キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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今回は少し長めです。



42. キシリア様は秘匿者

 

 私キシリアの目の前に白磁の壺がある。

 

 前世のサブカルチャー由来で馴染みのある、マ・クベが「あれは…良いものだ」と言っていた“あの壺”である。前世の情報の中で、模造品がプレバンで抽選販売された事があったが、抽選に外れて買えなかった壺……その正真正銘本物の北宋期の逸品が、昨日私の元に届けられたのだ。

 オデッサ基地の防衛戦で、マはこの壺をわざわざギャンに乗せて戦ったらしい。床に落ちそうになる度に、マは操縦桿を手放したのではないかと心配したが…まあ無事であったのだから良しとしよう。

 

 オデッサ防衛戦がジオン軍、連邦軍共に痛み分けという形で終息してから1週間が経過した。

 

 一方で、ドズルの宇宙攻撃軍はルナツーを落とすことに成功していた。私が送ったデラーズ艦隊がルナツーへの包囲戦に見せかけて月裏から派手に侵攻し、連邦の守備艦隊を引き出した。その隙にドズル艦隊が拠点外周を狙って突撃、宙権を奪い補給拠点を麻痺させた上での勝利であった。

 

 そして私ことキシリアだが、アムロ型EXAMシステム本体の制圧に失敗して…1分も満たない時間ではあるが心停止した。迷走神経反射による一時的な異常であったが、待機させていたリアナが迅速に処置を施してくれたお陰で即座に意識を取り戻した。まあ酷く叱られたが…

 しかも休むよう咎めるリアナを無視し、ギレンと通信を繋いで核弾頭の使用許可を望んだ。その後私は壁伝いに作戦本部まで移動して、丁度通信が繋がっていたマ・クベに緊急指示を下して…

 その通信後に私は完全に意識を失い、気づいた時にはサイド6のフラナガン医療センターに入院していた。因みに目が覚めたのは一昨日の話である。

 

 報告で知ったが、結局暴走した無人MSを止めるため、マ・クベは連邦軍のエルラン中将と共に戦術核を使用した。無人MSは鎮圧できたが、連邦とジオンは互いが互いで“核使用”の妥当性を探るように、妙な小康状態となっていた。

 一方で私は、サイド6のフラナガン医療センターで精密検査を受けることになった。そして…私のニュータイプType-Zに関する精密検査の結果は、予想はしていたが芳しいものではなかった。

 これ以上は内密にできないと私は情報開示が必要と判断し、フラナガン博士とシロッコをサイド3のズム・シティに向かわせた。丁度、核使用の説明でマ・クベもズム・シティに戻っている。彼とギレン兄そしてキャスバルへ、同時に説明をお願いした形だ。

 

 フラナガン医療センターで療養している私は、今後について思考を巡らせているのだが…

 

「参ったな……代案はないようだ」

 

 連邦軍はジャブローに、例のアムロ型EXAMシステム搭載無人MSを4大隊保持している。

 アムロ型EXAMシステムの本体の現状だが、休眠状態であると推定されている。おそらくこれ以上命令を受け取らないように、自己防衛に入ったのであろう。そして次に目覚めた時が最後、全人類を根絶やしにするまで暴走するであろう。

「いっそジャブローを攻めるか…いやこちらの制圧よりも、殺気で起動した無人MSがジャブローを乗っ取る方が早い…か」

 かと言って、放置すればいつ暴走するか分からない。連邦が自発的に手放す見込みは限りなく薄い…と言うより、廃棄すら出来ない状況へ追い込まれている可能性が高い。

「暴走のトリガーが“悪意”や“恐怖”と言うのが厄介だ…ジャミトフらは情報封鎖するより他に方法はあるまい」

 人類滅亡のカウントダウンと聞いて、恐怖を抱かぬ者など居ない。つまりが当事者以外に漏れれば、暴走のトリガーを引いてしまうと同義であった。自業自得と言えども、孤軍奮闘していると推定されるジャミトフには恐れ入る。

「制作者のモーゼス博士ですら、オデッサ作戦での暴走を止められなかった。おまけにモーゼスは既に死んだ。連邦軍には止める術すらない」

 先日のオデッサ防衛戦の折、私がシステム本体の制圧に失敗した原因は明白、情報爆撃をするには末端の無人MSでは回線が細すぎたのだ。本体と直接接続し、Type-Zによる情報爆撃で制圧するしかない。メーティスを再度作る時間はないため、私自身が対応しなければならないが…

