キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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第三章の終幕です。
原作のルウム戦役に当たる戦闘があります。



32. キシリア様は司令官

 

 サイド3「ジオン公国」独立宣言を深読み! 地球連邦軍は正論を「氷の棺に埋葬」した⁈

 

 今明らかになるサイド1の悲劇! 地球連邦の不正と失敗を隠蔽する生贄だった⁈

 

 コロニー落下事件の真実の全て! 連邦軍の怠慢で防げなかった悲劇‼︎

 

 地球連邦議会の若手議員、エドワウ・マス氏が語る! 「これは連邦軍の暴走だ‼︎」

 

 複数の新聞の見出し記事を眺めつつ、兄サスロは私キシリアに話しかけてきた。

「地球連邦政府の文民統制は、ほぼ崩壊したな。軍の政治暴走を恐れた連邦議会は、連邦軍の責任追及を行うらしい」

「そうでしょうね。今回の件は連邦の政治的正統性を著しく損なう事態ですから」

 地球連邦軍は要請に応じて出頭した者を、裁判も議会の承認も無しで内密に永久保管しようとした。その理由が「正論で論破されたから」「連邦の腐敗を明確に指摘したから」と言うのだから、救いようがない。寧ろそうなるように半ば仕向けたわけだが…

 ジオンがテロ国家の烙印を押されるか、連邦の欺瞞と腐敗が明らかになるか…あの時は正にその瀬戸際だった。地球連邦政府が50年以上維持し続けた情報統制システムによる世論操作、それを崩すためには身体を張らなければならなかった。

 

 薄氷の上を踏み進めた先、大義あるジオン独立戦争への道筋を漸く掴めた!

 

 新聞を畳み纏めてラックに片付けつつ、サスロが口を開く。

「連邦議会と連邦軍は割れるだろう。加えて連邦軍内部の分裂も深刻化している。こんな状況で、本当に動くのか? 連邦軍上層部にとって、危険な賭けに思えるが…」

「だからこそ今の内に動くのですよ。我らを武力的に叩く以外、連邦軍上層部が生き残る術はない。世論的に不利だろうと、内部の離反者がこれ以上増える前に動く必要がある」

「……猶予は?」

「コリニーとゴップが時間稼ぎをしている間…1週間前後と見ていいでしょう。まあ、こちらは準備を整えたタイミングで、独立宣言をしたわけですがね。議会の制御から逸脱していると周知された今、戦端を開けば連邦軍の正当性は失われる」

 そう言い私は、窓から外を眺めている兄ギレンに視線を向け、さらに言葉を続ける。

「迎え撃つしかありません。感染症の流行が下火になったとはいえ、コロニー落としの影響でアースノイドの貧民に大きな被害が出てしまいました」

「腐り切った構造が変わらぬ限り、減った奴隷は別の場所から調達するであろうな。連邦政府の支配階級が、スペースノイドに目をつける事は明白だ。徹底抗戦以外に選択肢はない」

 ギレンの言葉に頷き、私は紅茶で喉を潤したのちに再び口を開く。

「この機会にできるだけ戦力を削りましょう。連邦議会の連中が、自身らの権力の下支えをしているのが、連邦軍と言う圧倒的武力であると思い出す前に」

「愚かなアースノイド達だな。権力を持つ意味、持つ理由を忘れ、執着した故の末路か…」

 

 そう言うギレンの視線の先には、キャスバルが率いる軍事パレードに熱狂している民衆の姿があった。

 

 ********

 

 地球連邦軍、情報部。

 

「サイド6とフォンブラウンからの返答は?」

「それが…医療および経済の両立のため、いかなる戦争協力も拒否する。宇宙の秩序のために中立を守る…と」

 部下のバスクからの返答に、ジャミトフは暫し考えてから口を開く。

「中立というなら捨て置く。優先すべきはジオンと実質同盟を結んだサイド2とサイド5だ」

 両サイドは共に表立った連邦への反抗は見せていないが、サイド3への包囲を築くことは不可能となっていた。

 儘ならぬ状況にジャミトフは、部下に指示を出していく。

「…サイド5への同盟切り崩し策は、どうなっている?」

「難航中です。感染症流行初期の段階で、ジオンの支援を全面的に受けています」

「支援?」

「検疫コロニーの提供および監視体制の構築、そして初期ワクチンの供与まで含めてです。ジオンによって流行を封じ込められたことは、周知の事実となっております」

 バスクの副官であるジャマイカンが、苛立った様子で口を挟む。

「サイド2は?」

「サイド2に納品予定だった検疫コロニーを、アナハイムの関連商会が“横取り”して、新薬密造に使用することを黙認したことをお忘れですか? 結果、サイド2の感染症対策は大幅に遅延しました」

