キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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 コロニー落としの経緯をご存知ですか?
 ジオンが他コロニーとの外交的調和に失敗したとか、サイド3の独裁者が短期決戦で勝利を確実にするために行ったとか…当時の人口の半数が喪われた悲劇であることは共通認識ではないでしょうか?
 そんな未曾有の虐殺者という汚名を、親しい者たちが被る事態を回避できるのか…



第三章「ジオン公国」篇
21. キシリア様は准将


 

 グワジン級戦艦。

 艦隊旗艦として建造された艦で、無補給で火星と木星の間のアステロイドベルトまで辿り着ける航続力を持ち、連装メガ粒子主砲3基、連装メガ粒子副砲10基、その他ミサイルランチャーと個艦火力も充実している。

 公国軍の枢軸であるザビ家の親族がおもに座乗する戦艦であり、私キシリア・ザビが乗船しているのは4番艦の「グワジン」である。1番艦グレート・デギン、2番艦グワラン、3番艦グワリブに続いて、グワジン級の試験艦が改修されて造られたのがこの4番艦の「グワジン」である。

 

『お久しぶりです、キシリア准将閣下』

「久しいな、カイル所長。ルナ・ライン先端技術研究所の方はどうだ?」

 艦内の通信室で、私は側近であるカイル・クラインと通信機越しで話していた。

『閣下の提案を元に新たに職員を増やしました。また、新設しました奨学生制度の卒業生も新規に入所予定となっております』

 ミノフスキー博士とテム博士らに資金を投入するだけして放置していたら、大量に特許を獲得し、投入額を遥かに超える利益を叩き出した。研究者らは私に還元したいと申し出たが、それでは個人資産を減らすと言う目論見が振り出しに戻ってしまう。そこで提案したのが、職員の増員と、企業による給付型奨学金であった。増員で使用する研究費も増えるはずだから大丈夫なはずだ。多分……

「それは重畳。他の業務も問題はないか?」

『問題と言いますか…サイド5から、O2/H2Oプラントコロニーの依頼が来ております』

「あれはまだ試作段階なのだが…」

 ヤシマカンパニーとの協力で制作している、水と酸素の浄化および生成を行う「O2/H2Oプラントコロニー」は、現在はサイド3とサイド6で試験をしている最中であった。

『それでも構わないという話です。寧ろ運用試験の協力も吝かではないと』

 カイルの言葉を聞き、私は最近の情報からある結論が導かれる。

「地球からの空気と水の輸送が滞っているのか?」

『今後は時間を要する見込みとのことで…コロニー側が水だけではなく空気に対しても、殺菌ではなく滅菌を要求したのが原因かと』

 殺菌ならば放射線照射か消毒液で対応可能だが、滅菌となるとフィルターへの透過やら高温による滅菌作業が必要となる。そこまで手間を掛ける要求が来たということは…

「地球上で感染症が蔓延しつつある状況が、各サイドで認識されているということか」

 ニアーライトを始めとした地球に潜伏している部下や、テアボロ・マスとその養子で元難民のエドワウとセイラの兄妹と言った協力者については、第三相試験の名目で新規に開発したワクチンを接種してもらっている。地球上で活動する者をワクチン接種者に限定している関係上、収集できる情報量が減っていたのだが…想像以上に事態が悪化している可能性が高かった。下手をすれば、地球で生産されているコロニー用の物資の生産自体が、今後落ち込む危険性が考えられた。

「O2/H2Oプラントコロニーの完成を急ぐ必要があります。了承の返事をしなさい。今後も同様の問い合わせがあった場合は、基本的に受注しなさい。ただしサイド5とサイド2を優先するように」

『親連邦のコロニーは後回しですね。承知しました』

 カイルとの通信が切れて暫くしたのち、副官のマ・クベ大尉から連絡が入った。どうやら目的地に到着したようである。

 

 サイド3、ファーム・バンチ「アマテラス」。

 ジオン公国で有数の農耕コロニーの隔離された区画に、ルナ・ライン先端技術研究所の試験農場が設置されていた。

「このような場所までご足労いただき、ありがとうございます。キシリア准将閣下」

「ガルマ技術中尉、今ここは身内だけだ。楽にしなさい」

「…ありがとうございます。お久しぶりです、姉上。お元気そうでなによりです」

 ジオン公国軍の技術開発部に所属してから間も無く、ルナ・ライン先端技術研究所のサイド3研究所に出向してから久しぶりに会う、弟の言葉に私は内心安堵する。

 最近は寝る前のルーチンにアイマッサージャーを加えたお陰か、目の下のクマも取れ睡眠の質も上がり食欲も向上し、ようやく顔が卵形の輪郭に戻ったのだ!

