キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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今話で第二章は終幕です。



20. キシリア様は共犯者

 

 ザビ邸の一角にある薔薇園。

 庭園の中央にあるガゼボで、私キシリアは兄ギレンと向かい合っていた。

「こちらの資料をご覧ください」

 内容は全て頭に入っていることから、一部だけ作成した極秘資料をギレンに手渡す。

「地球からサイド3への移住記録の一部か」

「はい、10年前までは貧困層が大多数を占めていたコロニーの記録です。上の表、上段が地球在住時の人数、下段がコロニーの入植時の人数。下の表、上段が予算に計上されていたシャトルの数、下段が実際にコロニーへの入港が確認されたシャトルの数です」

「宇宙へ移民するどさくさで人数を半分まで減らしたと言うわけか。シャトルの経費を中抜きするためであろうな」

 提示したのは、ニアーライトが手に入れた彼の故郷での宇宙移民の記録であった。貧民街出身の彼らは、コロニーに移住する前から苦渋を舐めていたことになる。

「そして、次ページがサイド3に移住した後の記録です。上の折れ線グラフは、コロニー公社サイド3支社で記録されていた移住後20年間の暫定人口の推移。下のグラフは国民管理政策開始時の人口、最新の人口、そして予測される20年後の人口となります」

「コロニーへ入植直後では人口が急増しているわけだな。一方で我々が手を加えたここ最近では人口が微増に落ち着いているな」

「色街以外の娯楽の充実に加えて、生活が安定して親が我が子を私財扱いをしなくても良い状況になりましたからね」

 お陰で児童労働の禁止、人身売買の禁止、子どもの就学義務については、問題なく受け入れられていると兄サスロが言っていた。

「人口の増減は、生活水準の向上と言った社会の成熟度と関連していると言いたいわけか」

「はい。その条件を満たしていなければ、一度減らしてもまた人口は急増するでしょう。一方で満たしていれば、数十年後には自然減となる見込みです。前世紀の先進国での人口の推移で証明済みであることは、ご存知かと思います」

「前世紀で人口爆発が起きた原因は、お前は何だと考えている?」

「特権階級が富を独占するために、資本主義経済で生まれる格差を利用していたことが原因ではないかと思います」

 具体的に言えば、大量の奴隷に安価なものを大量生産させて、大量の搾取先に大量に売りつけて、巨万の富を得ていたと言うことになる。大量の貧民を欲した彼らは、歪な干渉で乳幼児の死亡率だけを下げた一方で、生活水準が低い状態に留まるように、紛争や内戦を誘発させていた可能性が考えられた。

 そのような説明をした後、続けて私は本題とも言える結論を口にする。

「民全体の生活水準を上げれば、人口は自然減に転じます。それで長期間かけて適正人口まで落とし込む方法が最も実現性が高いかと」

「そのためには、今も地球に蔓延っている特権階級の愚者どもが邪魔となる。そう言うわけだな」

「総人口の9割を宇宙へ移住したにも関わらず、一部地域ではまた人口が激増し、その影響でアフリカのサハラ砂漠が拡大しております。今の地球連邦に否を唱えるため、独立を目指す方向で問題ないかと思いますが…」

「その時に掲げる、地球連邦への要求を熟考する必要があるな」

 ギレンはテーブルに視線を落とし思案する。

「紐付きの者を欧州地区の地球連邦議会議員の秘書官へ捻じ込む事に成功しまして、そこからいくつか情報が得られました。特権階級の地球在住の裏付けとなっている特例条項の削除は、可決に必要な議員票の関係上、実質不可能とのことです」

「だろうな」

「条項の追加は比較的容易だそうです」

「ほう?」

「地球在留資格は期限付きにして、更新手続きを煩雑にする、加えて多額の手数料を要求する…と言うのは如何でしょうか?」

 実は条項には期限が明記されていない。それを理由に永続的に居座っているのだが、追加条項に期限を明記すると言うわけである。

「あとは、地球に居座ることで得られる旨みを減らすとか?」

 お金があって欲しい物が買えない状況にすればいい。例えば…

「地球在留者に対して地球産の天然物等の嗜好品の購入制限を、条項に加えるのもありか」

「それから、生活機器や家電の大半はコロニーか月で生産されております。それを買い叩かれている現状の改善を、申し出るのも悪くないかと」

「それで売り上げが落ちたとしても、サイド3内の内需で回せる見込みは立っていることを考えると、それも良いかも知れぬな」

 そう言い見る者によっては失神しかねない深い笑みを浮かべた後、ギレンは手持ちの書類入れから、辞令の写しを取り出した。

 

