キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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筆が乗ったので追加更新です。
コメントありがとうございます。いつも楽しみつつ読ませていただきます。
返信するとネタバレになることが多かったですので、近日中に少しずつ返していきたいと思います。



18. キシリア様は相談員

 

「少し話したいのだが、いいか?」

 

 用事を終えたタイミングで、共に部屋に居たキャスバルが話しかけてきた。

「どうぞ」

 先ほどまでいた来客分のカップを片付け、新しいカップに淹れ直した紅茶を注いで向かいのソファー前のテーブルに置く。

 何の疑問も持たずに私が淹れた紅茶を飲むキャスバルを感慨深く見つつ、キャスバルの向かいのソファーに腰掛ける。

「皆と一緒に遊びに来たのですから、アルテイシア様と一緒ではなくて良いのですか?」

「アルテイシアは、久しぶりにガルマやアイナ嬢達とカードゲームに興じているところだ。私が入って一人勝ちするわけにはいかんだろう?」

「カーウィン家のメイ嬢も居るのですから、いい勝負になるのではないですか?」

「だからだ。手を抜けないから容赦ない結果になってしまう」

「負けても別にいいじゃないですか」

 そう言うと、キャスバルは渋い顔をする。案外負けず嫌いなところがあり、私は思わず苦笑する。

「明日、アルテイシア達が乗馬を教わりたいそうだ。明後日はガルマがピクニックを希望している。当分は仕事する時間は無いと思え」

「承知しました。お話はその事だけですが?」

「いや……私の影武者など必要なのか?」

 やはり本題は先ほどキャスバルを交えて、今いるテキサス・ビレッジのチーフマネージャーであるアズナブル夫妻とその息子シャアと話した内容であった。

 

 シャア・アズナブルはキャスバルと容姿がよく似ている。唯一異なるのは、キャスバルは青い瞳である一方で、シャアは鳶色の瞳であることくらいだろうか。前世のサブカルチャー由来の情報では、キャスバルは入れ替わって事故死したシャアの立場を乗っ取り、そのまま成り済まして生きた経緯がある。そう、後の赤い彗星と呼ばれる「シャア・アズナブル」その人である。

 

 この世界では二つ年下である本来のシャアに対して、私はキャスバルの身の上を説明した上で、将来的に影武者とならないかと提案したのであった。メリットとしては職が確約される上に私の方からも危険手当を支給することから経済的に安定する事、デメリットは当然危険を伴う上に進路がキャスバルに沿ったものへと固定化されてしまうことであった。

 デメリットの方が大きいため、両親のロジェとミッシェルは当然反対したが、意外にもシャアは随分と乗り気であった。冒険心溢れる息子を宥めつつ、キャスバルの進路次第で再考すると言う形に収まった。

「私にも影武者がいますよ。それに先日の襲撃をお忘れですか?」

「……影武者が居たところで、危険な目に遭うだろう?」

「あれはリアナとして派手に動いたのが原因です。正直お詫び申し上げます。私の短慮な行動ゆえに、危険な目に遭わせてしまいましたので…」

 少なくとも偽薬関係はもう少し慎重に動くべきであったと猛省している。前世の情報からもルオ商会は要注意であると知っていた割には、余りにも警戒を怠っていた。

「貴女が悪いわけでは無いだろう?」

「警戒を怠った事が原因ですので」

「私はあの襲撃犯を赦していない」

「最初、あの青年に新薬を分けるように言ったのはどなたですか? 一時の感情で安易な行動をするのではなく、言動に一貫性を持った方がいいかと…」

 何かが癇に障ったらしく、言葉の途中で突然キャスバルは乱暴に立ち上がる。

「私をあの愚か者と同じと言いたいのか⁈」

「キャスバル様?」

「目先の利益しか見えていない短略的な思考で…簡単に騙され利用される…」

「それが大多数を占めるのがこの世界ですよ。聡明な者であったとしても、追い込まれれば容易く愚かになる。その存在を許せないと言うのであれば、人類を殲滅するしかないかと思いますが?」

