キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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感想、誤字修正ありがとうございます。
山場がおちつきましたら、返信していきたいと思います。



38. キシリア様は戦略家

 

 オデッサ。

 欧州、中東、アジアを繋ぎ、黒海から地中海から先のアフリカを繋ぐ、旧世紀から要所とされている場所である。

 この宇宙世紀においては、MSや戦艦といった各種兵器の製造と維持に必要不可欠な、レアメタルの地球最大の供給拠点でもあった。そしてジオン軍にとっては各拠点地域のアクセス交点でもあり、オデッサ基地の失陥はジオン軍の重力戦線崩壊と同義であった。

 

 宇宙世紀0079年11月17日。

 地球上からジオン軍を追い出すための布石とするため、そして宇宙への本格的な反攻に必要となる生産および物流基盤を整えるため、地球連邦軍は「オデッサ作戦」を開始した。

 

 月面都市グラナダ、ジオン駐留基地本部。

 私キシリアは、執務室ではなく作戦本部に詰めていた。そしていつも側に控えている参謀のデラーズは、ルナツーの連邦軍を牽制するために艦隊を率いて出撃していた。代わりに側に居るのは…

「キリング中佐、現地の様子は?」

「はっ! 滞りなく兵は配置済みであると、マ大佐から連絡がありました」

 デラーズの部下であるキリングが、緊張した面持ちでそう答えた。

 彼の言葉に頷き、私はモニターが映している地球上の画像の数々に視線を移した。

 各拠点の制宙権はジオン軍が取っていることから、高性能カメラや各種センサーを搭載した索敵型ビグロをオデッサ上空の衛星軌道に展開させている。そしてビグロが収集したデータをムサイ級戦艦が中継し、連邦軍の動きをオデッサと私キシリアが居るグラナダに伝えていた。

 月の裏側と地球では距離があるにも関わらず、この宇宙世紀では何故かリアルタイムで通信ができる。それより離れているサイド3と地球間も通信に遅延がない事も含めて、前世の情報との齟齬に今更ながら違和感を覚えていた時、モニターの一部で動きが見えた。

 

 地球連邦軍がジオン軍のオデッサ基地に向けて進軍を開始したのだ。

 

「それにしても、こちらが予見していたルートを取るとは…」

 こちらが予想していた通り、ワルシャワに本陣を構える連邦軍の動きを見て、キリングが呟くようにそう言う。

「今の時期では、実質北側から進軍するルート以外は存在しません」

「南側が不適なのは分かりますよ。イスタンブール基地のユーリ・ケラーネ少将が抑えてますからね」

 欧州拠点を預かるユーリが、地中海からの航路を封鎖し黒海沿岸にMS展開している理由を、地球の地理情報から考察するキリングに感心しつつ、私は補足説明を加える。

「黒海にもアッガイを潜ませている。ユーリ少将は上手いこと迂回侵攻ルートを潰してくれた」

「東ルートをマ大佐が内通者を通じて、動きを操作しているのもわかりますが…何故、西側から進軍しないのでしょう?」

 キリングの疑問は地図を見る限りで尤もな話。連邦軍が抑えている旧イタリア地区や旧オーストリア地区から進軍して、旧ルーマニア地区を通過して進むルートが存在する。しかし…

「ホバークラフトで浮いてる陸上戦艦や陸戦艇はともかく、戦車やガンタンクは今の時期では動きが取れない。泥濘地や凍結地帯ですからね」

 加えて連邦軍の内通者…マが懐柔したエルラン中将を通じて旧ルーマニア地区は抑えており、旧ハンガリー地区の統治担当を親ジオンに傾けさせていた。アルプス山脈、カルパチア山脈と難所が続いた後に、補給が機能していない場所を通過するなど自殺行為に近い。

「念の為にドム部隊がカルパチア山地で阻止線を構築している。相変わらず抜け目がないようだな、マは」

 つまり連邦軍は、オデッサ正面戦線に全戦力を集中するしかない。

 キリングもそうだが、それ以上にマは地球上における戦い方について、熱心に学んだようだ。ジオン軍が重力戦線に戦い慣れていないなど、言わせやしない。

「始まりましたね」

 キリングに促され、動きが見られたモニターへと私は視線を向けた。

 

 連邦軍は旧ウクライナ地区の東方、中央、西方の3方向から進軍を開始する。

 

