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ジオン・ズム・ダイクンの国葬。
そこで未然に防がれたテロへの関与疑いで、ザビ家の政敵であるラル家を政治の舞台から引き摺り下ろす。
現状ラル家の主権を握っている、ジンバ・ラルへの国民感情を操作する事になった。メディア関係者にネタを撒き、水面下で民の間にも噂を撒くと言った世論操作は、国民運動部長である兄サスロの手で行われている。
私キシリアが受け持つ保安隊の役目は、ラル家に対して多数の国民が疑いの目を向けたタイミングで、ジンバに捜査の任意同行を求める事。今は相手の油断を誘い、最良のタイミングが来るまで大人しくした方が良いということで、久しぶりに休暇を取ることになった。
保安隊側の下準備は、副官のトワニングではなく側近のカイル・クラインに任せてある。部隊指揮で手が回らない事も理由だが、トワニングは今ひとつ信用が置けなかった。前世で嗜んだサブカルチャー由来の情報で、私キシリアがギレンを殺した時に、トワニングは速攻でキシリアに乗り換えている。私の副官である以前に、ギレンの腹心であったにも関わらずだ。この世界のトワニングもそうだと言う確証はないが、私とギレンの両サイドに腰掛けて、有利だと思った方へ簡単に乗り換える印象が強かった。
それと比べてマ・クベの安定感は良い。壺への執着がちょっとアレだが、化け物チートの白いヤツの妨害を除けば仕事をこなし、きちんと命令に従う副官と言う印象だ。戦術核の使用はどうかと思うのだが…いや、味方ごと基地を吹き飛ばそうとするキシリアを一度は制止した事を考えると、完全なイエスマンという訳でも無さそうだ。
そう考えると、早い段階で欲しい人材ではあるが…
「マ・クベとはいつ出会うのだろう?」
前世の記憶では、その辺りの詳細な設定は存在しない。マとはどう言う経緯で接点があり、私の副官になったのかは詳細は不明で…
「まくべ? それは誰ですか? キシリア姉さん」
声をかけられ振り向くと、弟のガルマが自室のドアの隙間から覗き込んでいた。
「ノックをしたけど、返事が聞こえなくて……て……うわあっ‼︎ お……お化けェっ⁈」
私と視線が合うや否や、ガルマはドアの縁にしがみつき悲鳴をあげる。そこで私は顔パックを着けたままであることを、思い出したのであった。
少し遅めの朝食後、私はザビ家が保有する装甲車並みの強度を誇る車両で外出する。運転席と助手席に座る者が護衛を兼ねている事実からも、ザビ家の人間が気軽に外出できない現状を物語っている。これも3年前に、ダイクン派の人間を大量に粛清したことが原因である事は分かっているのだが…
「キシリア姉さんとの外出、久しぶりなので嬉しいです!」
暗い思考へと傾きかけた時、隣に座っていたガルマの明るい声が聞こえた。
当初、一人で外出する予定であったが、大きな眼を潤ませ我儘を言うまいと耐える姿を見て良心が痛み、一緒に行こうと誘ったのである。前世の記憶を取り戻してから、プライベートモードでは強硬な行動を取れなくなったなと思いつつも、無邪気な笑顔を見せるガルマを見て、それほど悪いことではないと思い直したりもした。
ムンゾ共和国国立博物館。
ここを訪れた理由は、自身が持っている前世の情報と記憶を整理するためであった。
今いるこの世界は、前世で嗜んだサブカルチャーで描かれた数々の世界と同一ではない事は明白であった。その理由の一つとして、私キシリアの年齢。今現在の年齢は22歳で、どの設定とも合致しないのだ。しかも卒業したのは士官学校ではなく、おそらくその前身にあたると推定される特別養成学校であった。この事を踏まえて、前世知識とこの世界の実際の歴史の擦り合わせが必要と判断して、家の書籍を読み尽くし、更なる情報を求めて博物館に来た訳である。
以前の私は正直そこまで博物館に興味はなかったが、今の私は前世の人格が影響しているためか、それなりに楽しみにしていた。
