キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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木曜日ですが、書き上がったので更新します。
次話から山場に入りますので、落ち着くまでまた感想の返信を控えさせていただきます。



37. キシリア様は始動者

 

 アムロ・レイという少年がいる。

 幼少期は地球に居たが、父のテムがルナ・ライン先端技術研究所に勤務することになって、家族3人でサイド6へ引っ越すことになった。

 地球に居た頃は家を空けがちでギスギスしていたテムであったが、新しい職場では精神的な負担は少ない様子で、落ち着いた様子でアムロら家族と接するようになった。地球を離れることを渋っていたアムロの母カマリアも、託児所や家事代行といったテムの職場が提供するサービスで生活に余裕ができたこともあり、今ではコロニーでの生活を気に入っていた。

 アムロの居るサイド6の8バンチ「パルダ」は、大型ショッピングセンターなど娯楽施設が多い。月1に家族で遊びに行くのが、幼少期時代のアムロの楽しみの一つであった。

 しかしそれよりもアムロが夢中になったのは、父テムが作ったシミュレーションシューティングゲーム…テムの上司の偉い人が「戦場の絆」と命名した、MSを動かしてミッションをクリアしていく体験型ゲーム機を、週2通っている託児施設で遊ぶこと。ライバルであるカミーユは、年下であるにも関わらず腕をどんどん上げているから気が抜けない。

 

 そんなアムロの生活は、学校の課外授業先であるサイド7で事故に遭遇してから一変する。

 突然の事故、そして避難。

 気づいたらアムロは、地球連邦軍のホワイトベースに乗って、地球に来ていた。

 艦長のブライト・ノア中尉の話によると、連邦とサイド6との間で色々と手違いがあったそうだ。ブライトも詳細は分からないと言い謝る様を見て、アムロは状況がわかるまでホワイトベースに留まることになった。

 

 ホワイトベースは医療搬送艦で、僻地で期間限定の簡易的な病院となったり、重症者の搬送を主な任務としていた。

 そのため、ブライトら連邦軍の兵士だけではなく、民間人も多数乗っていた。そう教えてくれたのはボランティアの医学生である、セイラ・マスと言う女性であった。そしてセイラの友人であるミライ・ヤシマ、フラウ・ボウをきっかけに、カイ・シデン、ハヤト・コバヤシと会話をするようになっていた。

 

「疲れていないか、アムロ?」

 これまでの事を振り返って、少しぼんやりしていたアムロを心配して、テムが話しかける。

「大丈夫だよ。父さん」

「もう少しでOSのアップデートが終わる。これで問題ないはずだ」

 そう言いテムはジムカスタムのコックピットへと戻っていった。

 

 新しく届いたジムカスタムと共に、テムがホワイトベースに来た時は驚いた一方で、漸くサイド6に帰れるとアムロは思った。

 しかし現実は残酷だった。

 実はアムロがホワイトベースに乗って1週間も経たないうちに、廃棄されたザクIで襲う野盗が攻撃してきた事件があった。MSの操縦技術があったアムロは、ホワイトベースに載せられていたジムでこれを撃退したが……民間人であるアムロが、連邦軍の兵器を用いて戦闘行為を行ったことは大問題であった。

 そこで折衝案として、アムロを連邦軍で開発中のMSテストパイロットとして、サイド6から出向している技術特務少尉とする形で収まった。

 

 そしてそれももう少しで終わる。

 漸くジムカスタムが完成する目処が立ったからだ。

 

「アムロ、済まないがブライト中尉を呼んでくれないか」

 自分の愛機を見上げていたアムロに話しかけるテム。それに短く答えて、アムロは格納庫を後にする。

 アムロが去って暫くした後、一人の連邦士官…トラヴィス・カークランド中尉が近づいてきた。

「レイ博士…そろそろ決断を」

 そう言うトラヴィスは、ニアーライトと繋がりがある、ジオンと連邦のダブルスパイ的な立ち位置の者である。彼こそが、テムのバックアップ要員としてキシリアが寄越した人員であった。