 東方のハルキウルートは黒い三連星のマッシュ、オルテガ、ガイアがそれぞれ率いるドム強襲部隊の3中隊が地形優位を活かし、包囲および反撃して各個撃破していく。

「随分簡単に包囲網に飛び込んできますね」

 連邦軍の陸上戦艦ヘビーフォーク級がドム・キャノンの一斉攻撃を受けて炎上する様を見て、キリングが感嘆混じりにそう呟く。

「今回はミノフスキー粒子による電子戦を許可している。いきなり目隠しされ混乱したところに、通信特化ヅダの偽情報で誘い込まれた上での不意打ちだ。反撃する間も無い」

 赤外線センサーと高性能カメラによる光学センサーを搭載したガウと、通信特化ヅダによるレーザー通信網のお陰で、索敵情報も通信もジオン軍は問題なくこなせていた。

「向こうは目隠しでも、こちらは敵は見えるし連携も取れるわけですね」

 第一波を一掃し地対空攻撃の危険性が無くなったタイミングで、索敵だけでなく補給機能も兼ねているガウから消費した弾薬等を受け取るガイアらを横目に、キリングはそう言った。

 それにしてもこのガウは、前世のサブカルチャー由来の情報にある前方扉でMS降下時は減速不可避という、致命的な欠陥がある機体ではなくなっていた。輸送機のC-2に類似した形状と機能を有していたことから、旧自衛隊装備品カタログの翻訳本を、ジオン軍開発本部に流した影響であると推定された。

 同様にジオン軍の航空戦力であるドップもまた、どうして飛行できているか謎な形態ではなく、F-2やF-15に似た洗練された姿となっていた。あれならば、連邦軍の主力戦闘攻撃機セイバーフィッシュにも対抗できそうである。

「そういえばドップ部隊が出撃したと連絡があったが、被害報告は?」

 連邦軍が保有する戦闘機のセイバーフィッシュや爆撃機のフライマンタといった航空戦力は、軽視することはできない。

「いいえ。マ大佐から被害を受けたという報告は来ておりません」

 キリングがそう返答するや否や、オデッサに帰還するドップ部隊の姿をモニター越しで確認することができた。どうやら衛星軌道上の索敵ビグロによる早期発見が功を奏して、遠距離から一方的に相手戦闘機を叩けたようであった。

 

 一方で中央ルート…キーウからドニエプル川を越えるルートでは、渡河の最中の連邦軍兵站部隊に対して、索敵ガウが上空からミノフスキー粒子を散布。連邦軍の索敵能力を奪った直後に、海兵隊のゲール中佐のMS中隊のドム・キャノンが火を吹き、川の橋梁を破壊した。

 立ち往生した戦車や物資を乗せた輸送車両、ガンタンクに対して、ゲール中隊は砲弾を浴びせる。大混乱する連邦軍を通信特化ヅダの偽情報で分散させて、消耗させた上で各個撃破し、連邦軍部隊の補給線を断つことに成功した。

 

 しかし……

 

「キシリア閣下、何か懸念でも?」

 表情や疲労を悟られぬよう、ハイネックの布を伸ばし目元近くまで隠しているにも関わらず、遠慮なくキリングが尋ねる。

「……今まで連邦軍のMSを見たか?」

「いいえ」

「連邦軍はMSの開発に成功したはず。製作に必要な物資を買い込んでいたことも分かっている。なのに何故、作戦に動員していない?」

 適宜休息や仮眠を取りつつ3日が経過し、日付が変わって11/21の夜明け前を迎えていた。にも関わらず、連邦軍はMSを戦場に投入していないのだ。

 

 テムとアムロの状況については、ニアーライトが協力を取り付けた連邦軍の士官…トラヴィスから情報が上がっている。アムロが連邦軍の策に掛かって技術特務少尉になったこと、ジムカスタムが完成次第テムはサイド6に帰れるように連邦軍と契約したことも…

 テムはアムロ連れで危険な脱出を試みるより、契約履行を優先させるという報告を聞き、危険と判断して即座に脱出させるように命じたが遅かった。2ヶ月前に地球連邦軍の実質的な本部である地下基地ジャブローに入港した以降、ホワイトベースの動向に関わる情報が入らなくなったのだ。

「ミライ嬢の父君であるヤシマ会長…乗員の家族ですら連絡が取れない状況だったな」

 亡命したモーゼスが持ち込んだミノフスキークラフト技術の試験運用艦として造られたホワイトベースは、表向きは医療搬送艦とされている。その民間人乗員の一部は、親ジオンに傾いている地球正規在住権を有する名家の身内であった。一般市民から支持を集めるアピールである一方で、連邦政府に反旗を翻さないための人質の意味合いもあるのだろう。

 そこで私は、連邦議員に押し上げたエドワウ・マスの妹セイラ・マス…一時期アルテイシアの影武者をお願いしたこともある彼女を紛れ込ませたのだが、彼女からの連絡も途絶えていた。

 嫌な予感が拭えない私の下へ、キリングが慌てて端末を持って見せに来た。

 

