キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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19. キシリア様は大佐

 

 コロニー出身者が受けられる軍事教育の最高のエリートコースは、地球連邦軍の士官学校への就学とされていた。

 狭き門ではあるが、少なからずのスペースノイドが士官学校を卒業し、そのまま連邦軍に所属することが多かった。ただ、スペースノイドが連邦軍の中枢まで出世する事は殆どなく、大抵は出身地であるコロニーの駐留軍への所属となる事が大半であった。当然、駐留軍の率いる将官はアースノイドとなるわけで、有事があれば上官命令で同胞に銃を突きつける必要があることから、人気があるとは言い難かった。

 一方で、各コロニーには自警団とも言える防衛隊が存在している。こちらは各コロニーの高等教育科での武官コースで就職が可能であり、その教官職が連邦軍に入ったスペースノイド達の就職先として人気があった。

 ジオン自治共和国となったタイミングで、デギンとギレンは特別養成学校武官コースを独立させて、士官学校として確立させた。地球連邦軍サイド3駐留部隊に所属していたスペースノイドは新設された士官学校へ移籍し、加えて連邦軍士官学校への進学者は大幅に減少した。こうしてサイド3の駐留部隊を構成する人員は、アースノイドが大半となった。結果、駐留部隊の連邦兵達は地球から飛ばされたと言う意識が強く士気が低くなった上に、ジオン国民との軋轢は高まる一方であった。

 

 地球に帰る前の挨拶と言う形で、サイド3の駐留武官であった地球連邦軍のエルラン准将が教えてくれた内容を、私キシリアが回想していたところに新しい副官が敬礼し短く報告してきた。

「サイド6より入港許可が下りました。キシリア大佐」

「了解した、デラーズ少佐。すぐさま入港準備に入れ」

「はっ!」

 敬礼した後に去っていくデラーズを見送る。もう一人の副官は再度トワニングが就くことになったのだが、今回は首都ズムシティで留守を守らせていた。そんなことを考えつつ席に座ると、新しく仕立て上げられた軍服が否応なしに目に入った。前世のサブカルチャー由来の情報で見慣れた紫色の改造軍服。首元から鼻までを覆い隠すマスクとなるハイネック部分も含めて正直このデザインは無いだろうと思うも、諸事情で前世の情報通りの服装に収まっていた。

 

 宇宙世紀0077年。

 私キシリア・ザビはジオン自治共和国の親衛隊隊長に就任していた。

 

 スペースノイドの住まうコロニーの各サイドの政治形態は主に議院内閣制であったが、コロニー公社の息が掛かった人員の組織票により、地球連邦政府の意向を大きく受けていた。しかしサイド3を始めとして、コロニー公社支社からコロニーの管理運営権の奪取を試みるコロニーが出てきた。

 コロニーの管理運営権の奪取に成功したサイド6は、自治区議会内のパワーバランスが崩れて機能不全に陥った。その結果、自分たちで代表を選ぶ大統領制へと移行すべきと言う声がサイド6の中で高まり革命が起きた。そして大統領になったのが、何かと接点があったランク・キプロードンであった。近日中に兄サスロを含むジオン共和国の一部議員が、ランクと会談する予定となっており、その護衛任務の準備のためにサイド6に来た訳である。

 

「キシリア大佐、地球連邦軍サイド6駐留部隊の中尉が面会を求めています」

「通しなさい」

 私の許可に従い、地球連邦軍の象牙色の軍服を纏った男が敬礼する。こちらも返礼すると、男は書簡を渡してきた。書簡は駐留部隊の部隊長からの手紙であり、面会の申し入れを拒否する内容であった。予想通りで苦笑しつつも、そこで本来行う予定であった目的は達成されている事に気づき、妙に真面目な表情を作って立っている連邦軍の中尉に視線を向けた。

「人払いは?」

「済ましてあります…と、お気づきでしたか」

「直接会うのは久しいな。ニアーライト」

 その名を呼ぶと、ニアーライトはへらりと笑いつつ、私が求めていた情報が入った封筒を渡してきた。手渡されたその重みから、自分が欲しい情報が入っていると確信できた。

 これで周囲に内密でやっている連日の夜間業務を減らせると安堵しつつ、私はふと思い出したことをニアーライトに訊ねる。

「ところで、コロニー『モーゼスマウント』の件は?」

「最後まで辿る事はできませんでしたが…間違いなく黒です。連邦軍特殊部隊が関与しているかと」

「エコーズですか……流石に手強い」

 私が療養中に発生した事件。前世の記憶由来の情報を持っていたにも関わらず、私自身が身動きが取れなかったことから後手に回ってしまった悲劇だ。

 サイド3一帯の船会社と乗船員を束ねるコロニー貨物船労働協会、その会長の自宅である協会本部が襲撃されたのだ。

「コロニー貨物船労働協会の支部長ラソイオ。コイツが仕掛け人ですね。元連邦兵で本名ゾルタン・アッカネン。連邦の税率改定に対する不満を煽ってストライキを発生させ、騒ぎの隙をついて連邦の貨物船と連邦の極秘補給基地、連邦商務省の産業安全保障局の局長にテロを仕掛けるという徹底ぶり」