 そんな事を考えている間に、厳重に閉鎖されている扉を3つ越えた先、アスタロスの研究室へと入室する。

 前世で嗜んだサブカルチャーの記憶由来の情報にあるアスタロスは、連邦からの独立戦争が勃発した後に、地球で構築された北米キャリフォルニアベースで開発された兵器である。過酷な環境でも生育できる植物の開発時に副産物として生み出された株を元にしており、極微量の栄養分で急速に成長し、定着した土地の栄養分を喰い尽くすまで成長と繁殖は止まらず、他の植物を全て枯らし尽くした末に、結実する事なく枯れる。このことから、不毛な大地を生み出し生態系を破壊する環境破壊兵器としての利用が考案された。

 この世界では早々に平和利用に転換しており、生育しにくい遺伝子改変した株を生育させるために、アスタロスを元株として用いていた。種子は作らないが、根の一部が一般的な土壌に根付いた場合、コロニー内を埋め尽くすどころか突き破るほど増殖することが、廃コロニーを使った実験で確認されている。従ってアスタロス自体を使った実験や医薬品の生産は、完全に独立した隔壁強化型小型コロニーの隔離施設で、栄養素の含有量を厳格に調整された土壌または水耕栽培で行っている。成果物においても全て厳重に管理されていた。

 

「過去の廃コロニーでの実験で残された廃土からでは、植物が成長することはできませんでしたが…」

 そう言いつつガルマが次に見せたプランターには、見事なミニトマトが多数実っていた。

「少量の窒素を廃土に混ぜ込み、新規に開発した土壌改良型アスタロスを一度繁殖させました。そして枯れたアスタロスと土を混ぜ込んで熟成させた半年後、このアマテラスで一般的な栽培法を行ったところ、ご覧の通り結実までの育成に成功しました!」

「土を甦らせる事に成功したと言うことか。これは素晴らしい成果だ」

 心からの感嘆の言葉を口にすると、ガルマは照れたように紫色の前髪を軽く弄った。

「問題はコストですね。土壌改良型アスタロスの繁殖効率は一般的な植物よりやや遅いくらいですので」

「それはこれから改良を重ねれば良い。繁殖で思い出したが、逆に制御する研究の進捗は?」

 そう尋ねると、優秀な我が弟は即座に端末を操作して該当するデータをメインモニターに写した。

「アスタロスの繁殖範囲を制限する技術ですが、土中に加熱板を仕込んで、接触した根の先端を焼き切って成長を止める方式が一番効率が良さそうです」

「除草剤では難しいか?」

「一般的に流通されている物では、薬剤の効果が切れるまで粘ってしまうみたいで…残効性があるものでしたら比較的効果があるのですが、それでは土地の再利用は難しいです。アスタロスへの感染に特化した植物ウイルスも検討しているのですが、もう少し掛かるかと…」

「現状では物理的手段が一番というわけか。承知した、今後も研究を頼む」

「はい。その……この後、久しぶりに一緒に食事でも…」

「すまない。この後はウィルヘルムスハーフェンでの視察が控えているのだ、また今度の機会に」

 食事の誘いを断ると、目に見えてがっかりした様子を見せるも、直ぐに立ち直り此方に敬礼を向けてきた。

「お忙しいところ、すみませんでした。シャアとキャスバル様に、よろしくお伝えください」

「わかった。ガルマも息災でな」

 もう少しゆっくり話したいのだが仕方がない。医師からの指示はなくなったが、できるだけ勤務時間内で仕事を終わらせるようにしているのだ。グワジンの速度を考慮すれば、移動時間で昼食を摂れば、次の視察は今日の業務時間内に収まるはずである。

 

 こうしてアマテラスを後にし、昼過ぎにはレジャー用コロニー「ウィルヘルムスハーフェン」に到着した。地球の湖や森を再現したレジャー用コロニーで、ギニアスに交渉してサハリン家の別荘があった土地を軍が購入し、その一角を重力戦線を想定した演習場として使用していた。

 