「っ⁈」

 顔色を悪くして倒れ込むように席に座るキャスバル。少し言い過ぎたと思うが、ここで釘を刺しておかなければ、赤いテロ組織大量製造装置まっしぐらである。

「直接危害を加えてきた甲冑男は、この世にいないから置いておくとしまして」

「……そこは置いておくのか?」

 本当は生かして捕らえて、ニアーライトらに任せて依頼人の詳細を吐かせたかったのだが…あの時の私にはそこまで余裕がなかったから仕方がない。

「例の青年…エドワウは、利用価値があるので保護しようと思ったわけです」

「利用価値?」

「正規の地球の在住権を持っている。これは有効活用するべきです」

「工作員として、潜り込ませるつもりか?」

「素人にそんな芸当を求めるには無理ですよ。地球連邦政府の立法機関である連邦議会への、選挙権のみならず被選挙権を持っている点において大きな価値があるのですよ。つまり立候補して選挙で当選すれば、連邦議会の議員になれると言うことですので」

 今回の襲撃事件で痛感した。連邦政府の伝手は複数作るべきだと。

「今まで難民キャンプで人々に尽くしてきた、それ以前の没落した名家という身の上も一定の同情を誘えるでしょう。加えてアンダルシア地域の名士で資産家である、テアボロ・マスの養子になったのならば尚のこと勝率は高いかと」

「地球連邦議会に潜り込ませると言うのか?」

「貴方のお父上が挫折した魔窟で、頑張って矢面に立ってもらいましょう。自発的に動いてくれた方が良い仕事をするでしょうから、当面は罪悪感を煽るために優遇するつもりです」

「そ……そうか……」

「万が一、逃げ出そうとした時は妹と言う手札を温存していますし、増長して裏切ろうとした時は襲撃事件の情報を流せば失脚させられますので」

 そう言い優雅な笑みを浮かべると、キャスバルは非常に複雑な表情を浮かべる。

 怪我の影響で体重が落ちたせいか、少し頬骨のラインが目立つようになってきた今日この頃。笑顔が酷薄に見えるのだろうか? 前に泊まった旅館から、すっぽんを取り寄せた方がいいだろうか?

 

「話を影武者の件に戻すが…」

 

 一つ咳払いをした後に、キャスバルは口を開く。

「無関係の人間の将来を、私のせいで歪めるのは正直気が引ける」

「……覚えていますか? いずれ大人になったら、私を従える…と」

 今は亡きジンバ・ラルに任意同行を求めた際、敵愾心剥き出してそう啖呵を切った少年は、今や美声で乙女を惑わすことができる青年へと成長していた。

「あれは……」

「権力を持つと言う事は、不特定多数の者の将来を背負うという事です。貴方が一人でも重いと言っている、その何万倍も背負わなければならない」

「っ⁈」

「権力を持つと言う意味を理解した今、改めて聞きましょう。ジオン・ズム・ダイクンの後を継ぎますか? 祖国の独立が成就するその時まで、スペースノイドの…何十億もの人間の将来を背負い闘い抜くと誓えますか?」

 目を見て尋ねると、キャスバルの青い瞳が葛藤で揺れている事が理解した。

「ただのキャスバル・レム・ダイクンとして、静かに生きることも今ならできます。その場合は、貴方を利用しようとする者が一生涯集り続けることになるでしょう」

 そう言うとキャスバルは渋い顔になる。しかしこればかりは仕方がない。彼の父ジオンは思想家として余りにも大きな影響を与えたのだから…

「ただそうなれば、影武者の件は無しにできますよ。後は私との婚約を解消する必要がありますが…」

 私の言葉の途中でキャスバルは、テーブルに半ば叩きつける形で手を激しく置き、急に立ち上がった。

「それならば話は無しだ」

 静かな声であるが、青い瞳は激しい感情を押し殺したような光を灯していた。

「…承知しました。婚約者殿」

「これからも導いてもらうぞ」

「貴方が独り立ちするまででしたら、水先案内人をすることも吝かではありませんよ」

 私がそう言うと、キャスバルは安堵したように息を吐いて席に座り直したのであった。

 