 連邦軍のガンペリー15機がオデッサ基地上空高度10,000mを航行中、パラシュート付きMSを75機分散投下したという、索敵ビグロからの報告であった。

 

  ********

 

 旧ポーランド地区、ワルシャワ。

 地球連邦軍本隊。

 陸戦艇ビックトレー級に搭乗している総司令官のレビル中将は、陸上戦艦ヘビーフォーク級で指揮を取っているエルラン中将と今後の予定について擦り合わせをしたのち、通信機を切ってため息を吐いた。

 

 ジオン軍の抵抗が予想以上に激しい…いや、重力戦線での戦いに不慣れと考え戦いを仕掛けて、手痛い反撃を受けていた。いくらこちらの方が戦力が凌駕しているとは言え、無限に存在するわけではない。特に中央ルートで兵站を潰されたのは痛手であった。これで益々、冬季に入る前に決着を着ける必要が出てきた訳である。

「……ここにきて、条約で責任追及が放棄された影響が出るとはな…」

 コロニー落下事故でアースノイドの中で多数の犠牲者が出た。その怒りと憎しみを打つける相手が無くなったことで、連邦政府への信頼が急速に落ちていた。

 また事態が小康状態になるや否や、連邦軍の中で責任の押し付け合いが発生。挙句に果てには、政治的に都合の良い誰かと軍上層の談合であったという陰謀説が広まり、ムーア戦役で敗戦したレビル自身とティアンムへ責任を求める声が連邦軍内で高まっていた。

 そんな状況下でレビルがジオンから返還されたため、連邦軍は救出目的で団結する機会が失われてしまった。それ以前の救出作戦が成功して、レビルを連邦軍が自力で奪還できていれば、士気を上げて一つに纏めることができたものを…

 

「ここで勝たねば、連邦軍は分裂する」

 

 そしてジャミトフもまた、キシリアの永久保管措置の失敗を始めとした数々の失敗から孤立しつつあり、彼の派閥も含めて過激な動きを見せつつあった。その末に発案された、外道の所業の末に生み出されたもの…

 ブルーディスティニー計画。

 EXAMシステム搭載型無人MSが完成し、冬季に入る前に決戦を挑む事になった。一年後では連邦軍が割れている可能性が高いからだ。

「モーゼス博士から連絡がありました。無人MSの展開に成功したとのことです」

 参謀の言葉に一つ頷き、レビルは号令を掛ける。

 

「リヴィウへの侵攻開始!」

 

 一方でジオン軍オデッサ基地は、大混乱に陥っていた。

 連邦軍のガンペリー15機が各5機…計75機のMSをパラシュートを付けた状態で、高度10,000mからオデッサ基地上空で分散して投下した。

 索敵ビグロからの連絡を受け、マ・クベは直ちに地対空砲で迎撃を指示。ところが……

「赤外線センサー全て沈黙!」

「索敵アッガイの搭載センサーも全てダウンしましたっ!!」

 オペレーターの報告に対して、ウラガンは珍しく狼狽えた様子でマの方を見る。

「赤外線フレアだな…おそらく幾つかはダミーで仕込まれていたのだろう」

 ジオン軍の地対空砲の攻撃でダミーが破壊された時、オデッサ基地の上空に一時的に熱源が発生し、赤外線センサーが異常をきたしたのだ。おまけに煙幕の中に電波障害をもたらすチャフも混在しており、基地に降り立った連邦軍のMSの対処に向かわせたMS隊との連絡も途絶えていた。

「ミノフスキー粒子を展開させろ!」

「大佐、それでは今維持されている通信が…」

「フレアとチャフを相殺するのが先決だ。同時に通信特化ヅダを出撃させろ。レーザー通信網の再構築を急げ」

「っ! 了解しました。通信が繋がり次第、索敵アッガイを下がらせます」

 マの意図が分かってからはウラガンの行動は早かった。

「基地の赤外線センサーの復旧を急がせろ。試験運用中の索敵ドダイがあったな、光学カメラと熱源センサーを中心に、索敵支援に当たらせろ!」

「クリンク中尉を出撃させます。しかし大佐、これは一体……」

「気を抜くな、本番はこれからだ」

 マが低い声で警告したその時、基地の赤外線カメラの一部が復旧して、メインモニターに敵MSの落下地点が映し出される。ミノフスキー粒子と煙幕の奥、夜明け前の闇の中で蠢く影……

 その姿を見てマは息を呑む。

 ニアーライトから警告と共に齎された情報の中にあった、連邦軍のMS“ジムカスタム”。即ち……

 

「EXAM搭載無人MS!」

 





四半期二次小説ランキングの20位内に入りました。
厚く御礼申し上げます。
次回の更新予定は水か木あたり。早ければ月曜日にアップします。

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