 ジオン公国軍の軍備拡充は、来るべき地球連邦軍との武力衝突に備えて急ピッチで進められていた。

 前世の情報にある統合整備計画を前倒し…と言うよりMSの計画段階時に、軍から各企業に対して共通した仕様の雛形を作成することを要求した。マに任せたところ、ジオン公国軍の技術開発部へ各社が出向して最適の雛形を構築し、暫定案として提示する方向に纏められた。その雛形を元として各企業で開発し、軍に対してプレゼンを行い決めると言う形となった。今後、使用状況に応じて雛形に適宜修正を加える予定となっている。

 兵器の種類については、重力戦線での戦略や戦術の情報を元に、宇宙戦線仕様と重力戦線仕様の2タイプでの開発を進める方針となった。そしてMSについては、メンテナンスがやりやすい後方では流体パルス方式、簡便な修理工程が求められる前線ではフィールドモーター方式が検討され、併用方式を試験的に開発中と言う話であった。

 

「本日ご覧いただくのは、ツィマッド社による重力戦線仕様のMS試作機、ジオニック社による宇宙戦線仕様の改良型MS試作機となっております。それぞれ、重力戦線を想定した模擬戦を見学していただきたいと思います」

 ジオン公国軍のテストパイロットであるフレデリック・クランベリー中佐からの説明を聞き、私は1対3…テストパイロットを務めるランバ・ラル中佐と、ガイア中尉を隊長とした小隊の模擬戦闘を見学した。

 

 重力戦線仕様のMS試作機…ドム試作実験機のホバー走行音に紛れるように、端末から何かを確認していたマが耳元で報告する。

「サイド1で患者が発生したそうです」

 何が…と問わない。地球で蔓延しつつある多剤耐性肺炎のことだ。

「…旅行者か?」

 一列に並び走行するガイア小隊の横を取ったランバ・ラルが、バズーカを放つ音に紛れて訊ねる。

「市中の可能性が高いと…」

 バズーカの着弾と共にバズーカ自体を投げつけ隙を作り、マッシュ機に続いてオルテガ機を沈めたラル機が、ガイア機と相打ちになる。その様に周囲の者が釘付けになっている間に、マは静かにそう答えた。

 

 続いて、ジオニック社からジオン公国軍の技術開発部の出向しているエリオット・レム特務少佐の解説で、宇宙戦線仕様の改良型MS試作機…前世の情報の中にあるザクII R-2型同士の模擬戦であった。

「また入れ替わってるな…」

 模擬戦開始1分で、ぼそりとそう言うマの言葉を拾い私は訊ねる。

「一人はシャア少尉か?」

「表向きは…ですかね」

 マはMSの動きで誰が搭乗しているか判別できるようだ。サンバイザーを着用して、少し離れた場所で観戦しているキャスバル…に扮した本物のシャアを一瞥して、私はため息を一つ吐いた。

 バズーカだけではなくバルカンをも弾切れになるまで撃ち合い、それでも互いに一発も当たらず、模擬戦用アックスによる接戦の末に、勝利したのはシャアに扮したキャスバルであった。

 

「お久しぶりです、キシリア准将閣下」

 キャスバルと模擬戦を行った相手が、そう言いつつ私に向けて敬礼する。その顔に見覚えがあり、私は思い当たる名を口にした。

「…ジョニーか?」

「はい。ジョニー・ライデンです」

「テストパイロットになっていたのか?」

 頷き何かを話そうとしたその時、ジョニーは上官らしき者に呼ばれ、素早く敬礼した後にその場を立ち去っていった。

「…随分と親しいのだな」

 いつの間にか入れ替わりから戻っていたキャスバルが、何処となく不機嫌そうな態度で話しかけてきた。

「そうですね。学生時代の友人の最後の一人ですから」

「………最後の一人?」

「死者に対して軽々しく誓いを立てないことをお勧めします。知らず知らずのうちに、視野狭窄に陥りますゆえ」

 

 ********

 

 ビスト財団。

 大企業アナハイム・エレクトロニクス社と密接な関係がある、世界の水面下で「影の王国」とも言える一大財閥。

 歴史的価値のある美術品を地球からコロニーへと移送することを業務とする財団法人組織であるが、その本質は宗主であるサイアム・ビストが創り上げた資金洗浄組織である。

 二代目当主、カーディアス・ビストは照明が落とされた部屋へと静かに入室した。

 

「マーサから連絡が来ました。これから火種を仕込むとのことです」

 





第三章の開幕です。
AI (ChatGTP)で作成したキシリアのイメージです。
https://img.syosetu.org/img/user/v2/6140/181/218911.png

早ければ月曜日、遅くとも水曜日更新予定です。

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  • キシリア・ザビ
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