「ん? ボナヴェント・トゥッチ会長の屋敷を襲撃したのはエコーズであろう?」

「テロ犯がいると虚偽通報をして襲わせたと見ております」

「ラソイオ…いやゾルタンと言ったか。連邦と協会に対する怨恨であろうが、余計なことを…騒動の後、彼はどうなった?」

「そこまでは掴めませんでした。遺族の少年がゾルタンの連邦軍時代のドックタグを持っていたのですが、それ以上は…」

「遺族の少年?」

「ボナヴェントの子供です。今回の事件で身内を喪いましたので、アストライア様の孤児院で保護することになりました」

 前世の記憶のとある将来の悲劇の中核。ボナヴェントの子供が、ゾルタンのドックタグを元にゾルタンの名を騙り、孤児になってから人体実験を受けた末の歪み…それが人道的に保護されたのであれば一先ず安心だろうと、そろそろニュータイプの研究機関を検討しなければと頭の隅で考える。強化人間などと言った制御不能な憎悪製造装置を量産すれば、今後の予定に狂いが生じる。

「ストライキは即日解除されましたが、会長を含む協会幹部は全員死亡が確認。業務や管理体制の再構築を断念して、協会を解体する方向で決定が下されました」

 一時的とは言え、サイド3内のコロニー間の物流に影響を与えたこの事件は、連邦政府の隠蔽工作で表向きは火災事故とされている。元連邦兵に連邦の特殊部隊が絡んでいると知れたら、流石にジオン共和国の国民感情が爆発するだろう。

 先日もサイド3で、連邦の観測局の怠慢で見逃された小天体とコロニーとの衝突未遂があった。しかしコロニー公社の内部乗っ取り後に監視システムを強化していたお陰で、自力で事前に察知して対処する事に成功していた。前世の情報のように農作物プラントのコロニーに接触して大破していれば、国内への食料品の高騰化は避けられず多大な影響を与えていただろう。しかもその後にキャスバルがガルマを唆し士官学校の学生達を扇動して、駐留していた連邦軍の駐屯地を襲撃すると言うとんでもない事態が発生したわけで…

 

 ……大丈夫だろうか?

 ガルマだけではなくシャアも入学させたし、マを士官学校の臨時教官に捩じ込んだ。ガルマからの連絡では取り巻きを作っている様子もないが、念のためダグラス・ローデン校長に注意を促した方が…

 

「キシリア様、大丈夫ですか?」

 

 ニアーライトの気遣う声で、私は思考から現実へと意識を切り替える。

「ああ、すまない。考え事をしていてな…」

「……リアナから聞いてましたが…やはりもう少し療養期間が必要だったのでは…」

「仕方がなかろう。連邦側からの挑発とも言える行為が多発している。地球連邦への不満がいつ爆発してもおかしくない状況だ」

「地球ですが……病が蔓延しつつあって、民衆の不満が膨れ上がっています」

「外敵を作って不満の発散先にする方法は、昔からの常套手段ではあるが…愚かなことを…」

 そんな事やっている暇があったら対策をしろと、怒鳴りつけたくなる。復帰の条件で医師から課せられた勤務時間制限を無視しなければ、仕事を処理しきれない状況に陥っている。医師に口止めしていることから、制限については誰も知られてはいないが…

 