前世はそれなりに生きたようだが、現状の年齢より少し上くらいしか思い出せない状態であった。それはおそらく、今現在のキシリアとしての人格が前世の人格に喰われることを防ぐ、無意識下での自己防衛であると推察した。今現在で既に、前世の人格と今世の人格が混ざっている状態である。一番顕著な違いは、野心や権力欲を喪失したことであろうか。
「姉さん。早く博物館に入ろう!」
自身を呼ぶ声が聞こえ視線を移すと、朗らかな笑みを浮かべたガルマの姿が見えた。思考に没頭して気が付かなかったが、いつの間にかガルマと私は手を繋いでいる状態であった。
まだ幼いガルマの声を、聞き流してはいけない。自身を気にも掛けていないと不安になればなるほど、肉親からの評価に執着してしまう。その結果、虚栄心や名声欲、やがては過剰な権力欲に駆られて致命的な過ちを犯してしまう。
前世の記憶を得る前の私のように。
「そうね、行きましょうか。最初は何処から見たい?」
軽く手を握り返したためか、こちらから希望を訊いてきたからか、その全てかは分からないが、一瞬驚いた表情を見せるもガルマは嬉しそうな笑みを見せてくれた。
安全確保のため、護衛が人払いした後にゆっくりと博物館を見学する。休館日であるため、博物館に居る人間はスタッフだけであり、無用な混乱は起きていない様子であった。今日はガルマと水入らずで過ごしたいと思ったことから、館長の案内を断り2人でゆっくりと博物館を回る。
この博物館は新しい時代から古い時代へと遡っていく形で、展示がされていた。
宇宙移民者…スペースノイドにとって希望とも言えるミノフスキー物理学の確立について、トレノフ・Y・ミノフスキー博士の肖像写真と共に説明書きがあり、その隣にはエネルギー不足と宇宙線被曝症に悩まされた苦難の歴史が記されていた。そして人口の90%以上が宇宙へ移民した時点で「全人類を宇宙へ移住させる」という取り決めを反故にし、特権階級が地球へ居座ることを黙認した地球連邦政府への非難に続く、宇宙移民の歴史が記されていた。
しかし、私が一番知りたかった情報はそこにはなかった。それは、宇宙移民を決断させた大規模な地球環境悪化の経緯だ。
「宇宙世紀に入る前後50年ほどが曖昧か…」
「ラプラス事件で地球連邦政府の初代首相が暗殺されて、それで世界が乱れたからって、歴史の授業で習いました」
誇らしげにそういうガルマに対して、私は褒めつつ頭を撫でる。我が弟は優秀で素晴らしい!
兎に角、宇宙世紀に入る前の40年分の歴史が空白であることが気になる。前世の情報から、おそらく私の前世が生存していた時期と似たような時代であると推察していた。私の前世とこの世界の歴史との相違点について検証したかったのだが…この様子では諦めた方が良さそうだ。
先へ進もうと促すガルマの声に押されて、私達は先のコーナーへと足を進めていった。
終盤に当たる文明の黎明期に当たるコーナーで、何か言い争う声が聞こえてきた。すると側で潜んでいた護衛が、私とガルマが展示場へ入るのを押し留め、先行して様子を見に行くと申し出た。しかしそれでは私たちの側で護衛する者が居なくなることから、共に進む方が良いという考えを告げると、渋々ながらも護衛は承諾して共に先へと進むことになった。
博物館最後のコーナー、文明の黎明期の展示場で土器が展示されているガラスケースを指差し、一人の青年が館長に向かって必死に言い募っている様子が見えた。
「ですから、この表記は誤りです。この形状は儀礼用ではなく生活用品という説が濃厚で…」
「正規の職員でもない君が、随分と高説を垂れるものだな。この品はビスト財団を介して地球からわざわざサイド3へ移動した物で…」
「それならばその財団か、途中の買い付けの段階で誤りがあったのでしょう。学芸員の質が悪く嘆かわしい…我らスペースノイドが学や知識が無いと、軽んじられる遠因となっている現実が見えていないのか⁈」
