各話UA1000を超えました。ありがとうございます!
予想以上のUA数で正直驚いています。
感謝を込めて特別更新しました。
ムンゾ自治共和国。それが今現在、私キシリアの居る祖国の名称。
私が隊長を務めるムンゾ保安隊は、前世の記憶の中の警察と公安を足した機関で、ムンゾの治安維持と政府要人の警護を主任務としていた。ムンゾ政府への反抗勢力を特定して排除、壊滅、もしくは無力化させる「諜報」と「武力」を兼ね備えた組織なのだが…
その組織の長としては、自分は若すぎるのではないだろうか? そう言えば、ドズルも20前にも関わらず防衛隊隊長だった。しかし、あちらはコンスコンやラコックと言った多くの優秀な人材が固めている訳で……もしや箔を付けるためにワザと老け顔になっていたのか⁈
目の下や頬の皺の有無を触って確かめていた時、部屋にノックが響き渡った。
「キシリア隊長、書類をお持ちしました」
ドア向こうから声が聞こえ、一つ咳払いをして入室を促す。程なく一人の男が、ムンゾ保安隊隊長の執務室へ入室する。
「私が不在中ご苦労であった。トワニング副隊長」
「はっ!」
敬礼と共に短く返事をする、口髭とM字の生え際が特徴的な男の名はトワニング。私キシリアの副官で、実際の部隊指揮を執るムンゾ防衛隊の「武力」を担う者であった。
今日は怪我から復帰した初日。近々行われるジオン・ズム・ダイクンの国葬について、要人警護の打ち合わせを進めていく。ムンゾ保安隊が設立してから初めての国葬であることから、決めなければならない事は山積みであった。とは言えども、具体的な内容は部下たちが申請書や企画書という形で作成しているため、私の仕事は確認をしてサインをするだけで良かった。
「ん?」
気になる項目を見つけ、トワニングに訊ねる。
「要人の移動に使う車両は、まだ確保できていないのか?」
「はい。大型車両の防弾性能が基準を満たしていないことが発覚しまして…通常サイズの車両を複数集めて、対応する予定となっております」
大型車両で一部の者たちを纏めて輸送する事には理由がある。保安隊の人員に限りがある事から、監視、検査、警護対象となる車両数を抑える必要があったからだ。このままでは、質を落とすか人員を新たに入れなければならないわけで…
そこまで考えが至った時、前世の情報から気になる事件が浮上する。
それは国葬終了後に発生した、サスロ・ザビの暗殺である。
前世の私が嗜んでいたサブカルチャーの情報の中で、暗殺に関する詳細設定はただ一つ。車両に仕掛けられた爆弾による暗殺。因みに首謀者は、キシリア・ザビの可能性が高いという描写となっていた。
今の自分にはその気は全くないし、サスロ亡き後では民意を制御しきれない可能性が高い。そしてそれが将来引き起こされる連邦との戦争で、休戦のタイミングを逃した遠因であると前世の情報が告げていた。
と言う訳で、世論操作に長けたサスロの暗殺を阻止する方向で考える。
私が取りやめたのだから、暗殺は回避されたと考えるのは早計であろう。私のことだから間に幾人も挟ませて、不特定多数の名も顔も知らぬ私怨でサスロを狙う者を実行犯に据え置こうと考えるはず。痕跡を残さないように、私が手を出すのは警備に隙を作る事だけに留めるであろう。
そして、要人用の大型車両の性能規定を改変したのは、前世の記憶を得る前の私であった事を考えると…
「追加で購入予定の送迎車につきまして、昨日から入札を開始して……」
「追加購入は無しだ」
「…………は?」
私の言を聞き間違えたのかと、報告途中のトワニングは間抜けな声をあげて聞き返す。
「不足している車両および人員は、防衛隊から融通してもらう。あそこの車両ならば充分な防弾能力を有しているであろう? 防衛隊に打診を…」
「お、お待ち下さいっ‼︎」
「何だ?」
指示を言い終える前に口を挟まれ、湧き上がった不快感を抑えて発言を許す。前世の記憶を加えれば、半世紀以上は確実に存在する人生経験豊富な私は寛大なのだ。仕事モードで押しやった良心が「先に言葉を遮ったのはこちらでは?」と呟くが、聞こえないふりを貫き通す。
「要人警護は保安隊が一任する故、防衛隊の助力は不要であると…前回の式典の時にそう仰ったのは貴女だったはずです」
トワニングの言うとおり、己が権限を拡大するためにそう大言を吐き、防衛隊隊長であるドズルとの関係性に亀裂が入ったのは事実。しかし…
「状況は変わった」
前世の情報を得た私は、それは悪手であると理解した。
「此度は保安隊発足以来、初めての国葬だ。万が一にも不備があってはならぬ」
「しかしそれではキシリア様の面子が……」
「ここで失態を起こす方が、より評判が落ちるのでないのか?」