「……」

「ワクチンの緊急提供で危機を救ったのがジオンだと、サイド2の有識者が絶賛している状況下ではとても……」

「……クソったれがっ‼︎」

 吠えるジャマイカンを放置し、ジャミトフはバスクを伴って部屋を後にする。

 

 そしてジャミトフとバスクは、地下の会議室へと移動する。そこには既に、レビル、ゴップ、ティアンム…キシリア・ザビの永久保管の決定を下した士官。さらにワイアット中将が加わった、地球連邦軍の上層部が揃っていた。

「サイド4の拠点化を目指す。ここを抑えて、サイド3へ強襲を掛ける」

「……サイド4を陥すのか?」

 ジャミトフの発言に対して、焦燥感を滲ませたゴップが尋ねる。

「サイド4の自治議会から救援要望があった。ジオンの援助を受けた革命派が武装化していると」

「武装化?」

「モビルワーカーを改良した武器…サイド6の革命で使用された物が確認された」

 ジャミトフがそういうと、バスクは大型モニターに改造モビルワーカー…実質はMSザクⅠの映像を流すと、ティアンムは腕を組み目を細める。

「これではサイド4の防衛隊では歯が立たぬ」

「随分と過大評価ではないか? まあ、艦隊を派遣する口実にはちょうどいい」

「確かに名分は立つが…」

 ワイアットの言葉を引き継ぐようにそう言い、レビルはゴップに視線を向ける。

「……わかった。連邦議会はコリニー中将と共に私が抑えよう」

「私とティアンム中将が艦隊を率いて出撃する」

 そう言い席を立とうとするレビルは、バスクの口から漏れ出た言葉を拾う。

「………勝てるのでしょうか?」

「バスク少佐?」

「自分はサイド3の駐屯基地本部で、ジオン軍の急襲を目撃しております」

 キシリアが奪還された後のジオン公国独立宣言の結果、連邦議会から撤退命令を受けて駐屯基地の閉鎖業務を終え、地球に帰還したバスクはさらに言葉を続ける。

「相手が用いたMS自体も確かに脅威ですが、その運用方法の方が脅威的でした。明らかに洗練された戦術に裏付けされていて…」

 そう言うバスクであるが、証拠を見せることはできない。何故なら駐屯基地の襲撃時に、ジオン軍の工作員に記録サーバーを破壊されてしまったからだ。

「そんなわけあるまい。スペースノイドが明確な軍事ドクトリンを持つなど…」

 ワイアットは嘲笑と共に即座に否定した。

「軍事関連の資料があるのは地球のみ。地球連邦軍の結成時に、粗方の情報は集約している」

「その情報についても、我々ですら閲覧が制限されているのは知っているであろう?」

「市井に残っていたとしても、公用語以外の散逸した旧世紀時代の文献くらいだ。死語となった文字で書かれた専門用語を、スペースノイドがどうやって解読できるというのだ?」

 レビルやティアンムどころか、自身の上司であるジャミトフにまで否定され、バスクは押し黙るしかなかった。

 

 宇宙世紀0079年1月13日。

 

 レビル中将のマゼラン級・改「アナンケ」を中心とした前衛艦隊、ティアンム中将のマゼラン級・改「ネレイド」を中心とした後方艦隊は、デブリが大量に浮遊するサイド1付近を航行していた。

 

「先行部隊の状況は」

 