「貴様っ‼︎」
青年の胸倉を掴んだ館長は、ようやくその時になって私とガルマの存在に気づいた。
咳払いをして青年を解放し、何事もなかったかのように館長は愛想笑いを向ける。
「これはお見苦しいところを…」
「良い。すまないがその者から解説を受けたいのだが」
「いや、コイツは外部からの派遣職員で……」
「しかし随分と詳しいようだ。彼の言うとおり、それは深鉢形土器と言う煮炊きに使われた物であろう」
スラスラと私がそう告げると、館長は私のような素人に指摘された羞恥から憤怒の表情を一瞬向ける。しかし相手がザビ家の直系であることを思い出したのか、そそくさとその場から退散したのであった。
「その……お詳しいのですね」
館長に置いていかれた青年は、少し嬉しそうに話しかけてきた。
「偶々知っていただけのこと」
前世の情報の中にある、社会科見学で見た縄文土器の一種と合致する形状をしていた。ただそれだけであった。
「それにしても贋作が溢れている美術館の惨状に愕然としましたが…博物館の方も酷い」
「地球からスペースコロニーへ、歴史的な価値のある美術品の移送は、ビスト財団が一手に引き受けている」
「鑑定書や証明書の発行も、そのビスト財団が大きく影響しているわけですか…真贋を見破れない我らの不甲斐なさゆえ、やりたい放題されていると」
「金を毟り取られているだけではないだろう」
思わず漏れ出た言葉を聞きつけていたらしく、青年はこちらを見てきた。
「自由に価値を付けられる立場という事は、物品から替えるお金の量を自由にできると同義。本来価値がないものを表面上は高額で取引をする。水増しされた実際の価値との差額は、何処から来たものなのか……」
「資金洗浄……ですか」
声を落としてそう告げてくる男。思った通り聡明で優秀だ。
紫の髪の奥から覗かせる、やや神経質な雰囲気を醸し出している鋭い目。何より前世の記憶で決して忘れる事のない、兄ギレンに匹敵する聞き惚れるような美声。陰気さはやや不足しているが、おそらく彼は…
「ああすみません。申し遅れました。私はマ・クベと申します」
前世の記憶の中の情報で、強烈な印象を与える「壺の人」こと、キシリアの副官マ・クベ。彼の青年時代に当たる男が、私の目の前に居た。
ここで接点ができた事は僥倖。できれば早い段階で自身の副官に召し上げたいのだが…そう考えを巡らせていた時に、マはおずおずと口を開く。
「その…差し支えないようでしたら、名を伺ってもよろしいでしょうか?」
その言葉を聞いて驚いた。自分はそれなりに有名人であると思っていたが…
「キシリアだ」
そう告げると、マは口の中で名を反芻して漸く事実に至ったらしく、慌てて起立して敬礼を向けてきた。
「よい。今はプライベートだ。楽にしなさい」
「はっ‼︎ 大変失礼いたしました。その……以前お見かけした時より印象が……」
「?」
「その……さらにお美しくなられたと思いまして……」
そう言い頬を少し赤らめているマ・クベの姿を見て、私は確信する。
最近始めたスキンケアの効果が確実に現れている! 使用している顔パックをもう少しお高い物へと切り替えよう‼︎
互いの連絡先を交換して、まだ仕事があるというマは展示場を後にする。そこでようやく私は、ガルマを放置していたことに気が付いた。
謝る私に対して、ガルマは朗らかな笑顔で許してくれた。本当に我が弟は寛大で素晴らしい!
「アイツの目の前で壺をたたき割りたくなった…」
「え⁈」
「なんでもありません」
そう言ってニッコリと笑うガルマ。
一瞬見えた、目のハイライトを消した能面のような表情は、どうやら私の見間違えのようであった。
次話は来週月曜日を予定。
筆が進めば木曜日更新になるかもしれません。
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