キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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色々考えましたが慎重に書き進めたいため、第二部から月曜日更新を固定。筆が進めば水曜日や土曜日に追加更新という形になります。
更新速度が遅くなりますが、今後ともお付き合い願えると幸いです。


34. キシリア様は調停者

 

『どう思う、姉貴?』

 

 私キシリアに対して、通信機越しでそう訊いてきたのは弟のドズル。アステロイドベルトからサイド1に運んできた小惑星で造られた宇宙要塞「ソロモン」に居る弟は、月のグラナダに居る私のところへ連絡してきたのである。

「……艦隊を出した方がいいわね」

 そう言い私は、ドズルから送られた資料を副官のエギーユ・デラーズ中佐に手渡した。

『狙いはレビルか』

「間違いなく。南極協定締結前にレビルを奪還して、軍事的勝利を一つでも叩き返したいのでしょうね。連邦軍は」

 おそらく画策しているのはジャミトフであろう。相変わらずタダで起きない男。今回の大敗を利用して、己が目的を果たそうとしている。

 私の永久保管の時に薄々感じてはいたが、おそらくジャミトフは文民統制を形骸化したいのであろう。

 連邦議会に送り込んだエドワウ・マスからの情報から、予想以上に議会は腐り切っているのは明白だった。議員と大手企業との癒着が酷く、企業が軍事産業への進出や拡大を目指し、ジオンとの緊張を維持するために、南極協定の締結を妨害する動きがあったりもした。主力艦隊が大幅に減った現状で、継戦などできるはずはないにも関わらずだ。戦艦を揃えたところで、それを動かす兵士がいなければ戦えない。人的損失も簡単に補えると思っている議員ら文官に対して、連邦軍の武官たちは憤っていた。

 ジャミトフは議会の手足ではなく、軍独自で動きたいのであろう。前世のサブカルチャー由来の情報では、ジャミトフは連邦軍の主流から部下共々離れて、「ティターンズ」と言う組織を作っているのだから…

『それにしても…奪還作戦なんぞやれば、連邦議会の方も面目丸潰れだぞ』

 ガルマならともかく、ドズルからそのような発言が出て、私は思わず驚きの表情を見せてしまった。

『………何だよ、その顔は』

「いえ……少しは俯瞰的に見れるようになったのですね」

 そう間接的に褒めると、ドズルの様子は少し和らぐ。しかし私の次の言葉でその表情は急速に厳しいものとなった。

「連邦軍…と言うよりジャミトフの狙いは、文民による監督機能を実質無効化すること。軍の判断であっても結果を出せる事を見せつけたいのでしょう」

『……連邦政府が分裂するって事か?』

「その兆候の一つ。連邦軍が分裂しようとしている。分裂した連邦軍の一部がゲリラ化して勝手に動くようになれば、数で劣っている我がジオン軍は対処しきれなくなる」

 分裂した連邦軍が秩序を遵守するとは思えない。分裂から分裂を繰り返し、軍装備を持ったテロリストが量産されるなど、悪夢以外の何者でもなかった。

『奪還作戦を阻止すればいいんだな?』

 私の厳しい表情で察したらしく、ドズルは即座に提案してきた。

「トリントンのカーティス大佐を戻しましょうか?」

『いや、もう少しでアスタロスが駆逐できるかどうかの大事な局面と聞いてる。こっちにはまだ兵はいる。任せてくれ。言っとくがグラナダからホイホイ出るんじゃねえぞ!』

 そう言うや否や、ドズルは通信を切った。

「……全く、マと言い、キャスバルと言い、ガルマどころかドズルからも、外出禁止を言われるとは…」

「グラナダ市内でしたら、護衛をお連れすればどこでもお出かけいただいても結構です」

 私の呟きに対して、デラーズは資料を返しつつそう答える。

「お前も私の外出禁止には賛成か?」

「貴方様の拉致未遂、暗殺未遂の過去1ヶ月の発生数をお忘れですか?」

「そう言われると返す言葉はないな」

「リアナ殿に感謝していただきたい」

 ルナ・ライン関係の仕事がひと段落ついたこともあり、影武者としてリアナをグラナダに呼んでいた。リアナが私の影武者を演じることで互いに入れ替わったり、キシリア・ザビ少将が2名いる状態になったりと、情報を撹乱させて私自身の身の安全を守っている状態であった。