前世の情報が示すところ、私の評判は他の兄弟の中で一番低かった。権力を求めて急速に権限を広げた結果、自身の処理能力を超えてしまい、目が届かぬところで不備が多発したのが原因であると、容易に予測することができた。
「急ぎ申請の準備を。内々には私の方から弟と兄に話しておこう」
「……承知しました」
正直ドズル相手に頭を下げるのも、自身の誤ちを認めるのも、非常に不愉快で避けたいことではある。そこはプライベートモードに切り替えて乗り切るかと考えていた時、トワニングは書類の中から入札関係のものを選別していく。
「何をしている?」
「え⁈ 入札を取りやめる手続きを…」
「しなくて良い」
「は⁈」
「防衛隊からの助力が確定してからで良い。拒否される可能性もゼロではないからな。それから、入札してきた会社の情報をサスロ国民運動部長に回せ。背後関係を洗うようにと…」
「っ?! それはまた……一体どう言う理由で?」
現状、保安隊の「諜報」の実務については、メディアを掌握しているサスロ・ザビが肩代わりしている。保安隊に秘密警察としての権限を持たせたいと考えていた事もまた、サスロ排除を目論んだ理由だった。故にこの指示は、諜報の実務を奪取しないと言う宣言に等しいため、トワニングが怪訝な表情を浮かべるのも無理はない。しかし…
「副隊長、私は貴様の上官だ。疑問を抱く前に速やかに遂行せよ」
自分とギレン、どちら側に付くか不透明なこの男に、方針転換した理由を話すつもりは無かった。
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「国葬での警護、大義であった」
本来の上司であるギレンに労われ、トワニングは短い返事と共に敬礼し、静かに報告を行う。
国葬は表向きは問題なく執り行われ、無事に要人の警護を終えることができた。一方で、画策されていたテロを水面下で未然に防いでおり、それに関連した報告をトワニングは始めた。
キシリアの命により、要人を乗せる大型車両とその運転手は、防衛隊から借り受けることができた。加えて、警護や車両および施設点検に携わる人員について、サスロからの協力を取り付け再度洗い出しを行ったりもした。結果、テロを画策している疑いのある者が、何名か見つかったのであった。
「やはり身内で身辺調査を行う場合は、甘くなると言う訳だな」
「同じ組織に身を置いている以上、同僚を執拗に疑う行動は取りにくいかと…人間関係の悪化から、任務に悪影響が出ることは明白ですので…」
「ふむ。テロの背景は?」
「それが……組織だったものではなく、それぞれが個人的な怨恨と言うことしか分かっておりません」
「捨て駒と言う訳か。おそらくそれ以上は探れぬだろうな。未然に防いだだけで良しとしよう。下がっていい」
トワニングが退室するのと入れ替わるように、カーテンの影からサスロが姿を現す。
「サスロ、ご苦労であったな」
「キシリアが言い出した事だったからな。後々に攻撃材料とするため、こちらの粗探しを目論んでいるのかと構えたが……それでいつも以上に気合を入れて調べたら、面白いことが分かった」
「ほう?」
「追加の車両の購入に関わる入札した会社だが、今回は特に徹底的に調べさせて貰った。業務提携、孫請けどころか玄孫請けまであって、辿るのは相当苦労したが……全てアナハイム・エレクトロニクス社の紐付きである事が分かった」
「……最近、軍需産業に手を伸ばそうとしていると記憶していたが」
「連邦御用達の軍事メーカーは実質、ヴィックウェリントンとハービックの2強。宇宙世紀初期の紛争が終息してからは目立った武力衝突がない以上、入り込む余地はない状況だ」
暗に仄めかしていることを拾い上げた上での返答をする弟に、満足したような視線を向けつつギレンは口を開く。
「アナハイムのチェルシー副社長は、ジンバ・ラルと旧知の仲であったな」
「4年前のコロニー宇宙港で起きた事故の調査で、確認が取れている。間違いない」
「サスロ、それらの情報をまとめてキシリアに回せ」
「……ジンバにテロ未遂の容疑を掛けるには、証拠が少ないのでは?」
「証拠が少なかろうと、民衆を煽るのはお前の得意分野であろう? 民意に押されたのであれば、為政者として動くほかあるまい。4年前の宇宙港の事故の被害者、ローゼルシア派を絡めるもよし。確か正妻のローゼルシア・ダイクンは屋敷に戻っていたな?」
そこで言葉を止め、ギレンは近くのソファーに深く腰掛ける。
「ジオン・ズム・ダイクンの遺族には屋敷にお帰りになっていただこう。ラル家に引導を渡すためにもな」
次回以降から週1〜2更新の予定です。
追記:サスロ生存ルート突入のため、タグを増やしました。
第二章「ジオン自治共和国」篇に進みますか?
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