キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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感想、誤字修正ありがとうございます。
感想の返信は当分先になりますが、楽しく読ませていただいております。



25. キシリア様は救出者

 

 シロッコは思考の海を漂っていた。

 何をしていた?

 

 確か……研究所宛ての荷物を回収し、中身のエナジードリンクを配っていた。

 

 ミノフスキー博士、テム博士、ハン博士、ナガノ博士、ビダン夫妻…尊敬に値する頭脳の持ち主たち。シロッコ自身は天才だと考えていたが、上には上がいることを見せつけられた。彼らとの会話と議論は刺激的かつ魅力的で、長年シロッコが抱えていた知的渇望を満たしてくれていた。

 しかしシロッコには誰にも打ち明けていない潜在能力がある。それはまさしく神に届く能力。それをもってすれば、いずれは彼らを追い越すであろうと考えていた時、一人の女性がシロッコの視界に入った。

 

 ジオン公国軍突撃機動軍司令、キシリア・ザビ准将。

 

 自身が獲得した給付型奨学金は、彼女が設立したと聞いていた。連邦政府の奨学金は素性が明らかとなっている者に限定されており、実質は正規の地球在住権を持つ者が優先されている一方で、ルナ・ラインの方は制限が課せられていなかった。半信半疑で応募したところ奨学金を獲得することができ、軍へ入る道を取りやめて大学へ進学することができた。そして天才たるシロッコは、来年度には学位を修得できる見込みであった。

 ある意味恩人とも言える、キシリアにシロッコは興味を抱いた。いつも通り精神的な圧をかけて彼女の精神を探ろうとしたが、どう言うわけかキシリアはシロッコの精神圧に全く反応しなかった。

 シロッコは内心舌打ちする。精神的な共鳴、協調能力のない凡人と断定し、評価を下方修正した。だが念のためにと直接接触して、キシリアの心を深く覗こうと試みた。そして……

 

 キシリアの精神へと直接接続した瞬間、無数の光が、音が、意思が、時間が、何重にも折り重なって圧縮された情報が溢れ出して、シロッコの精神を一気に押し潰した。

 

「意識がはっきりしてきたようだね」

 

 音と意味が合致し、シロッコは声が聞こえた方を向く。それを切っ掛けにシロッコが感知している視覚情報が整理され、自身が病院のベッドの上で上半身を起こしている状態であることに気づいた。

 

「……ここは?」

 

「フラナガン医療センター。君が所属する研究所の兄弟機関だと思ってくれて構わない」

 明らかに自身の所属を知っている口振りの研究員を、シロッコは警戒しながら観察する。

「ああ、自己紹介がまだでしたな。私はフラナガン・ロム。ここの責任者でもある。わざわざ精神圧をかけんでも、君の疑問には答えよう」

「っ⁈」

「検査結果が出た。君はニュータイプだね」

「ニュータイプ……ジオニズムで出てくる、人の進化系ですか?」

「噂通り博識だね。概ねその考えで間違いない」

 フラナガンによると、彼らの研究でニュータイプは4つに分類されるという話である。

 

・Type-A(アセンション)=覚醒型

・Type-C(コーディネート)=調和型

・Type-E(エゴ)=支配・発信型

・Type-F(フロー)=感覚型

 

「どうもシロッコ君はType-Eのようだね」

「エゴ……」

「そう。感情の読み取りだけではなく、おそらく君自身の感情を他者に伝える…さらにいうと間接的に操れるのではないかな?」

 フラナガンは博士の言葉に、シロッコは思わず息を呑む。

「ここは……ニュータイプの研究所ですか?」

「ニュータイプの研究“も”しているといった方が正しい。ここは心的外傷後ストレス障害…いわゆるPTSDの検査、診断、治療、予防の研究を主としている」

「ルナ・ライン先端技術研究所の兄弟機関と言う話ですが、ここもキシリア…閣下が設立した機関ですか?」

「その通り。閣下の私財で設立されて運営されている。ジオン軍の兵士たちの精神面のサポート、そして適性検査を元にした訓練・人材配置の最適化が必要であると提案したらしいが、公国の上層部で受け入れられず、中立であるサイド6に民間の医療センターを作ったという話だ」

 そして今シロッコが居る場所は、附属病院の入院棟という話であった。

「ニュータイプとどういう関係が?」

「精神的に繊細で感受性豊かな者がPTSDになりやすい。そして精神的負荷を与えられた者の一部は、特殊な脳波を出すことがわかった。そしてその者たちは、優れた反射神経と精密射撃、相手の動きの予測に長けていることも判明した」