 私自身の名と共に書かれていた役職を一瞥し、ギレンの方を再度見る。

 

「突撃機動軍総司令官…ですか?」

「親衛隊の隊長は今の副官に譲れ。これから宇宙そして地球を見据えた行動を行う上で、お前を遊ばせるほどの余裕はない。故に軍団を新設し、その総司令にお前を据える」

「具体的な任務は?」

「表向きは輜重と兵站。裏で連邦軍の弱体化工作をやってもらう」

「名称と実務内容が合っておりませんが」

「真っ先に狙われる名称をつけてどうする? 本来の任務の隠蔽のため、戦闘行為も許可する。宇宙攻撃軍のドズルやウォルター大佐と上手くやれ」

 ジオン公国軍の本体とも言える宇宙攻撃軍は、ドズルと中立派のウォルター・カーティス大佐の2頭体制を取ることになっている。とりあえず、今の副官であるトワニングを親衛隊の隊長として首都防衛を継続させ、デラーズは参謀として同行させることになった。トワニングの代わりに兵站の専門家として招聘したと言うユライアも参謀に加え、そして副官としてマ・クベ、対連邦工作要員として情報部からニアーライト小隊を出向させることになった。

「他に希望する人員と装備があれば後で纏めて要望書で出せ。全てとは言えぬがある程度の要望は応えられるようにしよう。それと…」

 慣れていないと悲鳴をあげそうな視線を、ギレンは私に向けてきた。

「これだけ部下を付かせるのだ。お前自身はもう少し休養を取れ」

「………は?」

「具体的に言わねばわからないか? 業務時間以外の勤務を禁止すると言っている。最低週に1日は休暇を取れ。テキサスコロニーでの療養が不充分であった影響が、出ているのであろう」

「そんなことは…」

「ならばなぜ目元近くまで隠す? 顔色が分かりにくい色彩の軍服は何なのだ?」

 自身を気遣う声色であることに気づき、深みのある美声で追求するのは反則だと思いつつ、私は観念して顔の下半分を覆っていたハイネックの布を下げた。

「……痩せたな」

「そうでしょうか?」

 溜息を吐く兄ギレンに対して、誰のせいで無理をしたと思っているのだと怒鳴り返したくなる衝動を抑え、私も深く溜息をついた。最近スキンケアをする時間も取れず、目の下のクマが取れないから隠しているというのに…

「以前のお前の言動は、私への敵愾心から来たものであったが…今のお前は何故愚民を庇う? そこまで身を削ってまで」

「原因を無視して結果だけ求めたとしても、成功は一時的なもの。それが理解できないギレン兄上の方が、私には分かりません」

 ただ静かに見合っている中、先に視線を外したのはギレンであった。

「今のお前に……頼みたいことがある」

 一瞬ギレンが何を言ったか分からず、私は呆けた表情を向けてしまう。

「我が妻のことだ。お前にしか頼めない事だとわかるだろう?」

「っ⁈」

「地下室まで付き合え。そこに今後の処遇を相談したい者が居る」

「……その者の名をお聞きしても?」

「グレミー。そう名付けてある」

 

「開場まであと15分です」

 