「ジャブローの位置の特定はまだ出来ていない。例え侵入できたとしても、EXAMシステム本体の正確な位置は不明。ジャブローは複数都市に匹敵する広さだ。普通のやり方ではまず見つからないだろう」

 システムが起動していればアルテイシアが詳細な位置を特定できるが、休眠状態では不可能。かと言って、起動してしまったら手遅れ。

 そうなれば手は一つ。連邦軍に“連れて行って貰う”しかない。

 何度も弾き出された考察結果に、私は深い息を吐いた。

 

 EXAMシステムを制圧する情報爆撃は、TypeZ-3の能力…人の枠を超えたもの。それは自身の身に起きた異常から理解していた。

 前回は脳出血、今回は心停止。どう考えても次はそれ以上の損傷を受ける。しかも敵地の真っ只中で。

「サイド3連邦軍駐屯基地に出頭した時と訳が違う。あれはまだ見込みがある賭けだった」

 しかし今回は生還は見込めない。

「……他に方法は無いと言うのか…」

 事が地球上だけで済むなら、放置も致し方なしと判断することも出来た。しかしジャブローのデータベースを解析したら、宇宙に人がいる事などすぐ分かる。おまけにジャブローには、輸送機やシャトル、核関連兵器と言った、地球上どころか宇宙コロニーにいる人類を滅ぼす手段が全てが揃っている。

 自我を持ち、自律活動が可能で学習する狂気が、それらの設備を利用しないはずがない。人間を“パーツ”として利用し、兵器工場で己が自身を複製する可能性も否定できない。最悪、前世由来の情報にある“鉄血のオルフェンズ”であった、自律型無人兵器MAが人類を蹂躙する未来に繋がるであろう。

「足掻いて踠いて考え抜いて漸く掴んだ先が、人類全てを巻き込んだ盛大なデストピアというのか? 冗談ではない‼︎」

 暴走が始まれば、終わるのは地球連邦の歴史ではない。人類の歴史そのものだ。そのような結末は、私が今居る理由を全否定するもの。

「全てを賭けて阻止するしかない。なぜ私は……悩んでいる?」

 ザビ家の一柱。ジオン公国の指導者。それらの立場を持つ私自身の不在が与える影響…しかしそれ以上に決断を躊躇するものがある。

 それは……

 一年程前、連邦軍の手でコールドスリープ処置を受けた私は、皆に救われ、蘇生することができた。私と無事に再会できた事を喜んでくれた、兄や弟、父、婚約者、そして副官が見せた温かな姿が脳裏から消えない…

 

 私はまだここに居たい。

 

「マとキャスバルに、次は相談して欲しいと懇願されたのだがな……」

 相談なんてできる訳がない。相談したら確実に反対されて、引き止められる。そんな事をされてしまえば……私はそれに甘えてしまう。

 その結果、絶望の末に終焉を迎えるとしても…

 

「キシリア様」

 

 おずおずと扉の向こうから聞き覚えのある声が聞こえる。入室の許可をすると、一人の女性が姿を現した。

「何か御用ですか、アルテイシア様……いや、久しぶりだな。セイラ」

「……お分かり…ですか……」

 一時期、アルテイシアの影武者を務めることもあったセイラ・マスが、一人の女性を連れてきた。

「そちらは…シュウ・ヤシマ会長の娘さんのミライさんでしたか?」

「はい。お久しぶりです。キシリア少将閣下」

「……地球連邦軍のホワイトベースに乗艦しているはずの二人が、なぜここへ?」

 ニアーライトからの報告で聞いている。

 アムロが戦闘経験を積むために所属していたホワイトベースは、アムロの警戒心を下げるために“医療搬送艦”として運用していた。そして私の前世の記憶に近い状況で、乗務員の1/3が民間人でミライはホワイトベースに乗艦していた。

「……お願いがあってきました。アムロを…助けてください」

「事情説明無しですか」

「私たちがホワイトベースのクルーと知る程の情報網をお持ちの貴女ならば、どう言う状況かお分かりなのではないですか?」

「……EXAMシステムに精神を取り込まれて、意識不明であったな。アムロの身体は?」

「こちらに連れてきています。アムロをフラナガン医療センターへの入院させる目的で、ホワイトベースはこのサイド6に来ました。アムロのお父様のテム・レイ博士も一緒に…」