「……ジムカスタムを完成させてしまった。このまま戻っては、彼女に顔向けできない」

「そうやって何度も、脱出する機会を見送ってきたではありませんか…」

 そう言われるがこのまま逃げ出す方が、彼女…キシリアへの背信ではないかとテムは考えていた。

 そもそも、ジムカスタムが完成すればサイド6に帰れる契約を、テムは連邦軍と結んでいた。そしてこれからホワイトベースが向かう場所は、地球連邦軍が本部の機能を移転させた、実質的な本拠点である地下基地「ジャブロー」。キシリアらジオン軍が、血眼になって位置特定を進めている場所であった。

 ジャブローの位置情報を持ち帰れば…

 そう迷ったテムは、今回もまたアムロと連邦から脱出する機会を見送ったのであった。

 

  ********

 

 月面都市グラナダ、ジオン駐留基地本部。

 赤と茶を基調とした私キシリアの執務室に、静かにノックが響き渡る。許可を与えると、一人の青年が静かに入室してきた。

「ご無沙汰しております、キシリア少将閣下」

「変わりありませんか、シロッコ博士」

 ルナ・ライン先端研究所から呼びつけたパプテマス・シロッコ、彼を応接机に備え付けられているソファーに座るように促した。

「私に仕事を任せたいと言うお話ですが?」

 ソファーに腰を下ろすや否や、シロッコが徐に口を開いた。

「君を見込んで、とあるMSの設計と開発を任せたい」

「ほう……MSですか?」

「元研究員であるモーゼスが起こした事件は知っていますね?」

「それは当事者の一人ですからね。貴女と同じように」

 モーゼスがフラナガン医療センターで引き起こしたEXAMシステムの暴走事故、その鎮圧に私やシロッコが関与したと言う記録は、抹消されている。それにも関わらずわざわざ口にするシロッコは、やはり一筋縄ではいかない男の様子である。

「………この部屋の防音処理が完璧だと言うことは察しているようですね。ならば、本題に入る。あの時、システムを制圧した“情報爆撃“を再現できるようにしたい」

 私の言葉を聞き、シロッコは一瞬目を開く。

「……あれは…再現できるような代物ですか?」

「やろうと思えばおそらくできる。問題は私の身体が保たないことだ」

「Type-Z……あの事故以降に新設されたニュータイプのカテゴリー。貴女がそうだったのですね?」

 シロッコの問いに私は答えず、静かに笑みを浮かべるだけに留める。

「Type-Zはサイコ・ウェーブの放出能力と感知能力は共に存在しない。故に情報爆撃を行うには、他のタイプのニュータイプの介在が必要です」

「その通りだ。しかし備えねばならない。モーゼスが連邦でEXAMシステムを作ったと見て、間違いないからな」

 対EXAMシステムであると理解して、シロッコは露骨に声を低くする。

「言っておきますが、私は二度とやりませんよ」

「分かっている。EXAMシステムへの耐性が最も高いのはType-E。その最高峰である君ですら呑まれかけた事を考えると、”人“を介在する方法は取れない」

 私の言葉を聞き、シロッコは静かに目を細める。

「……人ではなく、機械……つまりAIを介在させるつもりですか? AIがサイコ・ウェーブを扱うなど…」

「潜在能力があれば充分だ。あとは此方でデータを組み立てれば問題ない。実際に例の事件で起きた事象はそう言う事であろう?」

 そこでシロッコも気づいたようだ。

 あの情報爆撃を行った時、私はシロッコの“介在なし”でEXAMシステムと接続できた。あのシステム自体が持つ自律的にサイコ・ウェーブを発する能力を私が操り、情報をサイコ・ウェーブに転換する媒体として利用する事に成功したからである。

「あの事件の再現…つまり機械ベースのEXAMシステムを模した補助AIを介して、情報爆撃を行える程の情報圧をサイコ・ウェーブに乗せて対象に叩きつける…そのような機能を搭載したMSを創れと?」

「そうだ」

 私の返答を聞き、シロッコは大きなため息を吐く。

「何故フラナガン博士ではなくて私に相談を?」

「フラナガン博士には、情報爆撃を二度とするなと釘を刺されている」

「……私がやって問題になりませんか?」

「問題にならぬように、私への負担を減らすためのMSだ。加えて君にはMSの操作も頼みたい。私は情報圧の制御で手一杯だからな」

「ついでに貴女が無茶しないように、監視させてもらいましょう。今の職場を追われるのは避けたいですからね。それで、地球で運用する予定ですか?」

 その言葉を、私は一つ頷いて肯定する。

「最終的にはギニアス少将が居るラサで試験を重ねる予定だ。ただし、私はグラナダを離れられない。“Type-Z用の遠隔操作式MS”として開発を頼む」

「相当難易度が跳ね上がりましたが……まあ、いいでしょう」

 口ではそう言っているが、前代未聞と言えるMSの制作に向けて、シロッコはどこか嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