 先日のギレンとの話を追憶をしていた時に声を掛けられ、現実に引き戻された私は一つ頷いて了承する。

 式典の係員が控室を去った後、隣のソファーに座る弟ドズルは、軍服の正装の首元を緩めて締め直す作業を何度か続けた。

「落ち着いたらどうだ。サスロ兄の長女ミハルの生誕パーティー、お前とゼナ殿との結婚披露宴と、式典は何度も経験しているであろう?」

「……身内の慶事と国をあげての式典、同じと考えるのもどうかと思うぞ」

 私との会話で気が紛れたのか、ドズルは襟元へと伸ばそうとした手を止めた。

「この式典と言い…なぜ共和国から変えねばならんのだ? ギレン兄貴は何を考えているのか、さっぱりわからん」

「生来、眉が薄い事も感情が分かりにくい原因であろうな…今度、アイブロウペンシルを贈るのも良いかも知れぬ」

 突然ドズルが咽せて、両手で抱え込むように頭を下げる。

「しかし、汗で流れたりしたら惨状か…汗で溶け出さぬよう耐水性の強いものなら問題はあるまいか……さっきから何をやっている?」

「これ以上は……や……止めてくれっ! 腹筋が……」

 どうやら笑っているようだが…今話した光景を想像したのだろうか? そうだとしたら随分と失礼なものである。気持ちは充分わかるが。

 一つ咳払いをした後、笑いが落ち着き始めたドズルに私は声を落として話しかける。

「連邦との争いは確定事項。そのためには国を一つに纏めなければならない。一番手早いのは、誰もが納得する一人の長を据えること」

「それは分かる。だが、その……独立をした後、ギレン兄は何がしたいんだ?」

 その言葉を聞き、私は驚き一瞬言葉が詰まる。既に疑惑を抱いている以上、表向きの耳心地の良い言葉では、直感に優れているドズルを誤魔化しきれないと私は腹を括る。

「ギレン兄には理想がある。それは人類の恒久の繁栄、そして更なる成長」

「兄貴の『優性人類生存説』に書いていたアレか?」

 生真面目な弟は、ギレンから贈られた本をきちんと読んでいたらしい。

「そのために人口調整を主とした、人間社会の適切な管理運営を目指している」

「人口調整?」

「今の人類は多すぎる。優性人類を選別した上で、少なくとも今の10分の1以下に減らす必要があると言うことだ」

「なっ⁈」

 言葉裏に虐殺を仄めかしていることに気づき、ドズルは驚愕の表情を見せる。

 因みに、私キシリアとしても人口調整は賛成だ。ただ前世の記憶を得てからは、そのやり方に疑問を抱き、より実現性の高い方法を模索したのであった。それで少々無理をしたのだが、開戦前にギレンに説明することができ、当面は私が提示した方法を採択するという方向で意見を一致させることができた。

 前世のサブカルチャー由来の情報では、ギレンは人口調整を実行するために人類圏を支配する独裁者を目指した。私はそれに追従しつつも、どうしても相容れない部分があったため、ギレンから権力の奪取を目論んだ。その「相容れない部分」とは…

「我が国の民もその選別から逃れられない」

 ギレンはジオン公国の国民をも選別対象に含めていた。その点だけは、私キシリアにとって許容できるものではなかった。そしてギレンが父デギンを葬ったことで危機感を抱いたのであろう。次は祖国の民が虐殺される…と。

 前世の情報の中で、ジオン公国の勝利目前でキシリアがギレンを殺したのは、それが動機であると容易に予想することができた。

 

「ドズル。私がギレンを止めきれなかった時は、お前が止めてくれないか?」

 

 ドズルの返事を聞く前に、送迎の係員がやってきた。話はここまでとし、私とドズルは式典の会場へと向かう。

 

 今日、歴史が動く。

 

 宇宙世紀0078年。

 ジオン自治共和国からジオン公国へと名を変えた。

 公主にはキャスバル・レム・ダイクンを擁し、その補佐としてデギン・ソド・ザビが摂政に就任した。そしてギレン・ザビを総帥として、ジオン公国軍が発足されたのであった。

 





独自解釈で、原作でのキシリアやギレンの行動原理を書いてみました。
今話で第二章は終幕です。
次は第三章「ジオン公国」篇となります。出来次第アップしていきたいと思います。今しばらくお待ちください。

第三章「ジオン公国」篇で多めに読んでみたい内容は?

  • 戦争の裏側での駆け引き
  • モビルスーツ等の戦闘
  • ニュータイプ研究所関係
  • ザビ家関係の深掘り
  • キシリアとキャスバルの掛け合い
  • キシリアとマ・クベの掛け合い
  • キシリアのモビルスーツ搭乗
  • キシリアの前世関係
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