「特に今はキャスバル陛下が不在です。お気をつけください」

「分かっている」

 キャスバルがニュータイプのType-Eであることは、少しずつ周囲に明かしつつあった。ムーア戦役での活躍の異常性に加えて、悪意を察知する能力で何度か私の暗殺未遂を防いだ事もあり、理由を説明する必要性が出てきたためである。

「そろそろ、オデッサのマ大佐との定期通信の時間です」

「そうだな。デラーズ、繋いでくれ」

 マと情報共有するため、ドズルからの情報を頭の中でまとめつつ、私は正面スクリーンを凝視した。

 

  ********

 

「ジオン軍に拘留されている、地球連邦軍司令官レビル中将の救出および奪還作戦……」

 そう言いティアンムは、作戦の報告書を机に投げ落とす。

「レビル中将の所在艦を発見するも、ジオン側迎撃部隊との交戦発生。被害甚大故に撤退」

「この失敗、どう責任を取るつもりだ? ジャミトフ大佐」

 ワイアットは責めるような視線をジャミトフに向ける。

「レビル中将の救出作戦は我らも承認した上で実行した。ジャミトフ大佐を責めるのは筋違いでは?」

 ジャミトフの上司であるジーン・コリニー中将にそう嗜められ、不服そうにワイアットは視線を逸らす。

「それよりどうしますか? ジオン側はレビル中将の返還を前倒しにすると通知してきました」

 ワッケインの言葉を聞き、一同は押し黙る。

「しかも公式から非公式での返還…相手が警戒している以上は、奪還作戦を再度行うことは…」

「必要ありません」

 ワイアットの言葉の途中で、ジャミトフは机の上に数枚の紙を置く。

「……これは?」

「ジオンの新兵器。モビルスーツ(MS)の設計図です」

「な……手に入れたのか⁈」

 ティアンムは驚き食い入るように設計図を覗き込んだ。

「サイド6にあるジオンの紐付きの研究所から、情報を持った研究員を亡命させる。それが今回の件の真の目的」

 ジャミトフは静かにそう言い、涼しげな目を細める。それに促されるようにワイアットは設計図に目を向ける。

「形状がムーア戦役で見た物と違うようだが?」

「はい。これはルナ・ライン先端研究所で独自に研究された物。量産機『ジム』の試験機」

 ティアンムの問いへのジャミトフの答えに、ワイアットが噛み付く。

「量産機? 試験機? そんな物で勝てるのか?」

「物量で押せばいい」

「人員はどうするんですか? そんな急にパイロットの育成は……」

「パイロットは1人で充分。それも手配済みです」

 ワッケインへの回答を聞き、その場の全員がジャミトフを見る。

「1人?」

「学習させるのですよ。AIに」

「………ジャミトフ、お前まさか…」

 いち早く意図に気づいたコリニーが、そこで言葉を止める。

 

「亡命してきたクルスト・モーゼス博士の提案です。無人MSの大量生産で物量的にジオン軍を押しつぶす。それしか我らが勝利する道はない」

 そう言いジャミトフは、冊子を机に置いた。

 

「EXAMシステム搭載型無人MS…“ブルーディスティニー計画”。私はこれを提案する」

 

 南米ブラジリア。

 ジャブロー計画推進本部。

 

