キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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本話から第三章の山場に入ります。
正直、一番気を使って書いた話でもあります…



28. キシリア様は捕虜

 

 地球連邦軍サイド3駐屯基地本部から、地球連邦軍本部へと緊急連絡が入った。

 サイド3、現地時間、9:00。

 ジオン公国の要人であるキシリア・ザビが出頭してきた…と。

 

 協議の結果、地球連邦軍の上層部であり各々が派閥を率いている、レビル中将、ゴップ中将、ティアンム少将、そしてコリニー中将の代理であるジャミトフ大佐の4名が、通信機を介してキシリアに尋問を行うこととなった。

 

 サイド3、現地時間、17:00。

「お初にお目にかかる、キシリア・ザビ准将」

『こちらこそ初にお目にかかる、レビル中将。若輩ゆえお手柔らかに頼む』

 自ら檻の中に飛び込んできたと言うのに、凪いだ視線を向けてくるキシリアに対して、レビルはどことなく得体の知れないものに思えた。

「貴官は地球へのコロニー落としに対する責任を果たすために来た。そういうことで相違はないか?」

『既に認識が食い違っている。其方が要求したのはアスタロス制作責任者だ。私はアスタロスを用いた新薬について開発当初から携わってきた。故にアスタロス制作総責任者として説明義務があると考え、其方の要求に従って出頭したまで』

「まず一点目、サイド1、13バンチに所在していた連邦軍の駐屯基地本部についてだが…」

『それは通称『ガーディアンバンチ』の崩壊の事か? サイド1の住民によるテロと断定して、見せしめのために連邦軍が壊滅させたのではなかったのか?』

 キシリアの切り返しにジャミトフは押し黙り、代わってティアンムが口を開く。

「……本題に入ろう。地球に落ちたのは貴官が製作した検疫コロニーということで間違いないか?」

『私ではない。私は最初期に案を提示しただけで、制作は全てヤシマ・カンパニーが行っている。故に持ち主は誰かと問われれば、納品前である以上はヤシマ・カンパニーの所有物であったと言える』

 キシリアの言葉を聞き、財界のパイプ先を庇うようにゴップが冷や汗を拭きつつ口を開く。

「……確かに、ヤシマ・カンパニーから盗難届が出されている。サイド2へ納品される前に盗難された…と」

『そのはずだ。シュウ・ヤシマ会長から相談を受け、我が軍でも演習のついでに捜索を続けていた。そして地球に落下したものは、形状からの推定ではあるが盗難されたコロニーの可能性が高い』

「推定だと? そうやって責任転嫁を…」

『速度から接舷は困難だったと報告を受けている。そんな状態で、盗難されたコロニーであると確定作業ができる訳なかろう』

「ふん……事故を装って、地球への落下軌道に載せたのではないのか?」

 ジャミトフの言葉に目を細め、 キシリアは淡々と説明を始める。

『何者かによって高度なステルス仕様が施されていて、部下の発見時は既に地球降下軌道に入っていた。破壊を試みたが、所持していた装備では対処は不可能と判断した。そこで全チャンネルで緊急連絡をしたところ、其方のワッケイン少佐のみが駆けつけたと聞いている』

「突然そのような連絡を受けたところで、真偽確認に時間が…」

『検疫コロニーは、アスタロス対策で最高クラスの強度と分割ブロック構造を備えている。質量を考えると、軌道を逸らすだけでも核弾頭が必要だ。其方が迅速に行動を起こし、必要な装備と戦力で対応していれば、回避できたのではないのか?』

「…………」

『我が部下たちの行動を疑うのであれば、共同で破壊を試みた其方のワッケイン少佐に聞けばよかろう。それでもと言うのであれば、こちらは航路記録も通信記録もある。それで接触前には既にコロニーは地球降下軌道に入っていたと判明するはず。ワッケイン少佐の努力すらも冒涜する気か?』

「貴様っ‼︎」

 声を荒げたジャミトフを、ティアンムは慌てて抑えた。

『貴官らの言葉は質問ではなく、こちらの言質や失言を取ることを目的とした、中身の無いもののように感じる。今も地球上では、コロニーの落下による被害に喘いでいる者が大勢いるのではないか? サイド1の生存者を見捨てるつもりか? 責任の擦りつけあいは、民を救ってからやるべきではないのか?』

 キシリアの正論に、レビルたちは押し黙る。

『それとも貴官らの背後に居る者の意向か? 責務である民の守護を後回しにして、救うべき命が消えゆくのを無視してまで優先すべきことか? サイド1で居住コロニーを複数残したところで、農業コロニーと工業コロニーが無ければ飢えて死ねと言っているのも同義』