 尋ねるレビルに対して、副官が口を開く。

「はっ! アナハイム社のリーク通り、サイド4の革命軍はモビルワーカーを改良した武器の所持を確認。モビルワーカーが配置されていた計8基を破壊いたしました」

「サイド6の革命で使用された物が流れたか……いや、死の商人どもが流したか」

「え?」

「なんでも無い。被害は?」

「こちらの被害は軽微。ただ…発生したデブリの余波で近辺の3基も破壊されて、そこで……」

「どうした?」

「はっ! ジャミトフ大佐の命令とで……破損コロニーに爆弾を…その……ジオンが生存者捜索をした時に起爆すると…」

 先行部隊にジャミトフの部下を借り受けたのは間違いだったかと思い直すも、レビルは表情を取り繕いつつ続きを促す。

「で……どうなった? 」

「爆発により2基のコロニーは完全に崩壊しましたが……有人ではなく無人小型探索機を用いたらしく、ジオン側が人的損害を受けた可能性は低いかと」

「……そうか」

「ジャミトフ大佐は、ジオンがコロニーを破壊したのだと宣伝しております」

「水掛け論だな」

「ジオン側も無人小型探索機で得た映像を解析して非難しております。生存者の救助を妨げる非人道的な行為を連邦は取ったと……」

 戦端は開かれた。もう後には引けない。

「拠点の設営状況は?」

「それが……ジオンがピンポイント攻撃を繰り返し、ほとんど進んでおりません」

「正確に位置を確定するとは……」

 レビルの脳裏に地下会議でバスクが口にした警告が過るが、この時点で戦術を変える方が混乱を招く危険性が高かった。

「致し方ない。こちらの物資の余力がある今のうちに、物量をもってジオン軍をすりつぶす」

 

 宇宙世紀0079年1月15日。

 

 サイド4。

 先行部隊が破壊したコロニー跡地。

 デブリが浮遊する中を、旗艦であるネレイドを中心とした後方艦隊は慎重に進む。不測の事態を考慮して、乗務員全員がノーマルスーツを着用していた。

 

 後方艦隊の司令であるティアンム中将は、徐に口を開く。

「敵影は?」

「まだありません」

「そろそろ捕捉してもおかしくないのだが…前衛艦隊の方は?」

「まだ交戦しておりません。再度確認を……」

 突然言葉を切った通信士官に、ティアンムは尋ねる。

「どうした⁈」

「通信途絶! 前方艦隊旗艦アナンケと連絡が取れません‼︎」

「レーダーに異常‼︎」

 急ぎティアンムは指示を飛ばす。

「他艦へ緊急連絡!」

「他艦との連絡が途絶!」

 直後、爆音と共に艦体が大きく揺れる。

「右舷推進部、被弾‼︎」

「一体どこから⁉︎ 敵機影は⁈」

「目視確認に切り替えろっ‼︎」

 ティアンムの指示で、艦橋を覆っているシャッターが開く。直後、シャッターの隙間から閃光が放たれた。

「なっ⁈」

 艦内が大きく揺れ、閃光が収まった先に見えたのは、沈黙した味方艦の残骸であった。

 旗艦ネレイドの周囲を守っていたはずの戦艦は、軒並み大破または中破により動きを停止していた。一部の戦艦は持ち場を離れている上に、同士撃ちが発生している状況であった。

 無事な艦から戦闘機セイバーフィッシュが緊急発進したが、それは悉く撃ち落とされていく。遠距離砲撃と推定される狙撃でセイバーフィッシュは数を減らし、弾幕援護の中で突入して残存機を蹴散らすのは紅の鋼鉄の巨人。

「あれがジオンの新兵器…モビルスーツだと言うのか⁈」

 ティアンムが叫んだ直後、今度は複数の爆音と共に艦内が激しく揺れた。

「左舷推進部、機能停止‼︎」

「右舷推進部、修復不能と連絡が…」

「隔壁突破! 熱源が艦内に侵入‼︎」

 次の瞬間、艦橋扉が外から切り裂かれた。

 隙間から見えるのは、漆黒の装甲に紫の稲妻を背負う、鋼鉄の巨人の上部。

『ティアンム中将だな。降伏を勧告する』

 ガイアの重厚な声が、MSドムのスピーカー越しに聞こえてきた。

 ティアンムの副官が動こうとしたが、艦橋の外部に現れたオルテガ機が、重盾を叩きつけてブリッジ端の緊急脱出ハッチを押し潰した。

『あんたを生け捕りにしろって命令だ。抵抗するな!』

 艦橋に張り付いてきたマッシュ機からの声を聞き、ティアンムは深い溜息を吐く。

「提督……」

 副官を片手で制し、そのままティアンムはゆっくりと手を上げた。

「私はティアンム中将。部下たちの命を保証するなら投降する」

 

