今回は少し短めです。
「これを読みなさい」
ザビ邸の敷地内。
私キシリアの私邸の地下にある隠し部屋に連れてきたマ・クベに、簡易的に綴じた2冊のファイルを見せた。
「これは?」
「とある書物の翻訳を部下に任せた。その初期翻訳版と、それを元に試行錯誤して作られた改訂版だ」
今目の前にあるのは、旧自衛隊の防衛ハンドブックを部下に命じて翻訳した物、そして私自身が熟読した上で抜粋し、ジオン公国軍に適した内容を公用語で書き直した物であった。
マ・クベは最初に翻訳初版を捲っていくが、どんどん眉間に皺が寄っていく。
「………この『V-22』は垂直降下する舟とありますが、ただの落下ですよね? それを投げ込んで離脱するとは…捨て身攻撃ですか? 偵察しつつ攻撃する舟…威力偵察の船ですか?」
「V-22は垂直方向での離陸も着陸も可能な航空機、後者は軽武装の上陸部隊や偵察班を海上から陸へ移動させる硬式ゴムボートだ」
そう答え苦笑しつつ、私は改訂版の方を読むように促す。最初は警戒していたが、暫くすると半ば齧り付くようにマは読み進めていく。
「分隊単位での指揮・突入・遮蔽・制圧行動の分化…指揮、強襲、補給、射撃、索敵、支援、通信といった役割を特化させて混合運用させるのか? エースの技量に頼る事なく、戦力の底上げと均一化が可能になる。ミノフスキー粒子散布と連動した電子偽装と誤報作戦…通信遮断までは考えていたが…」
思考を始めるように内容をつぶやき始めたので咳払いをすると、ハッとしたようにマは私の方を向き直した。
「……恐れながら、この改訂版を書かれたのはどなたですか?」
沈黙は金。
その問いに私は静かに笑みで答えた。
それで理解したらしく、マは大きなため息と共に改訂版を机の上に戻した。
「それで……これをどうなさるつもりですか?」
「これは使える資料だ。限りあるリソースを有効活用するため、我らにとって未知とも言える重力戦線で戦うために…」
「……まずは、直轄部隊で試しますか?」
「貴様に一任する。我が軍でどのように浸透していくかを含めてな。そうだな…装備関係の調整から始めてもらいたい」
「見合うスペックの洗い出しをしましょう。ガルマ様に相談しても?」
「構わん」
「まずは小ロットで各企業に発注をかけます。予算は?」
「サスロ兄に相談しなさい。実験である事を強調してな。それでも難しいようであれば、ルナ・ライン側で調整できないか打診を」
その言葉を聞き、マは少し眼光を強めて口を開く。
「情報の出所の信憑性はどうなさいますか? これは『ただ読んだだけ』で書けるような代物ではございません」
「だからこそ相談しているのだ、マ・クベ」
そう言い再び微笑むと、マはただ無言で顔を上に向けた。
「……貴女と言う方は……」
大きい溜息と共に一度俯き、マは私に向けて敬礼をする。
「……承知しました。それも含めて上手く処理いたしましょう」
「頼りにしているぞ」
サイド6、パルダコロニー。
ルナ・ライン先端技術研究所本部。
私キシリアは、珍しく影武者のリアナの姿ではなく、キシリア・ザビとして研究所を訪れていた。
「サイド間の移動は初めてと伺っています。まずは談話室で休憩いたしましょう」
振り返りそう声をかけた先には、男女2人の姿があった。
ホシオカ重機の社長、ゲンザブロウ・ホシオカとその娘のミオンであった。この2人は、ジオン公国に大手機器メーカーであるジオニックからの依頼を受けてMS開発プロジェクトに参加し、MS-05「ザク」の初期ロットの制作に貢献した人物であった。ただ、その後に幾つか問題を発生させていた。一つ目は機密保持に関する考え方が甘いこと。実際にザクに関する機密情報が漏れそうになったそうだ。そして二つ目はジオニックから兵器であることを伏せられて、工作機器「モビルワーカー(MW)」の制作として仕事を受けていたこと。
しかしサイド6での反乱で明らかとなる、ゲンザブロウたちが手掛けていたのは「兵器」であったと…
「なるほど、民間利用と思っていたら機密保持について甘く見るのも当然。パジトノフ氏はその時点で明かすべきでしたね」
ゲンザブロウたちとの交渉を担当していた、ジオニック社モビルスーツ外注開発主任の事を思い、私はため息を吐く。
「で、私どもに何をさせるつもりですか?」
「ここは軍施設ではなくて民間企業です。貴方方には、ルナ・ライン先端技術研究所で研究されている試験機の制作担当としての提携をお願いしたい」
「試験機…ですか?」
出された飲み物に口をつけることなく、ミオンがおずおずと尋ねる。
「ここにいる研究員が、データ上で様々なMSの設計を行っております。それが実現可能かどうかの検証…と言ったところですか」
実際に見た方がいいと考え、休息の後に私は、二人をシミュレータールームに案内する。そこでは、私の来訪を予め知っていた部長のテム・レイをはじめとした研究員一同が整列して待っていた。