 ジャブロー建設の総責任者であるゴップは、バスクが連れてきた一人の研究者…クルスト・モーゼスと面会していた。

 モーゼスはEXAMシステムの暴走事件を起こしてから、ルナ・ライン先端研究所で飼い殺し状態であった。研究費は凍結され、助手と言う名の監視をつけられ、閲覧できるデータに制限がかけられ、来る日も来る日の他の研究者のデータ整理とデータ解析に明け暮れていた。かと言って目立った成果がない以上は、別の機関への移籍も難しい状態になっていた。

 そんな彼が、廉価版の量産機とは言え、連邦軍が喉から手が出るほど欲しがっていたジオンの新兵器MSの情報を手土産に、地球連邦軍へと亡命してきたのであった。

 ゴップ自身は詳細な研究など分からないことから、ムラサメ研究所からムラサメ博士、オーガスタ研究所からローレン博士を呼んで同席させたのだが……

「ふむ……“材料”が必要であると?」

「機械ベースのAIでは、EXAMシステムは上手くいかなかったのだ。やはり生体由来でなければならん」

「サンプルはオーガスタの方にありましたな。しかしニュータイプの精神体となると…」

「本体に入れる“精神体”の方はこちらで準備します。最上級の戦闘能力が必要ですので、慎重に選ばなければなりません」

「つまり子機の方で使う“部品”の方ですな」

「はい。今まで所属していた場所は、人体サンプルの使用について制約が多くて…こちらでは可能ですよね?」

「公的書類上では“存在しない”者に対しては、法律は対象外ですからな」

「“失敗作”のサンプルは凍結保存しておりますゆえ、直ぐに用意できますよ」

「しかし“失敗作”のサンプルで使用に耐えられますか? ニュータイプ能力の顕現が不安定で、再起不能となって“処分”した個体ばかりですので…」

「問題ありません。少しでもニュータイプの素養があれば、子機の“部品”として充分です」

「やれやれ、今残っている“検体”を潰す必要があるのかと、ヒヤヒヤしましたよ」

 誰がどの発言をしているかなど、どうでもいい。“材料”、“精神体”、“失敗作”、“処分”、“部品”が何を指しているのか、“検体”という言葉から具体的に理解しようとするだけでゴップは吐きそうになった。

 

 我々は手を出してはいけない領域に、触れようとしているのではないのか⁈

 

 ゴップは自身の良心から湧き出てきた声を聞かぬように無視し続ける。手は震えていたにも関わらず、ペンを手にした途端ほぼ無意識に自身の名を走らせていた。

 こうしてゴップは、「ブルーディスティニー計画」の予算承認のサインを記したのであった。

 

「EXAMシステム搭載型無人MS…“ブルーディスティニー計画”……か」

 

 ジオンから非公式での引き渡しが終わり、レビルは連邦軍に復帰した。その矢先にジャミトフから手渡された冊子を見て、レビルは鋭い目を向けた。

「はい」

「これで巻き返せると、本気で思っているのか? 分かっているだろう? ジオン軍の方が兵器も扱う兵士の練度も上だと」

「物量はこちらの方が上。圧倒的な物量ですり潰します」

「ムーアでそれをやろうとして失敗したのだが?」

「同じ武器であれば、物量で押し返せる」

 口調が乱れ引かない様子の旧友ジャミトフに対して、レビルは深いため息を吐いて視線を外す。

「……議員の根回しは終わっているのであろう?」

「アナハイムがバックについている議員連中は、軒並み賛同している」

「軍が崩壊すれば議員の資格など意味を為さなくなることを、奴らは分かっているのか? そうなれば手のひら返す輩を、肥え太らせるために兵の命を無駄になどできん!」

「分かっている。だからこそここで我らは潰れる訳にはいかぬ。あの輩からの呪縛を逃れるために」

 珍しく熱が籠った返答を聞き、レビルは計画書に目を通していく。

「………無人兵器か………」

「兵の命を無駄にできん」

「……で、私はどのように道化を演じれば良いのだ?」

 覚悟したレビルの声を聞き、ジャミトフはただただ静かに頭を下げた。

 

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