑むと思いますが』
「協力者になってもらう相手の恨みを買ってどうする? エドワウを妹と共に保護して欲しい」
『……承知しました。テアボロ氏に兄妹を養子にしてもらえないか、交渉しましょう。おそらく受け入れてもらえるかと』
「その件は任せる。それと…」
「時間だ。あとは明日にしろ」
声が突然聞こえ、振り返るとそこにはキャスバルの姿があった。
「言っておくがノックはした。予定の時間が来たら迎えに来るように言ったのは貴女だ」
「そうでしたね…リアナ。続きは明日に」
『明後日にしてください。連日通信して、全然休めていないじゃないですか。大体の案件はこちらで処理しますから』
リアナ達の能力は信じているが、丸投げしてあわやエドワウを処分仕掛けたところを考えると…やはり一日一度は連絡をした方が良さそうだ。前世のサブカルチャー由来の情報では、それを怠った事で部下を暴走させ、非道な行動に走らせたのだから…
そんな事を考えつつ、私はリアナとの通信を切ったのであった。
次回は来週月曜日に更新予定。
筆が進めば土曜日正午に更新します。
第三章「ジオン公国」篇で多めに読んでみたい内容は?
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戦争の裏側での駆け引き
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モビルスーツ等の戦闘
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ニュータイプ研究所関係
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ザビ家関係の深掘り
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キシリアとキャスバルの掛け合い
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キシリアとマ・クベの掛け合い
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キシリアのモビルスーツ搭乗
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キシリアの前世関係