「まさか宇宙で電子戦を受けるとはな……」

 

 味方機が撮影した、背部にノズルを付けた青色の機体…高機動型通信特化MSヅダの画像を睨み付けつつ、前方艦隊のレビルは苦々しく表情を見せる。

「この兵器が複数機展開し、艦隊間の情報連携を妨害および撹乱しているとのことです」

「ジオン軍の連携に乱れがないところを見ると、通信の中継もしているのか…優先的に落とせないのか?」

「味方戦闘機よりも機動性が上で……」

「それならば、弾切れを狙えばいいだろう?」

「敵は補給専用機も運用しております。母艦とのピストン輸送で、前線でも安定して補給をしておりまして…」

 そう言い見せたのは三角形の緑の機体…MA補給型ビグロの画像であった。

「簡易的な補修能力がある上に、中破以上の機体を牽引し後方へ退避させ、追撃できんのだ」

「その補給機を何故狙わん⁈」

「護衛の別兵器が逆にこちらを返り討ちに…」

 参謀らが議論していたその時、慌てた様子で通信士官…後方艦隊の旗艦、ネレイドとの通信を試みていた者が艦橋に飛び込んできた。

「レビル中将‼︎ 報告が……」

「ティアンム中将と連絡が取れたか?」

「………後方艦隊旗艦ネレイドが……拿捕されました…」

「なんだと⁈」

 その時、レビルが乗る旗艦アナンケに爆音と共に衝撃が走る。

「推進部被弾‼︎ 右舷左舷共に機能停止‼︎」

 その時、艦橋外にレビルは高速で飛ぶ機体が視界に入った。

「なんだ……あの速さは⁈」

 急旋回する赤い機体…赤いガンダムはアナンケの艦橋前に降り立った。

 そしてその側には、アナンケの左右エンジンを一撃で撃ち抜いた、蒼いドム・キャノンが控えるように並び、艦橋に向けて重砲の砲口を向けた。

 レビルが覚悟を決めたその時…

 

『旗艦アナンケ轟沈! レビル中将、戦死確認。全艦撤退せよ』

 

 沈黙を続けていたはずの通信機が突如、虚偽報告を発した。

「……なっ⁈」

『逃走経路は既に我がジオンが抑えている。一網打尽だ』

 目の前の赤いガンダムから通信が入り、朗々とした声が流れる。

「………まさか虚偽通信まで扱うとは…」

『私の名はキャスバル・レム・ダイクン』

「……ジオン公国の公主か?」

『レビル中将、投降しろ。ジオン公国公主の名の下に身の保障はしよう。だが抵抗する場合は…』

 赤いガンダムはビームライフルの銃口を、静かに艦橋に向けた。

 

「………完敗だな……」

 

 そう言いレビルは軍帽を静かに脱いだのであった。

 

 後に“ムーア戦役”と呼ばれたジオン公国軍と地球連邦の戦いは、僅か半日で決着がついた。

 

 地球連邦軍はレビル中将並びにティアンム中将、両司令官共に拿捕され、戦闘機は9割以上損失、艦艇もまた7割以上が拿捕または撃沈と言う結果となった。

 一方でジオン公国は艦隊およびMSの損失は一割程度で、キシリアにより導入された“突撃戦術連携ドクトリン”の効果が実証される結果となった。

 

 宇宙世紀0079年1月22日。

 地球連邦政府はジオン公国政府に対し、正式に講和の打診を行った。

 





第三章終幕で、第一部完結となります。
第二部を書くかどうか検討中ですので、アンケートに協力していただけると幸いです。アンケートで選んだ理由とかも、感想欄で書いていただけると助かります。
第二部を書く場合は再開まで少し時間が掛かると思います…

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  • キシリア・ザビ
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