「断っておきますが、私が示すのはあくまでも私の主観による実現性の高い選択肢。どれを選ぶのも、またはどれも選ばない決断をするのも、貴方が主導でお願いします」

「分かっている。自分で決断したことに対しては、自分で責任を取る」

 そう言い切ったキャスバルの目には、迷いは無かった。

「ジオン・ズム・ダイクンの跡を継ぐのであれば、貴方が選べる道はそこまで多くありません。兄ギレンの用意する椅子に座りつつ、政治中枢部での発言権を強くするための実績を積む必要があります」

 そこで言葉を一度切り、温くなった紅茶で喉を潤して再度口を開く。

「その準備段階として、大まかに文官の道と武官の道があります。そしてそれぞれ2つ道があります」

 文官の方は、サスロ兄の補佐官…つまり私の後釜になる道と、ギレン兄の秘書官になる道がある。サスロの補佐官については興味を示したが、私が近日中に軍の方に戻る事を伝えると、キャスバルはあっさりと文官の道を拒否した。

「武官についても2つ道があります。ジオン国防大学へ入学して政治将校になる道と、士官学校へ入学して指揮官になる道」

 

 ********

 

 キシリアと将来について話し合ったが、結局キャスバルは結論を出す事はできなかった。キシリアから「歳近い友人達と話してみては?」と助言を受け、キャスバルは妹のアルテイシアら子供たちが集まっている居間に戻ってきた。ちょうど、アズナブル夫人が差し入れてくれたクッキーで午後のお茶を楽しんでいる様子であった。

 

「将来どうするか? だって?」

 

 お茶に混ざってきたキャスバルに問われて、キシリアの弟のガルマは少し考え込む。

「ちょっと迷っているんだ。ジオン国立大学に行くか、士官学校へ行くか…」

「え? キシリアお姉さんの会社でやっている、植物の研究をするんじゃないのですか?」

 アイナ・サハリンはクッキーに伸ばそうとした手を引っ込めて、驚いた様子で話に入ってきた。

「武官の家出身で、軍関係の勉強を全くしないのもどうかとシンに言われてね」

 以前に託児施設の手伝いに来ていたシン・マツナガは、士官学校を卒業した折に挨拶に来たらしく、その時にガルマは会っていたらしい。

「あと、アイナが言ってただろう? 技術士官になって、お兄さんのギニアスさんを手伝いたいって。それを聞いて、技術士官の方がいいかと考えたんだ。色々と幅広く情報を集められそうだし」

「メイさんはエンジニア志望でしたよね?」

 アイナに話しかけられたメイ・カーウィンは、すでに大手企業のジオニックに協力して、新技術の機械のOS作りに携わっていた。

「企業に所属してしまうと別の企業の技術を学びにくいので、正直迷っています。軍の開発本部の方が色々とできそうな気がしまして」

 皆は士官学校を希望しているようである。その事に驚きつつも、それ以上にそれぞれが将来についてしっかりとした考えを持っていることに驚愕した。会話の内容から、互いに雑談している中で意見交換や情報交換していたようであった。

 ザビ家の託児施設で家庭教師をやっていた時は、自由時間は専ら書庫に篭っていたキャスバル。もう少し交友を深めた方が良かったのではないかと少し後悔しつつ、妹のアルテイシアに促されてハマーンの小皿にクッキーを配るのであった。

 

 宇宙世紀0076年。

 ジオン国防軍士官学校の入学式。そこにはキャスバル・レム・ダイクンの姿があった。

 





次回は早ければ月曜日更新です。
原作のキシリア様の頬骨のラインは、多数の部下を抱え込んだ故の過労が原因だったのではないかと思う今日この頃…

第三章「ジオン公国」篇で多めに読んでみたい内容は?

  • 戦争の裏側での駆け引き
  • モビルスーツ等の戦闘
  • ニュータイプ研究所関係
  • ザビ家関係の深掘り
  • キシリアとキャスバルの掛け合い
  • キシリアとマ・クベの掛け合い
  • キシリアのモビルスーツ搭乗
  • キシリアの前世関係
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