 その言葉を聞き、ティアンムは口端を引くつかせる。それは彼自身が疑問に感じている事そのものであったからだ。

『民の救済を後回しにすると言うことは、貴官らが民の怒りを受けると同義だ。それは貴官らもまた、切り捨て要員であるという証左であろう?』

 キシリアの指摘に思う節があるのか、ジャミトフは手元の資料をくしゃりと握りつぶした。

「……そうであったとしても、祖父母や親世代が全てを掛けて設立した連邦を維持する義務が我々にはある」

 苦々しくそう反論するレビルに対して、キシリアは言及を緩めない。

『先達の意思を引き継ぐのは尊いもの。しかし、その意思は果たして連邦の存続か? 人々が争わないことではないのか? 統一国家を作った理由は正しくそれであろう?』

「………」

『本質を忘れて惰性的に連邦というガワを維持するためだけに、我らスペースノイドの未来を潰させるわけにはいかない』

 

 誰かは不明だが、4人の内の誰かが通信を強引に切ったことにより、キシリア・ザビの尋問は終了した。

 

 レビルら4人はより機密性の高い地下会議室へと移動する。その間、誰一人として言葉を発することはなかった。

 

「それで……どういたしますか?」

 ティアンムが他の3人を伺うように口を開く。

「実際……ザビ家の要人が自主的に出頭し誠意を見せた時点で、我らが打てる手は少ない。しかもサイド3駐屯基地での取り調べにおいても協力的だったと…」

「協力的だと⁈」

 レビルの言葉を遮り、ジャミトフは先ほど既に握りつぶしていた、サイド3駐屯基地からの報告書を机に叩きつけた。

「あの女狐は全て知っていた‼︎…盗難された製薬アスタロスの栽培によって密造された薬が、アナハイムを介して連邦内に流れていることもな!」

 ジャミトフの言葉を聞き、ゴップは顔色を変える。

「お……おい! まさかその内容は、サイド3駐屯基地の友軍に…」

「伝わっているに決まっているであろうっ‼︎ でなければ、こうして報告書として届くはずもない‼︎」

 そう言うや否や、ジャミトフはとうとう報告書を破り捨てた。

「……サイド1への攻撃はやりすぎだったのでは?」

「感染症関係で関係性が悪化していた状況下で、13バンチの駐屯基地が壊滅した。これを好機とサイド1は独立姿勢を見せ始めたのは事実だ」

 ゴップの言葉を、ティアンムは苦々しい表情でそう否定する。その様子を一瞥したのち、レビルは口を開く。

「ジオンがサイド間の同盟を進めていた。見せしめのためにも攻撃は致し方なかった。13バンチの崩壊原因であるアスタロスがジオン由来である事を盾に、サイド1と連邦の離間工作をジオンが仕掛けたと言う形に持っていく予定であったのだがな…」

 相手から言質を取る前に、論戦に持ち込まれて完敗した。

「それだけではない。盗難された検疫コロニーの落下、証拠隠滅工作… その原因をあえて口にせず、正論だけで我らを完全に論破してみせた‼︎」

「そうだな……」

 その事実の重さにレビルはそう呟き黙り込む。

「キシリア・ザビの言葉は、確かに偽りの無い正論だ。我々が“彼女の正論に屈した”という印象が流れれば、間違いなく民に混乱をもたらす。各サイドがジオン側に付けば、形勢は一気に逆転する…」

 そこで言葉を切り、決心したようにジャミトフはぽつりと言葉を発する。

「私は、キシリア・ザビに対して『永久保管』を提案する」

 その言葉を聞き、ゴップは顔色を変える。

「何を言う⁈ 人道的に許されるものでは無い! 世論に知られたら…」

「精神衰弱による医療措置だと押し通せば良い。尋問も監禁も危険だ。あの女が発する倫理と論理を耳にする事で、どれほどの者が心変わりを起こすか分からぬ」

 そう言いジャミトフは、既に心を傾けつつあるレビルとティアンムに厳しい視線を向ける。

「しかし……例の製薬アスタロスの情報は? 製薬会社との約束は?」

「技術の接収はできずとも、スペースノイド側の製薬開発速度を鈍化できれば問題あるまい」

 そこまでジャミトフに言い切られ、万策尽きたとゴップは口を閉ざす。

「氷の中に永久に閉ざす以外に方法はない。それ以外に残された道は処刑だが、それは一番の悪手だ。確実に殉教者として奴らに祭り上げられるぞ」

「確かに……処刑よりは穏便ではあるが…」

 汗を掻きつつゴップは口を開く。宇宙線被曝症の治療薬を融通してくれたことに対して、キシリアに対して少なからず情があることからも、命までは取らない妥協策として受け入れるしか無いと考え始める。