「そう言えばニアーライト」

「はっ!」

「貴様らの所属の件だが、本当にジオン国防軍へ入る形でも良いのか? 規律は厳しく、何かと制限が多いであろう?」

 前世の情報とは異なり、国防軍内がザビ家一強というわけではなく違反行為に対して簡単に揉み消すこともできないのだ。

「我ら全員の意思です。キシリア様のお役に立てるのであれば、ジオン国防軍の情報部つきで構いません」

「分かった。先日話した通りリアナを含む何名かはザビ家に残し、兄サスロの補助に就かせる」

「リアナはサイド6に残留ですか?」

「本国へ戻ってもらう。私自身も首都勤務が多くなるからな」

 連邦からの人材引き抜き目的で、宇宙線被曝症の予防・治療薬の利権と引き換えに設立したルナ・ライン先端技術研究所。研究費を安定化させるために、アスタロス関連の研究も同研究所に一本化した訳であるが、その結果ルナ・ラインの本業である旅客運送業を上回る収益を上げている状態であった。担当者一人では荷が重いと判断し、リアナはルナ・ライン本社との調整に専念してもらい、カイルを所長に据えることにしたのだ。

「そなたらの働きで、連邦相手に張り合える目処が立った。改めて礼を言わせてくれ」

「はっ! 今後とも貴女様に忠誠を…」

「貴様からの忠誠は受け取ろう。だが忘れるな。私の望みは貴様らが人として生きることだ」

「……祖国への忠誠ではないのですか?」

「同義であろう? 人は社会性を形成する事で生きることができる。家族、仲間、部下、上司、同胞…その相互関係で構成された社会を…そしてそれを内包する祖国を護り維持する一員となることで、初めて『人』となると私は考えている」

 私の言葉が何か琴線に触れたらしく、ニアーライトは一瞬目を見開く。

「キシリア様は……いつ『人になれた』と思いましたか? あ…いえ…申し訳ございません! 今の言葉は聞き流してもらえれば…」

「幼少期はそんな事など考えたことはない。成長と共に疑問を抱き、最近になってようやく実感が出てきたところだ」

 まさか答えるとは思わなかったらしく、ニアーライトは呆然とこっちを見ている。

「ニアーライト、お前もそうではないのか?」

 

 少しでいいからそこの部分を考えて欲しい。

 前世の記憶の中の情報のように「妖怪の手下」だと味方からも貶まれ、疎まれないように…

 

 ********

 

 ジオン共和国防衛軍。士官学校。

 宇宙軍士官養成課程に入学したキャスバルは最終年度を迎えていた。

「キャスバル候補生。今、君は試験の時間のはずだが?」

 臨時教官を務めているマ・クベは、横を通り過ぎようとした青年を呼び止め、その腕を掴んだ。

「いいえ。私はシャア・アズナブルです」

「私を誤魔化し切れると思うのかね? また入れ替わって、シャア候補生に実技試験を受けさせているのか?」

「…………」

「サイド6で起きた革命はご存知ですよね? その時、最も活躍したのがMSの部隊です。ここではシミュレーションシステムでその取り扱いを学ぶことができます。死にたくなければ、実技試験を受け給え」

「……撃ったら……相手を殺してしまう。確実に…」

 その言葉を聞き、マはようやく理解する。

 地球での襲撃事件でガンタンクを撃破し、初めて人殺しをした事実がキャスバルを蝕んでいたことに。そしてそれをどうにか処理しようと、キャスバルが水面下で踠いていたことに…

 人殺しを嫌悪する感性が育っていることに安堵するが、割り切るなり切り替えるようになってもらわなければ困るとマは思った。

「ここを卒業した後、何があったとしても貴方だけは死んではならない立場になります」

「……分かっている」

「殺める事を慣れろとは言いません。しかし行動が遅れた結果、側に居る者が傷つく事をお忘れなく。あの時みたいに、何時も命が拾えるわけではないのですよ」

 キシリアのことを指している事に気づき、キャスバルは半ば睨む視線をマに向けた。

「確かに貴方とウラガンはそれぞれ、2人の命を直接殺めました。そしてその責と咎を全て受けるのは、その時の指揮系統で最上位にいたこの私です」

「っ⁈」

「貴方が成ろうとしているのは、この私よりも更に上の立場なのです。お忘れなきように」

 

 その日の実技試験、今までは中の上あたりの成績であったキャスバルは、2位のシャアに大差をつけるほどの好成績で合格を果たしたのであった。

 





コメントでありましたが、アンケートには入れていなかった「マとキャスバルの掛け合い」、需要がありそうでしたら第三章でも引き続き書いていければと思います。
次話の第二章の最終話は水曜日更新です。

第三章「ジオン公国」篇で多めに読んでみたい内容は?

  • 戦争の裏側での駆け引き
  • モビルスーツ等の戦闘
  • ニュータイプ研究所関係
  • ザビ家関係の深掘り
  • キシリアとキャスバルの掛け合い
  • キシリアとマ・クベの掛け合い
  • キシリアのモビルスーツ搭乗
  • キシリアの前世関係
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