「その特殊な脳波を出す者がニュータイプですか…キシリア閣下もそうですか?」

「いや。最初に調べたが彼女はニュータイプではなかったよ」

 

 ********

 

 ルナ・ライン先端技術研究所からシロッコを搬送するついでに、私キシリアは予定を前倒ししてフラナガン医療センターの視察を行うことにした。

 現在その準備をしているため、休憩を兼ねて私は案内役と一瞬にティータイムを楽しんでいた。

「今回の視察で見ていただくのは、研究に対する倫理委員会について…」

「それより丁度2人きりになった故に言っておこう。なぜここにいるのですか? セイラ・マス“様”」

 そう言うと、イタズラがバレたような幼い表情をセイラ…いやキャスバルの妹であるアルテイシア・ソム・ダイクンは見せた。

「凄いですね。セイラとは髪の色以外は似ているって言われているのですけど…」

 そう言いアルテイシアは、金髪ではなく茶色に染めた髪を軽く摘む。

「そう言えば貴女もセイラも、ここで働いているのであったな」

「はい。セイラは医学生で、私は臨床検査技師です。今日は無理を言って、セイラに交代してもらったのです」

 シャアとしてテストパイロットをしていたキャスバルを思い出し、私は兄妹共々問題児であると軽く頭痛を覚えた。

「っ⁈」

 その時急にアルテイシアは、顔色を変えて立ち上がる。

「どうした?」

「わからない……分からないけど、何か…恐ろしいことが…」

 いきなり何を言い出すかと最初考えたが、私は前世の情報で“あること”を思い出す。

 

 アルテイシアはニュータイプであると。

 

 アルテイシアに異変の震源地を案内させて駆けつけると、地下の実験室に辿り着く。

「どういうことかね⁈ 君の研究は倫理委員会で却下されたはずだ‼︎ なぜ実験をやっている⁈」

 中からフラナガンの怒鳴り声が聞こえる実験室に入ると、そこにはフラナガンとシロッコ、そして男女2人の姿があった。

 1人は白衣を着た男…確か名前はクルスト・モーゼス。もう1人ベッドで寝かされている女性は、確かニュータイプ適正が確認されたジオン兵のマリオン・ウェルチであった。

 

 モーゼスが作ったと言う「EXAMシステム装置」が暴走を起こし、実験協力者のマリオンの精神を奪い取ったと言う話であった。

 

 一刻も早くマリオンの精神データを回収しなければ、彼女は廃人となってしまう。しかしこの事態は完全に想定外であるらしく、打つ手がないと言うのが現状であった。

「たとえばですが…大量の情報因子を過剰にEXAMシステムへ投入した場合、システムをダウンできませんかね?」

「理論上は可能だ。だが人の精神情報を根こそぎ奪ってなお吸収しようとするこのシステムを凌駕する情報量など…」

「あります。キシリア閣下、貴女の中に。私はそれに触れてしまい、昏倒してしまいましたので…」

 シロッコの言葉を聞き、私は彼が倒れる前のことを思い出す。

 そしてある仮説に至った。彼が接触して心を読もうとした時、私は前世の情報を探っていたことを。そのデータを無作為に投入すれば…

「……フラナガン博士、シロッコのタイプは?」

「E(エゴ)です」

「シロッコ、マリオンの精神データとそれ以外の判別は?」

「おそらく可能かと」

「ならば実行だ」

 そう言い私はシロッコに手を差し伸べる。シロッコは私の手を右手で掴み、左手をEXAMシステムに翳す。

 私は前世の情報を…そこの“私”が感知して、思考して…蓄積された数十年分の情報を手当たり次第探り当てていく。

「くっ……」

 苦痛に歪むシロッコの表情に比例して、EXAMシステムが不穏な音を立て始めた。

「っ‼︎ 機械から光が解放されたわ! 光はマリオンさんの中に‼︎」

 何かを感じ取ったらしく、静観していたアルテイシアが声を上げる。それと同時にフラナガンはマリオンの脳波を確認した。

「成功です‼︎」

「もういい、シロッコ。接続を切れ!」

「だ…だめです……精神が絡めとられて……せ、接続が切れない……引き込まれて喰われるっ‼︎」

 私が流している情報圧が足りないらしく、中継をしているシロッコの精神をEXAMシステムが吸収しようとしていた。

「援護する、その隙に接続を切れ‼︎」

 シロッコにそう言い放ち、私はEXAMシステムに直接触れる。

「キシリア様⁈」

 フラナガンの制止の声が聞こえるがそれを無視して、私は目を閉じる。程なく、黒い蔦が侵食するような感触を感じた。

 

 ヨコセ……

 黙れ!