「軍人に対して…冒涜では無いか?」

「軍人であるならば、それくらいは想定内では無いかね?民は半減し、地球上は混乱の極みだ。このような状況下で連邦を潰させるわけにはいかん」

「軍人であるならば……か」

 ジャミトフに切り返されたティアンムは、そう呟き押し黙る。

「彼女の正論は美しい。だが……汚泥に慣れ切った我らにとってはそれは毒でしかない。コールドスリープ処置に同意する。異論は?」

 そう言うレビルの言葉に反論するものはいなかった。

 

 ********

 

 これは少々想定外か……

 

 レビルらの尋問を終えた6時間後の深夜、私キシリアが万が一の事を考えて手記を書き終えた時、軟禁されている客間に憲兵2人を連れた連邦士官が訪れてきた。

 そして促されるまま部屋を出てたどり着いた地下施設、白い医療用ガウンに着替えて進んだ先に、ソレはあった。

 

 冷凍睡眠装置。

 

 この手際の良さから、自身が出頭してきた時点で、選択肢の一つとして準備が進められていたのであろう。

 「永久保管」の準備を…

 確かに想定していた事態の一つではあるが、たった一度の尋問で決断するとは…連邦内の分裂を狙って選んだ言葉を口にしたつもりだが、予想以上に効きすぎたようである。

 しかし、出頭から24時間も経たないうちにコールドスリープ処置ということは、連邦は内密に事を進めるつもりであろう。ここまで迅速に動かれると、ギレンらが察した時は、この身は地球の超低温保管庫の中か……

「……楽観的に見ても20…いや50年が妥当か」

 次に自分が目覚める時期を推定しつつため息をついて、付いてきた連邦士官に視線を向ける。髪と眉があって気づかなかったが、連邦軍少佐の階級章を付けるその者の名には聞き覚えがあった。

 バスク・オム。

 前世で嗜んだサブカルチャー由来の情報によると、地球至上主義の反スペースノイド派。確かコロニーに対して毒ガス攻撃による虐殺を、躊躇うことなく実行した過激主義者…

 多分無駄になるだろうと思いつつも、畳んで持っていた軍服をバスクに渡す。

「落ち着いてからでいい、服をザビ家に届けて欲しい。それと……」

 私は先ほど書き上げた手記を、軍服の上に置く。

「これをゴップ中将に届けてくれ」

 こちらの言葉に応えず、淡々と私からの荷物を受け取るバスク。

 彼が手記の中を少し開き検めると、「アスタロスが地上で繁殖した場合における初期対応」と言う項目が見える。物理的な影響を考慮するとほぼ死滅していると推定され、実際に今の所は地球でアスタロスが発生した兆候は見られていないが念の為である。バスクは少し眉を寄せるだけで、手記を再び閉じたのであった。

 その様子を見ても期待薄ではあるが、今処置室にいる士官はバスクのみで、他の数名は医官か技官であった。階級からバスクを無視することはできず、彼に託すしかなかった。

 

 一人で冷凍睡眠装置に歩み寄る。

 

 深夜の床の冷たさが素足を刺す。不思議と身体に震えは無かった。

 自ら冷凍睡眠装置のカプセルの中に入ると、遅れた形で医官の一人が側に駆け寄ってきた。

「その……鎮静剤は?」

「要らぬ」

「……わかりました。これから…処置に入ります」

「就寝予定ではあったが、これでは相当長い眠りになりそうだ」

 そう言う私から視線を外し、医官は無針注射でナノマシンを体内に注入した。

 程なくカプセル内に満たされていく冷気と連動して、体内のナノマシンが体温を下げていき、眠気が襲う。

「あと60秒で意識が消失します。何か言付けは?」

 

 連日の睡眠不足で即座に寝落ちそうなんだが……

 そうだな……

 

「後は頼む……」

 

 開けるのも億劫になっていた瞼が閉じるのと、カプセルの蓋が閉まる音が聞こえたのはほぼ同時であった。

 

 布石は置いた。

 ギレンとマ・クベが居れば大丈夫。

 キャスバルやガルマも、もう一人で進めるだろう。

 ギレンが暴走しても、サスロとドズルがきっと止めてくれる。

 

 このまま忘れ去られても、きっと大丈夫。

 





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マ・クベ人気に驚きです。そこまで登場回数は多かったわけではないと思いますが…

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