「ご無沙汰しています。キシリア閣下」
少し草臥れた様子ではあるが、生き生きとした目を向けて、テム博士が挨拶してきた。
「活躍は聞いている。貴殿ら研究者達の働きで、今まさに技術革新が起きている最中であると実感している」
「ありがとうございます!」
そう答えるテムと同様に誇らしげに笑む研究員達。
ただ、どの研究員もどこか草臥れた様子で、きちんとライフアンドワークバランスが取れているのかと不安になる。残業禁止命令を出した方が良いと考えつつ研究員を見渡すと、以前来た時に見かけなかった男女三人の姿に目が止まる。
「其方の者たちは?」
「はい。キシリア閣下のご指示で増員した研究員二名と、奨学金を受給している来年度入社予定の者です」
「フランクリン・ビダンと申します」
「ヒルダ・ビダンです」
「お会いできて光栄です、キシリア閣下。パプテマス・シロッコと申します」
………………はい⁈
「その……ビダンと言うのは?」
「あ…はい。夫婦共にこちらに入社しまして」
「こちらは託児所だけでなく、シッターサービスや家事代行サービスも充実していて、素晴らしい環境ですね」
違う、そうではない。
あれだよね? 続編のZの主人公の両親だよね⁉︎ あとシロッコとか言った⁈ Zの最凶の敵役と同じ名前なのは気のせい? 気のせいだよね⁈ 目のハイライトがあるから…それ以外は似ているけど。
激しく混乱している中、テム博士は大型スクリーンを起動させる。最近はそれぞれが設計したMSのデータを、シミュレーションデータで戦わせ、互いの設計の改良点の洗い出しを行っているらしい。
時期的にガンキャノンとかができているのかと思い、誘われるままスクーン越しに観戦したところ…
えっと……フルアーマー・ガンダム?
ガンダムMk-IIに…メッサーラ?
「どうでしょうか?」
「素人質問だが……これは現時点の技術でできるものなのか?」
「無理です。しかし、これらを実現させるための技術が、少しずつですができております」
「機体の反応速度を向上させるマグネットコーティング!」
「外装と内部フレームを独立させたムーバブルフレーム! これで軽量化と堅牢化だけではなく、内部機関の積載量を大幅にあげることができました」
「ミノフスキー博士がハン博士と協力して、I・フィールドのバリア発生装置の小型化にも成功しました。改良型エネルギーCAPで問題なく起動できるそうです。このままいけば、ビームシールドの実現も夢じゃ無い!」
騒いでいる研究者達を見て、私は既視感を覚える。これはあれだ。前世の情報の中にある、ガンダムブレイカーで最強MS作りに夢中になっていた奴らだ。
「それからスラスターユニットの可変機構が実現間近で、上手くいけば大気圏も宇宙圏でも問題なく姿勢制御が…」
誰かが言っていた。子供と成人の趣味の違いは注ぎ込む資金の金額だけであり、本質は全く変わらないと。その大きなお友達集団が世紀の天才達であるとするならば、プロトガンダムを抜かして、Zガンダムどころかジ・Oまで行ってしまうのではなかろうか?
兎に角、本国まで伝えない方が…
「この前まで居たメイ嬢ちゃんが、今言った物の資料を帰国の時に持ち帰ったから、ちゃんと向こうにも伝わっておるぞ!」
ミノフスキー博士のその言葉を聞き、私は膝から崩れ落ちそうになるのを必死に耐えた。目を輝かせて研究員達の議論に混じるホシオカ親子を横目に、私は大きなため息を吐くしかなかった。
余談ではあるが、数日後にギニアス・サハリン技術大佐から技術協力の依頼が来て、対象者のビダン夫妻に相談したところ二人とも快諾。企業からの出向という形でジオン軍の開発本部へ勤務することとなり、サイド3行きの便で仲良く旅立って行ったそうだ。
その報告を聞いた時、可変式アプサラスが出来たら、重力戦線どころか宇宙でも使えそうだとか、重武装MS空母ができそうだとか…色々と現実逃避をしたのであった。
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サイド3、首都バンチ、ズム・シティ。
慎重に周囲に気配を探り、ジオン公国軍の技術大佐のアサクラは裏道に面した所にあるバーに滑り込んだ。このバーは最近までは自身にとって憩いの場であったのだが…
「来たか?」
感情の伴わない声を掛けてきたのは、アサクラが旧友だと思っていた者…
アサクラは無言でデータディスクを渡す。前々回は製薬アスタロスの生育条件、前回は薬効成分の精製法。そして今回は、サイド2に納品予定の検疫コロニーの設置場所への移動に関する航路情報であった。
サイド2に納品予定の検疫コロニーが、輸送中に行方不明になるというニュースをアサクラが見たのは、それから数日後のことであった。
次回は月曜日更新予定です。筆が進めば土曜日更新します。
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