キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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第二部、そして第四章の開幕です。
UC、NTの時間あたりまで書きたいと思います。
アンケート、ありがとうございました。



第四章「ジオン独立戦争」篇 【第二部】
33. キシリア様は外交官


 

 月面都市グラナダ。

 フォン・ブラウンと並ぶ月で二番目の規模を持つこの都市は、地球から見て月の裏側に位置している。サイド3建造の為の物資打ち上げ基地を前身に持ち、現在では大規模な重工業都市として発展していた。

 

 私キシリア・ザビは、キャスバルと共にそのグラナダ市の上層部と面会していた。

「つまり貴方方は、我がジオンが武力によってグラナダを制圧する可能性を懸念されている。そう言う事でしょうか?」

 そう尋ねる私に対して、グラナダ市長の隣に座る市議会議長は、目を細めつつ口を開いた。

「月は連邦の物でも、ジオンの物でも無い。その中立性を誇りに、市民を戦禍から遠ざけてきました。疑念が晴れぬ限り交渉はできません」

「今まで通用した。だからこれからも通用する。今の状況を見てそうお考えか?」

 先日のムーア戦役で、我がジオン公国は地球連邦軍に対して大勝した。戦役に参加していた大半を拿捕または撃沈させられ、連邦軍の保有する戦艦は、大幅に減少していた。宇宙における連邦軍の影響力は、急速に落ちているのが現状であった。

「事態が切迫した時ほど、誤った選択をするのではありませんか?」

「……連邦かジオンか、今のうちにどちらか選べ…と?」

 状況は見えているらしく、汗を拭きつつ市長が尋ねる。

「あくまでも助言です。極限まで両陣営に尻尾を振った者は、どちらの陣営からも冷遇されることは歴史が証明しております」

「…………」

「よろしいでしょうか? 私の方からこちらをお見せしたい」

 そう言いキャスバルが卓の上に広げたのは、ジオン公国からグラナダに向けた保証書であった。

 

 一、グラナダ市の自治制度は維持される

 二、ジオン軍は非武装区域の境界を明示し、侵犯しない

 三、ジオンがグラナダを兵站拠点とする代わりに、物資・医療支援を保証

 

「……失礼ながら、公主である貴方の独断か?」

 疑いの目を向けられるも、キャスバルは堂々と見返す。

「総帥ギレン・ザビ、摂政デギン・ザビ、ジオン公国議会での承認を受けております」

「ふむ………」

「ご心配なく。我々は約定を違えませんし、隠蔽も改竄もいたしませんから。連邦につきましては、この身を持って経験しております故、あまりお勧めは致しません」

 そう言いつつ私はにっこりと笑うと、議長は引き攣った笑みを返す。私が連邦軍に出頭し正論を持って論破した結果、危うく永久保管されかかったことは今や周知の事実となっていた。

「……なるほど…こちらに有利な条件を提示して、こちらが飛びついたら手のひら返し。私自身も何度も苦い経験をしておりますなあ」

 市長は立ち上がり、キシリアに右手を差し出した。

 

「グラナダは、ジオンと共に歩みましょう」

 

 グラナダとの交渉を終え、私キシリアとキャスバルは、グワジンのラウンジで休息をとっていた。

「すんなり進んだな」

 飲み物を手渡しつつ、キャスバルが話しかける。

「はい。中立ならともかく、連邦にグラナダを抑えられたら、サイド3まで容易に侵攻されますからね」

 何せサイド3建築時拠点だったのだ。物資も人も戦艦も、容易にジオン公国に行き来可能な立地であった。

「それにしても、最悪は軍事侵攻も覚悟していたが…」

 キャスバルの言葉通り、私の前世のサブカルチャー由来の記憶では、キシリア自身がグラナダを軍事制圧していた。しかし…

「今連邦は講和交渉で手一杯ですからね。気づいた時にはもう手遅れ。講和交渉に加えようとしたところで、『自治区の意思だ』とマは突っぱねるでしょう」

「しかも“軍事拠点”ではなく、“医療・兵站支援の拠点”だ。連邦は感染症対策で失敗して信頼が失墜している中で、無理な批判はできんだろうな」

 

 ********

 

 地球、ダカール。

 地球連邦軍本部。地下会議室。

 

 バスクを伴いジャミトフは、会議室に入る。そしてその扉が閉まるや否や、静かに口をひらいた。

「グラナダが“中立支援都市”としてジオンと協定を結んだ」

 その言葉を聞き、ワイアットは半ば椅子を蹴り倒しつつ立ち上がる。

「これは武力制圧ではないのか!?」

「……表向きには、完全な合法的手続きで行われている」

 そう言いつつジャミトフは、入手した契約文書の写しを卓の上に広げた。

「なるほど……法的には確定事項ですな」

 連邦軍大敗の影響で繰り上がり昇進したワッケインは、そう言いつつ静かに腕を組む。

「グラナダを失った今、宇宙における我々の戦略中継点はルナツーを残すのみ」

 ムーア戦役でジオン軍の捕虜になっていたが、講和交渉にあたり帰還したティアンムが厳しい表情でそう告げる。

「ならば急がねばなるまい。地下型本土決戦基地ジャブローの建設を」

「しかし、連邦議会には……」

 連邦軍がキシリアを独断で永久保管措置しようしたことが明るみとなり、信用を著しく落としている現状をゴップは危惧していた。

「議会には“宇宙の混乱から地球を守るため”と言えば良い。コロニーが降ってくる時代だ。奴らにも逃げ場が必要だと説けば、問題なかろう」

 そう言いつつジャミトフは計画書を机に広げる。

「南米ブラジリアにジャブロー計画推進本部を置く。そして…」

「ジャミトフ大佐、緊急事態です」

 話の途中で割って入ってきたバスクに少し眉を顰めるが、珍しく焦燥を滲ませていることから、先を話すように促す。

 