 

 オマエ ヲ カイセキスル…

 バラバラ ニ シテ トリコム…

 モット オマエ ノ データ ヲ……

 

 そんなに欲しければ持っていけ‼︎

 

 前世の情報との接点を強く引き寄せると、繋がっていた先…その鏡面が盛り上がって崩壊し、濁流が一気に流れ込んだ。

 

 そして……

 

 キャスバルにバズーカで撃ち抜かれて“私”は四散した。

 キャスバルは結果的に“私”を救って跡形もなく消えた。

 

 どれも“私”だ。

 だがどれが“私”かわからない。

 やはりどれも私ではない。

 

 砂嵐の視界の奥で<私>は白衣を着た男に促されて装置に座る。

 その先の“私”は自衛隊音楽まつりの観覧の抽選に落ちてガッカリしていた。

 

 違うコレは…私ではない。

 

 でも背後に人の気配を感じる。

 そして聞き慣れた私が好きな声も…

 

「キシリア様……」

 

 どこか祈る様な声がした方へ視線を向け、その姿を確認し私はその名を呼ぶ。

「…………マ・クベか……」

「っ! お目覚めですかキシリア様!」

 焦った声でマは私のベッドの枕元へと歩み寄った。

「ご気分はいかがですか?」

「……なぜここに? 迎えは三日後では…」

「今日がその日です」

「………え?」

「貴方が倒れてから三日経っています。ああ、起き上がってはいけません。前頭葉で脳出血が起きています。微小とは言え1週間絶対安静です」

「いや……流石にそんなに休むことは……」

「原因は過労。例の資料作りで、休暇中も寝食碌にとっていないと聞いておりますが」

 そう言いマが少し横にずれると、テーブルの上に山積みとなっている見舞い品が見えた。

「どれだけの者に心配を掛けたと思っているのですか? もう少し身体を労ってください」

「……心配をかけたな」

「ギレン閣下には連絡済みです。あとは私にお任せください」

「そうだな…貴様に任せよう」

 キシリアの言葉に敬礼で返し、マは病室を後にした。そして入れ替わりにフラナガンが入室してきた。

 

「……気を遣わせたようだな。感謝する」

 

 マを含む部外者に対して、EXAMシステムの暴走を止めるために無茶した事を隠蔽し、倒れた原因を表向き「過労」とした礼をフラナガン博士に言う。

「いえ。過労も明らかに原因の一つです」

 そう切り返されるも、私は一瞬視線を外して気を取り直してから本題に入る。

「ところで、マリオンは?」

「昨日目を覚ましました。幸い後遺症はなさそうです」

「そうか……それと、私の身に何が起きた?」

「それを聞きたいのは我々の方…と言いたいですが、おそらく貴女はニュータイプかと」

 フラナガンの言葉に対して私は鼻で笑う。

「それはありえない。そのことは以前に調べた博士が既に証明済みであろう」

「しかし一時的とはいえ、暴走したEXAMシステムを制御するなんてありえない。とは言え、通常のNT分類では説明不能」

「…規格外のニュータイプか?」

「EXAMシステムを制圧した時に確認された脳波は、これまで見たことがないパターンでした。まるで“別空間の演算領域”に接続しているような…しかしこの現象は常ではありません。脳波のパターンからすると、貴女は意図的にその“別空間の演算領域”に接続できるのでは?」

 おそらく前世の情報を見ている時であろうと私は一人納得する。

 そして確信してしまった。前世と思っていた記憶に触れる前に“何か”がある。その中継地点にある“何か”は、シロッコを壊しかけ、EXAMシステムを制圧できる莫大な量の情報が鎮座されている場所。私はその“何か”への接続権限があると言うことであろう。

 私は失念していた。

 前世という異なる世界の記憶を、自由自在に引き出せると言う事象自体が異常であることを…

 

「解析特化型のニュータイプ。これを私はType-Z(ゼロ)と名づけました」

 





ニュータイプのタイプを定義付けするのは勇気がいりました…
公式設定ではなくてオリジナルですが、この世界ではこういう物と受け止めていただけると助かります。

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