 そのような事があったのは5ヶ月ほど前の話。Type-Z用の遠隔操作式MS“メーティス“の実用試作機まで漕ぎ着けて、ラサのギニアスのところで地上での運用試験をしつつ、通常の業務をこなし、私は多忙な日々を送っていた。

 

 そして宇宙世紀0079年、11月。

 

「地球連邦軍は休戦協定を破棄した。一方的にな」

 そう言い私は本国からの通知書を参謀のデラーズを介して、グラナダ艦隊司令のノルド・ランゲル少将、グラナダ基地司令のルーゲンス・バリチェロ少将に見せる。

「いよいよと言ったところですか…」

「ラル准将のMS中隊を、先月にオデッサに送って良かったですね」

 ノルドの言葉に頷き、私はルーゲンスに視線を向ける

「キリング中佐はどうだ?」

「戦闘の可能性の低い航行ならまだしも、まだ艦隊を動かすには未熟ですね…」

「育つには時間が足りなかったか…致し方ない。万が一の時はデラーズ、ヘルシング大佐と共にお前が艦隊を受け持ちなさい。グラナダ特戦隊の方は?」

「マレット・サンギーヌ大尉、ジョニー・ライデン大尉、共に各中隊の練度は充分とのことです」

 ノルドの言葉に私は一つ頷く。グラナダの方の守りは、取り敢えずこれでなんとかなる。そもそも、ムーア戦役で連邦軍は多くの戦艦を失っている。船はともかく人員の補給と練度は、短時間でどうにかなるわけではない。

 故に連邦軍は、地球での地上戦にまずは注力するであろう。我々ジオン軍が重力戦線での戦いに不慣れであると思い込んだ上で…

 

 ホログラムで投影されている、地球上のジオン軍の拠点の位置が赤く光る世界地図へと、私は視線を向ける。

「地球連邦軍の海上戦力は、例のコロニー落下事件での大津波による被害から、まだ立ち直っていないのだな?」

「それは間違いありません。ただ潜水艦勢力が残存しているとのことで…」

 そう、それが厄介。海運による物資輸送が潜水艦によって叩かれる。

「物資は基本的にグラナダを介して、宇宙から拠点に下ろす形を基本とした方が良いな」

 前世由来の情報では、ジオン軍は講和が失敗したこともあり、宇宙からMSを下ろす降下作戦を強行して、武力的に地上拠点を確保した。しかしその後については、兵士…特に指揮できる将校が不足していた上に、戦線を広げ過ぎた影響で兵站を維持することができずに瓦解してしまったのだ。

 

 この世界では南極条約で、ある意味合法的にジオン軍は地上拠点を得た。

 そして私キシリア・ザビが総司令を務める突撃機動軍が、地球全域での戦略を統合し、全ジオン軍拠点の防衛体制などを中央集権的に管理していた。

 アスタロス対策を名目に設定した、北米拠点キャルフォリニア基地、豪州拠点トリントン基地。アスタロス対策用の資材獲得を名目にした、鉱山基地オデッサ、アフリカ拠点キンバライド基地。それに加えて、高地研究基地ラサ、欧州拠点イスタンブール基地…

 これらの5箇所に抑えたことで充分な兵を配置することができ、安定した補給線を維持することに成功していた。

「連邦軍はどこに仕掛けてくると思う?」

 私がそう尋ねると、デラーズ、ノルド、ルーゲンスは全員同じ箇所を示した。

 

 鉱山基地オデッサ。

 地球最大のレアメタル供給拠点かつ、ジオン公国における戦争継続能力の根幹。

 私が最も信頼している副官、マ・クベ大佐が基地司令を務める、直轄資源特区であった。

 





次話、オデッサ作戦開幕です。
早ければ土曜日、多分月曜日に更新できるかと思います。

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