「豪州と北米で……植物が急激に異常繁殖しているそうです」

 

「植物……そんなもん放っておけば…」

 ワイアットが呆れたようにそう言う中、ゴップは青褪める。

「まさか……アスタロスか⁈ 馬鹿な……こんな今更……」

「アスタロス…まさか、落下したコロニーに残存した?」

 頭を抱えているゴップに対して、ワッケインは尋ねる。

「そうであろう……」

 そこでゴップはバスクから受け取っていた、キシリアが託した手記の内容を思い出していた。一年間はコロニー落下地点の監視を定期的に行うように記載されていたのだが、初期調査で熱と衝撃で爆散して問題ないと判断して、対策を行っていなかったのだ。

「まずい……情報通りであるならば、豪州と北米の穀倉地帯が全て消える!」

 具体的な被害予想がゴップの口から出て、その場に居る者は全て声を失う。地球で食糧の自給ができなければ、コロニーからの輸入に頼るしかない。それは、命綱をコロニー側に託すことと同義であった。 

「急ぎ対策を!」

「どうやって? こちらは詳細な情報など分からないのだぞ」

 ワイアットの怒鳴り声に、力無く反論するゴップ。

「普通に焼き払えばよかろう」

「コロニー落下の衝撃でもダメだったんだぞ! 核で焼き払えとでもいうのか⁈ 穀倉地帯が全滅するぞ!」

 尚も無茶な事をいうワイアットに、ティアンムが冷静に反論する。

「こうなれば、ジオンからの協力を願うしか…」

 現実的な意見をいうもワッケインはワイアットに睨まれる。

「……そうだな。ジオンと早々に手打ちにする口実はできたわけだな」

「ジャミトフ大佐?」

「こちらの負けを実質認める講和条約ではなく、停戦協定に落とし込むには充分な理由だ」

 

「講和条約ではなく、停戦協定および戦時条約の締結……か」

 

 苦々しい表情で、マ・クベは地球連邦政府の南極施設にあてがわれた個室で深いため息を吐いた。

「しかし、こちら側の要求はほぼ全て通りましたが…」

 そう言いつつ淹れた紅茶を机に置きつつ、マの副官であるウラガンがそう言うが、マは残念そうに首を左右に振る。

「停戦である以上は一時的だ。まだ戦争は終わっていない。終わらすことができなかったのだよ」

 そう言いマは、連邦政府とジオン公国政府との間で結ばれた協定及び条約の写しに視線を向ける。

 

一、両国に対して、コロニー落下事案およびサイド1・ガーディアンバンチの崩壊の責任を不問とする。

二、ジオン公国に対して、アスタロス対策に必要な資源確保を理由とした、オデッサ地域での鉱物資源の採掘権を認める。

三、ジオン公国に対して、アスタロスの継続的監視を目的とした駐屯基地施設を、地球の複数地点に設置することを認める。

四、両国に対して、特定地域(民間人居住区域・中立地域・月面都市・医療機関・研究施設など)および対象(木星船団公社所属艦・民間人など)への攻撃禁止。

五、両国に対して、原水爆および生物化学兵器、生物環境兵器、コロニーおよび大質量天体落下戦術と言った、大量破壊兵器の使用を禁ずる。

六、両国に対して、捕虜は人道的に扱うこと。また、裁判及び議会の承認なしに永久保管措置を行うことを禁ずる。

 

「北米にキャリフォルニアベース、豪州のトリントン基地は連邦から譲渡でしたね。欧州のオデッサ基地は新設ですか?」

「そうなるな。キャリフォルニアにはガルマ様が派遣される。穀倉地帯どころかアマゾンまで飛び火をすれば、酸素供給源が大幅に減るからな」

 食料自給率はともかく、水と酸素はまだ地球に依存している現状では、スペースノイドにとってもアスタロス対策は死活問題と言えた。確かにO2/H2Oプラントコロニーの開発は順調だが、全サイドのスペースノイド全員に恩恵が行き渡るまでは、まだ時間が必要であった。

「トリントン基地にはユライア・ヒープ中佐と、宇宙攻撃軍のウォルター・カーティス准将が派遣される。当初はキシリア様が行くと仰っていたが…グラナダに留まるよう全力で説得した」

「当然の判断かと」

「もう少しご自身の価値と重要性を認識して欲しいものだ……ウラガン。我らも当分地球からは離れられんぞ」

「……やはりオデッサは大佐が?」

「ジオン公国には鉱物資源が必要だ。向こう10年戦う事を見越せば…な」

 

 地球、北米。

 オーガスタ研究所。

「ゲッダ所長。連絡が来ているのですが、取り次ぎますか?」

「なんだ? ルオ商会からか? 例の子供らはまだ解析中だと…」

「いえ、ムラサメ研究所からの共同研究の件で、研究者を一人推薦したいと。その研究者はその…ジオンから連邦へ亡命したいと」

「……なんだ、その厄案件は。で、研究者の名は?」

 

「クルスト・モーゼスだそうです」

 





次話は少し迷ってまして…
水曜日更新になるかもしれません。

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