「そうか……」

 レイ親子を帰したことで、連邦はサイド6への面子を保ったつもりなのであろう。そしてランク政権は、それで手打ちにする可能性は高い。

 私はサイドテーブルから紙を取り出して、急いで複数の手紙を書き上げる。

「ここのフロアに常在しているアルテイシアと共に、病院の院長へこの手紙を出しなさい。これで許可が降りるはずです。それと、2日後にフラナガン博士が戻るはずですから、この手紙を彼に渡しなさい」

 手紙を封筒に入れて、私はセイラに手渡した。

「それからアムロの父、テム博士をここへ連れて来なさい。詳しい話を聞きます。以降はアルテイシアと共にアムロに付きなさい」

「はい」

「それとミライさん、ホワイトベースの艦長をここに…いや、特別ラウンジの最奥の部屋へ2時間後に連れてきなさい。直接話をする必要があります」

 

 その1時間後、私は内密にテムと再会する。

 何度も謝罪するテムを宥め、そして彼から記録媒体を受け取った。その後、アムロが入院している部屋へとテムを送った後、私はデータファイルの中を改めた。

 その中にジャブローの位置データが存在していたことから、“天の配剤”という物を感じずにはいられなかった。

 

 その30分後。

 私は身支度を整え、一通の手紙をベッドのサイドテーブルに置いた。

「お呼びですか?」

「ニアーライト。最重要命令を下す」

 気配もなく姿を現したニアーライトを近くに呼び、3通の手紙を渡す。

「それぞれ、キャスバル陛下、ギレン総帥、マ大佐に渡すように。それと同時に…」

 続けてテムから受け取ったデータを複製したディスクを4枚渡す。

「このディスクを3人に渡しなさい。タイミングは2日後」

「残り一枚は?」

「お前が使え。そこにはジャブローと5箇所の隠しゲートの位置が記されている」

 ジャブローと内部に通じる複数のゲートの位置情報を渡してくれたのは、先ほど面会したテムであった。

 その情報を手に入れるため、ジャブローへ戻るホワイトベースに残留した結果、アムロの精神体をEXAMに取り込まれたと、テムは悔やみながら話してくれた。

「しかし閣下、何をなさるおつもりですか?」

「…………ニアーライト。そのディスクの情報があれば、お前の腕ならば数名と共にジャブローへ侵入できるな?」

「っ⁈ 閣下まさかッ⁈」

「私はこれからジャブローに向かう。お前には補助を頼みたい」

「……私も同行すれば良いのですね」

「いや、向こうから迎えを寄越して来た。私単独で向かう」

「正気ですか⁈」

「お前からそんな言葉が出るとはな…仕方ないだろう? それ以外にEXAMシステムの本体の場所を突き止める手段はない。そもそもEXAMシステムを無力化させるためには、私が直接出向くしか方法がない。だから頼む、止めないで欲しい」

 そう告げると、ニアーライトは何か口にしようとするも閉ざす。

 オデッサで核が使われた経緯はニアーライトも知っている。そこで暴れたアムロ型EXAMシステム搭載無人MSが、いつ暴走するか分からない状態でジャブローに存在していることも…

「連邦軍の無人MSが暴走すれば、被害はジャブローだけでは済まない。自己学習で殺人に最適化した末に、地球はおろか宇宙に進出してコロニーも蹂躙される…今叩かなければ手遅れになる」

 脅しではない。今封じ込めなければ、10年も掛からずに現実となってしまう未来だ。

 私の表情を見て迫っている危機を認識できたのであろう。ニアーライトは深いため息を吐いてから口を開く。

「……承知しました」

「おまえにしか頼めない任務だ。無理を言って済まない」

「必ずお救いいたしますから、お願いですから決して無茶はなさらないでください」

「………分かっている。すまないな、ニアーライト」

 おそらく…マに殴られるだろう。

 本当にすまない。ニアーライト。

「それから、侵入メンバーにはキャスバルとアルテイシア、ララァを同行させてくれ」

「ララァ特務少尉はともかく……公主とその妹君もですか?」

「理由は手紙に記した。そろそろ時間だ。後は頼むぞ、ニアーライト」

 私に敬礼を返す彼に軽く返礼し、私は部屋を後にした。

 

 フラナガン医療センター。

 3階の特別ラウンジの最奥にある個室は、私が持つカードキーのみで開く私専用のスペースとなっている。程なく一人青年が姿を現した。

 初めて出会ったが前世の情報にある姿と似ているため、すぐにわかった。彼は…

 

「お初にお目にかかります。キシリア・ザビ少将。自分はブライト・ノア中尉であります」

 

 軍帽は着用していないが、ブライトは緊張した面持ちで敬礼を向けた。

「お話はミライ・ヤシマから伺っています。アムロ・レイについてですね。彼の素性についてはどこまで知っていますか?」

「……モーゼス博士が連れてきた、ニュータイプの少年であると。それと最近亡命したテム・レイ博士の息子とも…」

「テム・レイは、ルナ・ライン先端技術研究所の研究員です。亡命ではなくて出向。アムロが攫われ、脅され連邦に行った経緯があります」

 私の言葉にブライトは絶句する。

「ホワイトベースの民間人と非戦闘員は何名いますか?」

「……64名です」

「ミライ・ヤシマとセイラ・マスもそれに該当しますね? 彼女らを含む民間人と非戦闘員全員を、サイド6で下ろしなさい。心療内科の受診を名目にして。それとアムロの入院許可は私が出しました」

 矢継ぎ早で指示を出す私に一瞬呑まれるも、ブライトはようやく口を開く。

「しかし……」

「亡命する気だったのでは無いですか? アムロを救うために」

 私の言葉に、ブライトは一瞬息を呑む。

 そしてブライトは意を決したように姿勢を正し、グレーのコート下に隠した軍服襟元の階級章を外そうとするが、私はそれをやんわりと止めた。

「申し訳ありませんが、貴方には協力してもらいます」

「協力?」

「貴方が受けた極秘任務を、遂行してほしいのです。ホワイトベースの連邦軍関係者以外の人員とアムロを保護し、対価として私自身の身柄を連邦に引き渡す。おそらく貴方の今後を考えると、これが一番良いはずです」

 連邦軍の目的を見抜いていたばかりか、自身のことまで気に掛けた事に、ブライトは驚いたようだ。

 健全な運営をして欲しいだけであり、連邦が崩壊することは私の望みでは無い。そのための建て直しには、ブライトのような誠実で優秀な人材が一人でも多く必要なのだ。

「しかし……アムロは…」

「EXAMシステム本体を無力化すれば意識は戻るはずです。精神体が無事であればの話ですが」

「構いません。ただ彼を…解放してやりたい!」

 怒りか哀しみかは分からないが、ブライトは声を震わせてそう答えた。

「承知した。互いの目的は一致している」

「一致……ですか?」

「EXAMシステムを放置すれば、近い内に暴走を引き起こす。その災厄がジャブローだけで済むと思っているのか?」

「……本当に……制御できるのですか?」

「可能性があるのは私だけであろう。だからジャミトフは私の拉致を画策した。違うか?」

「貴方は……ニュータイプなのですか?」

「アムロのような離れ業は出来ない、変わり種ですがね」

 静かにブライトの視線を受け止めると、ブライトは何か決心したように目を伏せた。

「……3時間いただきたい。非戦闘員を下ろします」

「それでは医療関係者の振りをして、クルーの検診名目でホワイトベースに赴きましょう。そしてそのまま……」

 私の言葉に深く頷き、ブライトは綺麗な敬礼を私に向けて、部屋を後にしたのであった。

 

 ホワイトベースに乗るのか…

 ザビ家の人間だから諦めていたが、ホワイトベースの艦内が見れる!

 

「チベやグワジンには飽きてきたからな…って……私は何を考えているのだ⁈」

 前世の情報が混線する中、私は粛々と準備を始めるのであった。

 





ホワイトベースのメンバーが登場しました。カツ、レツ、キッカは流石に乗ってませんが…
たくさんの感想、ありがとうございます。鋭いコメントが多くて、ネタバレになってしまうので返せずにいますが、全部読ませていただいでいます。

あなたが好きなキャラクターは? ②

  • キシリア・ザビ
  • マ・クベ
  • キャスバル・レム・ダイクン
  • ギレン・ザビ
  • ドズル・ザビ
  • アムロ・レイ
  • ララァ・スン
  • ニアーライト
  • シャリア・ブル
  • パプティマス・シロッコ
  • カミーユ・ビダン
  • ジュドー・アーシタ
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